薬にまつわるエトセトラ 更新日:2024.05.10公開日:2024.04.04 薬にまつわるエトセトラ

薬剤師のエナジーチャージ薬読サイエンスライター佐藤健太郎の薬にまつわるエトセトラ

学べば学ぶほど、奥が深い薬の世界。もと製薬企業研究員のサイエンスライター・佐藤健太郎氏が、そんな「薬」についてのあらゆる雑学を綴るコラムです。

第114回

サイエンスライターとは?専門性を活かした仕事内容と将来性

筆者は、化学・薬学分野をメインとするライターとして働き始め、もう15年以上になります。すると時々、「どうしてライターになろうと思ったのですか」「サイエンスライターになるにはどうすればいいですか」と問われることがあります。ライターという仕事に興味がある方は、それなりに多いのだと思います。
 
特に薬剤師のような高い専門性を持った方なら、その知識を活かした記事は世間的にもニーズがあります。そこで今回は、ライターとはどのような仕事であるのか、筆者の見聞きした範囲で書いてみようと思います。

 

ライターいろいろ

ライターを大きく分ければ、兼業と専業の人がいます。会社や大学に勤務しながら、あるいはYouTuberなどをしながら、文章を書く仕事をしているのが兼業ライターです。
 
ただし会社によっては、兼業禁止というところもあります。副業を認める会社でも、社内の機密漏洩や信用毀損につながることもありえますから、ライター業はできればやめてほしいといわれることもあります。このへんが、会社員ライターには障害となります。
 
筆者の場合は、ほぼ専業のライターということになります。たまに大学で講義をしたり、ドラマの監修などの突発的な仕事をしたりしますが、収入の8~9割は記事や書籍を書くことで得ています。
 
どちらを選ぶかは状況次第でしょうが、やはり専業となるとリスクもありますので、まずは兼業ライターから入るのが現実的でしょうか。
 
ライターになるにもいろいろなルートがあると思いますが、筆者のようなサイエンスライターの場合は主に二通りのパターンに分けられます。新聞記者や雑誌編集者のような人がライターとして独立するケースと、研究者などの専門職から転身するケースです。
 
後者の場合、自分のブログや各種SNSで科学関連の記事を書いているうちに見出され、書籍出版に至るパターンが多いようです。筆者自身もこのケースで、製薬企業で研究員をしながら「有機化学美術館」というサイトを運営していたところ書籍化のお話をいただき、後に退社してフリーランスの書き手に転じました。
 
かつてはいくら文章が書けても、世の人の目に触れる機会は少なかったのですが、ウェブの普及によって埋もれた才能が花開くケースはずいぶん増えました。自分で道を切り開きたい人にとっては、よい時代になったものと思います。

 

サイエンスライターの仕事内容

サイエンスライターにはどういう仕事があるかというと、筆者の場合は「薬+読」のようなウェブ媒体や雑誌などへの連載記事がメインの仕事になります。最近では、書評の仕事の比重が増えてきました。昨今は書籍価格がずいぶん上がっているので、買うなら目利きが選んだ間違いのない本を、という需要があるのだと思います。
 
また筆者の場合、大学などの広報として加わり、研究成果や研究者インタビューを執筆する仕事も、収入のかなりの部分を占めています。研究機関としても、成果をわかりやすく世間に伝えることには苦心していますので、こうした仕事は結構な需要があります。
 
このように大学の研究者と関わることは、メリットが多くあります。数年単位での安定した収入になることはもちろんですが、トップ研究者の話を直接に聞けることは、ライターとして知識を深めるためのまたとない機会となります。ただし、科学の最先端の話を理解し、読者にわかりやすくまとめるというのは、相当に苦心させられるところではあります。

 

サイエンスライターの将来性

ライター業には将来性がないのでは、という声も聞きます。雑誌や新聞は部数が減少して廃刊が相次いでいますし、書籍も一昔前に比べて売れなくなっています。情報は動画から得る人も増えており、文字媒体を閲覧する人は全体として減りつつあるのが現状でしょう。
 
とはいえ、専門家向けの有料サイトなども増えており、書く機会が減っているという感触は個人的にはありません。ニーズに合った商品(文章)を提供できるなら、十分に仕事はあると思います。
 
また、ChatGPTをはじめとした生成系AIの台頭も、ライターの仕事を脅かしています。先ほど書評の仕事がかなりの割合を占めると書きましたが、書籍の内容の要約や紹介くらいであれば、現状のAIでも十分可能です。このままAIが進歩すれば、優れた書評を書けるようになる日も、そう遠くないのかもしれません。
 
ただし、現在のAIは科学的な誤りを平気で犯してしまいます。もちろん今後改善されていくでしょうが、特に医薬品関連など人の生命や健康に関する情報については、なかなか全幅の信頼を置けないでしょう。いわゆるコタツ記事を書くようなライターはAIによって淘汰されるかもしれませんが、専門知識を持つライターの需要はまだしばらくはなくならないと思います。
 
というわけで、もし反響がありましたら次回、さらに具体的なライターの仕事内容などについて書いてみたいと思います。

🔽 サイエンスライターになる方法について詳しく解説した記事はこちら

 
 


佐藤 健太郎(さとう けんたろう)

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。ブログ:有機化学美術館・分館

 

ベストセラー『炭素文明論』に続く、文明に革命を起こした新素材の物語。新刊『世界史を変えた新素材』(新潮社)が発売中。

佐藤 健太郎
(さとう けんたろう)

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。ブログ:有機化学美術館・分館

 

ベストセラー『炭素文明論』に続く、文明に革命を起こした新素材の物語。新刊『世界史を変えた新素材』(新潮社)が発売中。

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