公務員薬剤師とは？国家公務員・地方公務員の仕事内容や年収について解説

1.公務員薬剤師とは

公務員薬剤師とは、公務員として国や地方自治体などで行政に関わる仕事を行う薬剤師のことです。主に保健所、地方衛生研究所、官公庁などで、公衆衛生の向上や医薬品の安全管理、感染症対策などを担当します。
 
公務員薬剤師は大きく「国家公務員」と「地方公務員」に分けられます。公務員薬剤師になるには、受験資格を満たした上で、公務員試験に合格しなければなりません。

2.公務員薬剤師の種類と主な仕事内容

「公務員薬剤師」といっても、従事する業務は多岐にわたります。代表的な公務員薬剤師の例として、行政や保健業務に携わる「薬事監視員」「食品衛生監視員」「環境衛生監視員」、自衛隊の衛生分野に関わる「自衛隊薬剤師」、市立・県立病院の「病院薬剤師」、違法薬物取締に尽力する「麻薬取締官」などが挙げられます。ここでは、地方公務員と国家公務員に分類して、それぞれの職種の特徴を紹介します。

2-1.国家公務員

まずは、国家公務員の主な種類と仕事内容について見ていきましょう。

2-1-1.薬系技官

薬系技官とは、薬剤師の資格や薬学の知識をもとに、厚生労働省などの中央官庁で医薬品の審査や安全管理、薬機法の運用、感染症対策などに携わる技術系の国家公務員です。
 
病院や薬局とは異なり、行政の立場から制度設計や政策立案などに関与し、国民の健康を守る役割を果たします。
 
参考：薬系技官とは｜厚生労働省

2-1-2.麻薬取締官

麻薬取締官は、違法薬物に関する犯罪取締や教育を行うのが仕事です。厚生労働省に所属する国家公務員ではありますが、刑事訴訟法に基づく特別司法警察職員として捜査権限が与えられています。
 
全国の地方厚生局にある麻薬取締部で勤務するケースが多く、具体的には、以下のような業務に従事します。

危険を伴う職務であることから、逮捕術などの訓練や、都道府県警察、麻薬取締員との連携が求められます。麻薬取締官になるには、厚生労働省が実施する麻薬取締部の採用試験に合格することが必要です。
 
参考：厚生労働省地方厚生局麻薬取締部ウェブサイト

 
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麻薬取締官になるには？仕事内容・年収や薬剤師資格などの採用条件を解説

2-1-3.自衛隊薬剤師

自衛隊薬剤師は国家公務員（特別職）であり、主に陸海空の病院や部隊における衛生分野で薬剤官として医療衛生業務を行うのが仕事です。調剤業務や医薬品の管理、調達といった一般的な薬剤師業務のほか、必要に応じて雑務なども行います。
 
薬剤師は毎年3月に、幹部候補生として募集され、受験するためには、志願票を事前に最寄りの地方協力本部へ提出する必要があります。陸上・海上・航空それぞれの隊で募集があり、筆記試験や口述試験、身体検査などの試験に合格後、入隊します。幹部候補生として幹部候補生学校に入校し、一定期間教育を受けた後に幹部自衛官へと昇任します。
 
自衛隊幹部候補生募集ページによると、2025年度時点で薬剤師の初任給は大卒・大学院卒ともに29万400円、幹部任官後は32万1,800円となっています。勤務や職域に応じて、住居手当、航空（航海）手当、地域手当など各種手当の支給があります。

 
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自衛隊薬剤師になるには？仕事内容や年収、採用試験などについて解説

2-2.地方公務員

続いて、地方公務員の主な種類と仕事内容を見ていきましょう。

2-2-1.保健所の薬剤師

保健所に勤務する薬剤師は、薬事衛生や感染症対策を通じて地域の公衆衛生を支えるのが主な役割です。薬局や医療機関への立入検査、毒劇物や医薬品販売の許認可、薬物乱用防止活動などを担当し、医薬品の安全な流通と使用を監視します。
 
感染症の発生対応や健康危機管理、災害時における医薬品供給や衛生支援にも関与し、地域医療の基盤を支える重要な役割を果たしています。
 
保健所には、薬事監視員や食品衛生監視員といった専門職があり、薬剤師の資格を持っていると、これらに任命される可能性が高まります。
 
参考：都保健所の業務｜都保健所｜東京都保健医療局

2-2-2.公立病院の薬剤師

市立病院や県立病院などに、公務員薬剤師として勤務するケースもあります。公務員薬剤師としては珍しく、患者さんと直接接することができるのが特徴でしょう。

 
公務員としての待遇を得ながら、病院薬剤師としてキャリアを積めるのが魅力です。

 
🔽 病院薬剤師について解説した記事はこちら

病院薬剤師の仕事内容とは？薬局薬剤師との違いや年収について解説

2-2-3.試験研究機関等の薬剤師

地方自治体は、保健環境研究所や衛生研究所、環境科学センターなどを設置し、感染症、食品、水質、大気などに関する検査・分析・研究をしています。これにより、地域の公衆衛生や環境保全に関する科学的根拠を提供し、行政施策を技術的に支えています。
 
薬剤師は薬学的な知識に加え、有機化学や分析化学、衛生化学などの専門性を生かし、「薬剤師」「化学」「環境検査」などの区分の募集に応募できます。

3.公務員薬剤師の年収

厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、企業規模10人以上の企業で働く薬剤師の平均年収は599万3,200円です。
※平均年収：「きまって支給する現金給与額」×12カ月＋「年間賞与その他特別給与額」で算出

 
🔽 薬剤師の年収について解説した記事はこちら

薬剤師の平均年収（給料）はいくら？男女別・年齢別・都道府県別データを紹介

では、公務員薬剤師の平均年収はどのくらいなのでしょうか。ここでは、国家公務員または地方公務員として働く薬剤師の年収を紹介します。

3-1.国家公務員の年収

国家公務員の平均年収は、人事院「令和6年国家公務員給与等実態調査」から算出できます。国家公務員として「医療職俸給表（二）」が適用される公務員薬剤師の場合、平均年収は581万6,000円になります。
※平均年収：「平均給与月額」×12カ月＋令和6年人事院勧告に基づくボーナス支給月数4.6カ月で算出
 
参考：人事院規則九―八（初任給、昇格、昇給等の基準）｜e-Gov法令検索
参考：令和6年国家公務員給与等実態調査報告書｜人事院
参考：令和6年 人事院勧告｜人事院

3-2.地方公務員の年収

地方公務員の年収は、各自治体で決められています。東京都で働く公務員薬剤師の給与については、東京都人事委員会により公開されています。「医療職給料表（二）」で算出すると、薬剤師の平均年収は606万8,966円になります。
※平均年収：「平均給与月額」×12カ月+ボーナス支給月数4.85カ月で算出
 
地方公務員として働く公務員薬剤師については、働く自治体によって年収が異なるため、詳しくは各自治体のホームページを確認しましょう。
 
参考：東京都職員給料表｜給与関係｜東京都人事委員会
参考：令和6年職員の給与に関する報告と勧告｜人事委員会勧告関係｜東京都人事委員会
参考：職員の給与に関する報告と勧告｜東京都人事委員会

4.公務員薬剤師になるには

公務員薬剤師になるには、公務員試験に合格しなければなりません。ここでは、公務員試験の概要と合格倍率についてお伝えします。

4-1.公務員試験

公務員試験は、国家公務員・地方公務員ともに、基本的には1次試験と2次試験があり、両方の試験をパスした人が採用されます。1次試験は基礎能力試験などの筆記試験で、1次試験に合格すると2次試験の面接へと進みます。
 
試験内容は職種ごとに異なり、所属する省庁や業務内容によって特徴があります。例えば、国家公務員の食品衛生監視員採用試験では、第1次試験で基礎能力試験・専門試験が実施されます。
 
専門試験は、食品衛生監視員として必要な専門知識を確認するものです。第2次試験では、人物試験が行われ、人柄や対人能力についての個別面接が実施されます。
 
参考：2025年度国家公務員食品衛生監視員採用試験-大学卒業程度-受験案内｜人事院・厚生労働省

4-2.合格倍率

合格倍率も試験によって異なりますが、人事院が公表した2024年度国家公務員採用試験実施状況によると、食品衛生監視員採用試験と全体の合格者状況は以下のとおりでした。

参考：2024年度国家公務員採用試験実施状況｜人事院
参考：試験情報｜国家公務員試験採用情報NAVI

また、東京都の2024年度職員採用試験（選考）実施状況によると、薬剤師の採用試験である「薬剤B」と「I類B採用試験（一般方式）」全体の合格倍率は、以下のとおりです。

参考：2024年度職員採用試験（選考）実施状況｜東京都人事院委員会
参考：試験選考実施状況｜試験選考情報｜東京都職員採用

採用試験の合格倍率は、国家公務員の方が東京都の公務員試験よりも高くなっています。上記以外の公務員試験について確認したい場合は、各ホームページをチェックしましょう。

5.公務員薬剤師になるメリット

公務員薬剤師はさまざまなメリットがあります。詳しくお伝えします。

5-1.雇用が安定している

公務員薬剤師として働くメリット大きなメリットのひとつが、雇用の安定です。民間企業では、景気動向や勤務先の経営状態次第で倒産のリスクもゼロではありません。
 
その点、公務員薬剤師の勤務先は基本的に地方自治体や官公庁などの公的機関であり、長期的に安定した雇用が見込めるでしょう。

5-2.待遇が良い

公務員薬剤師は、充実した福利厚生も魅力です。給与は国家公務員や地方公務員の給与体系に基づき、勤続年数を重ねることで安定的に昇給が望めます。
 
賞与は年2回支給され、退職金制度も整っているなど長期的な安心感もあります。配属先によりますが、一般的には規則的な勤務時間となっており、プライベートの時間を確保しやすい点は、公務員薬剤師のメリットといえるでしょう。

5-3.公務員独自の業務を経験できる

公務員薬剤師になると、民間の医療機関の指導などを行う立場として、独自の業務に携わることができます。
 
例えば、国家公務員であれば、薬価や診療報酬・調剤報酬の改定などに携わったり、麻薬取締官であれば麻薬や不正薬物を取り締まったりする業務を担当する場合があります。
 
また、地方公務員は、食中毒や感染予防のために衛生環境をチェックする役割などを担うことがあるでしょう。そのような業務を経験したい薬剤師にとっては、魅力的な環境といえるでしょう。

5-4.毎年昇給するため年収が上がりやすい

民間企業は業績によって昇給率が変わることもありますが、公務員は基本的に毎年コンスタントに昇給します。そのため、勤務年数が長いほど年収が上がりやすい点もメリットです。
 
ただし、民間企業の水準に合わせた給与体系となっているため、年収が下がる可能性もゼロではありません。とはいえ、基本的に継続年数に応じて年収が上がる点は大きなメリットといえます。

5-5.退職金制度で老後に備えられる

公務員は退職金制度が整っているため、老後に向けて備えられるのは大きなメリットです。例えば、国家公務員は国家公務員法退職手当法によって退職金を支給することが定められており、以下の計算式で算出されます。
 
退職手当＝基本額（退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給率×調整率）＋調整額
※調整額とは、基礎在職期間と職員の区分に応じて定める額
 
参考：国家公務員制度｜給与・退職手当｜内閣人事局
 
「国家公務員退職手当実態調査（令和5年度）」によると、2023年度退職者の平均支給額（常勤職員）は910万9,000円でした。このうち、定年退職は2,147万3,000円、応募認定は2,492万7,000円、自己都合は303万9,000円です。
 
公務員は基本的に長く勤めるほど給与が高くなるため、おのずと退職手当の額も上がっていきます。退職金制度のない会社に勤めている人や、退職金の金額がそれほど多くない人にとって、安定した収入・退職金を得られる公務員は魅力に感じるのではないでしょうか。

6.公務員薬剤師のデメリット

公務員薬剤師のデメリットとしては、以下のような点が挙げられるでしょう。

6-1.副業が原則禁止

公務員薬剤師は原則として副業が認められていないため、自由な働き方を求める薬剤師にとってはデメリットとなる可能性があります。民間企業の中には副業が可能なところもあり、本業とは別にスポットで隙間時間にアルバイトをするといった柔軟な働き方ができるでしょう。
 
副業をすることで、さまざまな経験を積んでスキルアップを目指したい人には、公務員薬剤師は向いていないかもしれません。

6-2.臨床経験を得る機会が少ない

公立病院で働く場合を除いて、公務員薬剤師は患者さんと直接コミュニケーションを取る機会がほとんどありません。
 
「患者さんとたくさん接したい」「地域医療に密接に関わりたい」と考える薬剤師のキャリアイメージからは乖離するかもしれません。

6-3.転勤がある

公務員薬剤師には多くの場合、転勤があります。国家公務員は全国、地方公務員は都道府県内で転勤することがあるため、マイホームの購入が難しかったり、子どもの転校が必要になったりするなど、プライベートで負担に感じることもあるでしょう。

6-4.受験資格に年齢制限がある

地方公務員試験、国家公務員試験には年齢制限が設けられています。例えば、国家公務員の受験時の上限年齢は30歳に設定されているケースが多く、地方公務員の上限年齢は20代後半～30代半ばなど自治体によってさまざまです。
 
年齢によって、公務員試験の受験資格を満たせなかったり、試験にチャレンジする機会が限られていたりすることがある点はデメリットといえるでしょう。
 
参考：総合職試験（大卒程度試験）｜国家公務員試験採用情報NAVI
参考：1類B採用試験（新方式）｜令和7年度実施｜試験・選考情報｜東京都職員採用

6.公務員薬剤師もキャリアの選択肢に

公務員薬剤師は、民間企業では経験できない専門性の高い業務に携わることができます。調剤業務のみならず、保険調剤の適正運用や違法薬物取締、保健指導など、より広い視野で薬剤師としての知識を生かせる点が魅力といえるでしょう。
 
国家公務員は人事院、地方公務員は各自治体のホームページなどで、インターンシップやセミナー、オープンツアーなどの開催状況が公開されています。イベントに参加して公務員の仕事や働いている人の話を実際に聞きながら、自分のキャリアを考えるヒントにしてはいかがでしょうか。