”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2026.09.03 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

 第129回 麦芽(ばくが)も立派な漢方薬!でんぷん質の消化促進&断乳をサポート

麦芽を原料に作られた飲料・食品は身近にたくさんあります。例えば、ビール、ウイスキーといったアルコール類、水飴(あめ)、パン、栄養剤などが挙げられます。子どもの頃に粉末の麦芽飲料を飲んだことがある方も多いでしょう。麦芽はれっきとした漢方薬で、中薬名も同じく、麦芽(ばくが)です。

1. 麦芽(ばくが)とは?

麦芽はビールの原料としておなじみです。精神的な強いストレスにさらされた時に、ビールが信じられないくらいおいしく感じた経験がある方がいらっしゃるかもしれませんが、それには後述する麦芽の中医学的な効能も関係しています。
(だからといって、ビールが健康に良いといっているわけではありません。笑)
 
『中医臨床の中薬学』(東洋学術出版社)によると、麦芽の基原植物は
「イネ科 Gramineaeのオオムギ Hordeum vulgare L.の発芽させた穎果(もみ)」
とあります。

 

麦芽の四気五味(四性五味)とは

中薬・食物(薬食)には、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の四つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」といいます。麦芽は「平性」です。

 

■生薬や食べ物の「四気(四性)」

生薬や食べ物の「四気(四性)」

 

麦芽の四気五味(四性五味)は「平性、甘味」なので、次のような作用があることがわかります。

 

・平性=温めもせず冷やしもしない性質。寒熱の偏りがない。
・甘味=動きを止める→補う作用。(→よどみを生む、よどませる)

 

また、麦芽は「脾・胃・肝のグループ」に作用し、これを中医学では「脾経・胃経・肝経に作用する(帰経する)」と表現します(文献によって諸説あり)。

 

麦芽の分類:消食薬(しょうしょく・やく)

中薬学の書籍では、麦芽は「消食薬(しょうしょく・やく)」に分類されます。「消導薬(しょうどうやく)」とも呼ばれます。
 
消食薬とは、未消化の停滞している飲食物を消化・分解することを主な効能とする薬物です。多くの消食薬が胃の働きを正常化してスッキリさせる作用を持ちます。
 
臨床においては、飲食物がうまく消化されず停滞している「食滞(しょくたい)」がある時に、その人に現れている証(しょう)に合わせて、消食薬と他の中薬(生薬)を組み合わせます。
 
例えば、中焦(ちゅうしょう:おなか)における食滞は、しばしば脾胃の気の滞り(気滞:きたい)をも引き起こします。この場合は、気の巡りを促す理気薬(りきやく)を組み合わせて、膨満感を解消し、消化と停滞の解消を助けます。
 
その他の組み合わせの例としては、以下のようなものがあります。

 

・冷えを伴う場合:おなかを温める薬物(温中:おんちゅう)を加え、寒邪(かんじゃ)による停滞を解消します。
・食滞により熱が生じた場合:苦寒薬(くかんやく)を加えて熱を冷まし、停滞を排出します。
・湿濁(しつだく、湿邪よりさらによどんで濁ったようなイメージ)がある場合:芳香性のある中薬を組み合わせて湿邪(しつじゃ)を除き、脾の働きを活性化させます。

 

ただし、脾胃が虚弱で運化(うんか)機能が低下している場合には、消食薬の効能だけでは不十分です。この場合は脾を補い、胃を調えることを主として治療します。

2. 麦芽にはどんな時に用いられるのか(使用例)

麦芽には、消化に関わる「行気消食(こうき・しょうしょく)」「健脾開胃(けんぴ・かいい)」「疏肝(そかん)」、および「回乳(かいにゅう)」「通乳(つうにゅう)」の効能があります。

 

■ 行気消食&健脾開胃(&疏肝)は、消化器系のトラブルの話
・飲食物の消化不良を解消する:消食化滞(しょうしょく・かたい)
・消化器系の働きを助けて胃をスッキリさせる:健脾開胃
・肝脾不和による消化器系の不調に用いる:疏肝
 
■ 疏肝&回乳&通乳は、乳房系のトラブルの話
・肝気鬱結(かんきうっけつ)による乳房の脹痛を改善する:疏肝
・母乳の断乳を手助けする:回乳
・乳汁鬱滞(にゅうじゅううったい)による乳房の脹痛に用いる:通乳

 

(1)胃もたれなど飲食物の消化不良・胃腸虚弱・ストレスで消化器系が弱っている時に

麦芽は消化不良、食欲不振、膨満感などに用いられます。飲食物の中でも特に、米、小麦粉、イモ類といったでんぷん質の消化を助けます。
 
食べ過ぎ・胃もたれ・ゲップ・酸っぱいものが上がってくる(吞酸:どんさん)・腹部膨満感・食欲不振など、「食積」と呼ばれる消化不良の状態に対して、飲食物や薬物の消化吸収・排泄をスムーズにするため、山査肉(さんざにく・サンザシ)、神曲(しんぎく)、鶏内金(けいないきん)などと組み合わせてよく使用されます。
 
【方剤例】保和丸(ほわがん)・焦三仙(しょうさんせん)
日本で保和丸は製品化されていませんが、中国では超がつくほどメジャーです。焦三仙は、日本でも似たものが製品化されてエキス顆粒剤があります。

 

・脾胃虚弱による消化不良に

自分の体質に合った飲食をしていても、脾胃虚弱な人は、気温や気圧の変化、ストレス、その時のコンディションなどによって消化不良を起こしてしまうことがあります。
 
そうした時には、脾胃の働きを補う漢方薬とともに、麦芽のような消食薬を少しずつ飲むのも良いでしょう。あるいは、消化不良時の頓服としても活用できます。

 

・肝脾不和(かんぴ・ふわ)による不調に

麦芽には疏肝(そかん)作用もあり、肝気鬱結や肝脾不和といった状態にも補助的に用いられます。
 
「疏肝」とは、肝の気の巡りを良くするという意味です。ストレス・不満・緊張など、多分に精神的な負荷がかかることが原因で、肝気の巡りが悪くなり、鬱滞して結んでしまった!という状態を中医学では「肝気鬱結」、略して「肝鬱」といいます。
 
そして、肝気鬱結が脾胃に影響して消化吸収機能が乱れてしまい、肝気鬱結の症候とともに消化器系の不調も同時に現れることを、中医学では「肝脾不和」「肝胃不和」といいます。
 
ここまでをまとめると、麦芽は次のような食積に用いられます。
 
・なんとなく胃がもたれるとき
・食べ過ぎによる消化不良
・でんぷん質の摂り過ぎによる胃もたれ
・胃腸虚弱で消化不良を起こしやすいとき
・漢方薬の消化吸収を助けたいとき
・ストレスによる食欲不振や消化不良

 

(2) 乳房の脹痛&母乳の断乳&乳汁鬱滞など、乳房のトラブルに

まずは、「回乳」と「通乳」という、二つの用語から説明させてください。
 
・「回乳」とは、「乳汁分泌の消退」「乳汁分泌の抑制」といった意味です。例えば、授乳期を終えるために母乳の分泌を人為的に抑制して、断乳・卒乳をスムーズに促すことをいいます。
・「通乳」とは、母乳の分泌を促し(催乳)、乳腺の通りを良くする、といった意味です。
 
これらのことから、麦芽は、
 
・肝経や胃経の気の巡りを良くし、
・肝の気滞や胃の気滞による不調を改善し、
・肝経や胃経の通り道である乳頭・乳房あたりに作用し、
・乳汁の分泌を調整したり(回乳&通乳)、
・乳房の脹痛を改善したりする
 
らしいということがわかります。

 

麦芽の疏肝作用で、痛みも気分もスッキリ!

月経前の胸の張りや痛みをともなう、イライラ、憂うつ感などの肝気鬱結による症状に、疏肝理気(そかんりき)の漢方薬とともに麦芽を組み合わせて用いたりします。炒麦芽は特に月経前症候群(PMS)の胸の脹りに用いられます。
 
はじめに触れたように、ストレスや緊張が強い時にビールがおいしく感じるのは、中医学では麦芽や炭酸の疏肝作用(気の巡りを整える働き)が関係するからと考えられています。しかし、アルコールは肝臓に負担をかけますし、精神的ストレスの本質的な解決にはなりません。
 
シュワっとしたのどごしを楽しみたい時・疏肝したい時には、常温の炭酸水を飲んでみてください。柑橘の疏肝作用も期待できる柚子・シークワーサーを加えるのも良いですね。

 

麦芽は加工方法によって使い方が違う?

麦芽は、焙煎具合によって「生麦芽(せいばくが・なまばくが)」「炒麦芽(いりばくが)」「焦麦芽(しょうばくが・こがしばくが)」に分けられます。ここでは、前者二つについてお話しします。
 
それぞれ中医学的に異なる効能を持つとされていますが、諸説あるテーマですので、内容には一部不確定な部分も含まれることをご留意ください。

 

◆生麦芽:発芽した大麦を乾燥させたもの。
効能:健脾和胃・疏肝行気・通乳。
応用:脾虚少食(脾が弱くて食が少ない)や乳汁鬱積に用いる。
消化を助けるとともに、肝の気の巡りを良くする働きがあり、ストレスや脾胃の弱さによる食欲不振や胃腸虚弱に用いる。そのほか、乳汁鬱積に対して母乳の滞りを和らげる目的で用いられる。母乳の分泌不足に対して母乳の分泌を促し、乳腺の通りを良くする。
 
◆炒麦芽:生麦芽をきつね色になるまで軽く炒ったもの。
効能:行気・消食・回乳。
気の巡りを良くし、消化を助けつつ、母乳の分泌を抑える(回乳)働きがある。
食べ過ぎによる消化不良に活用されるほか、授乳期の断乳(乳汁分泌の抑制)・断乳時の乳房の張りや痛みの緩和・女性の生理前後の不調のケア・そのほか月経トラブルなどに広く使われる。

 

書籍によっては「回乳に生麦芽を用いる」とありますが、近年では、生麦芽は催乳効果も有するとの見解もあります。回乳効果を期待する場合、生麦芽は極めて大量(150g/日以上)を服用する必要がありますが、炒麦芽は比較的に少量でも回乳効果があらわれるといわれています。

 

高プロラクチン血症に用いられる炒麦芽

乳腺の発達や乳汁の産生を促す働きがあるプロラクチン(PRL)には、排卵を抑制する作用があります。授乳中のPRL値は高いものですが、これによって自然な排卵は抑制され、月経が再開しにくくなっています。
 
しかし、妊娠してなくても、何らかの原因でPRLが高値になることがあります。これを「高プロラクチン血症」と呼び、無月経や無排卵月経、月経不順などの月経異常、無排卵などによる不妊症、妊娠していないのに乳汁が出るといった不調を引き起こします。
 
中医学では、昔から炒麦芽には回乳作用(乳汁分泌の消退)があることが知られ、高プロラクチン血症に用いてみると、高い確率で改善に向かうことがわかってきました。
 
さらには、高プロラクチン血症や肝気鬱結による、基礎体温の激しい変動(基礎体温表のギザギザの波が激しい)を安定させるのにも一役買います。
 
高プロラクチン血症・不妊症・月経前症候群などの原因は中医学的にさまざまで、人によって根本治療が異なります。自分にとって必要な体質改善・根本治療のための漢方方剤に、炒麦芽をプラスして対処するとよいでしょう。

 

麦芽 消化促進&#断乳をサポート ビールの原料でおなじみ!でんぷん質の消化が得意です。

3. 麦芽の効能を、中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている麦芽の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

麦芽(バクガ)

【分類】
消食薬

【処方用名】
麦芽・生麦芽・炒麦芽・焦麦芽。

【基原】
・イネ科 Gramineaeのオオムギ Hordeum vulgare L.の発芽させた穎果(もみ)。

【性味】
甘、平。

【帰経】
脾・胃・肝。

【効能】
消食和中(しょうしょく・わちゅう)・回乳(かいにゅう)。

【応用】
1. 食積(食べ過ぎによる停滞)、消化不良、食欲不振、脘悶腹脹(かんもんふくちょう)などの証に用いられる。本品はでんぷん質の消化を助け、特に米、小麦粉、ジャガイモ、サトイモなどの食物による停滞に活用される。山査肉(さんざにく)、神曲(しんぎく)、鶏内金(けいないきん)などと組み合わせて、よく使用される。脾胃虚弱により運化(消化吸収・代謝機能)が低下している場合、補脾益気(脾を補い気を益す)の処方に加えることで、補益薬による停滞を防ぐことができる。
 
2. 婦女の断乳や、乳汁の鬱積による乳房脹痛の証に用いられる。麦芽には回乳の効能がある。毎日、生麦芽と炒麦芽を(各30~60g)煎じて数回に分けて服用すると一定の効果がある。
 
このほか、本品は疏肝(そかん)作用があり、肝気鬱結や肝脾不和の証において補助薬として用いる。

【臨床使用の要点】
麦芽は甘平で、主に消散に働いて消食・各肝化滞・回乳の効能をもち、兼ねて健和胃する。宿食不消の院問腹服・肝気不の脇脱服・乳汁酵積による乳房痛に用い、消食の面では米・麺・薯・芋などでんぷん質の積滞に適する。

【用量・用法】
・10~15g;大量使用時は30~120g。

【使用上の注意】
・授乳中の使用には適さない。『中薬学』(上海科学技術出版社)
・回乳に働くので、授乳期には使用しない。『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
 
※【分類】【処方用名】【基原】【臨床使用の要点】【使用上の注意】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に引用/【分類】【性味】【帰経】【効能】【応用】【用量・用法】【使用上の注意】は『中薬学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの

 

麦芽は、消食(でんぷん質の消化促進)・健脾開胃(消化器系の働きを助け胃をスッキリさせる)・疏肝(肝の気の巡りをよくする)・回乳(乳汁分泌を抑える)・通乳(乳汁鬱滞を改善する)のほか、月経前症候群(特に胸の脹り)の改善などの作用があり、ただの穀物かと思いきや、消化器系の味方・おっぱいの味方として頼もしい存在です。

4. 麦芽の注意点

前述のとおり、麦芽には回乳の作用があります。乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンを低下させる作用・断乳作用があるため、授乳期に授乳したい時には適しません。

5. 中薬としての麦芽はどこで買える?

麦芽は、日本では食品扱いとなります。炒麦芽を含むエキス製剤は漢方薬局などで販売されています。老舗の漢方問屋さんなどで取り扱われている中薬としての炒麦芽も、同じく漢方薬局にあります。
 
何を目的として使用するかや体質によって、剤型・使用方法・量・組み合わせる生薬などが異なります。詳細は購入先の中医学の専門家に相談して決めると良いでしょう。

 
 
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光迪(著)、小金井 信宏(翻訳)『中薬の配合』東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健(編集)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之(編集)『方剤学』上海科学技術出版社 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・内山恵子(著)『中医診断学ノート』東洋学術出版社 2002年
・叢法滋(監修)『炒麦芽』
・百度百科『生麦芽』
・ウチダ和漢薬『生薬の玉手箱|バクガ(麦芽)
・尹沁怡・陈清光・许嘉慧・王竞挺・陆灏(著)『麦芽治疗高泌乳素血症的临床认识及研究进展』上海中医药杂志 2023年 第57卷 第3期 Shanghai J Tradit Chin Med,Vol.57,No.3,Mar. 2023

 
 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/