薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.11.27 薬剤師のスキルアップ

薬剤師の退職金は平均いくら?職場ごとの相場や金額を決める要素を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師の退職金の相場は、勤務状況や企業が設ける退職金制度によって異なります。職場の制度や雇用形態によっては退職金がもらえないこともあるため、薬剤師は職場の退職金制度について理解しておくとよいでしょう。本記事では、退職金制度の主な種類や退職金の支給額を決める要素について解説するとともに、薬剤師の退職金の相場、確認方法、よくある質問と回答などを紹介します。

1.退職金とは?

退職金とは、会社を退職するときに支給される金銭のことです。退職金の金額は、一般的に勤続年数や職能などに応じて算定されます。
 
退職金は法律上で支給が定められているものではなく、支給の有無や金額は勤務先によって異なります。
 
退職金を支給する制度は退職金制度(退職給付制度)と呼ばれており、いくつかの種類があります。ここでは、退職金制度の主な種類と退職金の金額を決める要素について見ていきましょう。

 

1-1.退職金制度の主な種類とは?

退職金を支給するための制度には、以下のような種類があります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

 

1-1-1.退職一時金制度

退職一時金制度とは、退職金を一括で支給する制度のことです。企業がコツコツと積み立てたものを退職者に一括で支給します。
 
そのため、勤務先が倒産した場合には退職金をもらえなかったり、支給額が経営状況に影響されたりする可能性があります。

 

1-1-2.退職金共済制度

退職金共済制度とは、企業が加入する共済制度により積み立てられた退職金を支給する仕組みのことです。
 
厚生労働省所管の勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営する中小企業退職金共済制度では、企業の掛金と運用収入を財源としており、退職金は中退共から直接退職者に支払われる仕組みとなっています。
 
参照:中小企業退職金共済制度(中退共制度)|厚生労働省
参照:一般の中小企業退職金共済制度のしくみ|厚生労働省

 

1-1-3.確定給付企業年金制度(DB)

確定給付企業年金制度とは、確定給付企業年金法に基づき、あらかじめ約束された給付金額を受け取れる企業年金制度のことです。
 
確定給付企業年金には、企業が別の法人格を有する基金を設立し、その基金が年金資産を管理・運用する「基金型」と、企業が信託会社・生命保険会社などと契約を結び、企業の外で年金資金を管理・運用する「規約型」があります。
 
運用の低迷などによって必要な積立水準が不足した場合は、企業が追加で掛金を拠出しなければなりません。
 
参照:確定給付企業年金制度|厚生労働省
参照:確定給付企業年金法|e-Gov 法令検索
参照:2023年度版 年金制度のポイント ―くらしの中に、年金がある安心。―|厚生労働省

 

1-1-4.企業型確定拠出年金制度(企業型DC)

確定拠出年金とは、拠出された掛金と運用利益の合計額によって、将来の給付額が決まる年金制度です。
 
確定拠出年金には、企業型と個人型(iDeCo)があります。企業型確定拠出年金制度では、企業が掛金を拠出し、社員は運営管理機関が選定・提示する運用商品(投資信託、保険商品、預貯金など)を選択します。
 
受け取りは原則として60歳以降となるため、中途退職の場合は6カ月以内にほかの確定拠出年金(企業型・個人型確定拠出年金、確定給付企業年金、通算企業年金)に資産を移換する必要があります。
 
参照:確定拠出年金制度|厚生労働省
参照:確定拠出年金制度の概要|厚生労働省

 

1-2.退職金の金額はどのように決まる?

退職金の支給額を決定する主な要素には、勤続年数や退職理由、退職時の役職などがあり、勤務先の制度によっても異なります。それぞれについてポイントを見ていきましょう。
 
なお、以下は一般的に「退職金」という場合に指すことの多い退職一時金についての内容となります。

 

1-2-1.勤続年数

勤続年数とは、会社に入社してから退職するまでの期間のことです。退職金の算出方法には、以下のようなものがあります。

 

● 毎月の給与や役職手当などの合計額に勤続年数を乗じた値を退職金とする
● 勤続年数に応じたポイントの累計で退職金を算出する

 

退職金の算出方法は企業によって異なるものの、勤続年数は金額を決める大きな要素となります。

 

1-2-2.退職理由

自己都合退職か会社都合退職かによっても、退職金の支給額が異なるケースがあります。
 
会社都合退職は会社の倒産やリストラなどが該当し、自己都合退職は転職や休職など社員の都合により退職することを指します。企業都合退職は、自己都合退職と比較して高額になるのが一般的です。

 

1-2-3.役職

役職がついていると、一般社員よりも退職金が多くなる傾向にあります。一般社員より基本給が高額になりやすいことに加えて、基本給に役職手当などを加えた金額をもとに退職金を算出する企業があるためです。
 
このような傾向は薬剤師においても同様で、薬局長は1.2、エリアマネージャーは1.5を乗じるといった役職係数を設ける企業もあるため、役職がつくと退職金は高額になりやすいでしょう。

 

1-2-4.勤務先の制度

前述したとおり、退職金制度にはさまざまな種類があり、企業によっては退職一時金制度に加えて、そのほかの退職金制度を併用している場合もあります。
 
複数の退職金制度を採用する企業の場合、退職金の総額は高くなりやすいでしょう。
 
参照:民間の退職金及び企業年金の実態調査の結果並びに国家公務員の退職給付に係る本院の見解について|人事院

2.薬剤師の退職金の相場

薬剤師の退職金の相場は、企業規模や業種によって異なります。中小企業と大手企業の退職金の相場を比較し、参考にしてみましょう。

 

2-1.中小規模の場合

独立行政法人勤労者退職金共済機構の中小企業退職金事業本部のWebサイトによると、東京都が中小企業を対象に調査・集計した大卒者のモデル退職金額は以下のとおりです。

 

  自己都合 会社都合
常用労働者数 100~299人 50~99人 10~49人 100~299人 50~99人 10~49人
勤続年数 年齢 退職金支給額
5年 27歳 49万
2,000円
57万
4,000円
40万
7,000円
72万
5,000円
73万
1,000円
56万
3,000円
10年 32歳 123万7,000円 119万8,000円 103万6,000円 168万9,000円 160万6,000円 137万1,000円
15年 37歳 242万6,000円 231万6,000円 191万5,000円 303万6,000円 282万2,000円 243万3,000円
20年 42歳 411万7,000円 372万0,000円 303万2,000円 484万6,000円 447万6,000円 373万5,000円
25年 47歳 604万8,000円 525万8,000円 429万4,000円 683万円 628万1,000円 514万3,000円
30年 52歳 838万1,000円 689万4,000円 566万6,000円 913万1,000円 813万4,000円 667万4,000円
33年 55歳 1,016万8,000円 813万4,000円 667万7,000円 1,119万円 932万5,000円 763万1,000円
定年 1,323万円 1,141万8,000円 979万3,000円

参照:退職金の世間相場はどれくらいですか?|Q&A(よくあるご質問)|中小企業退職金共済事業本部(中退共)

 

モデル退職金とは、学校を卒業してすぐに入社した人が、普通の能力と成績で勤務した場合に、退職金規定のもとで支給される退職金がいくら程度なのかを算出したものです。
 
上記は薬局・ドラッグストアに限ったデータではないため、金額はあくまで目安であるものの、自己都合より会社都合による退職の方が支給金額は高く、勤続年数が高いほど退職金は多い傾向にあることが分かります。

 

2-2.大手企業の場合

厚生労働省の賃金事情等総合調査によると、大手企業における「大学卒、事務・技術労働者、総合職相当」のモデル退職金は以下のとおりです。

 

    自己都合 会社都合
勤続年数 年齢 退職金総額 月収換算 退職金総額 月収換算
3年 25歳 34万1,000円 1.3カ月 69万6,000円 2.7カ月
5年 27歳 63万1,000円 2.2カ月 121万3,000円 4.2カ月
10年 32歳 182万8,000円 5.1カ月 305万7,000円 8.5カ月
15年 37歳 402万7,000円 9.3カ月 585万1,000円 13.4カ月
20年 42歳 761万9,000円 14.3カ月 1,021万6,000円 19.2カ月
25年 47歳 1,186万3,000円 20.7カ月 1,487万5,000円 25.8カ月
30年 52歳 1,771万8,000円 28.4カ月 2,054万5,000円 32.8カ月
35年 57歳 2,303万9,000円 36.7カ月 2,539万5,000円 40.6カ月
38年 60歳 2,380万8,000円 39.7カ月 2,650万9,000円 43.7カ月
定年 2,858万4,000円 45.1カ月

参照:令和5年賃金事情等総合調査(13-1、13-2)|政府統計の総合窓口(e-Stat)

 

上記は、資本金5億円以上かつ労働者が1000人以上の企業を対象としています。対象となる労働者は、以下を除いた常用労働者で、管理職や役員、理事者であっても、一般の労働者と同じ給与規定などが適用されている人を対象としています。

 

● 長期欠勤者
● 臨時・日雇労働者
● パートタイム労働者 など

参照:賃金事情等総合調査:統計の概要|厚生労働省

 

中小企業のデータと同様、薬剤師に関連する企業に限定したデータではありませんが、中小企業の退職金と比較すると、大手企業の退職金制度は充実している傾向にあることが分かります。
 
そのため、大手チェーンの薬局やドラッグストアも、中小規模の企業と比較して退職金が高額になる可能性があるでしょう。

 

2-3.国立病院・公務員薬剤師の場合

国家公務員として勤める薬剤師や、国家公務員と同等の待遇で国立病院に勤務する薬剤師の退職金の目安として、国家公務員(常勤職員)の退職手当の平均支給額について見てみましょう。

 

  定年 応募認定 自己都合 その他
勤続年数 平均支給額
2,112万2,000円 2,524万7,000円 274万5,000円 212万1,000円
5年未満 158万7,000円 24万5,000円 98万7,000円
5~9年 446万8,000円 453万5,000円 84万7,000円 255万5,000円
10~14年 713万7,000円 1,018万9,000円 276万9,000円 438万5,000円
15~19年 1,159万1,000円 1,290万5,000円 525万5,000円 793万8,000円
20~24年 1,309万2,000円 1,731万2,000円 932万8,000円 1,170万2,000円
25~29年 1,663万2,000円 2,111万円 1,367万8,000円 1,590万2,000円
30~34年 1,991万7,000円 2,646万7,000円 1,674万7,000円 2,155万7,000円
35-39年 2,303万8,000円 2,712万6,000円 1,951万3,000円 3,684万3,000円
40年以上 2,234万7,000円 2,439万8,000円 2,122万円 3,756万7,000円

参照:退職手当の支給状況(令和4年度)|内閣官房内閣人事局

 

「応募認定」とは、早期退職を希望した人のことです。「その他」は、任期制自衛官等の任期終了(常勤職員)や死亡などによる退職が含まれています。
 
上記は国家公務員全体の退職手当の平均支給額であるため、あくまで目安となりますが、前述した中小企業と大手企業のモデル退職金データの中間程度の金額になっています。

3.薬剤師の退職金の確認方法

勤務先が退職金を支給するのか、事前に確認しておきたい薬剤師もいることでしょう。ここでは、薬剤師の退職金を確認する方法についてお伝えします。

 

3-1.就業規則や給与明細で確認する

退職金制度を設けている企業の就業規則には、退職金に関する項目が記載されているため、支給条件や支給額の計算方法、支給時期などを把握できます。
 
また、確定給付企業年金制度や企業型確定拠出年金制度などを活用している企業の中には、給与明細に退職金掛金や企業年金掛金といった項目が記載されている場合があります。
 
退職金について確認したい場合は、まず就業規則や給与明細をチェックしましょう。

 

3-2.運営元のWebサイトで確認する

企業型確定拠出年金などで掛金を運用している場合は、運営元のWebサイトなどからも運用状況を確認できます
 
また、定期的に運用報告をしている運営元もあるため、書類やWebサイトで確認してみましょう。

 

3-3.社内の担当部署に問い合わせる

就業規則などを調べても分からない場合は、勤務先の担当部署に問い合わせるのも方法のひとつです。
 
ただし、退職する予定があるという疑念を持たれたくないといった理由で質問しづらい場合は、同僚や先輩、退職者などから情報を得る方がよいかもしれません。

4.薬剤師の退職金に関するQ&A

退職金に関する話題は、気軽に話しにくいものです。そのため、疑問があっても確かめないままでいる薬剤師もいるのではないでしょうか。ここでは、退職金に関するよくある質問と回答を紹介します。

 

4-1.退職金なしの企業はどのくらいある?

常用労働者30人以上を雇用する民営企業を対象にした厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、医療・福祉分野で退職金制度を設けていない企業は24.5%とされています。
 
一方、退職金制度のある企業は75.5%で、そのうち退職一時金制度のみが86.9%、退職年金制度のみが1.7%、両方を併用している企業が11.4%でした。
 
参照:令和5年就労条件総合調査 結果の概況 退職給付(一時金・年金)制度|厚生労働省

 

4-2.転職の面接で退職金について聞いてもいい?

転職の面接で退職金について確認しても問題はありませんが、採用担当者へ聞く前に、求人や採用ページに退職金制度について記載されていないか確認するようにしましょう。
 
また、聞き方にも配慮する必要があります。質問の仕方によっては退職を前提としているように受け取られる可能性があるため、基本的には退職金の有無や退職金制度について確認する程度にとどめる方がよいでしょう。
 
スキルアップをするための取り組みなど、待遇面以外についても質問することが大切です。

 

4-3.契約社員やパート・アルバイトでも退職金はもらえる?

契約社員やパート・アルバイトを対象とした退職金制度を設けている企業は少ないかもしれません。一般的には退職金はもらえないケースが多いでしょう。
 
しかし、勤務先の就業規則によっては退職金がもらえる可能性もあるので、退職金制度について確認してみましょう。

5.薬剤師の退職金は勤務先の制度によって決まる

退職金は退職後のライフプランに大きく影響します。そのため、具体的な金額を早めに把握しておきたいと考える薬剤師もいることでしょう。退職金の種類や支給額を決める要素には、さまざまなものがあります。どのくらい退職金がもらえるのか気になる場合は、まず就業規則などで勤務先の退職金制度について確認してみてはいかがでしょうか。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。