薬剤師のスキルアップ 公開日:2026.02.25 薬剤師のスキルアップ

トレーシングレポートとは?書き方のポイントやひな形・記入例を紹介

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

トレーシングレポートとは、患者さんの服薬状況や体調の変化を医師へ情報提供するための報告書です。服薬フォローアップの一環として活用されており、医師が次回診療時の参考にできるよう、残薬調整や副作用の有無などを薬剤師が具体的に記載します。本記事では、トレーシングレポートの概要やひな形、書き方について解説するとともに、疑義照会との違いや残薬調整などの記入例、関連する調剤報酬についてもお伝えします。

1.トレーシングレポートとは?

トレーシングレポートとは、「服薬情報提供書」とも呼ばれており、患者さんの服薬状況、副作用の疑い、残薬、併用薬、アドヒアランス改善提案などを医師へ伝えるために活用されています。「緊急性は低いものの、処方医に伝える必要がある」と薬剤師が判断した場合に、医師へ伝達する文書です。
 
トレーシングレポートは、あくまでも次回の診察や処方に生かすための材料として情報提供に用いられます。

 

1-1.トレーシングレポートと疑義照会の違い

疑義照会とは、処方箋の内容に不明点や誤り、安全性の懸念がある場合に、薬剤師が医師に直接確認することを指します。
 
緊急性が高いケースが該当するため、電話やFAXなどで迅速に照会します。トレーシングレポートと疑義照会の主な違いは、以下のとおりです。

 

  トレーシングレポート 疑義照会
緊急性 低い 高い
手段 文書で情報提供 電話やFAXで即時連絡
目的 次回の診療・処方時に生かすための情報共有 処方の安全性の確認・修正
医師の返答 必須ではない 必須

 

疑義照会は、用量が明らかに多かったり、禁忌薬が処方されていたりするケースで行われるため、医師からの回答を得るまで、調剤を行うことはできません。

 
🔽 疑義照会について解説した記事はこちら

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2.トレーシングレポートのひな形

厚生労働省が公表しているトレーシングレポートのひな形には、「患者の服薬状況等に係る情報提供書」「入院前の患者の服薬状況等に係る情報提供書」の2種類のひな形があります。それぞれの主な記載項目は以下のとおりです。

 

  「患者の服薬状況等に係る情報提供書」 「入院前の患者の服薬状況等に係る情報提供書」
1. 日付
2. 情報提供先の医療機関および医師名
3. 情報提供元の保険薬局の名称・住所・電話番号
4. 保険薬剤師名
5. 患者氏名・性別・生年月日・住所・電話番号
6. 情報提供の概要 最終調剤日・特記事項
7. 処方薬・併用薬 受診中の医療機関、診療科などに関する情報
8. 服薬状況 現在服用中の薬剤・市販薬などの一覧
9. 患者・家族・介護者からの情報 患者さんの服薬状況(アドヒアランスおよび残薬など)
10. 薬剤に関する提案 併用薬剤など(要指導・一般用医薬品、医薬部外品、いわゆる健康食品を含む)の情報
11. その他 その他

参考:患者の服薬状況等に係る情報提供書|厚生労働省

 

トレーシングレポートのひな形には、厚生労働省が作成したもの以外にも、地域の薬剤師会や医療機関が作成しているものがあります。トレーシングレポートを提出する場合は、医療機関のホームページで指定のひな形があるかを確認しましょう。
 
指定のものがない場合は、厚生労働省や地域の薬剤師会のひな形を活用したり、独自に作成したりするなど、自分たちの薬局や目的に合った書式を作成するとよいでしょう。

3.トレーシングレポートの書き方

トレーシングレポートを作成する際は、薬剤師の伝えたい内容が医師に正しく伝わるように書くことが大切です。ここでは読みやすく、納得してもらえるトレーシングレポートを書くためのポイントをお伝えします。

 

3-1.ポイント① 簡潔に分かりやすく書く

読む人にとって分かりやすい文書のポイントは次のとおりです。

 

● 一文に多くの情報を書かない
● 要点を明確にする
● 丁寧に読みやすい字で書く

 

トレーシングレポートは薬局と医療機関のコミュニケーションツールです。書き方によっては、目を通す医師を不快な気持ちにさせてしまうしれません。
 
トレーシングレポートは医師への指示ではなく、より良い治療を行うための提案というスタンスを忘れないようにしましょう。

 

3-2.ポイント② 事実やエビデンスに基づいた内容

トレーシングレポートでは、患者さんの服薬状況や副作用の可能性などを、事実に基づいて正しく伝えることが重要です。提案の際は、薬剤師の主観的な印象や推測ではなく、エビデンスに基づいた意見を述べましょう。
 
例えば、残薬の数量や服薬忘れの頻度、副作用と思われる具体的な症状などを記載します。提案を行う場合は、ガイドラインや添付文書など根拠となる情報源を明示すると、医師にとって有用な情報となるでしょう。

 

3-3.ポイント③ 情報を整理して5W1Hで記載

伝えたい内容を相手にスムーズに伝えるには「5W1H」を意識すると役立ちます。5W1Hとは、「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」の頭文字からなる、情報を正しく伝えるためのフレームワークです。
 
伝えるべき内容をこの型に当てはめ、伝わる文章作りを心がけましょう。

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4.トレーシングレポートの記入例

トレーシングレポートに記載する内容は、治療を進める上で必要な情報です。薬剤師が遭遇しやすいシチュエーションをいくつか例を挙げて解説します。

 

4-1.一包化の提案

薬の種類が多くて患者さん自身での管理が難しい場合は、アドヒアランス向上につながるものとして、一包化の提案を行います。
 
一包化によって、認知機能が低下している患者さんやその家族が薬の管理をしやすくなるメリットがあります。

 
【記入例】

薬の種類が多く、管理が難しいので一包化してほしいとの希望がありました。残薬を確認したところバラツキがありましたので、次回受診時に一包化指示についてご検討をお願いいたします。

 
🔽 薬の一包化について解説した記事はこちら

 

4-2.副作用の報告

疑義照会をするほどではないものの、医師に伝えておいた方がよい体調変化はトレーシングレポートの報告対象です。次回診察時に、処方変更につながる可能性があります。

 
【記入例】

A錠からB錠に処方が変更になってから眠気が強く出るようになり、日常生活にそれほど支障はないが、少し気になっていると相談がありました。ふらつきなどが頻繁に起こるようであれば、受診するようお伝えしましたので、本人から病院に連絡があった場合にはよろしくお願いいたします。

 

4-3.用法・用量変更の提案

夕食後と就寝前をまとめるとアドヒアランス向上が見込まれる場合などは、用法変更の提案をしてみましょう。また、仕事や学校といった患者さんのライフスタイルに合わせた用法変更のパターンもあります。薬学的根拠を添えた適切な用法・用量や、代替薬を提案すると医師に伝わりやすくなるでしょう。

 
【記入例】

アドヒアランス改善のため、用法用量の変更のご検討をお願いいたします。
朝食後の薬が多く困っていると相談がありました。現在、朝食後10錠、夕食後1錠となっています。朝食後の薬のうち、夕食後に服用可能な薬はA錠とB錠です。また、花粉症の症状が治まっているとのことなので、C錠の継続の可否についてもご検討いただけますでしょうか。お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

 

4-4.残薬調整

残薬が多い患者さんがいる場合、残薬情報と残薬が発生する理由や改善策などを伝え、次回処方で調整してもらいましょう。診察時に「なぜ薬が余ってしまうのか」という会話になれば、処方変更や服薬の重要性についての指導につながる可能性があります。
 
【記入例】

A軟膏が自宅に5本残っており、現在はほとんど使用していないとのことでした。理由を確認したところ、症状が改善しているとのことです。
今回はお急ぎだったため、次回医師に相談するようお伝えして、処方通りにお渡ししています。次回診察時に継続の可否についてご検討いただけますでしょうか。お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

 

4-5.薬の剤形変更

普通錠が飲みにくいという訴えがあった場合、記入例としてはOD錠や散剤への変更提案が挙げられます。服薬の負担が軽くなれば、アドヒアランスやQOLが上がる可能性が高まります

 
【記入例】

A錠はサイズが大きく飲みにくいと相談がありました。
A錠にはOD錠がありますので、次回診察時に剤形変更をご検討いただけますと幸いです。

5.トレーシングレポートに関連する調剤報酬

トレーシングレポートに関連する調剤報酬として、服薬情報等提供料があります。服薬情報等提供料の区分と点数は以下のとおりです。

 

区分 点数
服薬情報等提供料1 30点
服薬情報等提供料2 イ 医療機関に必要な情報を文書により提供した場合 20点
ロ リフィル処方箋による調剤後、処方医に必要な情報を文書により提供した場合
ハ 介護支援専門員に必要な情報を文書により提供した場合
服薬情報等提供料3 50点

参考:調剤報酬点数表|厚生労働省

 

ここでは、薬剤師の判断または医療機関の求めによってトレーシングレポートを作成した場合に算定できる調剤報酬についてお伝えします。

 

5-1.薬剤師の判断でトレーシングレポートを作成した場合

服薬情報等提供料2は、薬剤師の判断で情報提供を行った場合に算定できます。医療機関や処方医に対してトレーシングレポートを作成した場合、通常は服薬情報等提供料2の「イ」を算定し、リフィル処方箋による調剤後であれば「ロ」を算定することになるでしょう。介護支援専門員へ情報提供した場合は「ハ」を算定します。

 

5-2.医療機関の求めに応じてトレーシングレポートを作成した場合

服薬情報等提供料1、3については、いずれも医療機関からの求めがあった場合に算定できるもので、具体的なケースについては、以下のように定められています。

 

区分 医療機関の求め
服薬情報等提供料1 ● 服用薬の残薬について
● 分割調剤・リフィル処方箋の調剤における服薬状況等について
● 入院前の患者さんの服用薬について
服薬情報等提供料3 ● 入院前の患者さんの服用薬について(他の薬局で調剤された薬剤、医療機関で院内投薬された薬剤などを含む)

参考:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 

また、服薬情報等提供料3を算定するには、医療機関への情報提供に加え、必要に応じて患者さんが薬局に持参した服用薬の整理を行うこととされています。

 
🔽 服薬情報等提供料について解説した記事はこちら

6.トレーシングレポートの活用でより適切な処方へつなげよう

医療機関での診察時間は限られており、患者さんがすべての情報を医師に伝えきれないこともあるでしょう。また、患者さんの中には、医師には直接言いづらいと感じる人もいるかもしれません。
 
そのため、薬剤師が気付いた体調変化や服薬の悩みをトレーシングレポートで医師に伝えることで、より適切な処方につなげることができます。薬剤師は積極的にトレーシングレポートを活用して、効果的な治療に貢献していきましょう。

患者さんへの対応から
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。