タクシーで患者宅に薬配送～諫早市薬が事業者と協定

患者宅への医薬品配送にタクシーを活用する動きが始まった。長崎県諫早市の薬剤師会とタクシー協会は17日、新型コロナウイルス感染防止対策としてタクシーが患者宅まで医薬品の配送を行う協定を結んだ。新型コロナウイルス感染症対応の特例措置としてオンライン診療・服薬指導が認められる中、薬剤師会が主導し、配送手段として地域のタクシー事業者を活用する新たな試みとなる。ドライバー不足に悩む医薬品配送会社でも、タクシー事業者との連携を模索し、タクシー業界からの期待も高いが、タクシーの貨物運送には法規制上厳しい条件が課せられ、今後広がるかは微妙な情勢だ。

貨物運送拡大は情勢微妙

厚生労働省は4月、患者が新型コロナウイルスに感染する事態を防ぐため、初診からインターネットや電話を利用したオンライン診療を可能とする特例措置を開始した。処方箋に基づき調剤された薬剤を適切な方法で配送することが可能となり、諫早市の薬剤師会とタクシー協会は、医薬品の受け取り配送代行で協定を結んだ。外出自粛による患者の受診控えを防ぎ、かかりつけ医への相談につなげる狙いもある。

医療機関が電話などで患者を診療した後、医療機関から指定の保険薬局に処方箋が送信され、薬剤師から患者に電話で服薬指導を行う。調剤後、患者の同意取得を条件にタクシーが患者宅まで医薬品配送を行い、患者は薬局から自宅までのタクシー運賃を支払う。

諫早市薬剤師会の堀剛会長によると、薬局から患者宅への医薬品配送は、薬局薬剤師による直接配送、宅配業者の活用と二つの方法に限られていたという。1人薬剤師の体制では業務に支障を来し、宅配業者による配送方法では翌日配送となるデメリットがあったことから、安心・安全に医薬品を届けていく措置として、タクシー事業者による受け取り配送代行を検討。配送手段を増やし、確実で迅速に供給するため、今回の協定に至った。

既に協定に基づいて手順書を作成しており、診療から配送まで逸脱がないようリスクマネジメントを徹底して実施する。今後、タクシー協会では、乗務員教育を実施し、温度管理が必要な医薬品の輸送品質を確保し、配送事故を防止するほか、患者が服用している薬剤名が見えないよう梱包するなど個人情報の取り扱いにも配慮する。20日には諫早市医師会に通達を行い、協力を要請した。

諫早市では、タクシーで通院する患者が多いが、同サービスを使えば片道分だけの経済的負担で済む。堀氏は「他地域に比べると新型コロナウイルス感染症患者が増えているわけではないが、今後インフルエンザが拡大していく。現在は通知による特例下での対応となっているが、安全・安心に薬を受け取る仕組みづくりを整備していきたい」と話す。

現行の道路運送法では、タクシー事業者は人を運ぶ旅客輸送に限定されており、貨物輸送はトラック事業者でなければ行えない。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で旅客運送の需要が激減したことを踏まえ、4月にタクシー事業者の有償貨物運送を9月末まで認める特例措置が行われたが、飲料や食料品に限られ、医薬品は対象外となっている。

ただ、持病がある人が外出せずに治療薬を受け取りたい場合に、タクシー事業者が処方箋に基づき薬剤の受け取り代行を行うことについては、国への届け出と承認を条件に「タクシー事業者が行う救援事業」の枠組みを利用できる。

6月に国土交通省から出された事務連絡では、「薬剤師による服薬指導を行った上であれば、実施しても差し支えがない」との通知が出されており、諫早市のケースはこれに該当する。

一方、製薬企業や医薬品卸、医療機関から医薬品の配送を受託している運送会社でも、ドライバー不足からタクシー事業者との連携を模索する動きもある。国交省では、「タクシーは旅客運送、トラックは貨物運送」とする道路運送法を改正する考えはなく、処方箋に基づく薬剤の受け取り代行以外の用途で、タクシーを活用するのは難しい状況にある。

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