薬剤師のスキルアップ 更新日:2024.11.15公開日:2024.08.20 薬剤師のスキルアップ

がん薬物療法体制充実加算とは?算定要件・点数・施設基準などを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

がん薬物療法体制充実加算は、病院薬剤師が外来での化学療法実施に介入することを評価した加算です。外来腫瘍化学療法診療料の加算として、2024年度の診療報酬改定で新設されました。本記事では、がん薬物療法体制充実加算の概要や新設された背景、外来腫瘍化学療法診療料について解説するとともに、算定要件や点数、施設基準・届出についてもお伝えします。また、病院薬剤師が薬剤師外来で求められることについても考えてみましょう。

1.がん薬物療法体制充実加算とは?

がん薬物療法体制充実加算とは、2024年度診療報酬改定で新設された外来腫瘍化学療法診療料の加算です。外来で治療を受ける悪性腫瘍の患者さんが、安心・安全な化学療法を受けられるようサポートすることを目的としています。
 
病院薬剤師の役割は、医師が患者さんの診察をする前に、服薬状況や副作用の状況などについて患者さんや家族などから聞き取りを行うことです。合わせて、得られた情報をもとに薬学的評価を行い、医師へ情報提供するとともに処方に関する提案などを行います。

 

1-1.がん薬物療法体制充実加算が新設された背景

がん薬物療法体制充実加算の新設には、2024年度診療報酬改定の基本方針のひとつである「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」が関連しています。
 
がん薬物療法体制充実加算は、上記の基本方針の具体的方向性に挙げられている「外来医療の機能分化・強化等」のために、外来腫瘍化学療法を充実させ、普及・推進することを目的に新設されました。
 
外来腫瘍化学療法を普及・推進するためには、悪性腫瘍の患者さんに対して安心・安全な化学療法を実施する必要があります。そこで、2024年度の診療報酬改定で、がん薬物療法体制充実加算の新設を含め、外来腫瘍化学療法診療料の要件や評価の見直しが行われました。
 
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【医科全体版】|厚生労働省

 
🔽 2024年度調剤報酬改定について解説した記事はこちら

 

1-2.外来腫瘍化学療法診療料とは?

外来腫瘍化学療法診療料とは、入院中の患者さん以外の悪性腫瘍を主病とする患者さんに対して、同意を得た上で、以下のような医療従事者が共同して外来化学療法の実施や必要な治療管理を行った場合を評価したものです。

 

■外来腫瘍化学療法診療料の算定にあたって共同する医療従事者
● 化学療法の経験を有する医師
● 化学療法に従事した経験を有する専任の看護師
● 化学療法に係る調剤の経験を有する専任の薬剤師 など

 

外来腫瘍化学療法診療料には1、2、3の区分があり、それぞれ算定点数や施設基準が異なります。外来腫瘍化学療法診療料1にはイとロの2区分があり、がん薬物療法体制充実加算を算定できるのは外来腫瘍化学療法診療料1のイの(1)を算定している場合に限ります。

 

■外来腫瘍化学療法診療料の区分と点数
区分 外来腫瘍化学療法診療料1 外来腫瘍化学療法診療料2 外来腫瘍化学療法診療料3
抗悪性腫瘍剤を投与した場合 (1)初回から3回目まで 800点 600点 540点
(2)4回目以降 450点 320点 280点
イ以外の必要な治療管理を行った場合 350点 220点 180点

参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省

 

外来腫瘍化学療法診療料1のイの(1)の算定は、「抗悪性腫瘍剤を投与した場合で初回から3回目まで」とされています。そのため、病院薬剤師には化学療法を始めたばかりの患者さんが安全かつ適正に化学療法を実施できるようサポートすることが求められるでしょう。
 
専任の病院薬剤師は、患者さんへ服用状況や副作用の有無などを確認するとともに、治療に対する不安がないかなどを聞き取り、医師に報告するといった役割を担います。

2.がん薬物療法体制充実加算の算定要件・点数

がん薬物療法体制充実加算は算定要件を満たすことで、月1回に限り100点を算定できます。算定要件は以下の通りです。

 

■がん薬物療法体制充実加算の算定要件
  算定要件
対象医療機関 外来腫瘍化学療法診療料1の施設基準を満たす医療機関
対象患者 外来腫瘍化学療法診療料1のイの(1)を算定する患者さん
病院薬剤師の業務 医師の指示を受けた上で、以下の業務を行う

● 服薬状況、副作用の有無などの情報を患者さんから直接収集
● 医師へ情報提供、処方提案
● 必要に応じて、診察後に抗悪性腫瘍剤、副作用に対する薬剤の使い方などを説明

参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

3.がん薬物療法体制充実加算の施設基準と届出

続いて、がん薬物療法体制充実加算の施設基準と届出について見ていきましょう。

 

3-1.がん薬物療法体制充実加算の施設基準

がん薬物療法体制充実加算の施設基準は以下の通りです。

 

■がん薬物療法体制充実加算の施設基準
● 外来腫瘍化学療法診療料1に係る届出を行っていること
● 以下の要件を満たす専任の常勤薬剤師が配置されていること

1.化学療法に係る調剤経験が5年以上
2.40時間以上のがんに係る適切な研修を修了
3.がん患者に対する薬剤管理指導の実績が50症例(複数のがん種であることが望ましい)以上

● 患者さんの希望に応じて、患者さんの心理状況やプライバシーに十分配慮した構造の個室を使用できるように備えていること
● 薬剤師と医師が連携して化学療法に取り組む体制が整備されていること

【薬剤師】
1.医師の診察前に患者さんから服薬状況、副作用などの情報収集と評価を行う
2.医師へ情報提供や処方提案などを実施する
【医師】
薬剤師からの情報提供や処方提案を踏まえて、より適切な診療方針を立てる

 

なお、「40時間以上のがんに係る適切な研修を修了」とは、以下の学会などが認めるがんに係る研修について修了していることを指しています(2024年6月時点)。

 

● 日本病院薬剤師会
● 日本臨床腫瘍薬学会
● 日本医療薬学会

 

参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
参照:疑義解釈資料の送付について(その2)令和6年4月12日|厚生労働省

 

3-2.がん薬物療法体制充実加算の届出

がん薬物療法体制充実加算を算定するためには、地方厚生局などに届出を行う必要があります。「特掲診療料の施設基準に係る届出書」とともに、「がん薬物療法体制充実加算の施設基準に係る届出書添付書類」(様式39の3)を用意しましょう。
 
また、届出を行う際は「がんに係る適切な研修を修了し、がん患者に対する薬剤管理指導の実績を50症例(複数のがん種であることが望ましい)以上有することが確認できる文書」を添付しなければなりません。
 
具体的には、以下の認定薬剤師・専門薬剤師であることを証する文書を指します(2024年6月時点)。

 

● がん薬物療法認定薬剤師(日本病院薬剤師会)
● 外来がん治療認定薬剤師(日本臨床腫瘍薬学会)
● がん専門薬剤師(日本医療薬学会)

 

参照:疑義解釈資料の送付について(その2)令和6年4月12日|厚生労働省

 
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🔽 がん専門薬剤師について解説した記事はこちら

4.薬剤師外来で病院薬剤師に求められることとは?

病院薬剤師は、入院患者さんだけでなく外来患者さんについても深く関わり、さまざまな職種と連携しながら職能を発揮することが求められています。

 

4-1.さまざまな医療従事者との連携

病院薬剤師が医療従事者と連携することには、さまざまなメリットがあります。例えば、がん薬物療法体制充実加算については、診察前の待ち時間を活用して、患者さんへ服用状況や副作用の有無などが確認できるため、患者さんの病院滞在時間を短縮することにつながるでしょう。
 
患者さんとの面談で得た情報を診察前に医師へ共有したり、薬学的な評価をもとに処方提案を行ったりすることで、医師は当日の処方や指示を円滑に出せるようになります。そのため、医師の診察時間を短縮することも期待できるでしょう。
 
病院薬剤師は、医師をはじめとした多職種が請け負う外来業務の一部を担うことで、薬剤師としての職能を十分に発揮することができます。また、多職種の業務負荷を軽減することにもつながるため、業務の効率化が目指せるでしょう。
 
それぞれの職種が連携して、業務効率化を目指すことは、質の高い医療の提供にもつながります。病院薬剤師は、これまで以上に多職種と関わり、活躍の場を広げることが求められています。

 

4-2.薬局と医療機関をつなぐハブ役

化学療法を実施する患者さんに対して特定薬剤管理指導加算2を算定している薬局は、レジメンの確認や必要な薬学的管理・指導を行った上で、副作用の有無などを確認し、医療機関へ情報提供することとされています。
 
そのため、化学療法を行う医療機関は、調剤薬局から患者さんについての報告書が届くケースがあるでしょう。病院薬剤師は、外来患者さんについての報告書を確認し、関係部署や院内の医療従事者と情報共有することが求められます。
 
さらに、必要に応じて薬局や薬局薬剤師と連携して、治療方針や患者情報を共有することが必要な場合もあるでしょう。病院薬剤師は、医療機関と薬局をつなげるハブとしての役割も求められています。

5.病院薬剤師に期待される役割を果たそう

がん薬物療法体制充実加算の新設に伴って、病院薬剤師が多職種と連携することによる医療の質の向上や、業務の効率化・適正化が期待されています。悪性腫瘍の患者さんがより安全に安心して化学療法を実施できるよう、病院薬剤師はがん薬物療法に積極的に介入していきましょう。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。