薬剤師会

放射線ファーマシスト全国に~原発立地県への拡大目指す

薬+読 編集部からのコメント

福島第1原子力発電所ALPS処理水の海洋放出に関する相談件数が会員薬局で増加している中、福島県薬剤師会では、放射線の知識を持った薬剤師を認定する「放射線ファーマシスト」事業の全国展開を目指しています。放射線ファーマシストが福島県民の不安に寄り添い、生活や食事など医薬品以外の困りごとにも幅広く相談対応を行っています。

福島県薬剤師会は、放射線の知識を持った薬剤師を認定する「放射線ファーマシスト」事業の全国展開を目指す。福島第1原子力発電所ALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出に関する相談件数が会員薬局で増加する中、放射線ファーマシストが県民の不安に寄り添い、生活や食事など医薬品以外の困りごとにも幅広く相談対応を行っている。薬局薬剤師のみならず、病院薬剤師でも認定を取得する動きが出ており、小澤佳嗣常務理事は「全国の原発立地都道府県から周辺県に放射線ファーマシスト事業を広げていきたい」と話している。


放射線ファーマシストは初級・中級・上級に分かれ、約800人が認定を取得している。2013年に設置し、16年から放射線に関する相談を開始した。年間相談件数は約200件程度。当初は食品や人体への影響に関する相談が多かったが、19年からALPS処理水に関する相談が増えている。

 

ALPS処理水は、ALPSによりトリチウム以外の放射性物質を安全基準を満たすまで浄化した水。東京電力は福島第1原発で貯留されているALPS処理水を海洋に放出する計画を打ち出しており、地元では連日にわたって報道されるなど、県内では関心が高い話題だ。

 

相談者は女性の比率が多い。海洋放出で魚介類、山菜や米など食品を摂取することへの不安があるようだ。地域住民の中には、国や県から発信される情報に不信感を持ち、「薬局ならば正しい情報を伝えてくれる」との思いから相談する人も少なくないという。

 

県薬は20年7月に、汚染水を処理して発生するトリチウム水とはどんな物質であるかを分かりやすく説明する啓発資材を作成した。トリチウムは自然界に存在する物質であり、飲んでも体外に排出されるため、体内に蓄積することはないこと、汚染水からトリチウムを取り除くのは困難であること、これまでも海洋放出されていたことなどを記載している。

 

小澤氏は、放射線ファーマシストの相談対応について、「正しい情報を伝えることを徹底している」と話す。▽説明の中で、「安心・安全です」と主観的な考えは言わない▽相談した地域住民に誤解した情報があれば正す▽分からない内容を質問された場合には「分からない」と答え、きちんと調べてから回答する――などを心がけ、対応している。

 

県薬が実施した調査結果で、放射線ファーマシストの説明を受けて「納得した」と回答した相談者は96%に上る。福島県全土で事業を展開することで、相談場所が各地に点在しているメリットも挙げられている。福島第1原発に近いいわき市の相談者は、「いわき市では放射能に関して話題に挙げると、感情によって発言される意見や議論が多いため、相談しにくい。別の市町村の薬局で相談できて良かった」と話している。

 

放射線ファーマシストの認定を取得する動きは病院薬剤師にも波及している。小澤氏は「放射線ファーマシストをきっかけに、地域で病院と薬剤師会が横につながれば」と薬薬連携の起爆剤としても期待する。

 

放射線ファーマシストの設置から10年が経過し、県薬は新たな展開を目指す。これまで放射線の相談対応で蓄積した専門性を他の原発立地県の薬剤師会にも伝え、同事業を全国に広げることで、地域で薬剤師職能を拡大していく好機にしたい考えだ。

 

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出典:薬事日報

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