外来感染対策向上加算は、2022年度診療報酬改定で新設され、2024年度の改定で見直しが行われました。本記事では、外来感染対策向上加算の概要や2024年度改定での変更点、算定要件・点数について解説するとともに、施設基準や疑義解釈、届出、経過措置についてもお伝えします。
1.外来感染対策向上加算とは?
外来感染対策向上加算とは、診療所における外来診療時の感染防止対策に係る体制を評価する加算です。
平時からの感染防止対策の実施や、地域の医療機関などが連携して行う感染症対策への参画をさらに推進することを目的として、2022年度の診療報酬改定により新設されました。
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項I (感染症対策)|厚生労働省
2024年度の診療報酬改定でも、施設基準の見直しや加算の新設が行われています。
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【ポストコロナにおける感染症対策】|厚生労働省
2.外来感染対策向上加算の2024年度診療報酬改定における主な変更点
2024年度の診療報酬改定では、外来感染対策向上加算の新興感染症への備えに係る施設基準が、第8次医療計画における協定締結の枠組みを踏まえた要件に見直されました。
改定前 | 改定後 |
---|---|
新興感染症の発生時等に、都道府県等の要請を受けて発熱患者の診療等を実施する体制を有し、そのことを自治体のホームページにより公開していること。 | 都道府県知事の指定を受けている第二種協定指定医療機関(発熱外来に係る措置を講ずるものに限る。)であること。 |
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【ポストコロナにおける感染症対策】|厚生労働省
また、発熱外来に対する評価として、外来感染対策向上加算を算定する場合に、発熱その他感染症を疑わせる症状を呈する患者さんに対して、適切な感染防止対策を講じた上で診療を行ったときに算定できる「発熱患者等対応加算」が新設されたことに加え、施設基準に以下が追加されています。
● 回復した患者の罹患後症状が持続している場合に、必要に応じて精密検査が可能な体制または専門医への紹介が可能な連携体制があることが望ましい。
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【ポストコロナにおける感染症対策】|厚生労働省
さらに、Access抗菌薬の適正使用をより促進していくため、抗菌薬の使用実績に基づく評価として「抗菌薬適正使用体制加算」が新設されました。

3.外来感染対策向上加算の算定要件・点数
外来感染対策向上加算は、施設基準を満たした診療所において以下を算定する場合に、患者さん1人につき月1回、6点を加算することができます。
● 再診料
● 小児科外来診療料
● 外来リハビリテーション診療料
● 外来放射線照射診療料
● 地域包括診療料
● 認知症地域包括診療料
● 小児かかりつけ診療料
● 外来腫瘍化学療法診療料
● 救急救命管理料
● 退院後訪問指導料
● 在宅患者訪問診療料(I)
● 在宅患者訪問診療料(II)
● 在宅患者訪問看護・指導料
● 同一建物居住者訪問看護・指導料
● 在宅患者訪問点滴注射管理指導料
● 在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料
● 在宅患者訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者訪問栄養食事指導料
● 在宅患者緊急時等カンファレンス料
● 精神科訪問看護・指導料
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
なお、上記のいずれかにおいて外来感染対策向上加算を算定した場合、同一月に外来感染対策向上加算を別に算定することはできません。
また、外来感染対策向上加算は、診療所(病床数:0~19床)が対象です。外来感染対策向上加算と類似する加算に「感染対策向上加算」があり、病院(病床数:20床以上)については、要件を満たすことで感染対策向上加算が算定できます。
参考:令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項I (感染症対策)|厚生労働省
🔽 感染対策向上加算について解説した記事はこちら
4.外来感染対策向上加算に関連する加算
外来感染対策向上加算には、「発熱患者等対応加算」「連携強化加算」「サーベイランス強化加算」「抗菌薬適正使用体制加算」と4つの加算が設けられています。
4-1.発熱患者等対応加算
発熱患者等対応加算の算定要件と点数は、以下のとおりです。
点数 | 20点(月1回) |
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対象患者 | 発熱、呼吸器症状、発しん、消化器症状または神経症状その他感染症を疑わせるような症状を有する患者さん |
感染対策 | 空間的・時間的分離を含む適切な感染対策のもとで診療を行った場合 |
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
4-2.連携強化加算
連携強化加算の算定要件と点数、施設基準は、以下のとおりです。
点数 | 3点(月1回) |
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算定要件・施設基準 | 医療機関が連携する感染対策向上加算1に係る届出を行った他の医療機関に対し、過去1年間に4回以上、感染症の発生状況、抗菌薬の使用状況などについての報告を実施 |
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
4-3.サーベイランス強化加算
サーベイランス強化加算の算定要件と点数、施設基準は、以下のとおりです。
点数 | 1点(月1回) |
---|---|
算定要件・施設基準 | 院内感染対策サーベイランス(JANIS)、感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)など、地域や全国のサーベイランスへの参加 |
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
院内感染対策サーベイランス(JANIS)は、参加医療機関における以下の調査を実施し、日本の院内感染の概況把握と医療現場へのフィードバックを行うことを目的としています。
● 薬剤耐性菌の分離状況
● 薬剤耐性菌による感染症の発生状況
感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)は、厚生労働省委託事業AMR臨床リファレンスセンターが主体となって稼働・運用しており、以下の情報を集約して、参加施設やその地域などが活用していくことを目的としています。
● 感染対策への取り組みや構造
● 医療関連感染の発生状況
● 主要な細菌や薬剤耐性菌の発生状況
● 血流感染の発生状況
● 抗菌薬の使用状況 など
また、データの集約による日本のNational data baseの構築としての役割も担っています。
参考:JANISについて|JANIS
参考:本事業について|J-SIPHE
4-4.抗菌薬適正使用体制加算
抗菌薬適正使用体制加算の算定要件と点数、施設基準は、以下のとおりです。
点数 | 5点(月1回) |
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算定要件・施設基準 | ● 抗菌薬の使用状況のモニタリングが可能なサーベイランスへの参加 ● 直近6カ月における使用する抗菌薬のうち、Access抗菌薬に分類されるものの使用比率が60%以上、または当該サーベイランスに参加する診療所全体の上位30%以内 |
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
Access抗菌薬とは、WHO(世界保健機関)が抗菌薬適正使用の指標として推奨するAWaRe分類におけるカテゴリーの一つです。他にWatch、Reserveがあります。Access抗菌薬は、一般的な感染症の第一選択薬または第二選択薬として用いられる耐性化の懸念の少ない抗菌薬のことです。すべての国が、高品質かつ手頃な価格で、広く利用できるようにすべきものとされています。
参考:WHO、AWaRe (Access, Watch, Reserve) 抗生物質ブック発行|日本WHO協会
5.外来感染対策向上加算の施設基準
外来感染対策向上加算の施設基準は、以下のいずれにも該当することとされています。
医療機関 | ● 診療所であること ● 都道府県知事の指定を受けている第二種協定指定医療機関であること(発熱外来に係る措置を講ずるものに限る) ● 感染対策向上加算に係る届出を行っていない医療機関であること |
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部門の設置 | 感染防止に係る部門を設置(感染防止対策部門) ※医療安全対策加算に係る医療安全管理部門と兼ねても差し支えない |
専任の配置 | ● 以下のような医療有資格者を院内感染管理者として配置すること ○ 医師 ○ 看護師 ○ 薬剤師 ○ その他の医療有資格者 ● 管理者は、感染防止に係る日常業務を行うこと(当該職員は医療安全対策加算に係る医療安全管理者とは兼任できないが、院内感染防止対策に関する業務は行うことが可能) |
体制整備 | ● 感染防止対策の業務指針と院内感染管理者の具体的な業務内容の整備をすること ● 院内感染管理者により、最新のエビデンスに基づき、自施設の実情に合わせた以下の内容を盛り込んだ手順書(マニュアル)を作成し、各部署に配布すること 1. 標準予防策 2. 感染経路別予防策 3. 職業感染予防策 4. 疾患別感染対策 5. 洗浄・消毒・滅菌 6. 抗菌薬適正使用 など ● 医療機関の外来において、受診歴の有無に関わらず、発熱その他感染症を疑わせるような症状を呈する患者さんの受入れを行う旨を公表し、受入れを行うために必要な感染防止対策として、空間的・時間的分離により発熱患者さん等の動線を分けるなどの対応を行う体制を有していること ● 新興感染症の発生時などに、発熱患者さん等の診療を実施することを念頭に、発熱患者さん等の動線を分けることができる体制を有すること ● 厚生労働省健康局結核感染症課「抗微生物薬適正使用の手引き」を参考に、抗菌薬の適正な使用の推進に資する取り組みを行っていること |
院内業務 | ● 院内感染管理者により、週1回程度、定期的に院内を巡回し、院内感染事例の把握と院内感染防止対策の実施状況の把握・指導を行うこと ● 医療機関の見やすい場所に、院内感染防止対策に関する取り組み事項を掲示すること ● 細菌学的検査を外部委託している場合は、薬剤感受性検査に関する詳細な契約内容を確認し、検査体制を整えておくなど、「中小病院における薬剤耐性菌アウトブレイク対応ガイダンス」に沿った対応を行っていること |
院内研修の実施 | 院内感染管理者により、職員を対象として、少なくとも年2回程度、定期的に院内感染対策に関する研修を行っていること ※安全管理の体制確保のための職員研修とは別に行うこと |
院外カンファレンスへの参加 | ● 院内感染管理者は、少なくとも年2回程度、感染対策向上加算1に係る届出を行った医療機関または地域の医師会が定期的に主催する院内感染対策に関するカンファレンスに参加していること ● 感染対策向上加算1に係る届出を行った複数の医療機関と連携する場合は、それぞれの医療機関のカンファレンスに少なくとも年1回参加し、合わせて年2回以上参加していること ● 感染対策向上加算1に係る届出を行った医療機関または地域の医師会が主催する新興感染症の発生などを想定した訓練については、少なくとも年1回以上参加していること ※これらのカンファレンスは、ビデオ通話が可能な機器を用いて実施しても差し支えない |
地域連携 | ● 抗菌薬の適正使用について、連携する感染対策向上加算1に係る届出を行った医療機関または地域の医師会から助言を受けること ● 新興感染症の発生時や院内アウトブレイクの発生時などの有事の際の対応を想定した地域連携に係る体制について、連携する感染対策向上加算1に係る届出を行った医療機関などとあらかじめ協議されていること ● 感染症から回復した患者さんの罹患後症状が持続している場合に、必要に応じて精密検査が可能な体制または専門医への紹介が可能な連携体制を有していることが望ましい |
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
5-1.外来感染対策向上加算の施設基準に関する疑義解釈
前述した施設基準について、多くの疑義解釈が出されています。ここでは、項目ごとの主な疑義解釈について紹介します。

5-1-1.体制整備
「医療機関の外来において、受診歴の有無に関わらず、発熱その他感染症を疑わせるような症状を呈する患者さんの受入れを行う旨を公表」については、医療機関のホームページでの公表が想定されています。
ただし、自治体や地域医師会などのホームページ・広報誌などで公表されている場合は、医療機関のホームページでの公表を行う必要はありません。
参考:疑義解釈資料の送付について(その2)|厚生労働省
5-1-2.院内業務
院内の巡回は、必要に応じて各部署を巡回することとされています。各病棟は毎回の巡回が求められます。院内感染や耐性菌の発生リスクの評価を定期的に実施している場合、少なくともリスクの高い病棟は毎回、リスクの高い病棟以外の病棟は月1回以上巡回することが必要です。
侵襲的な手術や検査などを行う部署は2カ月に1回以上の巡回が求められます。無床診療所の場合は、各診療室は毎回、診察室以外は月1回以上の巡回をすることとされています。
参考:疑義解釈資料の送付について(その10)|厚生労働省
また、院内への掲示事項は、以下のとおりです。
● 院内感染対策に係る組織体制、業務内容
● 抗菌薬適正使用のための方策
● 他の医療機関などとの連携体制
5-1-3.院内研修
院内職員を対象とした研修については、院外で開催される研修会への参加で代替することが認められていません。
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)|厚生労働省
5-1-4.院外カンファレンス
カンファレンスは、書面による持ち回りで開催・参加とすることは不可とされています。
カンファレンスの内容は、以下のような事項について情報共有や意見交換などを実施し、最新の知見を共有することが想定されています。
● 薬剤耐性菌等の分離状況
● 院内感染対策の実施状況(手指消毒薬の使用量、感染経路別予防策の実施状況など)
● 抗菌薬の使用状況
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)|厚生労働省
複数の医療機関と連携する場合のカンファレンスへの参加については、年2回以上参加していればよく、一部の医療機関のカンファレンスに参加できなかった場合は翌年に参加するのが望ましいとされています。
参考:疑義解釈資料の送付について(その15)|厚生労働省
また、新興感染症発生などを想定した訓練については、例えば、個人防護具の着脱訓練が該当します。訓練はビデオ通話での実施が認められています。
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)|厚生労働省
その他の訓練としては、令和4年度地域保健総合推進事業「院内感染対策ネットワークと保健所の連携推進事業」による「院内感染対策等における病院と保健所の連携 事例集について―中間報告―」(2022年6月)事例5において、対象者のレベルや役割に応じて、基本知識の習得や感染症病棟での実地訓練が実施されていることが掲げられていることを参照することとされています。
参考:疑義解釈資料の送付について(その19)|厚生労働省
なお、「院内感染対策ネットワークと保健所の連携推進事業」については、令和5年度以降の報告書も公表されているため、最新情報は日本公衆衛生協会のホームページで確認しましょう。
参考:事業概要|日本公衆衛生協会
5-1-5.地域連携
特別の関係にある医療機関と連携している場合や、医療圏・都道府県を越えて連携している場合にも、外来感染対策向上加算の届出は可能です。ただし、新興感染症の発生時や院内アウトブレイクの発生時などに適切に連携できる必要があります。
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)|厚生労働省
また、地域連携体制が保健所などを中心に構築され、そこに連携する感染対策向上加算1を算定する医療機関が参加している場合、その体制に参加することで施設基準を満たします。
参考:疑義解釈資料の送付について(その10) |厚生労働省
地域連携の体制については、医療機関の他に保健所や地域の医師会(郡市区等医師会、都道府県医師会)と、必要な情報やその共有方法について協議し、記録を残さなければなりません。
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)|厚生労働省
参考:疑義解釈資料の送付について(その6)|厚生労働省
5-2.外来感染対策向上加算の施設基準の届出
外来感染対策向上加算の施設基準の届出は、別添7の様式1の4を用いて行います。施設基準には研修の実施やカンファレンスへの参加、訓練への参加実績が含まれていますが、届出の際には実績を記載する部分はありません。
参考:疑義解釈資料の送付について(その4)|厚生労働省
また、施設基準の一つである第二種協定指定医療機関の指定について、都道府県のホームページに掲載される前であっても、指定を受けていれば届出が可能です。
参考:疑義解釈資料の送付について(その2)|厚生労働省
5-3.経過措置と2025年1月以降に必要となる届出
2024年3月31日において、現に外来感染対策向上加算の届出を行っている医療機関については、2024年12月31日までに限り、都道府県知事の指定を受けている第二種協定指定医療機関とみなされるという経過措置が設けられていました。
2025年1月以降も外来感染対策向上加算を算定する場合は、別添7と別添7の様式1の4の届出が必要です。
参考:令和6年度診療報酬改定において経過措置を設けた施設基準の取扱いについて|厚生労働省

6.外来感染対策向上加算について理解を深めよう
外来感染対策向上加算は、外来診療時の感染防止のための体制整備を評価する加算です。そのため、施設基準には、院内の体制整備と医療機関との連携体制に関するものが多く設けられています。新興感染症発生時やまん延時に、地域の医療機関と連携して効率的・効果的に対応するためにも、外来感染対策向上加算について理解を深めておきましょう。

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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