さまざまな国で導入が進んでいるリフィル処方箋。日本でもたびたび検討されていましたが、2022年度診療報酬改定で導入されることが発表されました。2022年1月26日には、中央社会保険医療協議会(中医協)総会が開催され、改定に向けた具体的な個別項目の議論が始まっています。今回は、新たに導入されるリフィル処方箋の概要やメリット・デメリットを解説するとともに、海外におけるリフィル処方箋の扱いについて詳しく解説します。
1.リフィル処方箋とは?分割調剤との違い
リフィル処方箋とは、医師が指定した一定の期間であれば、繰り返し使用できる処方箋のことです。症状が安定していることを前提として(中医協資料より)、期間中は医師の診察を受けずに処方薬を購入できるシステムで、アメリカやカナダ、イギリスなどの先進国ではすでに導入されています。
分割調剤は、使用期限が短いなどの長期保存が難しい薬剤やジェネリック医薬品の使用に不安を抱く患者さんに対して、お試し期間を設けるために利用するものです。医師による分割指示は、1回目の調剤について指示通りに調剤を行い、2回目以降は患者さんの服薬状況などを確認し、処方医に対して情報提供を行った場合に算定できます。

一方、リフィル処方箋は細かな制限がほとんどなく、医師がリフィル可にチェックを入れるだけで、利用条件内であれば普通の処方箋とほぼ同じように扱うことができます。分割調剤のように、交付日数や2回目以降の来局日などを考えて調剤日数を調整するなどの煩雑な作業は必要ありません。また、ジェネリックのお試し期間や長期保存が難しい薬剤は、薬剤師の判断で分割調剤が行えるのに対し、リフィル処方箋は医師の指示を受けて実施するところが異なる点です。
2.リフィル処方箋は「いつから」「どんなルール」で導入される?
では、リフィル処方箋はどのような形で実施されるのでしょうか。
リフィル処方箋は、2022年度診療報酬改定から導入される予定で、実際の運用は、2022年4月からスタートすると考えられます(厚生労働省「令和4年度調剤報酬改定の概要」より)。リフィル処方箋を利用できるのは、「医師の処方により、薬剤師による服薬管理の下、一定期間内に処方箋の反復利用が可能である患者」が対象で、有効期限や投薬期間など、いくつかのルールが設けられています。
実施のタイミングやルールなど、2022年1月26日付で公開された「個別改訂項目について(短冊)」を元に、大まかな概要を確認してみましょう。
ル―ル① 処方箋の様式・有効期限
新たな処方箋様式では、医療機関の医師により処方箋の「リフィル可」欄にレ点と使用回数を記入して提供される仕組みになっています(「個別改定項目より)。また、備考欄の下に、調剤薬局の薬剤師が記入する調剤実施回数の記録欄が追加されました。調剤薬局では、1回目、2回目に行った調剤の調剤日と次回調剤予定日を記載するとともに、調剤薬局の名称と保険薬剤師の氏名を余白または裏面に記載しなければなりません。

処方箋の有効期限は、1回目の調剤は従来と変わらず4日以内、2回目以降の調剤は、前回の調剤日を起点として、次回調剤予定日となる日の前後7日以内とされています。
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ル―ル② 投薬期間の制限
1回あたりの投薬期間や総投薬期間については、医師の判断に任せられていますが、リフィル処方箋の使用回数は3回までとされています。投与量に限度が定められている医薬品や湿布薬については、リフィル処方箋による投薬はできません。
ル―ル③ リフィル処方箋の保管義務
リフィル処方箋の原本の保管義務は、調剤実施回数によって異なります。最終調剤を終えたリフィル処方箋の原本は調剤薬局が保管し、調剤が終わっていないリフィル処方箋の原本は患者さんが保管、調剤薬局はリフィル処方箋の写しを保管します。

例えば、総使用回数が3回のリフィル処方箋の場合、1回目、2回目の調剤ではリフィル処方箋の「写し」を調剤薬局で保管し、原本は患者さんに返却します。3回目の調剤が終了したら、調剤済み処方箋として調剤薬局がリフィル処方箋の原本を保管します。
ルール④ リフィル処方箋における服薬管理のポイント
リフィル処方箋に基づく調剤を行った場合は、必要に応じて処方医へ情報提供することとされています。服薬指導で得た情報から医師の診断が必要であると判断できる場合、薬剤の交付は行わず患者さんに受診を促し、同時に処方医へ情報提供を行います。
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また、リフィル処方箋は継続的な薬学的管理指導を行う必要があるため、なるべく同じ調剤薬局を利用するよう患者さんに説明する必要があります。次回調剤予定日に患者さんが来局しない場合は電話などで確認をとり、他薬局で調剤を受ける予定であれば、その調剤薬局へ情報提供を行うこととされています。
3.リフィル処方箋導入のメリットとデメリット
リフィル処方箋を導入することで、医療費の削減や医師・患者さんの負担軽減などが期待されます。リフィル処方箋を導入するうえで把握しておきたいメリットとデメリットについて見ていきましょう。
3-1.メリット
リフィル処方箋の導入は、患者さんへのメリットが大きいものです。
例えば、対象となる患者さんは、病院へ行く労力や時間の負担が軽減します。患者さんのなかには、診察なしで薬だけを入手したいと考える人もいますが、医師は体調の変化などを確認してからでないと処方箋を発行できません。そのため、薬をもらうための診察に、時間をかけて待つしかありませんでした。
その点、リフィル処方箋になれば、病院での診察やそのための順番待ちをすることなく、薬局でスムーズに薬を受け取ることができるのがメリットです。また、診察回数が少なくなり、再診療費が不要なため、医療費の節約にもつながります。

医療提供側のメリットとしては、医師は、状態が安定していない患者さんの治療に集中しやすくなり、医療の質の向上が期待できるでしょう。さらに、リフィル処方箋は定期的に薬剤師が介入するため、安全性の向上や残薬の削減が望めます。
例えば、今まで90日分で処方されていた薬剤が30日分3回などで処方されると、定期的に薬剤師による体調や残薬のチェックが可能となります。長期処方よりも丁寧な服薬サポートができ、医療費削減にもつながるでしょう。
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3-2.デメリット
通常の処方箋であれば、医師と薬剤師の双方で経過観察を行うため、患者さんの状態悪化を把握しやすい状況にあります。しかし、リフィル処方箋は、期間中に医師の診察がなく、薬剤師のみの経過観察となるため、状態変化を見逃すことがあるかもしれません。

結果として、患者さんの健康被害につながることも考えられるでしょう。また、患者さんの受診回数が減少することから、医療機関の収入減や患者さんの病院離れが起こる可能性も考えられます。
4.リフィル処方箋導入によって薬剤師の役割に変化が
リフィル処方箋での調剤では、医師に代わって薬剤師が病状や副作用など患者さんの経過観察を行う必要があります。そのため、今まで以上に高度な薬学的知識に加え、疾患の知識や判断力が求められるでしょう。さらに、患者さんとの信頼関係をしっかりと構築し、薬剤師と患者さんが何でも話せる関係を作ることにより、より詳しい情報を聞き取ることも必要です。
また、薬剤師は医師の判断が必要なケースだけでなく、気になることがあれば、医師へ報告や相談ができる体制を整えなければいけません。より丁寧に患者さんから聞き取りを行い、医師と情報共有することが、リフィル処方箋を扱う薬剤師の大きな役割といえるでしょう。
5.海外におけるリフィル処方箋の調剤ルール
前述したように、海外ではすでにリフィル制度を導入している国があり、それぞれに薬剤師に任されている権限やリフィル処方箋の扱いが異なります。これからリフィル処方箋を取り扱うにあたり、参考としてアメリカ、カナダ、イギリスの例を見てみましょう。
5-1.アメリカのリフィル制度
アメリカ(カリフォルニア州)では1951年からリフィル制度を導入しています(制度は州により異なる)。対象患者さんに規制がありませんが、対象薬剤は一部規制があります。リフィル処方箋の有効期限に法的制限がないものの、一般的に2年を超えたリフィル処方箋の調剤は行われていません。

アメリカでは初回調剤後、調剤薬局でリフィル処方箋を保管します。2回目以降のリフィル処方箋による調剤は調剤薬局で保管している処方箋を元に実施され、転居等で異なる調剤薬局での調剤を希望する場合は、調剤薬局間で処方箋の移動が行われます。
5-2.カナダのリフィル制度
カナダでは慢性疾患の患者さんを対象とし、リフィル処方箋の有効期限は6か月または12か月となっています。アメリカと同様に、リフィル処方箋の保管は調剤薬局となっています。患者さんと薬剤師が相談しながら2~3か月分の薬を調剤することが可能です。
5-3.イギリスのリフィル制度
2002年からリフィル制度を導入したイギリスでは、定期的に同じ薬剤を使用する患者さんを対象とし、対象薬剤に一部規制があります。リフィル処方箋の有効期限は12カ月ですが、初回調剤は処方箋発行から6カ月以内、管理薬は28日以内となっています。

リピート回数はGP(General practitioner:日本での「かかりつけ医」にあたる医師)が設定する決まりです。イギリスでは、紙の処方箋でも対応していますが、大部分が電子的に行われており、薬剤が不要になった場合は、以降の回数を電子的に取り消すことができます。
6.リフィル処方箋は薬剤師の技量が問われる
リフィル処方箋の導入によって、薬剤師の役割は大きく変わります。薬学的知識や判断力、疾患の知識に加え、さらに高いコミュニケーション能力を身につける必要があるでしょう。薬剤師は、高齢化社会による医師の負担を緩和して日本の医療を支えるとともに、医療費削減に貢献することが期待されています。これからは、今まで以上の高いスキルと豊富な知識、医療従事者としての責任感のある薬剤師が求められます。
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。