薬剤師がドラッグストアで働いてわかった、面白さと大変さ。向いている人の特徴
薬剤師の代表的な勤務先のひとつがドラッグストアです。店舗数の増加やサービスの多様化など勢いのある業態だけに、ドラッグストアで働くというキャリアを検討している薬剤師も多いのではないでしょうか。今回は、薬剤師であり、ドラッグストアでの勤務経験がある、株式会社MEDIKLECT(メディクレクト)の代表取締役・柿間隼志さんに、ドラッグストアで勤務する魅力ややりがいについて聞きました。
1.ドラッグストア薬剤師のやりがいと魅力
「臨床よりもビジネスの世界でキャリアを築きたい」という思いが強かった私は、新卒で大手ドラッグストアに就職しました。約4年の間に何度か異動し、OTC医薬品のみの店舗、調剤のみの勤務をする店舗、調剤併設型の店舗の、3種類すべてを経験しました。調剤のみの店舗は、一般的な調剤薬局とほとんど変わらないと思います。
OTC医薬品のみの店舗では、処方箋が必要な医療用医薬品は扱わないものの、OTC医薬品に加えて化粧品、食料品、日用品などさまざまな商品を幅広く扱っています。そこでの仕事内容は、発注や品出し、在庫管理、レジ打ちなど、みなさんがイメージするような「いわゆる小売店」での業務が中心です。
商品の分類ごとに担当者が決まるのですが、薬剤師の場合はOTC医薬品の担当になることが多いようです。定番商品に加えて、花粉症薬や水虫薬など、シーズンごとに売り出したい商品を目立たせるため、魅力的な売り場づくりに気を配ります。
販売促進も重要な業務です。OTC医薬品の場合は、製薬企業から送られてくる販売促進用の陳列台や飾り付けを設置したり、小型モニターでPR映像を流したりして販促効果を高めます。自分たちでPOPを手作りすることもありました。イラストが得意な人は手描きをしていましたが、私はエクセルなどで素材を組み合わせてデザインしていました。利用客として他店を訪れる際も売り場をチェックするのが習い性になり、とくに総合ディスカウントストアのドン・キホーテのPOPは非常に勉強になりました。
ドラッグストアではさまざまな「売るためのノウハウ」を蓄積できました。例えば、男性向けケア用品は入り口付近に置いてあることが多いと思いませんか。これは、男性は買い物にあまり時間をかけないため、動線が短い傾向があります。また、似たような商品が並んでいると右側にあるものを手に取りやすいという傾向をふまえて、より売りたいものを右手に陳列していました。
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こうした基本的なノウハウを学びつつ、店舗ごとの事情や利用客の特徴に応じて工夫を重ねていくわけですが、それが売上に結びついたときは大きなやりがいを感じられました。
私は入社当時からキャリアアップしたい志向があって、管理職をしたいという希望も伝えていました。すると、ちょうど前任者が退職したタイミングが重なり、わずか入社半年ほどで幸運にも副店長となることができました。そこからは苦労の連続で、経験が浅いためミスも多く、本当に大変な思いをしましたが、若いうちから経験を積ませてもらえたことに感謝しています。
ドラッグストアは、このように早くから大きな裁量権を持てるケースも多いため、「どんどんキャリアアップしたい!」と向上心にあふれた方にぴったりの業界だと思います。
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2.調剤併設型ドラッグストアならではのメリット・デメリット
近年は調剤併設型ドラッグストアが一般的になってきて、ドラッグストアと調剤薬局の違いはほとんどなくなってきたのではないかと思います。私が配置された店舗では、調剤が7~8割、OTC医薬品等の販売が2~3割という業務の割合でした。
といっても、勤務日や時間帯によって担当業務が割り振られているわけではなく、現場の状況に応じて変わってきます。処方箋が多い時は調剤室に行き、売り場が混んできたらレジに入り……というように臨機応変にそれぞれの業務を行うわけです。
ちなみに、勤務中は薬剤師であることが分かるように白衣やケーシーを着用していました。常に持ち歩いていたのは、ボールペンやハサミ、カッターなどの文具類。手が空いたときにPOPを作成したり、納品されてきた商品の段ボールを開封したりと、文房具はひんぱんに使うのです。すぐに取り出せるよう、ウェストポーチのような小物入れにまとめて携帯していました。
調剤併設型店舗は、調剤業務とドラッグストアらしい業務の両方を経験できるので、キャリアを積むのに最適だと思われることが多いです。ですが、そうとも言い切れず、私の経験では一長一短かなと感じました。なぜなら、調剤と販売はまったく異なる職域で、極めるためにはどちらも時間を費やして現場で学ばなくてはならないからです。
確かに、薬剤師と小売業のどちらのノウハウも学べる一挙両得な側面はありますが、「どっちつかず」になってしまうリスクもあります。そうならないために、どういうキャリアを目指しどんな経験を積んでいくのか、常に目的意識を持ってハンドリングしていく必要があると感じました。
3.ドラッグストア薬剤師は忙しい?休日や年収事情
ドラッグストアの多くはシフト制を採用していて、年や月ごとに休日数が決まっています。毎月、従業員はそれぞれ休みたい日の希望を提出し、時には相談し合いながらシフトを決めていきます。副店長時代はシフト作成を担当していました。
アルバイトやパート社員のシフトを先に確定させてから、空いた日を正社員が埋めていくという順序になりやすく、土日や祝日に出勤することが増えます。そのため、家族や友人と休みを合わせにくい側面はありますが、混雑が少ない平日に出かけたい方にはぴったりかもしれません。
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ちなみに、業務の忙しさはスタッフの人数に左右されるのでスタッフ数が多い店舗ほど残業は少なくなります。人数が多いという意味では、大規模な店舗のほうがシフトの融通を利かせやすいでしょう。
そのほかに特徴的なのは、異動の多さでしょうか。私が勤めていた会社ではおおむね2年に一度くらいのペースで異動がありました。私は入社する際に全国転勤OKとしていたので、異動には納得していました。このあたりは会社によるかとは思いますが、転勤がない「エリア限定職」を設けているケースもあるようです。
ドラッグストアの年収は、薬剤師の就職先のなかでは高水準ではないでしょうか。調剤併設型で500~700万円程度、OTC医薬品のみの店舗で500~600万円程度が相場だといえそうです。詳しく知りたい方はマイナビ薬剤師の求人情報(調剤併設型・OTCのみ)も参考にしてみてください。
4.ドラッグストア勤務に向いている薬剤師とは?
ドラッグストア業界に向いているタイプを一言で表現するなら、「営業ができる人」です。売り場そのものを構成するスキルはもちろん、お客さんにためらいなく「何かお困りですか?」と話しかけてニーズを聞き取れるような方は、存分に能力を発揮できるでしょう。優れたコミュニケーション能力、そして売るべき商品を売り抜くガッツが求められる仕事です。
調剤業務経験など、薬剤師としての専門性の高さがあるともちろん即戦力になりますが、それに加えて、医療や健康に関する幅広い知識があると役立つでしょう。例えば、ビタミンCのサプリメントを手に取ったお客さんに対して、幅広い知識があると「ビタミンEも一緒に摂ると相乗効果がありますよ」と提案したり、摂取時の注意点を伝えたりできます。
「身近で頼れる医療従事者」としてお客さんからの信頼を勝ち取り、それが結果的に売上につながっていく、という流れが理想的です。
セルフメディケーションを支える地域の拠点としても、ドラッグストアへの期待は大きくなっています。小売業の知見を得つつ、医薬品のプロとして地域医療に貢献できるので、薬剤師としてやりがいの大きい業界ではないでしょうか。もしもドラッグストアへ転職したいなら、企業によってビジョンや強み、戦略がさまざまなので自分の志向に合っているかを事前によく考えたほうがいいと思います。実際に店舗を訪れてみて、雰囲気をつかむのもおすすめです。
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撮影/和知 明[ブライトンフォト] 取材・文/中澤仁美[ナレッジリング]
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柿間隼志(かきま・たかし)
薬剤師/株式会社MEDIKLECT 代表取締役