総合入院体制加算は、急性期医療を提供する体制、医療従事者の負担の軽減、処遇の改善に対する体制などを評価する加算です。2024年度の診療報酬改定では、手術件数の要件や一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価基準、加算点数などの見直しが行われました。本記事では、総合入院体制加算の2024年度改定の変更点や算定要件、施設基準、届出手続きなど、加算の全体像を詳しく解説します。
1.総合入院体制加算とは?
総合入院体制加算とは、十分な人員配置、設備などを備え、総合的かつ専門的な急性期医療を24時間提供できる体制や、医療従事者の負担の軽減、処遇の改善に資する体制などを評価した加算です。
1~3の区分が設けられており、それぞれ施設基準や加算点数が異なります。2024年度の診療報酬改定では、急性期医療の適切な体制整備の推進を目的として、施設基準の一部と点数が見直されました。
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【入院II(急性期・高度急性期入院医療)】|厚生労働省
2.総合入院体制加算の2024年度診療報酬改定における変更点
2024年度の診療報酬改定では、総合入院体制加算1・2の算定に必要な「全身麻酔による手術件数」の要件が引き上げられ、それに伴い、加算点数が20点増加しました。また、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価項目の見直しに伴い、患者割合の基準も変更されています。
さらに、新たな施設基準として、「特定の保険薬局との間で不動産取引等その他の特別な関係がないこと」という要件が追加されました。ただし、2024年3月31日以前から不動産の賃貸借取引関係がある場合は、これに該当しないものとみなされます。契約期間の満了により賃貸借契約などを更新した場合も、引き続き特別な関係がないものと判断されます。
区分・内容 | 改定前 | 改定後 | |
---|---|---|---|
総合入院体制加算1 | 全身麻酔による手術件数 | 800件/年 | 2,000件/年 |
重症度、医療・看護必要度I | 33% | 変更なし | |
重症度、医療・看護必要度II | 30% | 32% | |
点数 | 240点 | 260点 | |
総合入院体制加算2 | 全身麻酔による手術件数 | 800件/年 | 1,200件/年 |
重症度、医療・看護必要度I | 33% | 31% | |
重症度、医療・看護必要度II | 30% | 変更なし | |
点数 | 180点 | 200点 | |
総合入院体制加算3 | 全身麻酔による手術件数 | 800件/年 | 変更なし |
重症度、医療・看護必要度I | 30% | 28% | |
重症度、医療・看護必要度II | 27% | 変更なし | |
点数 | 120点 | 変更なし |
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【入院II(急性期・高度急性期入院医療)】|厚生労働省
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)令和6年3月28日|厚生労働省
3.総合入院体制加算の算定要件・点数
総合入院体制加算は、所定の施設基準を満たし、地方厚生局長などへ届出を行った医療機関が、入院患者さんに対して、入院日から14日目までを上限に算定できます。
施設基準に応じて3つの区分に分かれており、要件を満たすのが難しい加算1には、最も高い点数が割り当てられています。
区分 | 点数 |
---|---|
総合入院体制加算1 | 260点 |
総合入院体制加算2 | 200点 |
総合入院体制加算2 | 120点 |
なお、急性期充実体制加算との併算定は認められていません。
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
🔽 急性期充実体制加算について解説した記事はこちら
4.総合入院体制加算の施設基準
総合入院体制加算の施設基準は、区分によって異なります。ここからは、総合入院体制加算1・2・3の施設基準について、各区分で共通している点と異なる点に分けて紹介します。
4-1.総合入院体制加算1・2・3に共通する施設基準
総合入院体制加算1・2・3に共通する施設基準は、以下のとおりです。
● 内科、精神科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科および産科または産婦人科を標榜し、当該診療科に係る入院医療を提供している保険医療機関であること。
● 外来を縮小するに当たり、アまたはイのいずれかに該当すること。
ア 次の(イ)および(ロ)のいずれにも該当すること。
(イ)病院の初診に係る選定療養の報告を行っており、実費を徴収していること。
(ロ)地域の他の保険医療機関との連携のもとに、診療情報提供料(I)の「注8」の加算を算定する退院患者数、転帰が治癒であり通院の必要のない患者数および転帰が軽快であり退院後の初回外来時に次回以降の通院の必要がないと判断された患者数が、直近1カ月間の総退院患者数(外来化学療法または外来放射線療法に係る専門外来およびHIVなどに係る専門外来の患者を除く)のうち、4割以上であること。
イ 紹介受診重点医療機関であること。
● 地域の他の保険医療機関との連携体制の下、円滑に退院患者の受け入れが行われるための地域連携室を設置していること。
● 画像診断および検査を24時間実施できる体制を確保していること。
● 薬剤師が、夜間当直を行うことにより、調剤を24時間実施できる体制を確保していること。
● 総合入院体制加算を算定するものとして届け出た病床に、直近3月において入院している全ての患者の状態を、別添6の別紙7の一般病棟用の重症度、医療・看護必要度IまたはIIに係る評価票を用いて継続的に測定し、その結果、当該加算を算定するものとして届け出た病床に入院している患者全体(延べ患者数)に占める基準を満たす患者(別添6の別紙7による評価の結果、「A得点が2点以上」「C得点が1点以上」のいずれかに該当する患者)の割合が下記の表1のとおりであること。評価にあたっては、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度のIまたはIIのいずれかを選択し届け出た上で評価すること。
● 一般病棟用の重症度、医療・看護必要度に係る評価票の記入は、院内研修を受けたものが行うものであること。
● 急性期充実体制加算に係る届出を行っていない保険医療機関であること。
● 特定の保険薬局との間で不動産取引等その他の特別な関係がないこと。ただし、令和6年3月31日以前から、特定の保険薬局と不動産の賃貸借取引関係にある場合は、当該特別の関係がないものとみなす。
※上記は施設基準の一部を抜粋したものです。詳細については、厚生労働省が公開している「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」や、疑義解釈資料などをご確認ください。
区分 | 一般病棟用の重症度、医療・看護必要度Iの割合 | 一般病棟用の重症度、医療・看護必要度IIの割合 |
---|---|---|
総合入院体制加算1 | 33% | 32% |
総合入院体制加算2 | 31% | 30% |
総合入院体制加算3 | 28% | 27% |
また、医療従事者の負担軽減、処遇改善に対する体制として、以下の体制を整備している必要があります。
2. 当該保険医療機関内に、多職種からなる役割分担推進のための委員会または会議を設置し、「医療従事者の負担の軽減および処遇の改善に資する計画」を作成すること。当該委員会等は、当該計画の達成状況の評価を行う際、その他適宜必要に応じて開催していること。また、当該委員会等において、当該保険医療機関の管理者が年1回以上出席すること。
3. (2)の計画は、医療従事者の現状の勤務状況等を把握し、問題点を抽出した上で、具体的な取り組み内容と目標達成年次などを含めた医療従事者の負担の軽減および処遇の改善に資する計画とすること。
4. (2)の計画には次に掲げる項目のうち少なくとも3項目以上を含んでいること。
(イ)外来診療時間の短縮、地域の他の保険医療機関との連携などの外来縮小の取り組み(許可病床数が400床以上の病院では、必ず本項目を計画に含むこと)
(ロ)院内保育所の設置(夜間帯の保育や病児保育の実施が含まれることが望ましい)
(ハ)医師事務作業補助者の配置による医師の事務作業の負担軽減
(ニ)医師の時間外・休日・深夜の対応についての負担軽減および処遇改善
(ホ)保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第37条の2第2項第5号に規定にする指定研修機関において行われる研修を修了した看護師の複数名の配置および活用による医師の負担軽減
(ヘ)院内助産または助産師外来の開設による医師の負担軽減
(ト)看護補助者の配置による看護職員の負担軽減
5. 医療従事者の負担の軽減および処遇の改善に関する取組事項を当該保険医療機関内に掲示する等の方法で公開すること。
なお、医師事務作業補助体制加算や急性期看護補助体制加算などを届け出ている医療機関において、勤務医や看護職員の負担軽減、処遇改善に対する体制を整備している場合は、体制が整備されているものとみなすことが可能です。
4-2.総合入院体制加算1の施設基準
総合入院体制加算1の施設基準には、以下のようなものがあります。
ア 人工心肺を用いた手術および人工心肺を使用しない冠動脈、大動脈バイパス移植術 40件/年以上
イ 悪性腫瘍手術 400件/年以上
ウ 腹腔鏡下手術 100件/年以上
エ 放射線治療(体外照射法) 4,000件/年以上
オ 化学療法 1,000件/年以上
カ 分娩件数 100件/年以上
※化学療法については、入院または外来で行われた化学療法1レジメンを1件としてカウントする。内服薬のみのレジメンは対象外。化学療法を途中で中止した場合も1件とカウントとする。
● 24時間の救急医療提供として、「救急医療対策事業実施要綱」に定める第3「救命救急センター」または第4「高度救命救急センター」を設置している保険医療機関であること。また、救急時医療情報閲覧機能を有していること。
● 当該保険医療機関の敷地内における禁煙の取り扱いについて、所定の基準を満たしていること。
● 公益財団法人日本医療機能評価機構等が行う医療機能評価を受けている病院またはこれに準ずる病院であること。
● 次のいずれにも該当すること。
ア 療養病棟入院基本料または地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料を含む)の届出を行っていない保険医療機関であること。
イ 当該保険医療機関と同一建物内(同一敷地内の場合は算定可能)に特別養護老人ホーム、介護老人保健施設または介護医療院を設置していないこと。ただし、平成30年3月31日時点で総合入院体制加算に係る届出を行っている保険医療機関であって、当該施設(介護医療院を除く)を設置している保険医療機関については、当該時点で設置している当該施設(介護医療院を除く)を維持することができる。
※上記は施設基準の一部を抜粋したものです。詳細については、厚生労働省が公開している「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」や、疑義解釈資料などをご確認ください。
4-3.総合入院体制加算2の施設基準
総合入院体制加算2の施設基準には、以下のようなものがあります。
ア 人工心肺を用いた手術および人工心肺を使用しない冠動脈、大動脈バイパス移植術 40件/年以上
イ 悪性腫瘍手術 400件/年以上
ウ 腹腔鏡下手術 100件/年以上
エ 放射線治療(体外照射法) 4,000件/年以上
オ 化学療法 1,000件/年以上
カ 分娩件数 100件/年以上
※化学療法については、入院または外来で行われた化学療法1レジメンを1件としてカウントする。内服薬のみのレジメンは対象外。化学療法を途中で中止した場合も1件とカウントとする。
● 救急用の自動車または救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が、年間で2,000件以上であること。
● 24時間の救急医療提供として、救急時医療情報閲覧機能を有していること。また、以下のいずれかを満たしていること。
ア 「救急医療対策事業実施要綱」に定める第2「入院を要する(第二次)救急医療体制」、第3「救命救急センター」、第4「高度救命救急センター」または「疾病・事業及び在宅医療に係る医療提供体制について」の別紙「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制の構築に係る指針」に規定する「周産期医療の体制構築に係る指針」による総合周産期母子医療センターを設置している保険医療機関
イ アと同様に24時間の救急患者を受け入れている保険医療機関
● 公益財団法人日本医療機能評価機構等が行う医療機能評価を受けている病院またはこれに準ずる病院であること。
● 次のいずれにも該当すること。
ア 療養病棟入院基本料または地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料を含む。)の届出を行っていない保険医療機関であること。
イ 当該保険医療機関と同一建物内(同一敷地内の場合は算定可能)に特別養護老人ホーム、介護老人保健施設または介護医療院を設置していないこと。ただし、平成30年3月31日時点で総合入院体制加算に係る届出を行っている保険医療機関であって、当該施設(介護医療院を除く)を設置している保険医療機関については、当該時点で設置している当該施設(介護医療院を除く)を維持することができる。
※上記は施設基準の一部を抜粋したものです。詳細については、厚生労働省が公開している「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」や、疑義解釈資料などをご確認ください。
4-4.総合入院体制加算3の施設基準
総合入院体制加算3の施設基準には、以下のようなものがあります。
ア 「救急医療対策事業実施要綱」に定める第2「入院を要する(第二次)救急医療体制」、第3「救命救急センター」、第4「高度救命救急センター」または「疾病・事業及び在宅医療に係る医療提供体制について」の別紙「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制の構築に係る指針」に規定する「周産期医療の体制構築に係る指針」による総合周産期母子医療センターを設置している保険医療機関
イ アと同様に24時間の救急患者を受け入れている保険医療機関
● 全身麻酔による手術件数が年800件以上であること。なお、併せて以下のアからカまでの全てを満たすことが望ましいものであり、少なくとも2つ以上を満たしていること。
ア 人工心肺を用いた手術及び人工心肺を使用しない冠動脈、大動脈バイパス移植術 40件/年以上
イ 悪性腫瘍手術 400件/年以上
ウ 腹腔鏡下手術 100件/年以上
エ 放射線治療(体外照射法) 4,000件/年以上
オ 化学療法 1,000件/年以上
カ 分娩件数 100件/年以上
※化学療法については、入院または外来で行われた化学療法1レジメンを1件としてカウントする。内服薬のみのレジメンは対象外。化学療法を途中で中止した場合も1件とカウントとする。
● 療養病棟入院基本料または地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料を含む)の届出を行っていない保険医療機関であること。ただし、平成26年3月31日以前に総合入院体制加算に係る届出を行っている場合には、当該基準は適用しない。
● 当該保険医療機関と同一建物内(同一敷地内の場合は算定可能)に特別養護老人ホーム、介護老人保健施設または介護医療院を設置していないこと。ただし、平成30年3月31日時点で総合入院体制加算に係る届出を行っている保険医療機関であって、当該施設(介護医療院を除く)を設置している保険医療機関については、当該時点で設置している当該施設(介護医療院を除く)を維持することができる。
※上記は施設基準の一部を抜粋したものです。詳細については、厚生労働省が公開している「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」や、疑義解釈資料などをご確認ください。
4-5.手術等の定義について
総合入院体制加算の実績要件に含まれる手術等には、以下のものが該当します。
● 人工心肺を用いた手術および人工心肺を使用しない冠動脈、大動脈バイパス移植術
● 悪性腫瘍手術
● 腹腔鏡下手術
● 放射線治療(体外照射法)
● 化学療法
● 分娩件数
なお、各手術・治療行為の定義や該当コードについては、医科点数表に基づき詳細に規定されています。算定対象となる具体的な手術名などについては、厚生労働省の通知・資料をご確認ください。
参考:基本診療料の施設基準等|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)平成30年3月30日|厚生労働省
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)平成26年3月31日|厚生労働省
5.総合入院体制加算の届出
総合入院体制加算を算定するには、あらかじめ地方厚生局長等への届出が必要です。届出の際には別添7の様式10、様式13および様式13の2を使用します。
新規で届出を行う場合には、直近3カ月間における退院患者の実績が必要です。さらに、毎年8月には、前年度における手術件数や、医療従事者の負担軽減・処遇改善に向けた取り組み状況を報告する必要があり、その際も様式13および13の2で報告します。なお、前回の届出から内容に変更がない場合は、様式13の2の提出を省略できます。
また、地域医療構想調整会議の合意を得て、小児科・産科・産婦人科の標榜および当該診療科に係る入院医療の提供を行わない場合は、合意を得た会議の概要をまとめた書面も提出しなければなりません。
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
6.総合入院体制加算について理解を深めよう
総合入院体制加算は、急性期医療を担う医療機関が、所定の診療体制、実績などを備えている場合に算定できる加算です。施設基準に応じて1~3の区分が設けられており、それぞれ加算点数が異なります。2024年度の診療報酬改定でも要件の見直しが行われたため、自院の体制や実績に適する区分を確認して、届出を行いましょう。
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執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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