1.後発医薬品使用体制加算とは?
後発医薬品使用体制加算とは、入院基本料等加算のひとつで、後発医薬品の品質、安全性、安定供給体制といった情報を収集・評価した上で後発医薬品の採用を決定する体制が整備されている医療機関を評価するものです。
医療費抑制に向け、後発医薬品の使用を推進することを目的として、2010年度の診療報酬改定で導入されました。
後発医薬品の使用割合やカットオフ値の基準値をクリアするなどの施設基準を満たすことで、入院患者さんに対して算定できる加算であり、入院施設がない医療機関や薬局では算定できません。
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参照:平成22年度診療報酬改定の概要【医科診療報酬】|厚生労働省
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第503回) 資料 個別事項(その8) 後発医薬品について|厚生労働省
1-1.2024年度診療報酬改定における変更点
近年、後発医薬品の製造販売業者の業務停止などをきっかけとして、後発医薬品の供給停止・出荷調整が相次ぎ、医療機関や薬局における医薬品の安定供給が困難となっています。
🔽 後発医薬品不足の背景について解説した記事はこちら
そういった状況で患者さんが適切な治療を受けるためには、供給状況に応じた治療計画の見直しや患者さんへの十分な説明が必要です。
そこで、2024年度の診療報酬改定では、後発医薬品使用体制加算の施設基準に以下の要件が追加されました。
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【個別改定事項(Ⅱ)】|厚生労働省
また、後発医薬品使用体制加算1・2・3の点数が、それぞれ40点ずつ加点されています。
区分 | 改定前 | 改定後 |
---|---|---|
後発医薬品使用体制加算1 | 47点 | 87点 |
後発医薬品使用体制加算2 | 42点 | 82点 |
後発医薬品使用体制加算3 | 37点 | 77点 |
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【個別改定事項(Ⅱ)】|厚生労働省
1-2.後発医薬品調剤体制加算との違い
後発医薬品使用体制加算と類似した名称の加算として、調剤薬局が対象となる調剤報酬の「後発医薬品調剤体制加算」があります。
後発医薬品調剤体制加算とは、後発医薬品使用体制加算と同様、後発医薬品の使用を推進し、医療費の増大を抑えることを目的として設けられた調剤基本料の加算です。
後発医薬品使用体制加算と後発医薬品調剤体制加算の主な違いとしては、点数や施設基準となっている後発医薬品の使用割合の基準が挙げられます。
後発医薬品使用体制加算は、後発医薬品の使用割合が75%以上の場合に77点・82点・87点のいずれかを算定できます。
一方、後発医薬品調剤体制加算を算定するには、後発医薬品の使用割合が最低でも80%必要であり、点数は21点・28点・30点です。後発医薬品使用体制加算と比較すると、算定に必要な使用割合が高く、算定できる点数は少なくなっています。
さらに、調剤基本料には、後発医薬品の使用割合が一定以下になった場合の減算要件が設けられています。
参照:調剤報酬点数表|厚生労働省
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
🔽 後発医薬品調剤体制加算について解説した記事はこちら
1-3.外来後発医薬品使用体制加算との違い
後発医薬品使用体制加算と同じく、後発医薬品の使用を推進するための加算として、「外来後発医薬品使用体制加算」があります。
外来後発医薬品使用体制加算とは、施設基準を満たした診療所において算定可能な処方料の加算で、1処方につき5点・7点・8点のいずれかを算定できます。
後発医薬品使用体制加算と同じく、医薬品の安定供給に関する取り組みを評価するために、2024年度の診療報酬改定において点数や施設基準の見直しが行われました。
後発医薬品使用体制加算と外来後発医薬品使用体制加算の主な違いは、算定対象となる患者さんや点数です。後発医薬品使用体制加算は、入院患者さんに対して、77点・82点・87点のいずれかを算定します。
一方、外来後発医薬品使用体制加算は院内処方を行っている診療所の患者さんを対象としており、後発医薬品の使用割合に応じて5点・7点・8点を算定します。
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【個別改定事項(Ⅱ)】|厚生労働省
2.後発医薬品使用体制加算の点数・算定要件
後発医薬品使用体制加算は、施設基準を満たした医療機関の入院患者さんに対して入院初日に限り算定できます。
1・2・3の区分があり、医療機関で調剤した後発医薬品の使用割合によって算定できる点数が異なります。使用割合の基準と点数は、以下のとおりです。
区分 | 後発医薬品の 使用割合 |
点数 |
---|---|---|
後発医薬品使用体制加算1 | 90%以上 | 87点 |
後発医薬品使用体制加算2 | 85%以上 90%未満 |
82点 |
後発医薬品使用体制加算3 | 75%以上 85%未満 |
77点 |
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
3.後発医薬品使用体制加算の施設基準
後発医薬品使用体制加算の算定にあたっては、以下に挙げる施設基準を満たす必要があります。
(2)医療機関で調剤した後発医薬品のある先発医薬品および後発医薬品の規格単位数量に占める、後発医薬品の規格単位数量の割合が一定基準を満たしていること
(3)医療機関で調剤した医薬品の規格単位数量に占める、後発医薬品のある先発医薬品および後発医薬品を合算した規格単位数量の割合(カットオフ値)が50%以上であること
(4)入院および外来において後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用に積極的に取り組んでいる旨を入院受付や外来受付、支払窓口などの見やすい場所に掲示していること
(5)医薬品の供給不足の際、医薬品の処方変更などに関して適切な対応ができる体制が整備されていること
(6)上記の体制に関する事項とともに、医薬品の供給状況によっては処方する医薬品が変更となる可能性がある旨、また変更時には患者さんに十分に説明をする旨を医療機関の見やすい場所に掲示していること
(7)上記の掲示事項について、自ら管理するホームページなどがない場合を除き、原則としてウェブサイトに掲載していること
参照:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
3-1.後発医薬品使用体制加算の施設基準の届出
後発医薬品使用体制加算を算定するには、施設基準を満たしていることを証明する届出を行わなければなりません。
届出の際には、様式40の3「後発医薬品使用体制加算の施設基準に係る届出書添付書類」に以下の内容を記載の上、「後発医薬品の採用について検討を行う委員会等の名称、目的、構成員の職種・氏名等、検討する内容、開催回数等を記載した概要」を添付し、医療機関の所在地を管轄する各厚生局都道府県事務所などへ提出する必要があります。
● 後発医薬品の使用を促進するための体制の整備
● 医薬品の使用状況
● 医薬品の供給が不足した場合に適切に対応する体制の有無
なお、施設基準のうち、掲示事項のウェブサイト上への掲載については、2025年5月31日まで該当するとみなされる経過措置が設けられています。
参照:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
参照:令和6年度診療報酬改定について|厚生労働省関東信越厚生局
4.後発医薬品使用体制加算の計算方法
後発医薬品使用体制加算を算定するためには、先述した後発医薬品の使用割合の基準を満たす必要があります。後発医薬品の使用割合を求める計算方法は、以下のとおりです。
4-1.カットオフ値の計算方法
後発医薬品使用体制加算を算定するには、後発医薬品の使用割合の基準を満たすとともに、カットオフ値が50%を超えていなければなりません。カットオフ値の計算方法は、以下のとおりです。
4-2.除外品目
後発医薬品の規格単位数量の割合を算出する際、以下の医薬品は除外されます。
エレンタール配合内用剤、エレンタールP乳幼児用配合内用剤、エンシュア・リキッド、エンシュア・H、ツインラインNF配合経腸用液、ラコールNF配合経腸用液、エネーボ配合経腸用液、ラコールNF配合経腸用半固形剤及びイノラス配合経腸用液
● 特殊ミルク製剤
フェニルアラニン除去ミルク配合散「雪印」及びロイシン・イソロイシン・バリン除去 ミルク配合散「雪印」
● 生薬(薬効分類番号510)
● 漢方製剤(薬効分類番号520)
● その他の生薬及び漢方処方に基づく医薬品(薬効分類番号590)
参照:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
4-3.後発医薬品の出荷停止などを踏まえた臨時的な取扱いについて
後発医薬品の供給停止・出荷調整によって、医療機関では後発医薬品を十分に確保できずに先発医薬品を使わざるを得ないケースが増えています。そのような状況では、施設基準となっている後発医薬品の使用割合を達成するのは困難でしょう。
そこで、供給不足が続いている状況を考慮し、厚生労働省から事務連絡「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が発出されています。
本連絡では、後発医薬品使用体制加算の施設基準である後発医薬品の使用割合を算出する際、一部の供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品を算出対象から除外してもよいこととされました。ただし、カットオフ値の算出は本連絡の対象とならないため、注意が必要です。
記事執筆時点において、直近では2024年9月24日に発出されており、2025年3月31日までが本取扱いの有効期間です。これまでにも複数回発出されているため、有効期間が過ぎた後に同様の取扱いができるか知りたい場合には、厚生労働省のウェブサイトなどを確認するとよいでしょう。
参照:後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて(令和6年9月24日)|厚生労働省
参照:後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて|関東信越厚生局
参照:薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について|厚生労働省
5.2024年度診療報酬改定における変更点を理解して、正しく算定しよう
後発医薬品使用体制加算は、後発医薬品の品質、安全性、安定供給体制などの情報を収集・評価し、その結果を踏まえて後発医薬品の採用を決定する体制を整備している医療機関を評価する加算です。
後発医薬品の供給停止・出荷調整が相次いでいる状況を受け、2024年度の診療報酬改定では、施設基準の見直しと点数の変更が行われました。
また、厚生労働省から発出された「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」では、供給不足が続いている状況を考慮して、施設基準である後発医薬品の使用割合を算出する際、一部の供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品を算出対象から除外してもよいこととされています。
2024年度診療報酬改定における変更点や出荷停止を踏まえた臨時的な取扱いについても理解して、後発医薬品使用体制加算を正しく算定しましょう。
🔽 2024年度調剤報酬改定について解説した記事はこちら
🔽 病院薬剤師に関連する診療報酬について解説した記事はこちら
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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