薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2025.08.21 薬剤師のためのお役立ちコラム

門前薬局とは?メリット・デメリットやなくなると言われる理由を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

門前薬局とは、医療機関のすぐ近くにある薬局のことです。本記事では、門前薬局や敷地内薬局の概要、患者さんにとってのメリット・デメリット、薬局や薬剤師にとってのメリット・デメリットについてお伝えします。加えて、門前薬局がなくなるといわれている理由や、薬剤師が門前薬局に就職・転職する際のポイントについてもお伝えします。

1.門前薬局とは

門前薬局とは、病院やクリニックのすぐ近くにある調剤薬局のことで、「○○病院の門前薬局」といった呼ばれ方をします。多くの薬局は、医療機関の近くに開局し、一番近い医療機関で交付された処方箋をメインに調剤を行うでしょう。厚生労働省の資料によれば、約8割の薬局が診療所もしくは病院の近隣に立地しています。
 
参考:薬局薬剤師に関する基礎資料(概要)|厚生労働省
 
ただし、同じ門前薬局でも、総合病院等の前にある薬局と、クリニック等の前にある薬局では、調剤応需の特徴が異なる傾向にあります。
 
一般的に、総合病院などの門前薬局は、門前の病院から交付される処方箋を扱う割合が高く、いわゆる点分業に近い分業形態です。一方、クリニックなどの門前薬局は、門前のクリニックが交付する処方箋がメインとなりますが、在宅医療に参画していたり、門前以外のクリニックから処方箋を受け付けたりすることも多いため、面分業となりやすい傾向にあります。

 

1-1.敷地内薬局とは?

敷地内薬局とは、病院やクリニックの敷地内に設置された薬局のことです。門前薬局と混同されることがありますが、その特徴は異なります。敷地内薬局は、基本的に特定の医療機関の処方箋を取り扱うことを目的としており、医療機関との連携が密に取られています。そのため、治療方針や患者さんの情報を共有しやすいのが特徴です。
 
ただし、敷地内薬局は、薬局に求められる独立性が欠けやすく、医療の最後の砦として十分に機能しているかについて懸念されています。さらに、かかりつけ機能を発揮するのも難しいため、敷地内薬局にはさまざまな課題があるとされています。
 
参考:病院の敷地内に所在する薬局に関する調査について|厚生労働省

 
🔽 敷地内薬局について解説した記事はこちら

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2.門前薬局のメリット

まずは、患者さんが門前薬局を利用するメリットと、薬局や薬剤師のメリットについてお伝えします。

 

2-1.患者さんのメリット

門前薬局は、病院のすぐ近くにあるため、診察後すぐに処方箋を提出できます。薬の受け取りがスムーズな上に、移動の手間が省けるため、体調がすぐれない患者さんにとって利便性が高いといえます。
 
また、門前薬局は、門前の病院が処方する薬剤をあらかじめ在庫していることが多いため、在庫不足によって薬が受け取れない可能性が低いでしょう。
 
さらに、門前薬局は、門前の病院と密に連携を取っているため、医師との情報共有が行われており、処方内容に関する相談や確認がしやすい傾向にあることもメリットです。

 

2-2.薬局や薬剤師のメリット

大学病院や、医療センターなどの総合病院の前にある門前薬局は、定時で終わるところが多いのが大きな魅力です。総合病院は、平日の午後や土曜日に外来診療を行っていない場合もあり、プライベートと仕事のバランスが取りやすいでしょう。
 
また、複数の診療科があると、さまざまな疾患や処方の知識・経験が得やすいのが特徴です。新しい治療方法や新薬、希少疾患について学べる機会があるため、やりがいを感じやすいのではないでしょうか。
 
クリニックの門前薬局は、総合病院の門前薬局に比べて、地域の患者さんとの距離が近くなりやすいのが特徴です。かかりつけ薬局として利用する患者さんも少なくないため、特定の患者さんとコミュニケーションを取る頻度は、総合病院の門前薬局に比べると多い傾向にあります。来局頻度が高くなるほど、患者さんの生活習慣や価値観などを把握しやすいため、患者さんに寄り添った服薬管理・服薬指導ができるでしょう。
 
また、さまざまな医療機関の処方箋に触れることで、より深い知識や豊富な経験を得られることが期待できます。

3.門前薬局のデメリット

続いて、門前薬局における患者さんや薬局・薬剤師のデメリットについてお伝えします。

 

3-1.患者さんのデメリット

門前薬局は、患者さんの利便性においては大きなメリットとなります。しかし、かかりつけ薬局を持っている場合、門前薬局を頻繁に利用すると、処方の変更や追加などの経緯をかかりつけ薬局の薬剤師が把握しにくくなります
 
また、受診する医療機関ごとに薬局を変えると服用歴のチェックに時間を要するため、薬局での待ち時間が長くなることもあるでしょう。服薬指導の際にも、服用歴について詳しい確認が必要となり、来局してから薬を受け取るまでの時間が長くなる可能性があります。

 

3-2.薬局や薬剤師のデメリット

総合病院の門前薬局は効率よく調剤を行うため「投薬」「鑑査」「調剤」「一包化」など、シフトで担当者を決めているケースが多く見られます。必要に応じて担当を代わってもらうこともできますが、基本的には同じ業務を行うため、集中力や体力などを維持するための工夫が必要になるでしょう。
 
また、門前薬局は、医療機関の診療時間に合わせて開局している場合がほとんどのため、勤務時間が門前の医療機関に左右されます。医療機関の昼休みに合わせて休憩時間を取る必要があったり、診療時間が終了するまで閉局できなかったりすることもある点は、デメリットとなる可能性があります。

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4.門前薬局がなくなるといわれている理由

処方箋をもらった患者さんは、病院の近くにある薬局を利用することが多いと考えられますが、昨今は、薬剤師が患者さんの服用薬を一元的・継続的に管理し、服薬サポートを行うことが求められるようになり、かかりつけ薬局の機能が重視されています
 
そのため、政府や薬局が、かかりつけ薬局・薬剤師を持つことを地域住民に周知しており、患者さんは病院の近くにある門前薬局ではなく、自宅近くの薬局へ処方箋を持っていく流れにあります。
 
参考:「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました|厚生労働省
 
加えて、近年、処方箋集中率の高い薬局は、調剤基本料の評価が下がるよう調剤報酬が見直されています。そのため、同じ医療機関からたくさんの処方箋を受けても、人件費に見合った収入が得られない可能性があるでしょう。
 
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省
 
🔽 調剤基本料について解説した記事はこちら


 
こうした薬局に対するニーズの変化が、門前薬局がなくなるといわれている理由です。ただし、薬局の特性上、近隣に医療機関がない場所に開局しても、患者さんは集まりにくい傾向にあるため、経営の観点から医療機関の近くに薬局を開設することが多いのが現状です。
 
門前に病院やクリニックがあったとしても、かかりつけ薬局としての機能を十分に果たすことで、処方箋集中率を下げることができるでしょう。病院の近くに薬局が設置されるケースは多いものの、昔ながらの門前薬局の在り方は次第に薄れつつあるといえます。

 

4-1.今後の薬局に求められること

今後の薬局には、患者さんの立場やニーズを最優先にした医療を提供することが求められるでしょう。「患者のための薬局ビジョン」では、薬局はかかりつけ薬局として患者さんの健康を総合的にサポートする存在へと進化することが期待されています
 
具体的には、以下のような機能が重要視されています。

 

1. 服薬情報の一元的・継続的管理
 ● 患者さんの服薬歴を把握し、副作用や重複投薬を防ぐことで、安全な薬物療法を提供する。
 ● 複数のお薬手帳を発行されている場合は、一冊化、集約化を実施する。
2. 24時間対応・在宅対応
 ● 夜間や休日の電話相談や調剤の対応をする。
 ● 在宅医療の支援を強化し、患者さんの利便性を向上させる。
3. 医療機関との連携
 ● 処方医に対して疑義照会や処方提案を実施する。
 ● 調剤後も、残薬管理や服薬指導を行い、患者さんの状態を処方医へフィードバックする。
 ● 医薬品や健康の相談について対応し、必要に応じて受診勧奨を行う。
 ● 地域の関係機関と連携する。

参考:患者のための薬局ビジョン 概要|厚生労働省
 
これらに加え、健康サポート機能や高度薬学管理機能も求められています。このように、今後の薬局には「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へと役割を広げ、患者さんの健康を総合的に支える存在へと変化していくことが期待されています。

5.薬剤師が門前薬局に就職・転職する際のポイント

薬剤師が門前薬局に就職・転職するのであれば、待遇や職場環境だけでなく、学びたい診療科やどんな薬剤師になりたいのかを考えて転職先を探すことが大切です。
 
総合病院の門前薬局であれば、多岐にわたる診療科の処方や、専門性の高い希少疾患の処方に触れる機会が増えるでしょう。一方、クリニックの門前薬局は面分業の傾向にあり、特定の病院ではなくさまざまな病院の処方箋を扱えるのが特徴です。目指す薬剤師像を描いてから、転職先を選ぶとよいでしょう。
 
働きながらの転職活動は、得られる情報が偏ったり、情報収集に時間が取れなかったりすることもあるでしょう。門前薬局への転職で大切なのは、転職先の情報をたくさん集めることです。
 
転職エージェントを利用すると、効率的に情報収集ができることに加え、未公開の情報も得られます。うまく活用することで、薬局の特徴や働き方、どのような疾患の患者さんがメインなのかといった詳しい情報を得ながら、自分に合った門前薬局を探せるでしょう。

6.理想の薬剤師像を目指せる門前薬局を選ぼう

門前薬局と一口にいっても、門前にある医療機関によって扱う処方箋が異なります。開局時間や患者さんとの関わり方にも違いがあるため、どのような薬剤師になりたいのか、どんな知識や経験を得たいのかを明確にしてから転職先を選ぶことが大切です。理想の薬剤師像を描いてから門前薬局を選ぶことが、転職成功のカギといえるでしょう。

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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。