- 1.「服薬コンプライアンス」とは?
- 2.服薬コンプライアンスの低下によって起こる社会的な影響
- 2-1.疫学的な影響
- 2-2.医療費の増加につながる
- 2-3.患者さん自身の経済的な損失
- 2-4.他者への影響
- 3.服薬コンプライアンスが悪くなる理由とは
- 3-1.患者さんの意志によるもの
- 3-2.患者さんの意志とは関係がないもの
- 4.服薬コンプライアンスを向上させるには
- 4-1.治療の理解を深め、服薬の不安を取り除く
- 4-2.身体的な問題をクリアする
- 5.服薬コンプライアンスから服薬アドヒアランスへ
- 5-1.服薬アドヒアランスとは
- 5-2.服薬アドヒアランスの始まり
- 6.患者さんの服薬コンプライアンスを高めるために
1.「服薬コンプライアンス」とは?
服薬コンプライアンス(medication compliance)とは、医師の指示通りに患者さんが処方薬を服用することを指します。「服薬コンプライアンスが良い」とは、間違いなく服用できている状態、「服薬コンプライアンスが悪い」は飲み忘れや飲み間違いなどが起こっており正しく服用できていない状態にあります。
薬剤師は、患者さんの服薬コンプライアンスを向上させるために、日々の業務や自己研鑽で知識や経験を積み、服薬指導に生かすよう求められています。
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2.服薬コンプライアンスの低下によって起こる社会的な影響
患者さんの服薬コンプライアンスが悪い状態にある場合、その影響として、最初に思い浮かぶのが体調を崩す可能性でしょう。処方薬を正しく服用しなかったことで体調を崩し、患者さん自身で対処できなくなると、医療機関を受診することになります。
本来必要のない受診が発生し、場合によっては入院せざるを得ないほど悪化してしまうかもしれません。服薬コンプライアンスが悪いと、患者さんにとっては余分な医療費を支払う可能性が高まります。
加えて、社会的にもさまざまな影響が生じるため、服薬コンプライアンスの向上は重要だといわれています。ここでは、服薬コンプライアンスが低下することによる「影響」について代表的な例を見てみましょう。
2-1.疫学的な影響
抗生剤や抗ウイルス剤を医師の指示なく服用中止した場合、感染症の再発リスクが高まります。さらに、薬剤に耐性を持つ細菌やウイルスを増やすきっかけにもなるでしょう。
薬剤耐性菌の出現が問題となっていることから、患者さんの服薬コンプライアンスは、疫学的にも影響します。
2-2.医療費の増加につながる
日本の国民医療費は増加の一途をたどっており、医療費削減のためにさまざまな政策が実施されています。残薬の管理やポリファーマシー対策など薬剤師に求められる役割からも分かるように、日本の医療費削減は待ったなしの状況です。
服薬コンプライアンスの低下による不要な受診は、医療費の増加に少なからず影響があるといえるでしょう。
2-3.患者さん自身の経済的な損失
服薬コンプライアンスが悪いことで、患者さんの経済的な損失も考えられます。体調が改善しないことによって、通常の生活に戻るのが遅れてしまうことがあるでしょう。
例えば、収入が減ってしまったり、学生であれば学びの機会が得られなかったりする恐れがあります。通常どおりの生活を送れたとしても、体調が万全になっていなければ生産性が下がってしまうかもしれません。通常の生活に戻るためにも、服薬コンプライアンスを良好にすることはとても重要です。
2-4.他者への影響
近年、問題視されているのが、医師の過酷な労働環境です。医師が長時間労働となる原因として、患者さんの受診回数に対して医師の数が足りないことが挙げられています。医師の数を増やすことも大切ですが、患者さんが受診の機会を増やしてしまうような事態も避ける必要があるでしょう。
患者さん自身が処方薬を指示通りに服用し体調を整えていくことで、医療現場の負担軽減が期待でき、結果として、医師の長時間労働改善につながるかもしれません。
3.服薬コンプライアンスが悪くなる理由とは
服薬コンプライアンスが悪くなる理由は、患者さんの意志によるものと、意志とは関係ないものがあります。それぞれ見ていきましょう。
3-1.患者さんの意志によるもの
患者さんの意志によるものとして以下のような理由があげられます。
● 副作用を起こすのが怖い
患者さん自身が薬の服用自体に疑問を持っている場合、自らの意志で服用をやめる、服用を避けるといったケースがあります。服用しても効果が感じられない、もう治っていると感じているなど理由はさまざまです。薬物治療に納得できていないため、服薬コンプライアンスが低下しやすくなります。
また、副作用が出ることを恐れて、服用を控えているケースもあります。例えば、「高血圧の薬を飲むと血圧が下がりすぎてめまいがするかもしれない」と服薬指導をされたため、服用するのが怖くなる、といった場合です。
そのほか、糖尿病の治療薬で低血糖を起こしたことがある場合は、服用の重要性を理解していたとしても副作用を恐れて服薬を避けてしまうかもしれません。睡眠薬や精神安定剤などは、薬物依存にならないように服用を控えてしまう患者さんもいるでしょう。
患者さんが自分の意志で正しく服用していないケースでは、服用の必要性を理解していない場合と、理解しているが服用するのが怖いと感じている場合のいずれかが考えられます。
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3-2.患者さんの意志とは関係がないもの
患者さんの意志とは関係なく服薬コンプライアンスが悪くなってしまう理由として、以下のようなものが挙げられます。
● 服用間違い
● 医薬品を買う経済的余裕がない
● 市場の供給不足
服用の飲み忘れや飲み間違いは、身体的・精神的機能の低下や服用方法の複雑化が原因となっていることがあります。あるいは、治療を受ける経済的な余裕がないために、処方された薬を指示通りに服用せず、あえて間隔を空けて服用しているケースもあります。さらには、市場の流通が問題でコンプライアンスが低下していることもあるでしょう。
患者さんが小児の場合、本人が服用の重要性を理解していないために服用を拒んだり、薬の剤形によってはうまく服用できなかったりすることもあります。患者の両親が服用方法を理解していなかった場合は、患者本人の意志とは異なり正しく服用できないこともあるでしょう。
4.服薬コンプライアンスを向上させるには
服薬コンプライアンスが悪くなる理由はさまざまです。服薬コンプライアンスを向上させるために薬剤師は何ができるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
4-1.治療の理解を深め、服薬の不安を取り除く
服薬コンプライアンスを向上させるために、最も大切なことは患者さんとコミュニケーションを取ることでしょう。しっかりと情報交換を行うことで、患者さんが自身の病気についてどのくらい理解しているかを把握できます。
薬物治療に対する理解度を聞き取り、不足していることや誤解していることがあれば、説明を加え治療の必要性を理解できるようにサポートしましょう。薬物治療に対して不安を感じているようであれば、不安の原因を探り、安心して薬物治療が受けられるよう説明を補うことも大切です。
また、丁寧にコミュニケーションを取ることで患者さんとの信頼関係構築につながり、患者さんの相談を受けやすくなります。患者さん自身が積極的に治療と向き合うきっかけとなるため、信頼関係を築けるよう意識したコミュニケーションを行いましょう。
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実際に、かかりつけ薬剤師を持つ患者さんは、より服薬コンプライアンスが高まりやすい傾向にあります。特定の薬剤師が責任を持って、特定の患者さんの治療経過や服用薬を一元的かつ継続的に管理することで、治療薬や治療方針が変わった時も、患者さんの理解度や心情の変化などに対応しやすくなります。
患者さんにとって、担当の薬剤師がいることで、常に気に掛けられている安心感を得られるのではないでしょうか。困った時や不安な時に相談できる医療従事者がいることは、服薬コンプライアンスに良い影響を与えます。
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4-2.身体的な問題をクリアする
服薬コンプライアンスが不良になる原因が、身体的な問題である場合は、剤形や飲み方などの工夫を提案しましょう。視力が低く錠剤やシートが見えにくい場合は、一包化を行いパックに大きく服用タイミングを印字したり、目印を付けたりする方法があります。嚥下機能の低下が原因であれば、散剤やOD錠、貼付剤などへの変更を医師へ提案しましょう。
服用している薬の数が多い場合はポリファーマシー対策を、用法が複雑になっている場合はできるだけ単純な用法に変更するよう医師へ処方提案をするといった対応が必要です。認知機能が低いといった理由で患者さん自身で服用管理をするのが難しい場合は、家族にサポートを求めるのも服薬コンプライアンスを高めるのに効果的です。
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5.服薬コンプライアンスから服薬アドヒアランスへ
前述した通り、現在は服薬アドヒアランスの考え方が主流となっています。ここでは、服薬アドヒアランスとその始まりについて改めて振り返ってみましょう。
5-1.服薬アドヒアランスとは
服薬アドヒアランスとは、患者さんが治療方法や服薬の意義を理解し、納得して薬物治療を受けることを指します。服薬コンプライアンスは、患者さんが医師や薬剤師の指示通りに服用できることだけを評価するものです。そのため、患者さんの背景を考慮した評価方法ではありませんでした。服薬コンプライアンスを向上するためには、服薬アドヒアランスを高めるのが効果的とされています。
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5-2.服薬アドヒアランスの始まり
服薬アドヒアランス(medication adherence)の考え方は、2001年にWHO(世界保健機構)が「コンプライアンスではなくアドヒアランスという考え方を推進する」と示したことから始まっています。
服薬コンプライアンスは、治療の中心となる患者さんが主体となっていないことから、服薬アドヒアランスの考え方が重視されるようになりました。患者さんが主体となって積極的に治療に関わることでより高い治療効果が期待できるため、今では服薬アドヒアランスという考え方が主流となっています。
6.患者さんの服薬コンプライアンスを高めるために
薬剤師は、患者さんが指示通りに服用できない理由や原因を処方内容や服薬指導から考え、服薬コンプライアンスが低下する原因を解消することが求められています。これはまさに、服薬アドヒアランスの考え方でしょう。薬剤師は、患者さん自身が積極的に治療に参加できるようサポートすることが期待されています。
参考URL:
■ 服薬アドヒアランスに影響を及ぼす患者の意識調査|J-STAGE
■ 日本の慢性疾患患者を対象とした服薬アドヒアランス 尺度の信頼性及び妥当性の検討|J-STAGE
執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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