薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2023.10.13 薬剤師のためのお役立ちコラム

2022年薬機法改正のポイントは? 薬剤師が気を付けなければいけないことを紹介

文:テラヨウコ(薬剤師ライター)

2021年8月1日に施行された改正薬機法では、薬剤師の業務に直接関わる変更がありました。薬機法改正は安全・安心な医療を受けられる体制づくりを目指すものと考えられます。改正理由をしっかり理解することで、より良い薬剤師業務に役立つことでしょう。本記事では、2021年に施行された薬機法の改正点と改正理由、薬剤師が気を付けるべきポイントをお伝えします。

1.薬機法とは。薬機法改正はなぜ行われる?

薬機法は医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器そして再生医療等製品に適用される法律です。正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、薬機法)で、かつては「薬事法」と呼ばれていました。医療や医薬品供給の状況や環境は日々移り変わっていきます。時代の変化に伴って、これらを取り締まる薬機法も、患者さんが安心して薬物治療に取り組めるような環境を整備できるように改正されてきました。

2.2022年薬機法改正のポイントは?

2022年薬機法改正のポイントは次の3つです。

 

■2022年に起こる改正薬機法の公布・施行まとめ

内容 公布年 施行日
医薬品・医療機器等へのバーコードの表示義務化 2019年 2022年12月1日
緊急時の薬事承認 2022年 2022年5月20日
電子処方箋の仕組みの創設 2022年 2023年1月

 

2019年に薬機法の一部を改正する法律(以下、改正薬機法)が公布され、2020年から2022年にかけて順次施行されました。2019年改正薬機法で2022年に施行されたのは、トレーサビリティ向上を目的とした医薬品・医療機器等へのバーコードの表示義務化です。

2019年改正薬機法はこれまでにオンライン服薬指導の規定や患者さんへのフォロー体制の義務化などが施行されてきましたが、2022年改正のバーコード表示義務化をもって全ての施行が終了しています
 
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要|厚生労働省
 
2021年にすでに行われた改正ポイントについては、以下の記事をご覧ください。

 
▶ 2021年改正薬機法のポイントは?薬剤師業務で気を付けるべき内容を解説

 

一方で、新たな改正として緊急時の薬事承認と電子処方箋の仕組みの創設が2022年に公布されました(以下、2022年改正薬機法)。医薬品等の緊急承認制度は2022年5月にすでに施行され、電子処方箋の運用については2023年1月に施行されています。
 
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の概要|厚生労働省

3.2022年施行の改正薬機法ポイント①バーコード表示

医薬品や医療機器にもバーコードを付けることで、トレーサビリティシステムの構築が可能となり、物流や医療現場での活用が期待されています。トレーサビリティ(製品追跡)とは、流通の各工程を追跡できるシステムのことです。
 
これまでも通知に基づいて、製品の箱やパッケージにバーコードや二次元コードの記載が進められてきました。しかし、2022年12月1日からは薬機法に基づいて義務化されています。また、医療用医薬品については、調剤時にも活用できるように、外箱だけでなくPTPシートなどへのバーコード表示も必須です。
 
今後は、医薬品では商品コード、有効期限、ロット番号の表示が必要となります。そのほか、バーコードを利用することで、製造年月日やシリアル番号、数量といった情報の表示が可能です。
 
トレーサビリティが向上すると、製造会社から卸売業者そして病院や薬局に届けられるまでの一連の流れにおいて、医薬品・医療機器等の情報の管理が簡便にできるようになります。また、患者さんへの使用記録の追跡もこれまで以上にスムーズに行えるようになるでしょう。

そのほか、医薬品標準コードマスタや医療機器データベースなどへ製品情報を登録することで、流通過程だけでなく薬局や病院においてもさまざまな活用方法が見込まれています。まず、物流現場では製品管理が効率的にできるようになるでしょう。加えて、薬局や病院における在庫管理の負担軽減にもつながると考えられます。さらに、バーコードで適切に管理することで医薬品の取り違えの防止や、製品回収の際にはロット特定が簡単になるなど医療安全の向上にも役立つでしょう。
 
参照:薬機法改正に向けた対応状況について 添付文書の電子化、トレーサビリティの確保|厚生労働省

4.2022年薬機法改正ポイント②医薬品等の緊急承認制度

緊急承認制度は、新型コロナウイルス感染症などへの対応に伴って創設された制度です。これまで新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンを迅速に承認・供給するために用いられていた「特例承認」よりも、さらに素早く承認を行うことができます。
 
承認ごとの特徴は下のとおりです。

 

■医薬品の通常承認・特例承認・緊急承認

通常承認 特例承認 緊急承認
対象 全ての医薬品等 海外流通している医薬品等(※1) 全ての医薬品等※1
有効性 確認 確認 推定
安全性 確認 確認 確認
特例措置 なし GMP調査(※2)・国家検定・容器包装の表示など

 

※1 緊急時に健康被害の拡大を防止するため、当該医薬品等の使用以外に適当な方法がない場合
※2 医薬品等がきちんと製造できているか、工場ごとに調査して確認すること
 
参照:医薬品等の緊急承認制度について|厚生労働省

 

これまで、新型コロナウイルス感染症の対応として行われてきた治療薬やワクチンの特例承認では、すでに海外で臨床使用されている医薬品等を対象に有効性と安全性の両方が確認されています。しかし、より早く承認できれば、さらに有効な感染症対策ができることから「緊急承認」が導入されました。緊急承認では安全性の確認は行いますが、有効性については臨床試験が全て完了していないものについても、「有効性があると推定」されれば条件付きでの承認が可能です。

 
▶ 国産コロナ治療薬「ゾコーバ」が緊急承認!名前の由来や効果、評判は?

 

■緊急承認と通常承認で必要な臨床試験

通常承認 緊急承認
治療薬 第Ⅰ相~第Ⅲ相試験 後期第Ⅱ相試験で有効性が認められれば承認可能
ワクチン 第Ⅰ相~第Ⅲ相試験+国内臨床試験 第Ⅰ相~第Ⅲ相試験

 

参照:医薬品等の緊急承認制度について|厚生労働省

 

医薬品を通常承認する際は、第Ⅰ相試験・第Ⅱ相試験・第Ⅲ相試験が必須です。ワクチンの場合は、さらに国内臨床試験を経て、審査手続きに進みます。一方で緊急承認制度では、治療薬は後期第Ⅱ相試験までの有効性の確認をもって承認できます。第Ⅲ相試験は第Ⅱ相試験までに確認された有効性の検証を目的とし、一般的に2~3年ほどの期間が必要です。治療薬の緊急承認では、後期第Ⅱ相試験までの結果で承認が下りるため、数年早く臨床で使用できることになります。

また、ワクチンの場合は、人種や地域で差がないことを確認するために国内臨床試験が実施されるのが通常ですが、技術や医学の進歩に伴い、病気やワクチンの特性に応じて海外でのデータを基に有効性を推定できる可能性もあるとされています。
 
緊急承認は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを早期に、そして迅速に抑え込むために創設された制度です。緊急承認された医薬品等は副作用などの情報を収集し、2年以内に有効性の確認と再度の承認申請を行わなければいけません。有効性が認められない場合は、承認取り消しとなります。また、緊急承認された医薬品の副作用によって健康被害が発生した場合は、通常承認された医薬品同様に医薬品副作用被害救済制度の対象です。緊急承認された医薬品の一覧は厚生労働省のホームページに掲載される予定とされています。

 
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5.2022年薬機法改正ポイント③電子処方箋の仕組みの創設

電子処方箋とは、電子的に処方箋の運用を行う仕組みです。オンライン資格確認等システムの仕組みを利用することで、医療機関と薬局の間でデータ化された処方箋の授受を行えるようになります。これまでにもオンライン資格確認等システムでは、レセプトを基にした月遅れの情報を参照できましたが、電子処方箋では処方箋を基にした情報をリアルタイムで参照できるようになります。複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報を確認できるようになれば、それらを活用した重複投薬チェックなどを行えます。
 
このように、電子処方箋を用いると、より質の高い医療の提供が実現できるでしょう。また、処方内容の入力作業や紙処方箋の保管が不要になるため、より丁寧な患者対応に時間と力をかけられるようになるほか、医師と薬剤師のコミュニケーションが円滑になると考えられます。電子化された情報の授受は、ペーパーレス化にもつながるでしょう。
 
電子処方箋利用にはオンライン資格確認を導入しなければならないため、未導入の薬局はオンライン資格確認の導入に向けた準備作業の手引きを確認する必要があります。また、HPKIカード(薬剤師資格証)が必要ですが、HPKIカードは、日本薬剤師会認証局もしくは医療情報システムセンター(MEDIS)から取得できます。薬局に電子処方箋管理サービスを導入する場合は、申請を行えば補助金が支給されます。

 
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6.2022年薬機法改正で薬剤師が気を付けるべきこと

2022年に施行されたバーコード表示の義務化や、2023年施行のオンライン処方箋の導入によって、薬剤師が行ってきた医薬品の在庫管理や処方箋入力、重複投薬チェックの負担が軽減すると考えられます。

すでに2021年までに施行された2019年改正薬機法では、患者さんへのフォローアップを強化し、専門的な薬学知識を有する薬剤師を配置した専門医療機関連携薬局の認定などが進められてきました。こうした背景から、対物業務から対人業務への転換がより重要視されていると考えられるため、患者さんにさらに寄り添った調剤や服薬指導が求められるでしょう。
 
また、これから緊急承認された医薬品が流通するに当たり、患者さんの中には有効性・安全性について不安を覚える人もいるかもしれません。患者さんの不安を取り除いて適切な薬物治療をサポートできるような服薬指導が大切です。

 
▶ 薬剤師として、より良い服薬指導を行うために知っておきたいポイントとコツ

7.2022年薬機法改正をしっかり把握して薬剤師業務に役立てよう

2022年の薬機法改正では、5月に緊急承認制度が導入されました。また、2019年の改正によって2022年12月には医薬品や医療機器等へのバーコード表示が義務化されています。また、2023年1月には電子処方箋の運用がスタートしました。薬機法は、より安全で安心な医療提供を実現するため必要に応じてその都度改正される法律です。時には、緊急承認制度のように世の中で生じた喫緊の問題に対応するための迅速な改正も行われます。薬機法改正への対応が遅れないよう、いち早く改正ポイントを把握し、速やかに薬剤師業務に生かしましょう。


執筆/テラヨウコ

薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。