創薬・臨床試験

既存薬を稀少疾患治療薬に‐11月から医師主導治験開始

薬+読 編集部からのコメント

先日、「薬にまつわるエトセトラ」でも取り上げたドラッグリポジショニング。東京大学大学院助教・林久允氏の研究グループは2016年11月から既存薬のフェニル酪酸ナトリウムを使用した進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)2型の治療薬開発治験を開始しました。PFICの患者数は少なく、ドラッグリポジショニングで既存薬を活用することができればコスト削減も可能になります。林氏は半年間で6症例のエントリーを目指しているということです。

薬学研究者・林氏(東大)が呼びかけ

林氏

 

稀少疾患である進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)2型の治療薬開発を目指した医師主導治験が今年11月から始まった。治験には既存薬のフェニル酪酸ナトリウムを活用。薬学領域の研究者、林久允氏(東京大学大学院薬学研究科分子薬物動態学助教)らの研究グループがドラッグリポジショニングによって、同剤にPFIC2型への効果を見出したものだ。林氏は、同剤の権利を持つ海外の製薬会社と交渉しつつ、臨床医に協力を呼びかけ、研究開始から約10年がかりで今回の治験にこぎつけた。医師主導治験では半年間で6症例をエントリーし、効果を実証したい考えだ。


 

PFICは小児期に発症する肝疾患の中で最も重篤なもの。生存率は5歳で50%、20歳で10%。生後数カ月で黄疸や成長障害が出現し、患者は強いかゆみによってまともに眠ることもできず、学習もできない。影響は家族にも及ぶ。最終的には肝不全に至り、肝移植実施の選択を迫られる。

 

原因遺伝子の違いによって四つの型が知られており、PFIC1型は肝臓を移植しても逆に予後が悪くなる。PFIC2型も、肝移植で根治する場合はあるが再発例もある。薬物治療が切望されているのが現状だ。

 

これまでPFIC2型は、肝実質細胞から毛細胆管中へ胆汁酸を排泄するトランスポーター「BSEP」の機能が低下し、肝実質細胞に胆汁酸が過剰に蓄積して障害を受け、発症することが分かっていた。林氏らは基礎研究によって、細胞膜上のBSEPの発現量低下が鍵になることを解明。その発現を高める化合物はPFIC2型の治療薬になり得ると考えた。

 

そこで目をつけた手法がドラッグリポジショニングだ。PFICの患者数は少なく、最初から薬を開発するのはコスト的にも現実的ではない。既存薬を活用できれば、非臨床試験や第I相臨床試験は不要。開発リスクや期間、コストを大幅に抑制できる。林氏らは、BSEPの発現を高める作用を持つ化合物を既存薬の中から探し、尿素サイクル異常症治療薬のフェニル酪酸ナトリウムにその作用を見出した。

 

実験動物に同剤を投与しBSEPの発現増加を確認。尿素サイクル異常症患者への同剤投与前後の生検で得た肝細胞でも同様の効果を確かめた。さらに臨床医の協力を得て実施した探索的臨床研究においても、段階的な同剤の増量によってBSEPの発現量が増加し、かゆみや血中ビリルビン値が減少して、病態の進展が抑えられることを明らかにした。

 

治験の可能性を模索

 

医療保険の範囲内で使えるようにするため、林氏は以前から研究と並行して治験実施の道を探ってきた。同剤の尿素サイクル異常症に対する国内ライセンスを保有するシミックグループを通じて、権利を持つ海外の製薬会社と交渉。時間を要したものの説得に成功し、医師主導治験への道が開けた。

 

医師主導治験の実施に向けて、医師の近藤宏樹氏(近畿大学医学部奈良病院)を代表者、林氏を分担者とする体制を構築。日本医療研究開発機構の支援を受けて準備を進めた。その過程で▽PFIC2型患者は日本に26人しか存在しないこと▽患者の多くは肝臓移植を受けているため対照群を設定できず、自然歴との比較で同剤の有効性を示す必要があること――などを確認。病理医3人がブラインドで肝臓の組織への影響を評価する方法を確立した。

 

こうした体制整備を経て、今年11月4日に医師主導治験の治験届が受理され、11月18日から治験が始まった。肝臓が障害を受けてから同剤を投与しても回復しない可能性があるため、いかに早く患者を見つけて同剤の投与を開始するかが治験成功の鍵になるという。

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出典:薬事日報

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