- 1.薬剤業務向上加算とは?
- 2.薬剤業務向上加算の算定要件・点数
- 3.薬剤業務向上加算の施設基準
- 3-1.【施設基準1】病棟薬剤業務実施加算1に係る届出を行っていること
- 3-2.【施設基準2】免許取得直後の薬剤師を対象とした病棟業務などに係る総合的な研修を行っていること
- 3-3.【施設基準3】研修プログラムに規定の内容が含まれていること
- 3-4.【施設基準4】研修を実施するために規定の資料を参考とすること
- 3-5.【施設基準5】自施設の薬剤師を他施設へ出向させる体制があること
- 3-6.【施設基準6】特定機能病院または急性期充実体制加算1・2に係る届出を行っていること
- 4.薬剤師の養成強化について
- 4-1.薬剤師臨床研修ガイドラインとは?
- 4-2.今後、薬剤師に期待されること
- 5.薬剤業務向上加算が薬剤師臨床研修ガイドライン活用のカギとなるか
1.薬剤業務向上加算とは?
薬剤業務向上加算とは、病棟薬剤業務実施加算1の加算で、2024年の診療報酬改定において新設されました。
薬剤師の養成を強化することで、チーム医療の推進や薬物治療の質の向上を図るために、病院薬剤師の充実した研修体制を整備した医療機関が病棟薬剤業務を実施する場合を評価したものです。
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【個別改定事項(Ⅱ)】|厚生労働省
🔽 病棟薬剤業務実施加算について解説した記事はこちら
2.薬剤業務向上加算の算定要件・点数
薬剤業務向上加算は、施設基準を満たす医療機関が算定要件を満たすことで、週1回に限り100点を病棟薬剤業務実施加算1に加算できます。算定要件は以下のとおりです。
● 薬剤師が以下の病棟薬剤業務を実施していること
1.患者さんの投薬、注射、副作用歴などを把握する
2.医薬品・医療機器に関する情報を収集・周知する
3.緊急安全性情報や安全性速報などの情報を得た場合には医師へ文書で情報提供する
4.入院時に持参薬の有無や薬剤名などを確認した上で、服用計画を書面で医師へ提案し、診療録などに添付する
5.入院患者さんに投与される注射薬と内服薬の相互作用の有無を確認する
6.特に安全管理が必要な医薬品についての説明や投与量・流量の計算を病棟専任の薬剤師が行う
7.「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」に掲げる業務についても可能な限り実施するよう努める
8.退院時の薬学的管理指導を可能な限り実施する
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
3.薬剤業務向上加算の施設基準
薬剤業務向上加算の施設基準は6項目あります。それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
3-1.【施設基準1】病棟薬剤業務実施加算1に係る届出を行っていること
薬剤業務向上加算を算定するためには、病棟薬剤業務実施加算1に係る届出を行わなければなりません。
病棟薬剤業務実施加算とは、医療機関の病棟などで、薬剤師が医療従事者の負担を軽減したり、薬物療法の有効性・安全性の向上に関する業務を実施したりすることを評価したものです。
病棟薬剤業務実施加算1を届け出るためには、算定要件と施設基準を満たした上で、薬剤管理指導料に係る届出を行う必要があります。
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
3-2.【施設基準2】免許取得直後の薬剤師を対象とした病棟業務などに係る総合的な研修を行っていること
薬剤業務実施加算を算定するためには、医療機関が研修を計画的に実施できるよう以下の体制を整える必要があります。
● 研修の計画や実施などに関して検討するために、上記の責任者と医師、薬剤師などの多職種から構成される委員会が設置されていること
● 無菌製剤処理を行うための設備が整備されていること
● 医薬品情報管理室の設備が整備されていること
● 調剤、病棟薬剤業務、チーム医療などを広く習得できる研修プログラムにもとづく研修を実施すること
● 定期的に研修の実施状況の評価、研修プログラムの見直しを実施する体制を整えること
また、研修を受ける薬剤師(受講薬剤師)を指導する薬剤師については、十分な病院勤務経験があり、研修内容についての指導能力があることが求められています。
研修期間中は、受講薬剤師の理解度や習得状況を定期的に評価し、受講薬剤師にフィードバックしなければなりません。なお、研修プログラムは医療機関のウェブサイトで公開することとされています。
3-3.【施設基準3】研修プログラムに規定の内容が含まれていること
研修プログラムは、以下の内容を含めるよう定められています。
(麻薬・毒薬・向精神薬などの医薬品管理、処方鑑査を含む)
● 外来患者さんの薬学的管理
(外来化学療法を実施する治療室での薬学的管理など)
● 入院患者さんの薬学的管理
(薬剤管理指導、病棟薬剤業務、入院時の薬局との連携を含む)
● 無菌製剤処理
(レジメン鑑査を含む)
● 医薬品情報管理
● 薬剤の血中濃度測定の結果にもとづく投与量の管理
● 手術室や集中治療室などにおける薬学的管理
上記の内容を含めた研修プログラムを作成しましょう。
3-4.【施設基準4】研修を実施するために規定の資料を参考とすること
研修を実施するための体制整備や研修プログラムなどについては、以下を参考にすることとされています。
(一般社団法人日本病院薬剤師会)
● 薬剤師の卒後研修カリキュラムの調査研究
(令和3年度厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究)
上記に記載されている内容を参考に、体制整備や研修プログラムの作成を行いましょう。
3-5.【施設基準5】自施設の薬剤師を他施設へ出向させる体制があること
薬剤業務向上加算を算定するためには、都道府県と協力して、薬剤師が一定期間別の医療機関に勤務し、地域医療に係る業務を実践的に習得する体制を整えなければなりません。
自施設の薬剤師を他施設へ出向させる体制として、以下の要件を満たす必要があります。
● 薬剤師不足の地域において、病棟業務やチーム医療などの業務について充実が必要な医療機関を選定すること
薬剤師が不足している地域とは、以下にもとづいて都道府県により判断するものとされています。
なお、協力する都道府県については、医療機関が所在する都道府県であることが望ましいものの、出向先の選定が難しい場合は、所在地以外の都道府県と協力してもよいとされています。
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)令和6年3月28日|厚生労働省
また、薬剤師を出向させるにあたって、選定した出向先の医療機関と、都道府県における薬剤師確保の取り組みを担当する部署と協議した上で、具体的な計画を策定する必要があります。
● 出向先の保険医療機関を選定した理由
● 都道府県と協議したことが分かる内容を記載または計画書へ添付
出向する薬剤師については、以下の要件を満たすこととされています。
● 当該医療機関でおおむね1年以上勤務する常勤薬剤師
● 出向元の医療機関に戻って勤務すること
なお、出向期間については、出向先の医療機関や都道府県の担当部署との協議によって決められたものであることとされています。
3-6.【施設基準6】特定機能病院または急性期充実体制加算1・2に係る届出を行っていること
薬剤業務向上加算を算定するためには、特定機能病院の承認を受けているか、急性期充実体制加算の届出を行っている必要があります。
特定機能病院とは、厚生労働省大臣から承認された、医療法第4条の2に規定する以下のような機能を備えた病院のことです。
● 高度な医療技術の開発・評価
● 高度医療に関する研修
● 高度な医療安全管理体制
参照:医療法 第四条の二|e-Gov 法令検索
参照:特定機能病院について|厚生労働省
急性期充実体制加算とは、手術などの高度で専門的な医療の実績や高度急性期医療の実施体制を評価した加算です。地域の急性期・高度急性期医療を集中的・効率的に提供する体制を確保することを目的としています。
参照:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
4.薬剤師の養成強化について
薬剤業務向上加算が新設された背景には、薬剤師の養成強化がひとつのテーマとなっていることが挙げられます。薬剤師の臨床現場における役割が広がっており、薬剤師が身に付けるべき知識や技能、態度について、養成強化の必要性が高まっています。
そこで、厚生労働省は、薬剤師の臨床研修体制を整えるため、「薬剤師臨床研修ガイドライン」を作成しました。ここでは、「薬剤師臨床研修ガイドライン」の概要について解説するとともに、今後、薬剤師に期待されることについて考えます。
4-1.薬剤師臨床研修ガイドラインとは?
薬剤師臨床研修ガイドラインとは、薬剤師の資質を向上させ、医師や歯科医師から独立した立場で医療の安全を守り、地域や勤務先に関わらず医療の標準化を目指すために作成されたガイドラインです。
医師や歯科医師の臨床研修制度は、卒業前・卒業後のシームレスな教育体制が構築されています。一方、薬剤師については、医師や歯科医師の臨床研修制度のような標準的な研修は存在しませんでした。
こういった状況から、薬剤師臨床研修ガイドラインは、臨床現場で勤務するすべての薬剤師を対象に、臨床研修の標準化のために作成されています。
卒後臨床研修の期間は原則として1年間以上としており、以下が必修項目です。
● 医薬品の供給と管理業務
● 医薬品情報管理業務
● 病棟業務
● 無菌調製
● がん化学療法
● 在宅訪問(在宅医療・介護)
● 医療安全
● 感染制御
● 地域連携
薬剤師免許を取得した新人薬剤師が、卒前教育で習得した資質や能力を基盤として患者さんや他職種と関わっていく中で、薬剤師としての心構えを再度学び、独立して業務ができるよう育成することを目標としています。
参照:薬剤師臨床研修ガイドラインについて(事務連絡)令和6年3月26日|厚生労働省
関連記事:研修期間は「1年間以上」~薬剤師卒後研修に指針 厚生労働省
4-2.今後、薬剤師に期待されること
薬剤師臨床研修ガイドラインでは、免許取得直後のすべての薬剤師が、臨床能力のある医療チームの一員となるよう育成することを目指しています。
これまで薬剤師の新人研修は、勤務先での業務や指導薬剤師の経験にもとづく教育が中心となっていました。そのため、病院薬剤師は在宅医療や外来患者さんなど、薬局薬剤師は急性期医療や救急医療などに関する知識や経験を得られる機会が限られていました。
しかし、病院薬剤師であっても、在宅医療の経験や、地域医療に貢献する必要性を理解することは大切です。同様に、薬局薬剤師も、さまざまな疾患について、急性期から慢性期に移行するまでの薬物療法などを学ぶことは重要でしょう。
これからの薬剤師には、病院薬剤師、薬局薬剤師に関わらず、それぞれの臨床現場の状況や薬物治療などの知見を深め、職能を発揮して医療に貢献することが求められているといえます。
5.薬剤業務向上加算が薬剤師臨床研修ガイドライン活用のカギとなるか
薬剤業務向上加算は、薬剤師の養成強化を目的に新設されました。2024年3月に作成された「薬剤師臨床研修ガイドライン」も、薬剤師の養成強化を目的としています。ガイドラインに記載されている必須項目の中には、施設によって実施が難しいものがあるため、記事執筆時点では各医療現場での活用を促す程度となっています。今後、薬剤師臨床研修ガイドラインが一般的に活用されるようになるためには、薬剤業務向上加算を算定する医療機関の研修実績がカギとなるかもしれません。
🔽 2024年度調剤報酬改定について解説した記事はこちら
🔽 病院薬剤師に関連する診療報酬について解説した記事はこちら
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
あわせて読みたい記事