1.特定薬剤治療管理料とは?
特定薬剤治療管理料とは、医科診療報酬の算定項目のひとつで、「特定薬剤治療管理料1」と「特定薬剤治療管理料2」の区分があります。
1と2は、算定要件・点数や対象薬剤などがそれぞれ異なります。なお、歯科診療報酬にも同名の算定項目があります。
2.特定薬剤治療管理料1・2の点数と加算
特定薬剤治療管理料1・2の算定点数は、以下のとおりです。
区分 | 点数 | |
---|---|---|
特定薬剤治療管理料1 | 所定点数 | 470点 (月1回に限り) |
● ジギタリスの急速飽和 ● てんかん重積状態 |
740点 (1回に限り) |
|
抗てんかん剤または免疫抑制剤以外の薬剤の4カ月目以降の管理 | 所定点数の100分の50 | |
2種類以上の抗てんかん剤を使用 | 470点 (月2回に限り) |
|
特定薬剤治療管理料2 | 100点 |
特定薬剤治療管理料1に該当する薬剤には、ジギタリス製剤や抗てんかん剤などさまざまな薬効分類の薬剤があります。特定薬剤治療管理料2は、サリドマイド系の薬剤に限定されています。
上記表内のジギタリス製剤の急速飽和とは、重症うっ血性心不全の患者さんに対して2日間程度のうちに数回にわたってジギタリス製剤を投与して、治療効果が得られる濃度にまで到達させることをいいます。てんかん重積状態とは、全身性けいれん発作重積状態のことです。
また、所定点数の100分の50に相当する点数を算定する「4カ月目以降」とは、初回の算定から暦月で数えて4カ月目以降のことを指します。
上記以外にも、特定薬剤治療管理料1には、対象薬剤や対象疾患によって加算が設けられています。加算点数は以下のとおりです。
対象 | 加算点数 | |
---|---|---|
特定薬剤治療管理料1 | 臓器移植後 | 2,740点 (3カ月に限り) |
バンコマイシンの投与 | 530点 (1回に限り) |
|
臓器移植後またはバンコマイシン投与以外の薬剤 | 280点 (1回目の算定月に限り) |
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臓器移植後にミコフェノール酸モフェチルを含む2種類以上の免疫抑制剤を投与 | 250点 (6カ月に1回に限り) |
|
臓器移植後にエベロリムスを含む2種類以上の免疫抑制剤を投与 | 250点 ● エベロリムス初回投与月を含めた3カ月に限り月1回 ● 4カ月目以降は4カ月に1回 |
3.特定薬剤治療管理料1の算定要件・対象薬剤
特定薬剤治療管理料1の算定要件には、対象薬剤に共通しているものと、対象薬剤や対象疾患ごとに決められているものがあります。
ここでは、対象薬剤を紹介するとともに、主な算定要件と対象薬剤ごとの算定要件についてお伝えします。
3-1.対象薬剤
特定薬剤治療管理料1の対象薬剤は、以下のとおりです。
対象薬剤 | 対象疾患 |
---|---|
ジギタリス製剤 | 心疾患 |
抗てんかん剤 | てんかん |
免疫抑制剤 (シクロスポリン、タクロリムス水和物、エベロリムス、ミコフェノール酸モフェチル) |
臓器移植後 |
テオフィリン製剤 | 気管支喘息 慢性気管支炎 など |
不整脈用剤 (プロカインアミド、N-アセチルプロカインアミド、ジソピラミド、キニジン、アプリンジン、リドカイン、ピルジ カイニド塩酸塩、プロパフェノン、メキシレチン、フレカイニド、シベンゾリンコハク酸塩、ピルメノール、アミオダロン、ソタロール塩酸塩、ベプリジル塩酸塩) |
不整脈 |
ハロペリドール製剤、ブロムペリドール製剤 | 統合失調症 |
リチウム製剤 | 躁うつ病 |
バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン | 躁うつ病または躁病 |
シクロスポリン | ベーチェット病 非感染性ぶどう膜炎 など |
タクロリムス水和物 | 全身型重症筋無力症 関節リウマチ など |
サリチル酸系製剤 | 若年性関節リウマチ リウマチ熱 など |
メトトレキサート | 悪性腫瘍 |
エベロリムス | 結節性硬化症 |
アミノ配糖体抗生物質 | |
グリコペプチド系抗生物質 (バンコマイシン、テイコプラニン) |
|
トリアゾール系真菌剤 (ボリコナゾール) |
難治性真菌感染症 など |
イマチニブ | |
シロリムス製剤 | リンパ脈管筋腫症 |
スニチニブ | 腎細胞がん |
バルプロ酸ナトリウム | 片頭痛 |
治療抵抗性統合失調症治療薬 (クロザピン) |
統合失調症 |
ブスルファン |
3-2.主な算定要件
特定薬剤治療管理料1の主な算定要件は、以下のとおりです。
算定要件 | |
---|---|
対象患者 | 対象疾患に対して対象薬剤を使用する患者さん |
算定頻度 | 月1回に限り |
含まれる費用 | 以下に関わる費用 ● 血中濃度の測定 ● 測定するための採血 ● 測定結果による投与量の管理 ※1カ月に2回以上測定した場合でも、かかった費用は別での算定が不可 ※別疾患や区分の異なる薬剤についての測定はそれぞれ算定可能 |
診療録への記録 | ● 薬剤の血中濃度 ● 治療計画の要点 |
別の疾患や区分の異なる薬剤について血中濃度を測定するケースとして、以下のような場合が挙げられます。
● てんかんに対する抗てんかん剤と気管支喘息に対するテオフィリン製剤の両方を投与した場合
こうしたケースでは、算定要件を満たすことで、それぞれの薬剤について特定薬剤治療管理料1が算定可能です。
3-3.治療内容ごとの算定要件
続いて、治療内容ごとの主な算定要件についてお伝えします。
治療内容 | 算定要件 |
---|---|
ジギタリス製剤の急速飽和 | ● 1回に限り急速飽和完了日に740点を算定 ● 当該算定を行った急速飽和完了日の属する月に、特定薬剤治療管理料1や初回月の加算(280点)は別に算定不可 |
てんかん重積状態 | ● 注射薬剤などの血中濃度を測定し、結果をもとに投与量を精密に管理 ● 1回に限り、重積状態が消失した日に740点を算定 ● 当該算定を行った重積状態消失日の属する月に、特定薬剤治療管理料1や初回月の加算(280点)は別に算定不可 |
抗てんかん剤または免疫抑制剤の投与 | ● 当該患者は4カ月目以降においても減算対象外 (4カ月目以降も470点/月が算定可能) ● 躁うつ病または躁病によりバルプロ酸またはカルバマゼピンを投与している患者さんを含む |
臓器移植後の免疫抑制剤またはバンコマイシン以外の薬剤投与 | ● 血中至適濃度を得ることを目的に頻回測定が行われる初回月のみ280点を加算 ● 薬剤を変更した場合は算定不可 |
臓器移植後の免疫抑制剤の投与 | ● 臓器移植を行った日の属する月を含め3カ月に限り、臓器移植加算として2,740点を加算 ● 初回月の加算(280点)と、ミコフェノール酸またはエベロリムスを含む2種類以上の免疫抑制剤を投与している場合の加算(250点)は算定不可 |
バンコマイシン投与 | ● バンコマイシンを数日間以上投与している入院患者さんに対して、バンコマイシンの安定した血中至適濃度を得るため頻回測定を行った場合 ● 1回に限り530点を加算 ● 初回月加算(280点)は算定不可 |
臓器移植後、ミコフェノール酸モフェチルを含む2種類以上の免疫抑制剤を投与 | ● 医師が必要と認め、同一暦月に血中の複数の免疫抑制剤の濃度を測定し、その測定結果に基づいて個々の投与量を精密に管理した場合に6カ月に1回に限り250点を加算 ● ミコフェノール酸モフェチルの血中濃度測定の必要性の詳細を診療報酬明細書の摘要欄に記載 ● エベロリムスを併用している場合、エベロリムスの血中濃度測定による同一月内の加算算定は不可 |
臓器移植後、エベロリムスを含む2種類以上の免疫抑制剤を投与 | ● 医師が必要と認め、同一暦月に血中の複数の免疫抑制剤の濃度を測定し、その測定結果に基づいて個々の投与量を精密に管理した場合に、エベロリムスの初回投与月を含めて3カ月に限り月1回、4カ月目以降は4カ月に1回に限り250点を加算 ● エベロリムスの初回投与から3カ月の間に限り、血中濃度測定の必要性の詳細を診療報酬明細書の摘要欄に記載 ● ミコフェノール酸モフェチルを併用している場合、ミコフェノール酸モフェチルの血中濃度測定による同一月内の加算算定は不可 |
4.特定薬剤治療管理料2の算定要件・対象薬剤
特定薬剤治療管理料2は、サリドマイド製剤とその誘導体の使用による胎児曝露を未然に防ぐための安全管理手順を遵守した上で、医師や薬剤師が薬剤の管理、指導などを行った場合に算定できます。対象薬剤は、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミドの3つです。
特定薬剤治療管理料2の主な算定要件は、以下のとおりです。
算定要件 | |
---|---|
対象患者 | サリドマイド製剤とその誘導体の処方・調剤を実施した患者さん |
算定頻度 | 月1回に限り |
確認事項 | 薬剤の管理の状況 |
説明事項 | 適正使用に係る必要な説明 |
報告事項 | 医薬品を製造販売する企業へ確認票などで定期的に患者さんの服薬に関する安全管理の遵守状況などを報告 |
遵守する安全管理手順 | ● サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS) ● レナリドミド・ポマリドミド適正管理手順(RevMate) |
診療記録への記録 | 指導内容の要点 |
5.特定薬剤治療管理料のレセプト摘要欄への記載事項
特定薬剤治療管理料のレセプト摘要欄への記載事項について見ていきましょう。
区分 | レセプト摘要欄への記載事項 |
---|---|
特定薬剤治療管理料1・2 | ● 全体の「その他」欄に初回の算定年月を記載 ● 4カ月目以降の特定薬剤治療管理料は、初回の算定年月の記載を省略して差し支えない |
特定薬剤治療管理料1 | ● 該当する薬剤のレセプトコードを選択 ● 初回の算定年月 ※ただし、以下については、初回の算定年月の記載を省略して差し支えない 1. 抗てんかん剤および免疫抑制剤以外の薬剤を投与している患者について4カ月目以降の特定薬剤治療管理料1を算定する場合 2. 抗てんかん剤もしくは免疫抑制剤を投与している患者について特定薬剤治療管理料1を算定する場合 |
特定薬剤治療管理料1の臓器移植加算 | 当該臓器移植を行った年月日を記載 |
特定薬剤治療管理料1のミコフェノール酸モフェチル投与時の加算 | ミコフェノール酸モフェチルの血中濃度測定の必要性を記載 |
特定薬剤治療管理料1のエベロリムス投与時の加算 | 初回投与から3カ月の間に算定する場合に、以下を記載 ● エベロリムスの初回投与日 ● エベロリムスの血中濃度測定の必要性 |
参照:「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について|厚生労働省
6.特定薬剤治療管理料の算定要件と対象薬剤を把握しよう
特定薬剤治療管理料の算定要件や対象薬剤はやや複雑になっており、全体を理解するのが大変かもしれません。しっかりと理解するためには、ひとつずつ丁寧に確認していく必要があります。加算が設けられている対象薬剤もあるため、医療機関で使用している薬剤や検査内容と照らし合わせて、算定漏れがないようにしましょう。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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