第73回 岡村 祐聡先生
「薬歴を書く時間がない」「毎回同じことしか書けない」「薬歴に書けるような話を患者さんから聞き出せない」……。
薬剤師の業務には欠かせない薬歴管理ですが、実はこのような悩みを抱えながら仕事を続けている方も多いのではないでしょうか。
今回は、薬剤師の担うべき医療を質高く実践するための理論と方法論である「服薬ケア」を構築し、その普及に尽力している岡村祐聡先生に、患者さんを中心とした「質の高い服薬指導」と「薬歴記載の方法」をうかがいました。
前回お話ししたように、服薬指導を充実させるためには患者さんの気持ちを聞き出すことが欠かせません。しかし、投薬をするだけの短い時間で人の本音を聞き出すのはなかなか難しいですよね。
そこで着目したいのは、患者さんが発する“非言語の訴え”です。
患者さんからの非言語の訴えで、絶対に見逃してはならないのは、これまでにも何度か登場した「感情への着目」です。感情への着目とは、例えば「薬の粒が大きくて飲み込むのが大変だから、あまり飲みたくない」といった患者さんの気持ちに着目することです。
そして、そのほかに、例えば「待合室の椅子から立ち上がりにくそうにしている」、「投薬台まで歩くときの足元がおぼつかない」、「顔色がよくない」、「近くに来ると湿布の匂いがする」、「服装が乱れている」なども、大切な情報です。このように、来局した患者さんからはたくさんの「非言語」が発せられています。患者さんの「非言語」を見逃さないようにしましょう。
たとえば、立ち上がるのが辛そうに見えて「今日は具合が悪いのかな?」と思ったら、薬剤師が患者さんの方へ移動して投薬するという配慮はされていると思いますが、ここで重要なのは、自分の推測を前提として話を進めないようにするということです。
人間は「○○かな?」と考えると、それを前提に話を進めてしまいがち。そうではなく、「椅子から立ち上がるのが大変そうだとお見受けしましたが、今日の体調はいかがですか」と、まずは“患者さんの今”を聞くことから始めましょう。
すると患者さんは「実は玄関の段差でつまずいて、腰がすごく痛いの」など、自分の状況を教えてくれるでしょう。この場合なら「体調が悪いので立ち上がれない」というのは薬剤師側の推測で、実際には「腰が痛くて立ち上がれない」という状況だということがわかります。
こうして患者さんが発する“感情”や“仕草”などの非言語表現から推測したことに対し、ひとつひとつ事実確認をして患者さんの本当の気持ち、体の状態を確かめることが大切です。そうすれば、患者さんのそのときの状態に合った、本当に必要な服薬指導を実践できるようになっていきます。それに伴い、患者さんからの信頼感も上がって、本音でお話しできることも増えてくるでしょう。
患者さんの情報を引き出すのが難しいケースには、ヘルパーさんやご家族など代理の方が来局した場合があります。これについては、2つのケースをご紹介します。
○患者さんの病状・生活などに「関心のある」方がみえた場合
まずは来局した代理の方の気持ちに寄り添い、「気持ちをつかむ」ことが大切です。
具体的には「(代理の方自身にとって)お世話をしていて、お薬のことで困っていることはありませんか」などの声をかけ、お話をうかがいます。人には話しにくいと感じられるようなお話でも、プロの医療者として真摯に受け止めることで「この人(薬剤師)は自分の味方だ」と思っていただくことができれば、うまくいきます。次回以降、患者さんについて確認してきていただきたいことなども伝えやすくなるでしょう。
○「頼まれたので薬を取りに来ただけ」という方がみえた場合
基本的には用件を済ませたら早く帰りたいと思われているはずなので、手早く調剤し、お薬を渡すことを心がけます。
ただし、同じ方が何回も来局するようであれば、患者さんとの関わりも多い方である可能性があります。「次回は患者さんの様子を見てきていただけるでしょうか」とお願いしてみましょう。患者さんへの関心を高めていただけるよう、少しずつでも働きかけてみるといいでしょう。