- 1.薬局経営における現状の課題
- 1-1.調剤報酬改定により、薬局経営は利益が得られにくくなっている
- 1-2.「立地」から「機能」へと薬局に求められる役割が変わりつつある
- 2.薬局の将来性は?今後の薬局経営に求められること
- 3.薬局経営に向けて準備しておきたいこと
- 4.薬局経営をするうえで身につけておきたい知識
- 4-1.利益に関わる調剤報酬の知識
- 4-2.経営状況の分析に役立つ会計の知識
- 4-3.他の薬局との差別化に役立つマーケティング戦略の知識
- 5.薬局経営を成功させるポイント
- 5-1.処方せん枚数を増やす
- 5-2.加算を積極的に算定する導
- 5-3.人件費などのコストを抑える
- 6.薬局経営の注意点
- 7.薬局経営に必要な知識を身につけ、選ばれる薬局作りをしよう
1.薬局経営における現状の課題
中央社会保険医療協議会が実施した「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」(令和3年実施)によると、薬局1施設あたり、年間で平均1,100万円ほどの利益が出ていることがわかります。例えば、保険薬局全体の令和2年度の損益差額は1,134万3,000円です。安定して利益が出ていれば薬局経営も順調ですが、そのためには、いくつかの課題をクリアする必要があります。まずは、薬局経営における、現状の課題を見てみましょう。
1-1.調剤報酬改定により、薬局経営は利益が得られにくくなっている
近年、調剤報酬は2年に一度のペースで改定が行われています。医療費削減を目的とした改定など、薬局経営にとっては厳しい改定が続いています。例えば、2018年と2022年の調剤報酬改定では、門前薬局と大型チェーン薬局を対象に「調剤基本料」の引き下げが行われました。引き下げの対象となった薬局では、大幅な利益減少を余儀なくされています。
また、2022年度調剤報酬改定において、後発医薬品の推進を評価する「後発医薬品体制加算」を算定するため、後発医薬品の調剤数量割合の基準が引き上げられました。改定前は後発医薬品の調剤数量割合が75%以上あれば、後発医薬品体制加算1を算定できていました。
しかし、基準が80%以上に引き上げられて以降、算定できなくなるケースも出てきました。利益確保に向けて、後発医薬品体制加算を算定したい場合には、より積極的な後発医薬品の使用が求められます。
🔽 2022年度調剤報酬改定について解説した記事はこちら
1-2.「立地」から「機能」へと薬局に求められる役割が変わりつつある
2022年に厚生労働省が公表した「薬局薬剤師に関する基礎資料(概要)」によると、薬局の約9割は診療所や病院の門前、または医療モール内の薬局であると報告されています。
医療機関の近くにある薬局は、患者さんにとって立地が良く利便性が高いというメリットがある一方で、医薬分業のメリットを感じにくいのが課題です。というのも、薬剤師は門前病院以外で処方された薬の把握が難しく、薬の重複や飲み合わせの確認に手間がかかってしまうからです。
厚生労働省が作成した「患者のための薬局ビジョン」では、こうした課題を解決するために全ての薬局が「かかりつけ薬局」としての機能を持つことを目指すといった指針が示されました。患者さんの服薬情報を一元的に管理し、在宅での対応を含む薬学的管理・指導を行う「かかりつけ薬局」となることで、患者さん本位の医薬分業を実現できます。
これからは患者さんに選ばれる薬局になるために、立地だけではなく、かかりつけ薬局として機能を重視した取り組みを行う必要があるでしょう。
🔽 かかりつけ薬局について解説した記事はこちら
2.薬局の将来性は?今後の薬局経営に求められること
薬局経営に不利な調剤報酬改定が続く一方で、薬局の「機能」を磨くことができれば、利益獲得や経営の安定につながるでしょう。
具体的には、患者さんの服薬情報の一元的・継続的管理や24時間対応、在宅対応などの取り組みで、患者さんに選ばれる薬局を目指すことが大切です。地域支援体制加算をはじめ、かかりつけ薬局としての加算算定に向けて適切に取り組むことで、薬局の利益アップを見込めます。
また「患者のための薬局ビジョン」によると、地域住民の健康維持・増進を支援する健康サポート薬局機能や抗がん剤など専門的な薬学的管理を行う高度薬学管理機能を持つことも、今後薬局に求められる役割の一つとされています。健康サポート薬局として、医療機関や地域包括支援センターなどとあらかじめ地域連携体制を構築したり、専門薬剤師など高度な知識・技術と臨床経験を持つ薬剤師を配置したりすることが求められます。
🔽 薬剤師の将来性について解説した記事はこちら
3.薬局経営に向けて準備しておきたいこと
新規で薬局を開業する場合は、事前にしっかり準備しておく必要があります。以下の手順を参考にして、開業準備を進めましょう。
開業には、店舗の賃貸もしくは購入にかかる費用の他、設備資金、開業後の運転資金となる費用を用意しておく必要があります。
2.開局する場所を決める
周辺環境を確認した上で、開局する立地を決めます。
3.建設もしくは、内装工事を行う
店舗を新たに建てる場合には建築を、また、賃貸などで利用する場合には、必要に応じて内装工事を行います。
4.必要な設備や機器類を購入する
必要な設備や機器類は、予算や設置スペースを踏まえた上で、購入しましょう。
5.薬局開設許可申請をする(必要に応じて「保険薬局指定申請」や「麻薬小売業者免許」の申請も行う)
保健所に「薬局開設許可申請」を行います。その後、建物検査などが行われ、問題なければ「薬局許可証」が発行されます。この許可証をもって、開業が可能です。
6.医薬品や医療機器を購入する
開業に向けて、必要な医薬品や医療機器を準備します。
7.従業員を募集・採用する
スタッフを雇用する場合、求人の手配とともに、社会保険などの手続きが必要です。
4.薬局経営をする上で身に付けておきたい知識
薬剤師として調剤業務に従事するのと、薬局の経営者になるのとでは、必要な知識が異なります。薬局経営をするにあたり、身に付けておくべき知識を解説します。
4-1.利益に関わる調剤報酬の知識
調剤報酬とは、薬局の機能や薬剤師が行うサービスに対して支払われる報酬のことです。調剤報酬を理解することで、加算算定に向けて適切な対策ができるようになります。
また調剤報酬には、国の目指す薬局・薬剤師像が反映されています。例えば、2022年の調剤報酬改定では、対人業務の評価の拡充が行われ、医療的ケア児に対する薬学的管理の評価として「小児特定加算」、入院前の患者さんの薬の整理や服薬情報を医療機関に提供すると算定できる「服薬情報等提供料3」が新設されました。国の方針として、これらの対人業務が求められていることが分かります。
🔽 服薬情報等提供料について解説した記事はこちら
どのような薬局・薬剤師が求められているかを知った上で、薬局としての取り組みを考えることが大切です。
4-2.経営状況の分析に役立つ会計の知識
薬局の経営状態を把握するには、会計知識が必要です。経営している薬局で、どれくらいの利益が出ていて、コストがかかっているかを知ることで、経営の改善ポイントを見つけやすくなります。まずは「損益計算書(PL)」と「貸借対照表(BS)」を読めるようにしましょう。
「損益計算書(PL)」は売上高などの収益や売上原価や販管費などの費用の他、収益から費用を引いた「利益」をまとめた決算書類です。薬局の収益性を確認するために用いられます。
「貸借対照表(BS)」には、資産と負債、純資産のバランスが記載され、薬局の財務状況を把握できるのが特徴です。薬局の現状を分析するための大切なツールなので、必ず読めるようにしておきましょう。
🔽 薬剤師の勉強法について解説した記事はこちら
4-3.他の薬局との差別化に役立つマーケティング戦略の知識
薬局経営は、商品(薬)や価格での差別化をしにくいため、処方せんの調剤以外に付加価値を提供する必要があります。そこで身に付けておきたいのが、マーケティング戦略の知識です。3C分析(※1)やSWOT分析(※2)といったフレームワークを用いて自社や競合、環境を分析し、適切な対策を打つことが、他の薬局との差別化につながります。
マーケティング戦略の知識を身に付けるためには、経営に関する本を読んだり、セミナーに参加したりするとよいでしょう。
※2:SWOT分析とは…Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4要素について分析する方法。
5.薬局経営を成功させるポイント
薬局事業を継続・発展させるには、利益を上げ続ける必要があります。薬局経営を成功させるためのポイントについて解説します。
5-1.処方せんの枚数を増やす
処方せんの獲得は、薬局の収益アップにつながります。処方せんの枚数を増やすには、これまで来局したことのない患者さんに薬局を利用してもらうための取り組みが有効です。ポスティングやWeb広告を活用して地域の方に認知してもらったり、地域の健康イベントに参加し住民の方々と交流したりするとよいでしょう。
🔽 地域で愛される薬局へのインタビュー記事はこちら
また、患者さん1人当たりの来局頻度を増やすためのアプローチも大切です。複数の医療機関を受診している患者さんに対して、1つの薬局で服用している全ての薬を管理する「一元管理」の声掛けを行い、かかりつけ薬局として利用してもらいましょう。
5-2.加算を積極的に算定する
加算の積極的な算定は、薬局経営を成功させるポイントの一つです。先にも述べた通り、近年「小児特定加算」や「服薬情報等提供料3」などの対人業務への評価となる加算が拡充されています。国の方針として、薬局薬剤師に求められている対人業務を充実させ、積極的に加算を算定し、利益アップを目指しましょう。
5-3.人件費などのコストを抑える
どれだけ収益が高くても、過剰にコストがかかっていると利益が減ってしまいます。特に、薬局経営においてコストになりやすいのが人件費です。人件費を抑えるには、業務効率化に向けて調剤のオペレーションを改善したり、過剰な人員計画となっていないかシフトを見直したりするとよいでしょう。
また、一包化や軟膏の混合調製など薬剤の調剤が多い薬局では、機器導入も対策の一つです。初期費用はかかるものの、調剤にかかる時間が短縮され、薬剤師の人件費削減につながります。
🔽 業務効率化に注力する薬局へのインタビュー記事はこちら
6.薬局経営の注意点
薬局をうまく経営しようとすると、人や設備面など薬局の内部を改善しようと考えがちです。しかし、薬局の外にも目を向け、医療機関や介護施設の方とコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことも大切です。
日頃から医療機関とのコミュニケーションを強化しておくと、疑義照会や処方提案などで連携しやすくなります。患者さんの服薬情報や医療ニュースなどの話題を用意し、事前に面会のアポイントメントを取った上で、訪問するとよいでしょう。
また患者さんにとってより身近な存在となる介護施設のケアマネジャーやヘルパーは、患者さんの生活状況や細かな体調変化を把握しているため、薬局に在宅訪問の依頼をしてくれることがあります。スムーズに在宅医療へ移行できるように、普段から患者さんの情報を共有しておくとよいでしょう。
7.薬局経営に必要な知識を身に付け、選ばれる薬局づくりを
薬局経営は、1施設当たり年間1,100万円ほどの利益が出ているという報告もあり、安定した収入が得られると考えるかもしれません。一方で、調剤報酬改定や薬局の役割の変化などに柔軟に対応する必要があるなど、課題が多い現状です。そうした課題を解消するためにも、かかりつけ薬局・薬剤師として「機能」を磨くなど、地域の方に選ばれる薬局を目指す取り組みが求められます。結果として、加算の算定にもつながり、利益アップも見込めるでしょう。必要な知識を学び、しっかり準備を整えながら薬局経営に臨みましょう。
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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