薬剤師の働き方 更新日:2023.05.30公開日:2021.08.24 薬剤師の働き方

パート薬剤師から正社員になるメリット・デメリットと注意点

文:テラ ヨウコ(薬剤師ライター)

パート薬剤師として勤務してきて、正社員に転職しようかどうか迷うことはありませんか? 正社員になると、期間の定めがない雇用契約となり収入の安定が期待できます。今回は、パートから正社員へ転職する際のメリット・デメリットや、注意したいポイントについて解説します。しっかりと違いを理解して比較検討したうえで転職を開始しましょう。

1. パート薬剤師と正社員薬剤師の違いと、パートから正社員になるメリット

パート薬剤師から正社員になるとどのような変化があるのでしょうか。年収、勤務時間、キャリアアップ、他店への応援、健康保険の5つの項目を比較してみましょう。

 

1-1. 年収の違い

厚生労働省が発表した「賃金構造基本統計調査(2020年)」をもとに、薬剤師における正社員とパートの賃金を見てみましょう。

 

まずは、正社員薬剤師の平均年収をまとめました。

 

■正社員薬剤師の平均年収

  平均年齢 きまって支給する現金給与額 年間賞与その他特別給与額 年収
男女計 41.2歳 39万4,200円 92万900円 565万1,300円
男性薬剤師 40.9歳 43万4,800円 102万900円 623万8,500円
女性薬剤師 41.4歳 36万8,000円 85万6,400円 527万2,400円

※年収は同調査における「きまって支給する現金給与額」×12カ月+「年間賞与その他と区別給与額」で算出

(厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」をもとに作成)

 

正社員薬剤師の平均給与額は39万4,200万円(平均年齢41.2歳)、賞与の平均賞与額は92万900円、そしてこれらの数値をもとに算出した平均年収は565万1,300円でした。なお、この金額は手取り額でなく、所得税や社会保険料などを控除する前の金額です。また「きまって支給する現金給与額」には時間外勤務手当などの超過労働給与額も含まれます。

次にパート薬剤師の年収を見てみましょう。

 

■パート薬剤師の平均年収

  平均年齢 きまって支給する現金給与額 年間賞与その他特別給与額 年収
男女計 51.7歳 2,349円 9万3,900円 505万4,988円
男性薬剤師 61.5歳 2,905円 13万6,600円 627万1,960円
女性薬剤師 49.8歳 2,237円 8万5,300円 480万9,844円

※年収は同調査における「1時間当たり所定内給与額」×8時間×22日×12カ月+「年間賞与その他特別給与額」で算出

(厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」をもとに作成)

 

パート薬剤師全体の平均時給は2,349円(平均年齢51.7歳)で、年間の平均賞与額は9万3,900円でした。また1日8時間、月22日勤務したと仮定して算出すると、平均年収は約505万4,988円でした。

 

平均年齢と年収額との相関性を考慮すると、薬剤師全体ではパートより正社員の方が高収入を得ているといえそうです。男性薬剤師の場合、正社員よりもパートの方が年収が高い結果となっていますが、これは平均年齢の違いなどが影響していることが考えられます。

 

また、上記の表では8時間勤務・22日間勤務を想定してパート薬剤師の年収額を算出していますが、同調査でのパート薬剤師の1日当たりの平均労働時間数は5.8時間となっているため、実際の年収額は算出額よりも低い可能性があります。この点からも、パートよりも正社員のほうが年収額が高いと考えられます。

 

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1-2. 勤務時間の違い

パートと正社員では勤務時間にも大きな違いがあります。正社員の場合、週40時間の勤務を求められるケースがほとんどです。一方、パートは自分の希望する勤務時間数や勤務日を会社に伝え、合意のうえで雇用契約書を作成します。勤務時間を希望に合わせて選択できるのが、正社員とパートの最大の違いといえるでしょう。

 

正社員もパートも、勤務時間内に仕事が終わらない場合は、残業になることがあります。パートに残業させる場合は、月に何時間程度になるのか、あらかじめ雇用契約書への明記が必要です。そのためパートは残業をさせないという会社の方針があったり、残業が発生しても短時間であったりするなど、正社員と比較して残業時間が短くなる傾向があります。

 

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1-3. キャリアアップの違い

事業所内でのキャリアアップを考えるならば、パートと比べて、正社員のほうに利があります。正社員は管理薬剤師、地域マネジャー、本部スタッフなどへの昇進が期待できるからです。パートでも管理薬剤師などを担うケースはありますが、その先の役職への昇進となると限界があるかもしれません。

また、パートは事業所内で行われるフォローアップ研修などを受けられない場合もあります。そのほか、社外研修や学会に参加する際の費用の会社負担の割合が、雇用形態によって異なることもあります。薬学の研修費や学会参加費は高額になることが多いので、すべてを自費でまかなうとなると、かなりの出費となってしまいます。組織の中で役職に就いたり昇進したりしていきたいのであれば、正社員への転職がおすすめです。

 

1-4. 他店への応援の違い

複数店舗を運営するチェーン系の調剤薬局やドラッグストアでは、人手が足りない店舗に対して他店から応援スタッフを派遣することがあります。正社員は、他店への応援業務を命じられた際は応じる義務があり、場合によっては転勤になることもあるでしょう。一方、事業所によって異なるものの、店舗ごとのパート契約の場合は、雇用契約上他店への応援を命じられることがありません。そのため、パート薬剤師は移動の負担や転勤の心配がなく、他店のルールがわからずに不安になることも少ないでしょう。

 

ただし、他店への応援はデメリットばかりではありません。他店での業務は、いつもとは違う処方内容に触れられる貴重な機会であり、普段は取り扱わない薬や処方について学べるチャンスです。スキルアップにつながる点ではメリットといえます。

 

 

1-5. 健康保険の違い

正社員は、事業所が所属する社会保険(厚生年金保険・健康保険)へ加入します。条件を満たしている事業所は、事業所単位での社会保険の加入が義務付けられており、ほとんどの事業所が該当します。

 

厚生年金保険・健康保険に加入すると、国民年金の受取額に厚生年金の受取額が上乗せさせることになり、終身でもらえる年金額が増えます。また万が一障害がある状態になり日常生活を送ることになった場合に「障害厚生年金」が支給されたり、医療保険の給付を受けられたりします。そして、厚生年金保険・健康保険では、自身が支払う保険料と同額の保険料を事業所に負担してもらえるのが大きなメリットです(厚生労働省ウェブサイトより)。

一方でパートは、勤務時間や会社の総社員数によって、国民健康保険か社会保険のいずれかに加入することになります。もしくは、家族の扶養に入るケースもあるでしょう。

 

2016年10月から社会保険の加入条件が緩和され、いままで国民健康保険しか選択できなかったパートの一部も社会保険に加入できるようになりました。ただし、一週間あたりの決まった労働時間が20時間以上であることや、1か月あたりの決まった賃金が8万8,000円以上であること、従業員数が501人以上の会社であることなどの条件があります(厚生労働省ウェブサイトより)。

 

さらに、2017年から従業員数500人以下の会社で働く場合でも、労使の合意があれば会社単位での社会保険加入が可能になっています。

 

社会保険にはさまざまな支援制度もあり、正社員、パートに関わらず、国民健康保険よりも加入によるメリットが大きいといえるでしょう。ただし、上述したように、パートが社会保険に加入するためにはいくつかの条件をクリアしなければいけません。正社員であれば、条件にしばられず、社会保険に加入できます。

 

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2. パート薬剤師から正社員になるデメリット

パートと正社員の違いはありますが、おおむね正社員になるメリットの方が多く見えるかもしれません。ではパートから正社員に転職することによるデメリットはあるのでしょうか。

 

2-1. 希望する休日が取りにくくなる

自分が希望する勤務時間、勤務日で雇用契約を結ぶパートと異なり、正社員はフルタイムで働く勤務形態です。社内規定に沿った勤務時間に合わせて働くことになり、場合によっては土日や祝日の出勤が求められることもあるでしょう。24時間店舗では、夜勤を求められるかもしれません。プライベートを優先したい人にとって、休みづらいのは大きなデメリットといえます。

 

2-2. 副業ができなくなる可能性

正社員は、就業規定によって副業が禁止される可能性があります。パートの掛け持ちや副業などを行っていた場合は注意が必要です。仮に副業ができる規定であったとしても、週40時間の勤務をしながらの兼業を行うのは、時間的、体力的な負担が大きいでしょう。副業である程度の収入を得ていたり、やりがいを感じていたりする人にとって、自由に活動できないことはデメリットかもしれません。

3. パート薬剤師から正社員になるときの注意点

雇用形態がパートから正社員に変わるとき、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。扶養から抜ける場合の注意点や、職場の選び方について注意すべきポイントを解説します。

 

3-1. 扶養から抜ける場合の注意点

これまで家族の扶養内でパート勤務していた人は、正社員になると勤務先が所属する社会保険に加入することになります。これまで支払っていなかった保険料が給料から引かれることになり、想定していた給与額より少ないと感じるかもしれません。

 

また、扶養から抜ける場合には、就職日や保険資格取得日にあわせて削除申請を行う必要があります。社会保険の加入手続きは、正社員になった際に事業所が行ってくれますが、扶養から外れる届出は自身で行うケースがほとんどです。扶養主となる家族が勤務する事業所に必ず連絡を行いましょう。

 

 

3-2. 今の職場で正社員になるか、転職するか

パートから正社員になるには、大きく分けて2つの方法があります。一つは今の職場のままで勤務形態を変える方法で、もう一つは転職して新たな職場で正社員として働く方法です。

 

今の職場でパートから正社員に勤務形態を変える場合は、就職活動をする必要がなく、慣れた職場で働き続けることができるといったメリットがあります。

一方、新しい環境で働き始めたい人には転職して正社員になる方法がおすすめです。また、正社員はパートよりも求人数が多く、良い条件での転職ができるのが大きなメリットです。ただし、新たな職場に転職する場合、転職活動を行って採用されることになり、就職できるまでの時間がかかります。また、職場で使用する薬歴ソフトや分包機が変わる可能性もあるため、仕事に慣れるまでが大変な面があります。

 

マイナビ薬剤師に掲載されている全国の求人数を見ると、パートの求人数は2万8,532件であるのに対し、正社員の求人数は4万8,424件。つまり正社員はパートの約1.7倍の求人数があることがわかります(2021年8月4日時点)。求人数が多いということは、より自分に合った条件で転職できる機会が多いといえるでしょう。

 

■薬剤師の代表的な勤務先と求人数

  調剤薬局 病院・クリニック ドラッグストア
正社員 2万7,732件 2,873件 1万2,279件
パート、アルバイト 1万9,776件 1,068件 5,934件

マイナビ薬剤師の検索求人数(2021年8月4日時点)より

 

上記は薬剤師の代表的な職場の求人数について、正社員とパート・アルバイトを比較した表です。調剤薬局、病院・クリニック、ドラッグストアのいずれでも正社員のほうが求人数が充実しており、勤務先の選択肢が多いことがわかります。

 

4. メリットがあるなら正社員薬剤師への転職検討もあり

パートも正社員も、それぞれにメリット・デメリットがあります。転職をする場合には、前もって注意したいポイントを理解しておくとリスク軽減につながります。自分のライフスタイルやキャリアプランと照らし合わせて、メリットが大きいと感じたときは、正社員への転職を視野に入れてみてはいかがでしょうか。


執筆/テラヨウコ

薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。

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