- 1.トレーシングレポートの重要性が高まっている
- 1-1.トレーシングレポートとは
- 1-2.服薬情報等提供料の算定が可能
- 2.トレーシングレポートで伝える内容例
- 2-1.一包化の提案
- 2-2.副作用報告
- 2-3.用法・用量変更の提案
- 2-4.残薬調整
- 2-5.薬の剤形変更
- 2-6.併用薬の情報
- 3.質の高いトレーシングレポートの書き方3ポイント
- ポイント① 簡潔にわかりやすく書く
- ポイント② 事実やエビデンスに基づいた内容
- ポイント③ 情報を整理して5W1Hで記載
- 4.トレーシングレポートのひな形と記入例
- 厚生労働省作成のひな形
- 記入例① 高齢者のポリファーマシーの情報提供
- 記入例② ノンコンプライアンスの情報提供
- 5.トレーシングレポートの活用でより適切な処方へつなげよう
1.トレーシングレポートの重要性が高まっている
トレーシングレポートは、薬剤師から医師へと情報や提案を伝える文書です。類似する業務に「疑義照会」がありますが、トレーシングレポートと疑義照会は緊急度の面で明確に異なるため、注意が必要です。ここでは、トレーシングレポートを作成すべき状況や算定できる加算についてご紹介します。
1-1.トレーシングレポートとは
トレーシングレポートは「服薬情報提供書」とも呼ばれています。「緊急性は低いものの、処方医に伝える必要がある」と薬剤師が判断した場合に、医師へ伝達する文書です。トレーシングレポートは、あくまでも次回の処方のための情報提供に用いられます。緊急性が高い内容については、疑義照会が必要です。緊急度に合わせた判断を行いましょう。
1-2.服薬情報等提供料の算定が可能
2020年度の診療報酬改定において、トレーシングレポートの提出は、地域支援体制加算の実績要件として追加されています。また、この改定により地域支援体制加算が35点から38点へと引き上げられました。地域支援体制加算を算定するために、施設基準として「地域医療に貢献する体制を有することを示す実績」が求められます。
この実績を満たすため、「調剤基本料1」を算定している保険薬局では、以下の基準のうち①~③を満たしたうえで、④または⑤を満たすことと定められました。
(1薬局あたりの年間の回数)
①麻薬小売業者の免許を受けていること
②在宅患者薬剤管理の実績 12回以上(※1)
③かかりつけ薬剤師指導料等に係る届出を行っていること
④服薬情報等提供料の実績 12回以上(※2)
⑤薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得した保険薬剤師が地域の多職種と連携する会議に1回以上出席
※1 在宅協力薬局として実施した場合(同一グループ内は除く)や同等の業務を行った場合を含む。
※2 同等の業務を行った場合を含む。
(厚生労働省「令和2年診療報酬改定の概要(調剤)」より)
上記の条件において④を満たすには、トレーシングレポートの提出が地域支援体制加算の実績要件として追加されました。
また、服薬情報等提供料は算定条件の違いによって1と2にわけられています。それぞれ点数が異なるため、条件を確認して正しく加算しましょう。
► 【関連記事】服薬情報等提供料とは?算定要件や算定できる事例・できない事例について解説
さらに、2021年1月の官報号外で、地域連携薬局の基準として、過去1年間に月平均30件以上の医療機関への報告および連絡の実績が必要と発表されました(官報[号外第14号]より)。適切な医療のために、薬剤師から医師への情報提供の必要性が高まっています。
2.トレーシングレポートで伝える内容例
トレーシングレポートに記載する内容は、治療を進めるうえで必要な情報です。薬剤師が遭遇しやすいシチュエーションをいくつか例を挙げて解説します。
2-1.一包化の提案
薬の種類が多くて患者さん自身での管理が難しい場合は、アドヒアランス向上につながるものとして、一包化の提案を行います。一包化によって、認知機能が低下している患者さんや家族が薬の管理をしやすくなるメリットがあります。
2-2.副作用報告
疑義紹介をするほどではないけれど、医師に伝えておいた方がよい体調変化はトレーシングレポートの報告対象です。次回診察時に、処方変更につながる可能性があります。
2-3.用法・用量変更の提案
夕食後と就寝前をまとめるとアドヒアランス向上が見込まれる場合などは、用法変更の提案をしてみましょう。また、仕事や学校といった患者さんのライフスタイルに合わせた用法変更のパターンもあります。薬学的根拠を添えた適切な用法用量や、代替薬を提案すると医師に伝わりやすくなるでしょう。
2-4.残薬調整
残薬が多い患者さんがいる場合、残薬情報を伝え、次回処方で調整してもらいましょう。診察時に「なぜ薬が余ってしまうのか」という会話になれば、処方変更や服薬の重要性についての指導につながる可能性があります。
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2-5.薬の剤形変更
普通錠が飲みにくいという訴えがあれば、OD錠や散剤への変更提案はいかがでしょうか。服薬の負担が軽くなれば、アドヒアランスやQOLが上がる可能性が高まります。
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2-6.併用薬の情報
医師が知らない併用薬や、健康食品などの情報を聞き取った場合は必要に応じて報告しましょう。その内容をもとに、医師が治療方針を考える場合があります。
3.質の高いトレーシングレポートの書き方3ポイント
質の高いトレーシングレポートは、薬剤師の伝えたい内容を医師に正しく伝えるための文書です。ここでは読みやすく、納得してもらえるトレーシングレポートを書くためのポイントを3つお伝えします。
ポイント① 簡潔にわかりやすく書く
読む人にとってわかりやすい文書のポイントは次のとおりです。
・一文に多くの情報を書かない
・要点を明確にする
・丁寧な読みやすい字で書く
トレーシングレポートは薬局と医療機関のコミュニケーションツールです。書き方によっては、不快な気持ちになる医師がいるかもしれません。また、トレーシングレポートは医師への指示ではなく、より良い治療を行うための提案というスタンスを忘れないようにしましょう。
ポイント② 事実やエビデンスに基づいた内容
トレーシングレポートでは、事実を正しく伝えることが重要です。提案の際は、薬剤師の主観ではなく、エビデンスに基づいた意見を述べましょう。
ポイント③ 情報を整理して5W1Hで記載
伝えたい内容を相手にスムーズに伝えるには、5W1Hの手法が役立ちます。5W1Hとは、「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」からなる情報を正しく伝えるためのツールです。伝えるべき内容をこの形に当てはめ、伝わる文章作りを心がけましょう。
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4.トレーシングレポートのひな形と記入例
アドヒアランス不良の原因が異なれば、対処法も変わります。ここでは、実際に筆者が経験した事例も盛り込みながら、薬剤師ができるアドヒアランス向上のポイントを紹介します。
厚生労働省作成のひな形
厚生労働省が公表しているトレーシングレポートのひな形はこちらです。トレーシングレポートには次の情報を記載しましょう。
①日付
②情報提供先の医療機関および医師名
③情報提供元の保険薬局の名称・住所・電話番号
④保険薬剤師名
⑤患者氏名・性別・生年月日
⑥情報提供の内容
⑦処方薬・併用薬や服薬状況など必要な情報
⑧薬剤師からの提案
また、新潟県薬剤師会が作成したひな形は、チェック欄を確認するだけで情報提供の目的が一目でわかる様式になっています。書式を工夫すると、より伝わりやすいトレーシングレポートの作成が可能です。
ほかにも、病院や薬剤師会が作成したひな形には、医師からの返信欄がついたものや、残薬報告、抗がん剤治療に特化した形式があります。公開されているテンプレートや見本を参考に、自分たちの薬局や目的に沿った書式にしましょう。
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記入例① 高齢者のポリファーマシーの情報提供
【処方薬】
・ブロチゾラムOD錠0.25mg
・ラメルテオン錠8mg
・クエチアピン錠100mg
・ドネペジルOD錠5mg
ほか3種類
【併用薬】
・ゾルピデム錠5mg
・トリアゾラム錠0.125mg(不眠時)
ほか4種類
【情報提供の内容】
以前より、高血圧治療のためAクリニックへ通院していました。食欲低下によりB病院(貴院)への入退院を繰り返しておりました。さらに便秘症状がひどくなったため、C医院を受診しています。3つの医療機関からの処方薬は、それぞれ異なる薬局で調剤され、お薬手帳も別々に管理されていました。このたび認知症の進行にともなって在宅医療が導入され、処方の重複がわかりました。
【薬剤師としての提案】
食欲低下は、リセドロン酸・ドネペジルの副作用の可能性があります。骨粗しょう症や認知症の治療に必要な薬剤ではありますが、処方継続の可否についてご検討いただけると幸いです。また、催眠鎮静薬であるブロチゾラム・ゾルピデム・トリアゾラム・クエチアピンは高齢者に特に慎重な投与が必要です。便秘の原因の可能性、および転倒リスクが高まるおそれがございます。骨粗しょう症の場合、骨折に至る可能性もありますので、処方薬の漸減等をご検討いただければと存じます。
参照:厚生労働省「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方 様式事例集(案)」
高齢者は複数の医療機関にかかるケースが多く、医師同士が併用薬を把握できていない場合もあります。必要があれば、トレーシングレポートを用いて医療機関へ情報提供を行いましょう。しかし、緊急性がある場合は疑義照会が必要です。
► 【関連記事】薬剤師が疑義照会をする上で知っておきたいポイントは?疑義照会の事例も紹介
記入例② ノンコンプライアンスの情報提供
【処方内容】
・メコバラミン錠500μg
【情報提供の内容】
脳神経内科よりメコバラミン錠500μgが1回1錠 1日3回で処方されておりますが、自己判断で昼食後分を服用していない模様です。服用するようお話しているのですが、改善にいたりません。
【薬剤師としての提案】
次回診察の際にご確認いただけると幸いです。
参照:安芸薬剤師会「広島市民病院 薬薬連携のしおり」
アドヒアランスの低下があっても、患者さんが医師に伝えていない場合があります。正しい服薬状況を伝えると、より効果的な治療につなげることが可能です。
5.トレーシングレポートの活用でより適切な処方へつなげよう
診察時間は限られており、患者さんがすべての情報を医師に伝えきれないケースがあります。また、患者さんのなかには、医師には直接言いづらいと感じる人もいるかもしれません。薬剤師が気付いた体調変化や、服薬の悩みを医師に伝えると、より適切な処方につなげることができます。トレーシングレポートを活用して効果的な治療に貢献していきましょう。
参考URL
■ 令和2年診療報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省保険局医療課
■ 保険調剤の理解のために(平成30年度)|厚生労働省保険局医療課医療指導監査室
■ トレーシングレポートについて【保険薬局のみなさまへ】|青森県立中央病院
執筆/テラヨウコ
薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。
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