調剤技術基本料は、医療機関の薬剤師による調剤を評価する医科診療報酬です。本記事では、調剤技術基本料の点数や算定要件、院内製剤加算について解説するとともに、調剤技術基本料や院内製剤加算が算定できない場合とその例外についてもお伝えします。加えて、医薬品供給不足により院内製剤を調製した場合や院内製剤の概要についても見ていきましょう。
1.調剤技術基本料とは?
調剤技術基本料とは、医療機関の常勤薬剤師の管理のもとで調剤が行われた場合に算定する医科診療報酬です。重複投薬の防止など、医療機関内の調剤管理を充実させ、適正に投薬することを目的としています。
調剤技術基本料は投薬にかかる費用の一つです。そのほかに必要な投薬の費用には、調剤料、処方料、薬剤料、特定保険医療材料料があります。
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
2.調剤技術基本料の点数
調剤技術基本料の点数は、以下のとおりです。
区分 | 点数 | |
---|---|---|
1 | 入院中の患者に投薬を行った場合 | 42点 |
2 | その他の患者に投薬を行った場合 | 14点 |
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
上記は、常勤薬剤師が配置されている医療機関で投薬を行った場合に算定します。また、院内製剤を使って調剤をした場合には、院内製剤加算が加算できます。
3.調剤技術基本料の算定要件
調剤技術基本料の算定要件は、以下のとおりです。
算定要件 | 常勤薬剤師がいる医療機関において、薬剤師の管理のもと調剤を実施した場合 |
---|---|
算定タイミング | 患者さん1人につき月1回まで |
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
ただし、調剤技術基本料には算定できない場合があります。次の項で詳しく見ていきましょう。

4.調剤技術基本料が算定できない場合
調剤技術基本料が算定できない場合として、以下のようなケースが挙げられます。
● 同一月に、薬剤管理指導料または在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定した場合
● 検査のために薬剤を施用した場合(医科診療報酬点数表に関する事項 第3部 検査<通則>)
● 画像診断のために薬剤を使用した場合(医科診療報酬点数表に関する事項 第4部 画像診断<通則>)
● 処置のために薬剤を使用した場合(医科診療報酬点数表に関する事項 第9部 処置<通則>)
🔽 薬剤管理指導料について解説した記事はこちら
上記のほかにも、うがい薬や貼付剤の投薬において、調剤技術基本料が算定できない場合があります。詳しく見ていきましょう。
4-1.うがい薬を投薬した場合
入院患者さん以外の患者さんに対して、うがい薬のみを投薬した場合には、調剤技術基本料が算定できないことになっています。
ただし、うがい薬のみの投薬が治療を目的としないものである場合に限ります。なお、ここでのうがい薬とは、薬効分類上の含嗽剤を指します。
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
4-2.1処方につき63枚を超えて貼付剤を投薬した場合
入院患者さん以外の患者さんに対して、1処方につき63枚を超えて貼付剤を投薬した場合にも、調剤技術基本料が算定できません。ここでの貼付剤とは、鎮痛・消炎に係る効能効果のある貼付剤を指しています。麻薬や向精神薬、専ら皮膚疾患に使用する貼付剤、各種がんの鎮痛目的で用いる場合は含まれません。
ただし、医師が疾患の特性などにより63枚を超えて投薬する必要性があると判断した場合には、その理由を処方箋および診療報酬明細書に記載することで算定できます。
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
5.調剤技術基本料の院内製剤加算とは?
調剤技術基本料の院内製剤加算とは、調製した院内製剤を調剤した場合に算定できる加算です。要件を満たすことで調剤技術基本料に加算できます。また、院内製剤加算には、算定できない場合やその例外があります。
ここでは、院内製剤加算の算定要件や点数、算定できない場合とその例外、医薬品供給不足により調製した院内製剤を使って投薬を行った場合について見ていきましょう。
5-1.院内製剤加算の点数と算定要件
院内製剤加算の点数と算定要件は以下のとおりです。
点数 | 10点 |
---|---|
調製した院内製剤の調剤 | 薬価基準に収載されている医薬品に、溶媒や基剤などの賦形剤を加えて、当該医薬品とは異なる剤形の医薬品を調製し調剤を行った場合 |
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
院内製剤加算は、調剤技術基本料の算定時に加算できるため、患者さん1人につき月1回までの算定となります。
5-2.院内製剤加算が算定できない場合
院内製剤加算は、以下のケースについて算定できないとされています。
(ロ)散剤を調剤した場合
(ハ)用時溶解して使用する医薬品(液剤)を交付時に溶解した場合
(ニ)1種類のみの医薬品を水に溶解して液剤とする場合
ただし、院内製剤加算が算定できないケースには例外があります。次の項で詳しく見ていきましょう。
5-3.院内製剤加算が算定できない場合の例外
院内製剤加算を算定するためには、院内製剤が元の医薬品と異なる医薬品となる必要があります。しかし例外として、前述した「院内製剤加算が算定できないケース」にかかわらず、剤形が変わらない場合であっても、調剤した医薬品と同一規格を有する医薬品が薬価基準に収載されている場合は除き、以下のような場合には院内製剤加算が算定できるとされています。
※散剤及び顆粒剤を除く
(ロ)安定剤、溶解補助剤、懸濁剤など、製剤技術上必要と認められる添加剤を使用した場合
(ハ)調剤技術上、ろ過、加温、滅菌行為をなす必要があって、これらの行為を行った場合
ただし、調剤した医薬品を、原料とした医薬品と異なる用法用量、効能効果で用いる場合は、院内製剤加算が算定できません。
5-4.医薬品供給不足により院内製剤を調製した場合
医薬品供給不足により、小児などへ解熱鎮痛剤や抗ウイルス剤などが処方できない場合もあるでしょう。錠剤の粉砕などを行うことで小児への投薬が可能となる場合などは、院内製剤加算を算定して差し支えないとされています。
ただし、このようなケースについては、レセプトの摘要欄に「小児用の○○が不足しているため」など、やむを得ない事情を記載しなければなりません。
なお、医薬品供給不足の状況については、出荷停止や出荷調整などの安定供給に支障が生じている品目ではなく、医療機関において調剤が困難かどうかで判断します。
また、薬剤料については、実際の投与量に相当する分を請求することとされています。
参照:疑義解釈資料の送付について(その39)2023年1月13日|厚生労働省
参照:疑義解釈資料の送付について(その18)2025年1月16日|厚生労働省

6.院内製剤とは?
院内製剤とは、薬価基準に収載されている医薬品に、溶媒や基剤などの賦形剤を加えて、異なる剤形の医薬品に調製することです。院内製剤は、医療法、医療機関の責任のもとで、院内で調製・使用されています。
ここでは、院内製剤が必要とされる背景や使用目的、クラス分類についてお伝えします。
6-1.院内製剤が必要とされる背景
院内製剤が必要とされる背景には、医療において、すべての疾患について治療や検査などが既存の医薬品で対応できるわけではない点が挙げられます。
多種多様なケースに対応できるよう、病院薬剤師が既存の医薬品や検査薬などを活用して調製したものが院内製剤です。病院薬剤師は、院内製剤を調製することで、高度で複雑化する医療に貢献してきました。
そういった長年の取り組みによって、院内製剤として調製していたものが、薬機法による承認を得て医薬品として販売されるケースも多々あり、院内製剤の必要性が示されています。
6-2.院内製剤の使用目的
院内製剤の使用目的は、大きく3つに分かれます。
2.患者の治療・診断を目的とするもの
3.医療に用いるが患者の治療・診断目的ではないもの
調剤が迅速かつ効率的に行えるよう予製を行ったり、全く新しい薬剤を製造したりと、院内製剤にはさまざまなものがあります。
6-3.院内製剤のクラス分類
日本病院薬剤師会が発行した「院内製剤の調製及び使用に関する指針」では、院内製剤を3つのクラスに分類しています。
区分 | 製造プロセス・使用目的など |
クラスI | ● 薬機法で承認された医薬品またはこれらを原料として調製した製剤を、治療・診断目的で、薬機法の承認範囲外で使用する場合であって人体への侵襲性が大きいと考えられるもの ● 試薬、生体成分(血清、血小板等)※、薬機法で承認されていない成分またはこれらを原料として調製した製剤を治療・診断目的で使用する場合 ※患者本人の原料を加工して本人に適用する場合かつ特定細胞加工物に該当しない場合に限る |
クラスII | ● 薬機法で承認された医薬品またはこれらを原料として調製した製剤を、治療・診断目的として薬機法の承認範囲外で使用する場合であって、人体への侵襲性が比較的軽微なもの ● 試薬や医薬品でないものを原料として調製した製剤のうち、ヒトを対象とするが、治療・診断目的でないもの |
クラスIII | ● 薬機法で承認された医薬品を原料として調製した製剤を、治療を目的として、薬機法の承認範囲内で使用する場合 ● 試薬や医薬品でないものを原料として調製した製剤であるが、ヒトを対象としないもの |
参照:院内製剤の調製及び使用に関する指針(Version 1.1)|日本病院薬剤師会

7.調剤技術基本料と院内製剤加算について理解を深めよう
調剤技術基本料や院内製剤加算は、算定できる場合と算定できない場合があります。それぞれの算定要件や例外について確認し、算定ミスや算定漏れがないようにすることが大切です。
また、院内製剤の管理は病院薬剤師の重要な業務の一つです。病院薬剤師は、調剤技術基本料や院内製剤加算の算定要件などの理解を深めるとともに、院内製剤の使用目的やクラス分類について確認し、適切に管理することが求められるでしょう。

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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