”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2023.03.01公開日:2019.08.20 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第47回 夏野菜で涼を得る!【夏の食養生(1)】

猛暑が続くこの季節、冷たい飲み物や食べ物がおいしく感じられますが、身体を冷やしすぎるとかえって体調をくずしてしまうこともあります。そこでおすすめなのが「夏野菜」。夏野菜には蒸し暑い夏を乗り切るありがたい効能が凝縮されているのです。

目次

主な夏野菜は、心身の熱を“冷ます”

「夏野菜は体を冷やす」と、見聞きしたことはありませんか? 中医学では、体を“冷ます”作用がある薬食(やくしょく:中薬と食材)を「寒涼性」、“温める”作用のある薬食を「温熱性」、どちらでもない中立な薬食を「平性」といいます。

実際、夏に旬を迎える野菜や果物の多くは寒涼性で、心身の熱を冷ますものが多く存在します。具体的には、トマト・ナス・きゅうり・ゴーヤ・冬瓜などの瓜類・おくら・ズッキーニ・モロヘイヤ・スイカ・グアバ・パイナップル・マンゴー・パパイヤ・メロン・ドラゴンフルーツ・びわ・梨、などなどです。さらに、マンゴー・バナナ・パイナップルなどに代表される、南の温暖な地域で採れる作物も寒涼性のものが比較的多いようです。

例えば、沖縄料理で有名なゴーヤチャンプルーは、使われている具材のほとんど(ゴーヤ・豆腐・豚肉など)が寒涼性です。逆に、北海道でよく食べられるジンギスカンの羊肉はものすごく身体を温める温熱性で、寒い地域で食すことに適しています。このように、その土地の薬食が、その土地の人に合っていることを、「身土不二(しんどふじ)」と言ったりします。

「比較的多い」と書き添えたのは、すべての夏野菜・南国の作物が寒涼性というわけではなく、例外も存在するからです。夏野菜では、唐辛子は熱性、生姜・ニラ・かぼちゃは温性、とうもろこし・枝豆は平性、桃・さくらんぼは温性、ぶどうは平性、といった具合です。

夏野菜は、夏のつらさを軽減する

トマト・ナス・きゅうり・ゴーヤ・冬瓜・スイカなどなど、夏野菜の多くは清熱・解暑・生津止渇・利水(※下記参照)といった、蒸し暑い夏を乗り越えるのに非常にありがたい効能のオンパレードです。

清熱…体内の余分な熱を取り除く
解暑…暑さによる不調を和らげる
生津止渇…潤いを生み、乾きを止める
化湿利水…水分代謝を良くし、湿気や水分の停滞を追い出す

日本の夏は「蒸し暑い」と表現されるように、自然界の暑邪が盛んになります。暑邪は、【熱+湿気】のイメージ。暑邪が人体に与える影響は大きく分けると3つあります。(中医学では、自然界には6つの邪気「風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪」があり、体に入り込むと不調を招くとしています。病気をひきおこす原因を、外因・内因・不内外因にわけて考え、暑邪は外因のひとつです)

<暑邪が人体に与える影響>

(1)暑邪はその熱性から、身体に熱をこもらせます。高熱、口渇、もうろうとする、汗が大量にもれるなどの症状を引き起こします。
(2)暑邪は気や津液を消耗します。口渇、皮膚の乾燥、疲れ、だるいなどの症状を引き起こします。
(3)暑邪は湿邪と結びつきやすく、「暑湿の邪(しょしつのじゃ)」などと呼ばれます。手足の重だるさ、食欲不振、悪心、嘔吐、むくみ、尿が濃く少ないなどの症状を引き起こします。

多くの夏野菜は、体にこもった余計な湿気と熱を取り除き、むくみを解消し、のどの渇きを癒やす……おおざっぱに表現するとこういった効能があります。

また薬食には、ただ体の熱を冷ますだけでなく、ストレスによる熱(肝火や心火)を冷ますものもあります。ストレスがこもったことによる目の充血などには、肝火を冷ますゴーヤなどがおすすめです。

寒がり・胃腸虚弱の人の夏野菜の食べ方

「夏野菜は身体を冷やすから食べないようにしている」という人もいるようですが、少しもったいないような気がします。旬の野菜は、「精(せい)」をしっかり宿らせています。夏に育った夏野菜は、ビニールハウスで真冬に育った夏野菜よりも、生命力にあふれ味も良く、栄養価も高いですよね。これが、「精」のあらわれと言えると思います。

寒涼生の食材は体の熱を冷ますため、普通体質〜熱がこもりがちな体質(のぼせ、ほてり、暑がりなど)の人にとっては、夏を快適に過ごすのに好都合です。一方、寒がりや胃腸虚弱の人は、確かに“生”の夏野菜は食べ過ぎに注意する必要があります。

しかし、加熱することで寒涼性がすこし和らぎ消化も良くなりますから、軽く火を通したりレンジで温めたりして、「火を通して、温かい状態」ですこしずつ食べてみて様子をみるとよいでしょう。 本当は胃腸虚弱でなくでも、この食べ方(冷たいもの、生のものを控える)を基本とすることが養生法として適切です。

私の場合、夏野菜に限らず野菜は基本的に、強火でサッと炒めて表面だけ火を通したり、軽く湯通ししたり、蒸したりして食べています。スイカなどは冷蔵保存しますが、食べる前に電子レンジでぬるくしてから食べます。夏だけでなく一年を通して、みかん・イチゴなどのフルーツはお鍋で加熱したりトースターで焼いたり、ホットデザートにしていただいています。胃腸が弱い人はぜひ試してみてください。

参考文献:
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社1994年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店2019年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社2007年

「薬読」編集部より

蒸し暑い日々が続き食欲が落ちている方でも、さっぱりとしている夏野菜なら食べやすいのではないでしょうか? トマトやナス、きゅうり、ゴーヤ、スイカなど夏らしい野菜を食卓に取り入れて体調管理に活用しましょう。漢方や中医学についてもっと詳しく勉強したい薬剤師には、「漢方アドバイザー」の資格取得がおすすめです。

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中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/