薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.08.07 薬剤師のスキルアップ

緩和ケア診療加算とは?算定要件・点数や施設基準について解説

文:篠原奨規(薬剤師)

緩和ケアを必要とする入院患者さんに対して、緩和ケアチームが診療を行った場合に算定できるのが緩和ケア診療加算です。本記事では、緩和ケア診療加算の算定要件や施設基準、関連する加算の種類、疑義解釈を踏まえた算定時の注意点などを網羅的に解説します。加算の理解を深めたい方や、自院での算定体制を見直したい方は、ぜひ参考にしてください。

1.緩和ケア診療加算とは?

緩和ケア診療加算とは、一般病床に入院する悪性腫瘍、後天性免疫不全症候群または末期心不全の患者さんのうち、疼痛、倦怠感、呼吸困難などの身体的症状または不安、抑うつなどの精神症状を持つ方に対して、身体的・精神的な苦痛を和らげるために緩和ケアチームが診療を行った場合に算定できる入院基本料等加算のひとつです。
 
例えば、悪性腫瘍の治療中には病気そのものの痛み以外に、治療の副作用や合併症による痛みを伴うことがあります。さらに、治療が困難な病気と向き合う中で、精神的な負担を抱えることも少なくありません。緩和ケア診療加算は、こうした患者さんの苦しみを緩和するための、医師・看護師・薬剤師などの多職種による包括的なサポート体制を評価するものです。
 
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 

1-1.有床診療所緩和ケア診療加算との違い

有床診療所緩和ケア診療加算は、緩和ケア診療加算と同様に、悪性腫瘍や末期心不全などの患者さんに対する緩和ケアを評価するものですが、主に必要な診療体制に違いがあります。
 
緩和ケア診療加算では身体症状および精神症状の緩和を担当する医師・看護師・薬剤師など、多職種によるチームアプローチが前提とされる一方、有床診療所緩和ケア診療加算は医師と看護師の協働による診療で算定が可能です。
 
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省

 

1-2.小児緩和ケア診療加算との違い

緩和ケア診療加算と小児緩和ケア診療加算の主な違いは、対象となる患者さんの年齢と緩和チーム構成員の要件です。
 
緩和ケア診療加算は患者さんの年齢に関係なく算定できますが、小児緩和ケア診療加算は15歳未満の小児が対象で、患者さん本人に加えて家族への支援も求められます。また、小児緩和ケア診療加算を算定する場合、緩和ケアチームの構成員に、小児科の診療経験を3年以上有する医師および、小児看護の経験を3年以上有する看護師を組み入れる必要があります。
 
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省

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2.緩和ケア診療加算の算定要件と点数

緩和ケア診療加算の対象となるのは、一般病床に入院している悪性腫瘍や後天性免疫不全症候群、末期心不全の患者さんで、痛みや倦怠感、呼吸困難、不安、抑うつなどの症状が見られるケースです。以下に挙げる算定要件を満たすことで、患者さんごとに1日につき390点を算定できます。

 

● 緩和ケアチームは、身体症状及び精神症状の緩和を提供することが必要であり、緩和ケアチームの医師は緩和ケアに関する研修を修了した上で診療に当たること(ただし、後天性免疫不全症候群の患者を診療する際には当該研修を修了していなくても当該加算は算定できる)
● 緩和ケアチームは初回の診療に当たり、当該患者の診療を担う保険医、看護師および薬剤師などと共同の上、別紙様式3またはこれに準じた緩和ケア診療実施計画書を作成し、その内容を患者に説明の上交付するとともに、その写しを診療録等に添付すること
● 当該加算を算定する患者については入院精神療法の算定は週に1回までとすること
● 1日当たりの算定患者数は、1チームにつきおおむね30人以内とすること
● 症状緩和に係るカンファレンスが週1回程度開催されており、緩和ケアチームの構成員及び必要に応じて、当該患者の診療を担当する保険医、看護師などが参加していること

 

なお、末期心不全は、以下の(ア)から(ウ)までの基準および(エ)から(カ)までのいずれかの基準に該当する場合を指します。

 

(ア) 心不全に対して適切な治療が実施されていること
(イ) 器質的な心機能障害により、適切な治療にかかわらず、慢性的にNYHA重症度分類IV度の症状に該当し、頻回または持続的に点滴薬物療法を必要とする状態であること
(ウ) 過去1年以内に心不全による急変時の入院(患者の病状の急変等による入院を指し、予定された入院を除く)が2回以上あること
(エ) 左室駆出率が20%以下であること
(オ) 医学的に終末期であると判断される状態であること
(カ) (エ)または(オ)に掲げる状態に準ずる場合であること

 

参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

3.緩和ケア診療加算の施設基準

緩和ケア診療加算を算定するには、様式27を用いて施設基準の届出を行う必要があります。具体的な施設基準は、以下のとおりです。

 

● がん診療の拠点となる病院もしくは公益財団法人日本医療機能評価機構等が行う医療機能評価を受けている病院またはこれらに準ずる病院であること
● 所定の要件を満たす緩和ケアチームが設置されていること
● 症状緩和に係るカンファレンスが週1回程度開催されており、緩和ケアチームの構成員および必要に応じて、当該患者の診療を担う医師、看護師、薬剤師などが参加していること
● 当該医療機関において緩和ケアチームが組織上明確に位置づけられていること
● 院内の見やすい場所に緩和ケアチームによる診療が受けられる旨の掲示をするなど、患者に対して必要な情報提供がなされていること

 

参考:基本診療料の施設基準等|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省

 

3-1.緩和ケアチームの構成員

緩和ケア診療加算の算定にあたっては、以下の4名で構成される緩和ケアチームを設置する必要があります。

 

● 身体症状の緩和を担当する専任の常勤医師
● 精神症状の緩和を担当する専任の常勤医師
● 緩和ケアの経験を有する専任の常勤看護師
● 緩和ケアの経験を有する専任の薬剤師

 

なお、構成員のうち最低でも1人は専従でなければなりません。ただし、緩和ケアチームが診察する患者数が1日に15人以内である場合は、専任であっても問題ありません。
 
緩和ケアチームの構成員は、小児緩和ケア診療加算や外来緩和ケア管理料に関わる緩和ケアチームとの兼任が可能です。また、緩和ケアの性質を考慮し、専従とされている医師であっても、緩和ケア診療加算や小児緩和ケア診療加算、外来緩和ケア管理料の対象となる診療に支障がない範囲であれば、緩和ケアに関する外来診療を行えます。その場合でも外来診療に携わる時間は、所定労働時間の2分の1以下にとどめなければなりません。
 
緩和ケアチームの専従職員が、以下に該当する介護保険施設や障害者支援施設などから依頼を受けて、専門性に基づく助言を行う場合、緩和ケアチームの業務について専従とみなすことができます。ただし、実際に施設へ出向いて助言を行う時間は、月10時間以内に収める必要があります。

 

● 指定介護老人福祉施設
● 指定地域密着型介護老人福祉施設
● 介護老人保健施設
● 介護医療院
● 指定特定施設入居者生活介護事業所
● 指定地域密着型特定施設入居者生活介護事業所
● 指定介護予防特定施設入居者生活介護事業所
● 指定認知症対応型共同生活介護事業所
● 指定介護予防認知症対応型共同生活介護事業所
● 指定障害者支援施設
● 指定共同生活援助事業所
● 指定福祉型障害児入所施設

 

なお、緩和ケアチームに所属する薬剤師は、麻薬を使用している悪性腫瘍の患者さんに対して薬学的な管理や指導を行った経験があることが要件です。
 
また、医師や看護師には、一定の研修の受講歴や、緩和ケアに関する実務経験年数が求められます。例えば、身体症状の緩和を担当する医師には悪性腫瘍や心不全などを対象とした症状緩和治療に3年以上携わった経験が必要とされるほか、非常勤医師を組み合わせて常勤に準ずる体制を整える場合の条件なども細かく定められています。
 
各職種の要件の詳細については、「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」を参照しましょう。

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4.緩和ケア診療加算に関連する加算

緩和ケア診療加算に関連する加算としては、以下が挙げられます。

 

● 緩和ケア診療加算(特定地域)
● 小児加算
● 個別栄養食事管理加算

 

各加算の点数や算定要件を解説します。

 

4-1.緩和ケア診療加算(特定地域)

緩和ケア診療加算(特定地域)は、基本診療料の施設基準等別表第六の二に掲げる地域に所在する医療機関で算定可能な加算です。あらかじめ施設基準に関する届出を行うことで、通常の緩和ケア診療加算の代わりに200点を算定できます。
 
通常の緩和ケア診療加算とは異なり、1日当たりの算定患者数は、1チームにつきおおむね15人以内とされています。また、緩和ケアチームの構成員に関する施設基準も異なります。

 

4-2.小児加算

15歳未満の小児が対象であれば、通常の緩和ケア診療加算に加えて小児加算の100点を算定できます。届出や施設基準は不要で、年齢要件のみ満たしていれば算定可能です。

 

4-3.個別栄養食事管理加算

緩和ケア診療加算を算定している患者さんに対し、緩和ケアに関連する栄養食事管理を実施した場合に、追加で70点を算定できるのが「個別栄養食事管理加算」です。
 
算定要件として、緩和ケア診療実施計画に基づいて行った栄養食事管理の内容を診療録等に記載、もしくは記録した資料を添付する必要があります。また、緩和ケア病棟での実務経験または3年以上の栄養管理経験がある専任の管理栄養士が緩和ケアチームに参加していなければなりません。
 
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省

5.緩和ケア診療加算を算定するときの注意点

緩和ケア診療加算の算定要件や施設基準において、解釈に迷いやすいポイントが存在します。ここからは、がん拠点病院等の定義や末期心不全に関する入院歴の数え方など、疑問が生じやすい点を中心に解説します。

 

5-1.がん拠点病院または日本医療機能評価機構等による評価を受けている病院の定義

緩和ケア診療加算の施設基準として「がん診療の拠点となる病院もしくは公益財団法人日本医療機能評価機構等が行う医療機能評価を受けている病院またはこれらに準ずる病院であること」を満たす必要があります。
 
がん診療の拠点となる病院とは、「がん診療連携拠点病院等の整備について」に規定するがん診療連携拠点病院等、特定領域がん診療連携拠点病院、地域がん診療病院、または「小児がん拠点病院等の整備について」に規定する小児がん拠点病院を指します。
 
また、「がん診療の拠点となる病院または公益財団法人日本医療機能評価機構等が行う医療機能評価を受けている病院に準じる病院」とは、都道府県が当該地域においてがん診療の中核的な役割を担うと認めた病院、または公益財団法人日本医療機能評価機構が定める機能評価(緩和ケア病院)と同等の基準について第三者の評価を受けている病院で、厚生労働省が公開している「疑義解釈資料の送付について(その1)平成28年3月31日」では、以下が該当すると示されています。

 

● 公益財団法人日本医療機能評価機構の病院機能評価の認定
● ISO(国際標準化機構)9001の認証

 

参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省

 

5-2.「過去1年以内に心不全による急変時の入院が2回以上ある場合」の解釈

緩和ケア診療加算の算定対象となる末期心不全の基準として「過去1年以内に心不全による急変時の入院が2回以上ある場合」が挙げられています。
 
具体的には、過去1年間において予定入院以外に心不全による緊急入院が2回以上ある場合を指しており「入院後に退院し、再入院となった」ケースのように、必ずしも2回以上の入院初日を必要とはしていません。また、別の医療機関で入院したケースでも入院回数として数えられます。
 
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)平成30年3月30日|厚生労働省

6.緩和ケア診療加算の要件を満たしているか確認しよう

緩和ケア診療加算は、身体的・精神的な苦痛を抱える特定の患者さんに対して、医師・看護師・薬剤師など多職種による支援体制を評価する加算です。算定には、緩和ケアチームの構成や、職種ごとの経験・研修要件など、細かな条件を満たす必要があります。また、特定地域向けの加算や小児・栄養食事管理に関する加算もあるため、自院の体制に合った加算の算定も可能です。自院での体制を見直して、要件を満たしているか確認してみましょう。

 
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執筆/篠原奨規

2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。