薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2025.11.19 薬剤師のためのお役立ちコラム

薬剤師に将来性がないって本当?現状やAIによる影響について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

昨今、薬剤師の将来性が懸念されることがあります。資格取得までに多大な努力をしたにもかかわらず、安定した職業とされていた薬剤師が今後に不安を抱かざるを得ないのは、深刻な状況といえます。では、薬剤師の将来性について、なぜ悲観的な考えが聞かれるようになったのでしょうか。本記事では、薬剤師の将来性がないと危惧される理由や、薬剤師の仕事はAIに代替されるのかについて解説するとともに、職場ごとの将来性や今後の薬剤師の役割、薬剤師に求められることをお伝えします。

1.薬剤師は将来性がない?

薬剤師の将来性が懸念される理由のひとつに、需要と供給のバランスの変化が挙げられます。厚生労働省が公表している「2022(令和4)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、2022年時点での薬剤師の人数は32万3,690人、人口10万人当たりの平均薬剤師数は259.1人です。
 
また、同じく厚生労働省が公開している「第2回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」の資料「デジタルを用いた多職種連携強化と薬局薬剤師に期待される役割~イギリスの事例を参考に~」によると、日本の人口当たりの薬剤師数は、国際的に見ても突出して多いとされています。
 
さらに、厚生労働省が公開している資料「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ(提言概要)」によれば、薬剤師国家試験の合格者数が今後も近年と同程度に維持される場合、薬剤師の人数は2045年に約45万8000人となり、供給が需要を上回ると推計されています。
 
2025年9月時点における「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」の常用(パート含む)の有効求人倍率は1.87倍と、全職業計の有効求人倍率(1.10倍)より高いものの、前述のとおり、将来的には薬剤師の人数が過剰になるという予測があることから、「薬剤師であれば就職に困らない」という状況は変化する可能性があるといえるでしょう。
 
参考:一般職業紹介状況(令和7年9月分)について 参考統計表|厚生労働省

 
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2.薬剤師の仕事はAIに代替される?

薬剤師の将来性が懸念されるもうひとつの理由が、業務の機械化とAI技術の導入です。薬剤師の仕事としては、調剤や処方鑑査、服薬指導、薬歴管理などが挙げられます。これらの仕事の中には事務的な作業が含まれており、AI技術の導入によって自動化が可能なため、将来的に薬剤師の仕事はAIに代替されてしまうのではないかと危惧されることがあります。
 
しかし、薬剤師は人の命に関わる重要な業務を担う専門的職業であり、責任を持って最終的な確認や判断、決断を行うことが求められるため、薬剤師の仕事にはAIにすべてを任せられないものが数多くあるといえます。
 
内閣府が公開している資料「世界経済の潮流 2024年 I AIで変わる労働市場」でも、薬剤師は「事務的タスクのシェアが大きいものの、意思決定の重要性が高く、AI任せとすることが社会的に望ましくない職業(AIの影響が大きく、補完性の高い職業)」に区分されると示されています。
 
対物業務については、AIによる代替が可能なものがありますが、近年は対人業務を中心に取り組む流れにあり、現時点で薬剤師の仕事がすべてAIに代替されることは考えにくいといえるでしょう。

 
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3.職場ごとの薬剤師の将来性

続いて、職場ごとの薬剤師の将来性について考えていきましょう。

 

3-1.薬局薬剤師の将来性

薬局薬剤師は、病院薬剤師と比較しても人数の増加率が大きいものの、就業する地域の偏在が課題となっています。
 
厚生労働省の資料「医療提供体制等について」によると、薬剤師の就業先は人口の多い都市部に集中しているというデータが示されており、薬局薬剤師は自治体人口の少ない地域ほど不足しやすい傾向にあります。
 
在宅医療や健康管理支援など薬局薬剤師の役割は多様化しており、今後も地域によっては薬局薬剤師の需要が高くなると考えられます。

 
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3-2.病院薬剤師の将来性

同じく「医療提供体制等について」によれば、病院薬剤師も薬局薬剤師と同様に、薬剤師の就業先は人口の多い都市部に集中しています。
 
また、薬局薬剤師は18都道府県で薬剤師偏在指標(地域ごとに業種や年齢を考慮した地域で提供されている薬剤師の労働量÷地域住民の年齢構成などで推計した地域に必要な薬剤師サービスを提供するための業務量)が1.0を超えている一方、病院薬剤師は1.0を超える都道府県がないと示されており、全国的に薬局薬剤師と比べて病院薬剤師の不足感が大きいことを表しています。

 
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3-3.ドラッグストア薬剤師の将来性

経済産業省の商業動態統計調査の速報によると、ドラッグストアの店舗数は年々増加しており、2022年には18,429店舗だったのが、2025年9月には20,216店舗まで増えていることが分かります。前年同月比で見ると、調剤医薬品、OTC医薬品、健康食品などの販売額も増加しており、ドラッグストアの需要は高まっているといえます。
 
参考:商業動態統計速報 2025年9月分|経済産業省
 
こういった背景から、地域住民の健康を支えるドラッグストア薬剤師の需要も高まっていくと考えられがちですが、厚生労働省の資料「2022(令和4)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、「店舗販売業に従事する薬剤師」の人数は、2020年の前回調査よりも減少しています。
 
この要因のひとつに、要指導医薬品や第一類医薬品を扱わないドラッグストアは、登録販売者を配置することで販売要件を満たせることが挙げられます。そのため、こういったドラッグストアについては、薬剤師の需要が下がる可能性があります。
 
一方、調剤併設型ドラッグストアについては、調剤業務や要指導医薬品・第一類医薬品の取り扱いのために薬剤師が必要です。調剤医薬品やOTC医薬品、健康食品などの販売額が増加していることからも、引き続きドラッグストア薬剤師の需要は高いと考えられるでしょう。

 
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3-4.企業薬剤師の将来性

企業薬剤師とは、製薬会社や医療関連企業などで働く薬剤師のことです。医薬品の研究や開発、品質管理、安全性情報、学術、営業などさまざまな部署があり、配属先ごとに業務が異なります。厚生労働省の資料「2022(令和4)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、医薬品関係企業で働く薬剤師の数は、2020年の前回調査から約5%減少しています。
 
特に営業職であるMRは減少が顕著で、MR認定センターの資料「2025年版MR白書-MRの実態および教育研修の調査-」によると、2014年から2024年の10年間で約2万人も減っており、薬剤師資格を有するMRの人数も大きく減少しています。

 
🔽 MRについて詳しく解説した記事はこちら

 

ただし、製薬企業ではMR以外にも安全性情報管理や臨床開発など、薬剤師としての専門性を生かせる職種があります。そのため、医療英語やデータリテラシーなどのニーズが高いスキルを持つ薬剤師の需要は引き続きあると考えられるでしょう。

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4.薬剤師の役割は今後どのように変化する?

薬剤師の役割については、2025年の薬機法改正でも今後の方向性が示されています。質の高い薬剤師を育成するための課題を踏まえ、薬学教育のあり方も変化していくことでしょう。ここでは、薬剤師の役割と薬学教育における今後の変化について解説します。

 

4-1.薬剤師の役割の変化

少子高齢化によって医療需要が増加していることから、薬剤師は対人業務を中心に医療に貢献することが求められています。薬剤師による対人業務の時間を確保するため、2025年の薬機法改正では、調剤業務の一部外部委託が認められました。一包化などの定型的な業務について、基準を満たす場合に外部委託が可能になります。
 
また、濫用の恐れがある一般用医薬品の販売については、薬剤師による必要事項の聞き取りや情報提供などが義務化され、販売方法や陳列についても規定されています。一般用医薬品を販売する薬局やドラッグストアの薬剤師は、薬機法改正に伴うルール変更を把握し、安全・安心な医療を提供できるよう備えておく必要があるでしょう。
 
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省

 
🔽 2025年薬機法改正について詳しく解説した記事はこちら

 

4-2.薬学教育における変化

私立大学薬学部の志願倍率や入学志願者数は減少傾向が続いており、薬学教育の質を保証するための対策が検討されています。将来的に薬剤師の数は需要を上回ると予測されていることから、入学定員数を抑制しつつ質の高い薬剤師を育成するとともに、地域や業態などによる薬剤師の偏在解消に向けた取り組みが行われています。
 
また、文部科学省の資料によると、日本の創薬力の変化について全国81薬学部を対象に調査したところ、86%の薬学教育責任者が「低下している」と回答しています。創薬分野におけるトップ10%論文数の国際シェア順位も低下していることから、日本の創薬力を向上させるための人材育成についても、今後、計画的な取り組みが実施されていく予定です。
 
参考:新薬剤師養成問題懇談会(第24回) 資料1 薬学教育及び薬剤師に関する状況|文部科学省

5.今後の薬剤師に求められること

将来的な薬剤師の飽和が予想される中で、薬剤師として働き続けるためには、さらなるステップアップが必要です。ここでは、これからの薬剤師として身に付けておきたい4つのスキルを紹介します。スキルという強みを持ち、今よりも一歩進んだ薬剤師を目指しましょう。

 

5-1.専門性を高める

これからは高度な薬学的貢献のため、より専門性の高い薬剤師が必要とされる時代です。認定薬剤師や専門薬剤師などの資格の有無が、薬剤師の評価に大きく関わってくる可能性があるでしょう。特に、認定薬剤師は、かかりつけ薬剤師になるための条件となっているため、取得しておきたい資格です。

 
🔽 かかりつけ薬剤師について詳しく解説した記事はこちら

 

認定薬剤師や専門薬剤師の資格取得には、多くの場合、専門医療機関での実務経験などが必要とされます。いつか専門資格を取得したいと考えているならば、専門医療機関への就職・転職を視野に入れた活動を始めましょう。

 

5-2.在宅医療・緩和ケアの知識や経験を積む

超高齢社会が進むにつれて、在宅医療や緩和ケアの需要がさらに高まっています。また、在宅医療に関する診療報酬の算定点数が上がっていることも、薬局や病院が在宅医療へ参入する後押しとなっている理由のひとつです。
 
在宅医療や緩和ケアのスキルは、薬剤師として働く上で大きなメリットとなるため、積極的に経験を積み、知識を増やしましょう。

 
🔽 在宅医療における薬剤師の役割について詳しく解説した記事はこちら

 

5-3.コミュニケーション能力を高める

AIによって調剤業務が代替されるようになった場合、薬剤師は今まで以上に対人業務が重要になると考えられます。患者さんの不安や悩みに寄り添った服薬指導や健康相談、在宅医療における業務は、AIだけでは対応できません。そのため、コミュニケーションを主とした薬剤師の働きは今後も期待されるでしょう。むしろ、調剤などの業務が自動化されることにより、薬剤師本来の職能が生かせるチャンスが到来しつつあるといえます。
 
また、患者さんだけでなく、在宅医療や介護の現場では他の医療従事者や介護スタッフとの連携も大切です。相手の立場を尊重したコミュニケーションで、信頼される薬剤師になれれば、スムーズなチーム医療の提供が可能になります。

 

5-4.マネジメント力を身に付ける

チームの仕事を滞りなく遂行し、現場スタッフをまとめる力がある人は、組織の中で重宝されるでしょう。昨今はマネジメントスキルに関する書籍も多く出版されているほか、会社によってはマネジャー養成のための研修を行っているところもあります。将来的に薬局や組織の管理者を目指す人は、マネジメントを学ぶのもおすすめです。
 
しかし、マネジャーとなるには薬剤師として一定以上のスキルを求められることが多いため、まずは経験と知識の積み重ねが不可欠です。

6.今こそ薬剤師としてステップアップするチャンス

これまでは「薬剤師は資格職だから安泰」といわれることが多かったかもしれません。しかし、薬局業務の機械化・AI導入や、将来的な薬剤師の需要と供給のバランスを考えると、今後はやや厳しい時代が到来する可能性は否めません。これからは、薬剤師としての専門性を高めることに加え、対物から対人へ業務内容の切り替えが必要です。
 
また、スキルを磨くことで自身の市場価値が上がり、企業にとって欠かせない人材になれます。「薬剤師には将来性がない」と懸念される今こそが、薬剤師の職能を生かせる大きなチャンスと捉えて、ステップアップの機会にしていきましょう。

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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。