- 1.麻薬取締官とは
- 2.麻薬取締官の仕事内容
- 2-1.非合法に取引される規制薬物の取り締まり
- 2-2.医療用麻薬、向精神薬などの流通・保管・使用についての監督や指導
- 2-3.啓発活動や相談業務
- 3.麻薬取締官の年収
- 3-1.麻薬取締官の初任給
- 3-2.麻薬取締官の年収は薬局薬剤師・病院薬剤師より高い?低い?
- 4.麻薬取締官になるには
- 4-1.麻薬取締官の応募資格
- 4-2.麻薬取締官の採用難易度
- 4-3.麻薬取締官に求められる4つの特徴
- 5.麻薬取締官の勤務地・勤務時間
- 5-1.麻薬取締官の勤務地
- 5-2.麻薬取締官の勤務時間
- 6.麻薬取締官の1日の流れ
- 6-1.捜査課の麻薬取締官
- 6-2.調査総務課の麻薬取締官
- 6-3.鑑定課の麻薬取締官
- 7.薬剤師も活躍する麻薬取締官は薬物乱用を防ぐプロフェッショナル
1.麻薬取締官とは
麻薬取締官は薬物乱用を防ぐプロフェッショナルで、俗に「マトリ」とも呼ばれています。特別司法警察員として、麻薬や覚醒剤、大麻、向精神薬、アヘン、危険ドラッグを含む指定薬物といった薬物の乱用を防ぐのが主な職務です。麻薬取締官の女性比率は2割程度で、6~7割が薬剤師資格保有者とされています。
麻薬捜査官というと、薬物犯罪に関わる捜査や薬物犯罪者の取り調べ、違法に取引される薬物の摘発などのイメージが強いかもしれませんが、麻薬取締官の業務は、それだけではありません。薬物乱用が起こらない健全な社会生活を実現するために、幅広い分野で活動しています。
参照:使命と役割|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
参照:厚生労働省の“謎”に満ちた仕事「麻薬取締官」の実態に迫ってみた!|厚生労働省
2.麻薬取締官の仕事内容
麻薬取締官の業務は大きく分けると、以下の3つに分けられます。
② 医療用麻薬、向精神薬などの流通・保管・使用についての監督や指導
③ 啓発活動や相談業務
それぞれの業務内容について詳しく見ていきましょう。
2-1.非合法に取引される規制薬物の取り締まり
麻薬取締官は、麻薬や覚醒剤、大麻、向精神薬、アヘン、危険ドラッグといった薬物に関わる犯罪についての捜査や情報収集を行います。薬物乱用者をはじめ、暴力団などの規制薬物密売人を取り締まるため、麻薬取締官は日々捜査を行っています。危険が伴う捜査に備え、逮捕術訓練や拳銃射撃訓練も受けます。
また、規制薬物の流通は国内だけにとどまりません。多くの危険な薬物が海外から日本へと密輸入されているのが現状です。そのため、諸外国の捜査機関と連携し合い、国際的な密売組織を壊滅させるべく情報交換や捜査協力をしています。
2-2.医療用麻薬、向精神薬などの流通・保管・使用についての監督や指導
麻薬取締官の業務は、規制薬物に関連するものに限りません。人々が日常的に利用している病院や薬局とも大きな関わりがあります。
病院や薬局では、医療用麻薬や向精神薬などを扱います。また、製薬会社や卸業者では、医療機関へそれらの医薬品を販売するために保管しており、医薬品を製造するための工場では医薬品の原薬も扱っています。そのため、医療用の麻薬や向精神薬などを扱う病院、薬局、製薬会社などへの定期的な立ち入り検査を実施することも仕事のひとつです。
立ち入り検査では、医療目的で使われている麻薬や向精神薬が適正に管理・使用されているかについて監督・指導を行います。製薬会社に対しては、製造工程や正規流通経路からの横流しがされていないかを確認し、不正使用を防ぐための指導と助言を実施します。医薬品が安全に管理、流通されているかをチェックするのも、麻薬取締官の重要な業務です。
2-3.啓発活動や相談業務
規制薬物は決して別世界の話ではありません。近年では若者や一般家庭の主婦などにも広まりつつあるとされており、社会全体が考えるべき重要な問題です。
そのため、麻薬取締官は、時には学校などへ赴いて特別授業をするなど、規制薬物についての知識を広める活動を行います。規制薬物を摂取するとどうなるのか、規制薬物への誘惑を避けるにはどうしたらよいのかなどについて講演することによって、人々に危険性を周知するのが目的です。
また、実際に規制薬物を使用した薬物乱用者が社会復帰するための指導やアドバイスも行います。人々が規制薬物に手を出さず、安全で健やかな生活を送るためのサポートをしたり、規制薬物に手を出してしまった人が社会復帰できるように支援をしたりするのも、麻薬取締官の使命です。
参照:麻薬取締官 – 職業詳細|厚生労働省職業情報提供サイト jobtag(日本版O-NET)
3.麻薬取締官の年収
国家公務員である麻薬取締官は、行政職俸給表(一)の俸給に調整額が付与された金額および該当する各種手当が給与として支給され、平均年収は約667万円です。
ただし、上記の金額は、令和5年の「国家公務員給与等実態調査結果」における行政職俸給表(一)の平均給与月額(40万4,015円)の12カ月分と、令和5年人事院勧告で示された年間賞与4.5カ月分を合算したもので、麻薬取締官のみを対象とした金額ではありません。
国家公務員の給与は、人事院が毎年公表する俸給表によって決まり、等級や手当などによって年収は異なります。
また、民間企業の賞与に当たる「期末手当」「勤勉手当」が年2回給付されます。令和5年人事院勧告では、「職種別民間給与実態調査」における民間の年間特別給支給割合平均(2022年8月~2023年7月)が月給の4.49カ月分であることを踏まえ、支給月数は4.5カ月分とされています。
参照:採用に関するQ&A|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
参照:令和5年国家公務員給与等実態調査報告書|人事院
参照:令和5年人事院勧告|人事院
3-1.麻薬取締官の初任給
前述のとおり、麻薬取締官の給与は、行政職俸給表(一)にもとづいて支給されます。行政職俸給表(一)のうち、麻薬取締官の応募資格のひとつとなっている国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)合格者の初任給は19万6,200円です。
なお、上記は2023年度において、国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)により学卒後ただちに採用され、行政職俸給表(一)が適用された場合の俸給月額であり、諸手当は含まれていません。
参照:国家公務員の初任給の変遷(行政職俸給表(一))|人事院
3-2.麻薬取締官は薬局薬剤師・病院薬剤師より年収が高い?低い?
「第24回医療経済実態調査」の結果によれば、薬局で働く薬剤師の平均年収は約486万円、一般病院で働く薬剤師の平均年収は約569万円です。単純にデータを比較すると、麻薬取締官の年収は一般的な病院薬剤師・薬局薬剤師よりも高い傾向にあるといえます。
ただし、実際の年収は職場や役職、経験年数によっても大きく異なります。例えば、同調査結果によると、薬局で働く管理薬剤師の平均年収は約735万円で、上記の麻薬取締官の平均年収目安よりも高くなっています。
参照:第24回医療経済実態調査の報告(令和5年実施)|厚生労働省
🔽 薬剤師の年収について詳しく解説した記事はこちら
4.麻薬取締官になるには
麻薬取締官になるには、薬剤師免許取得以外にもいくつかの条件や方法があります。また、厳しい業務に就く麻薬取締官を志望するにあたり、自分自身の適性を把握することも大切です。ここでは、麻薬取締官になるための方法と、求められる4つの特徴を見てみましょう。
4-1.麻薬取締官の応募資格
麻薬取締官になれるのは、国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)の「行政」または「デジタル・電気・電子」の合格者、もしくは29歳以下の薬剤師国家試験の合格者です。いずれも職務執行に支障がない健康状態である者とされています。
国家公務員採用一般試験合格者(第1次試験合格者)は官庁訪問、薬剤師国家試験合格者(合格見込み)は薬学系選考採用試験(論文試験・適性検査・面接試験)を行い、成績優秀者が麻薬取締部に採用されます。
参照:応募及び採用に関する情報(官庁訪問、薬学系選考採用試験について)|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
4-2.麻薬取締官の採用難易度
麻薬取締官に応募するためには、国家公務員採用一般試験(大卒程度試験)の「行政」または「デジタル・電気・電子」、もしくは薬剤師国家試験に合格する必要があります。
参考までに、2023年度の国家公務員採用一般試験(大卒程度試験)の「行政」の倍率は3.4倍、「デジタル・電気・電子」の倍率は2.5倍で、6年制薬学部の卒業者が受験できる薬剤師国家試験の倍率は1.6倍でした。
参照:2023年度国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)及び専門職試験(大卒程度試験)の合格者発表|人事院
参照:第109回薬剤師国家試験の合格発表を行いました|厚生労働省
麻薬取締部の採用に関して、倍率は公表されていないものの、採用人数は「(事務官)一般職」「(技官)薬学系」ともに例年10名前後であることから、採用難易度は高いことが推測されます。
薬学生が麻薬取締官になるには、薬剤師国家試験の合格はもちろん、麻薬取締部の業務説明会に参加するといった対策をしっかりと行う必要があるでしょう。
なお、厚生労働省職業情報提供サイト「jobtag(日本版O-NET)」によると、麻薬取締官の定員は、2023年4月時点で約300人とされています。近年の採用内定者数の一覧は以下のとおりです。
(事務官)一般職 | (技官)薬学系 | 合計 | |||
---|---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | ||
2023年度 | 7人 | 2人 | 7人 | 7人 | 23人 |
2022年度 | 5人 | 2人 | 8人 | 4人 | 19人 |
2021年度 | 8人 | 1人 | 6人 | 3人 | 18人 |
2020年度 | 3人 | 5人 | 6人 | 4人 | 18人 |
参照:採用内定者数一覧(令和3~5年度)|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
参照:採用内定者数一覧(令和2~4年度)|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
4-3.麻薬取締官に求められる4つの特徴
麻薬取締官は、規制薬物の取り締まりなどを適正に行うため、次のような人材が求められています。
平和で安全な社会を実現するため、薬物犯罪を防ごうという正義感を持って任務にあたることが不可欠です。
2. 粘り強い性格の人
薬物犯罪の捜査や取り調べは慎重に行う必要があります。また、張り込みの際は長時間に及ぶことも少なくないため、忍耐力がある人が向いています。
3. 高い倫理観を持つ人
公正に任務を遂行するためには、麻薬取締官本人も高い倫理感を持つことが求められます。
4. 協調性がある人
麻薬取締官の業務はチーム単位で取り組む内容が多くあります。そのため、メンバー同士でのコミュニケーションが欠かせません。
参照:これから麻薬取締官を志すみなさまへ|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
麻薬取締官を目指す人は、これらの特徴と自分自身の性格を照らし合わせてみましょう。もし不足しているところがあると感じる場合には、補うために何ができるかを考えてみることが大切です。
5.麻薬取締官の勤務地・勤務時間
特別司法警察員としての権限を持つ麻薬取締官ですが、実際に就職した場合の働き方はどのようになっているのでしょうか。ここでは、勤務地、勤務時間といった労働条件について見てみましょう。
5-1.麻薬取締官の勤務地
麻薬取締部があるのは全国7地区(札幌市、仙台市、東京都、名古屋市、大阪市、広島市、福岡市)、1支局(高松市)、1支所(那覇市)、3分室(横浜市、神戸市、北九州市)の地方厚生局・支局です。
そのため、麻薬取締官に任命されると、この12カ所のいずれかに配属されます。
5-2.麻薬取締官の勤務時間
麻薬取締官の1日の勤務時間は原則7時間45分です。土日祝日は休日とされていますが、麻薬の取り締まりという仕事の性格上、不規則な勤務時間になりがちで、休日や深夜・早朝の勤務を求められることもあります。
しかし、休日出勤を行った場合は振替休日などの制度があります。また、年間20日間の年次休暇(4月採用者の場合、同年12月までは15日間)のほかに、夏季休暇や結婚休暇といった特別休暇があります。
参照:麻薬取締官 – 職業詳細|厚生労働省職業情報提供サイト jobtag(日本版O-NET)
参照:採用に関するQ&A|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
6.麻薬取締官の1日の流れ
麻薬取締官が所属する麻薬取締部には、調査総務課、捜査課、密輸対策課、サイバー捜査課、国際情報課、鑑定課、情報管理分析課などの部門があります。ハードワークな印象がある麻薬取締官ですが、実際はどのような1日を過ごしているのでしょうか。捜査課、調査総務課、鑑定課に所属する麻薬取締官それぞれのある1日の流れを紹介します。
6-1.捜査課の麻薬取締官
まずは、捜査課に所属する5年目係員クラスの麻薬取締官の仕事の流れを見てみましょう。
捜査課は覚醒剤や大麻を乱用した者や密売した者の逮捕のため、内偵捜査などを行う部署です。
9:00に出勤し、午前中は前日の捜査結果の整理や報告書の作成、押収した証拠品の写真撮影を行います。その後、2時間ほど逮捕術訓練に参加。昼食を取った後は、夕方まで内偵捜査を行い、捜査会議に参加します。次回捜査の準備や報告書作成などを終えると18:30に退勤します。
内偵捜査は証拠を地道に積み上げ、過酷な現場に向かうことも多い任務です。しかし、薬物犯罪ゼロを目指して捜査課の麻薬取締官は日夜職務にあたっています。
参照元:地方厚生局麻薬取締部 麻薬取締部の1日(1)捜査課|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
6-2.調査総務課の麻薬取締官
調査総務課は行政の仕事が中心であり、人事や各種許認可、会計、庶務といった幅広い業務を行うところです。ここでは、麻薬輸出入に関する許認可業務や、医療用麻薬の製造販売業者への流通・管理チェックをしている5年目係員クラスの麻薬取締官の1日を紹介します。
8:50に出勤し、申請などの事務処理を行います。その後、昼食を挟みつつ製薬会社への立ち入り業務にあたります。製薬会社や病院への立ち入り検査は適切に麻薬が流通・管理・使用されているかを確認する大切な仕事です。麻薬取締部へ戻ってきた後は、報告書作成や申請事務処理を終えて21:00に退勤します。
書類の審査や許認可書の作成、免許の発行など幅広い業務を行うため、調査総務課の麻薬取締官には多彩なスキルが必要です。
参照元:地方厚生局麻薬取締部 麻薬取締部の1日(2)調査総務課|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
6-3.鑑定課の麻薬取締官
鑑定課では、捜査で押収した薬物や逮捕者の尿や髪の毛などを、さまざまな分析機器を使って分析するのが主な業務です。違法薬物が含まれているか、薬物を使用した形跡が残っているかといったことのほかに、DNA鑑定なども行います。ここでは、鑑定試験の補助業務を行っている1年目係員クラスの麻薬取締官の1日を紹介します。
8:30に出勤し、メールの確認や試薬を購入するための書類などを作成します。途中に1時間の昼食時間を挟みつつ、9:00から15:30まで、鑑定試験の補助を行います。鑑定試験の補助終了後は、16:30まで試験成績書を作成し、17:15までに試験器具の洗浄と片づけを行います。
薬物犯罪の多様化によって、正確かつ効率的に鑑定試験を行うことが求められています。また、常に最新情報を収集するなど、分析化学や薬学などの高い専門性が求められる仕事です。
参照元:地方厚生局麻薬取締部 麻薬取締部の1日(3)調査総務課|厚生労働省地方厚生局麻薬取締部
7.薬剤師も活躍する麻薬取締官は薬物乱用を防ぐプロフェッショナル
麻薬取締官は薬剤師としての知識を生かせる職業のひとつです。規制薬物の取り締まりや、医療機関、製薬会社などで麻薬や向精神薬の適正な流通・管理・使用が行われているかのチェック、薬物乱用を防止するための啓発活動・相談業務などを行っています。薬の知識を生かし、安心・安全に暮らせる社会づくりに貢献したい方は、麻薬取締官という働き方を検討してみてはいかがでしょうか。
🔽 薬剤師の就職先について詳しく解説した記事はこちら
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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