周術期薬剤管理加算は、手術室薬剤師の業務を評価したものです。本記事では、周術期薬剤管理加算の概要や点数・算定要件、施設基準、疑義解釈を踏まえた算定時の注意点について解説するとともに、薬剤師の周術期薬剤業務についてもお伝えします。
1.周術期薬剤管理加算とは?
周術期薬剤管理加算とは、手術室の薬剤師が病棟薬剤師などと連携して、周術期の薬物療法が安全に実施されるよう取り組むことを評価したものです。
2022年度の診療報酬改定で、麻薬管理料(Ⅰ)(Ⅱ)の加算として新設されました。
参照:令和4年度診療報酬改定の概要 入院Ⅰ(急性期・高度急性期入院医療)|厚生労働省
2.周術期薬剤管理加算の点数・算定要件
周術期薬剤管理加算の点数と算定要件は、以下のとおりです。
点数 | 75点 |
---|---|
対象患者 | 麻酔管理料(Ⅰ)または(Ⅱ)の2「マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔を行った場合」を算定する患者さん |
専任薬剤師の役割 | 周術期における以下を目的に、病棟薬剤師等と連携して周術期薬剤管理を実施 ● 医療従事者の負担軽減 ● 薬物治療の有効性・安全性の向上 |
周術期薬剤管理 | (ア)「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について(令和3年9月30日医政発0930第16号)」の3の3)①等に基づき、周術期の薬学的管理等を実施すること (イ)(ア)については病棟薬剤師等と連携して実施すること (ウ)時間外、休日及び深夜においても、当直等の薬剤師と連携し、安全な周術期薬剤管理が提供できる体制を整備していること ● (ア)(イ)については、その内容を診療録等に記載すること ● 病棟薬剤師等と連携した周術期薬剤管理の実施に当たっては、「根拠に基づいた周術期患者への薬学的管理ならびに手術室における薬剤師業務のチェックリスト」 (日本病院薬剤師会)等を参考にすること |
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

3.周術期薬剤管理加算の施設基準
周術期薬剤管理加算を算定するためには、施設基準を満たす必要があります。周術期薬剤管理加算の施設基準は、以下のとおりです。
プロトコルの整備 | ● 周術期薬剤管理に関するプロトコルを整備 ● 周術期薬剤管理の実施状況を踏まえ、定期的なプロトコルの見直しを行うこと |
---|---|
各部署の薬剤師との連携 | 以下の薬剤師が必要に応じカンファレンス等を実施し、周術期薬剤管理における問題点等の情報を共有するとともに、各薬剤師が周術期薬剤管理を実施するにつき必要な情報が提供されていること ● 周術期薬剤管理加算の施設基準における専任の薬剤師 ● 病棟薬剤業務実施加算の施設基準における専任の薬剤師 ● 医薬品情報管理室の薬剤師 |
手順書の整備 | ● 以下の内容を盛り込んだ薬剤の安全使用に関する手順書(マニュアル)を整備し、必要に応じて当直等の薬剤師と連携すること ○ 医薬品の安全使用 ○ 重複投与・相互作用・アレルギーのリスクを回避するための手順等 ● 周術期薬剤管理の実施状況等を踏まえ、定期的に手順書の見直しを行うこと |
また、周術期薬剤管理加算を算定するためには、施設基準に係る届出を行うこととされています。
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
4.周術期薬剤管理加算を算定するときの注意点
周術期薬剤管理加算の算定では、注意点を把握しておくことが大切です。ここでは、周術期薬剤管理加算に関する疑義解釈を紹介します。
4-1.当直の薬剤師が周術期に必要な薬学的管理をした場合
当直の薬剤師が周術期に必要な薬学的管理を行った場合については、周術期薬剤管理加算の施設基準における専任の薬剤師と連携した上で実施していれば、周術期薬剤管理加算を算定できます。
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)2022年3月31日 問248|厚生労働省
4-2.施設基準におけるプロトコルと手順書を同一のもので作成する場合
周術期薬剤管理加算の施設基準におけるプロトコルと手順書は、それぞれ記載内容が異なります。ただし、指定された形式はなく、内容が基準を満たしている場合は同一のもので差し支えないと疑義解釈で回答されています。
プロトコルには周術期薬剤管理に関する内容を、手順書には医薬品の安全使用や重複投与・相互作用・アレルギーリスクを回避するための手順などを記載しなければなりません。施設基準を満たすためには、これらの内容を網羅したものを作成する必要があります。
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)2022年3月31日 問249|厚生労働省
4-3.周術期薬剤管理加算に係る業務時間を病棟薬剤業務実施加算における病棟薬剤業務の実施時間に含める場合
周術期薬剤管理加算では、手術室薬剤師や病棟薬剤師による連携が求められています。そのため、病棟薬剤師が周術期薬剤管理加算に係る業務を行うこともあるでしょう。
周術期薬剤管理加算に関する病棟薬剤師の業務は、病棟薬剤業務実施加算の実施時間に含めることができます。ただし、手術室専任の薬剤師の業務時間は、病棟薬剤業務の実施時間に含めることができません。
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)2022年3月31日 問89|厚生労働省
🔽 病棟薬剤業務実施加算を紹介した記事はこちら

5.薬剤師の周術期薬剤業務とは?
これまで、手術室薬剤師の業務は、多くが医薬品管理の延長となるものでした。より安全に周術期患者さんへの薬物治療を行うためには、薬剤師が積極的に医師と協働して医薬品管理を行う必要があります。
日本麻酔科学会は2016年度より周術期管理チーム(薬剤師)の認定制度を開始し、2022年度の診療報酬改定では麻酔管理料に周術期薬剤管理加算が新設されました。薬剤師は、周術期の薬剤管理に携わることが求められているといえます。ここでは、周術期薬剤管理の目的や業務についてお伝えします。
参照:周術期管理チーム認定制度|日本麻酔科学会
参照:個別事項(その8)働き方改革の推進について(その2)|厚生労働省
参照:「周術期薬剤業務事例集」の公表について|日本病院薬剤師会
参照:現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について|厚生労働省
5-1.周術期薬剤管理の目的
周術期薬剤管理の目的としては、以下のことが挙げられます。
● 周術期における疾病の治癒・改善、精神的安定を含めた患者さんのQOL向上
● 医薬品の適正使用の推進を通じた治療効果の向上と副作用の防止による患者さんの利益への貢献
● 外来、手術室、病棟における薬剤に関するインシデント・アクシデントの削減
● 薬剤師の専門性を生かしたチーム医療の推進
手術室の薬剤師が病棟薬剤師と薬学的管理を連携して、質の高い周術期医療を実施することを目的としています。
参照:周術期薬剤業務の進め方|日本病院薬剤師会
5-2.周術期薬剤業務
周術期薬剤業務には、術前管理、術中管理、術後管理の3つのフェーズがあります。具体的な業務内容については、病院内で基準を作成するのが望ましいとされています。ここでは、周術期薬剤業務における術前管理、術中管理、術後管理の具体的な例を詳しく見ていきましょう。
5-2-1.術前管理
術前管理では、薬歴と術前に休止する薬剤・継続する薬剤の使用状況を確認し、医師の指示に基づいて患者さんや家族へ説明・指導を行います。合わせて、術中や術後に使用する薬剤のリスクを評価します。具体的なチェック内容の例は以下のとおりです。
○ 入院前の服薬状況などの患者さんや家族への聞き取り
○ 紹介状、かかりつけ薬局、薬剤師の把握
○ アレルギー歴、術前の感染症管理
○ サプリメント等の服用歴
○ 腎機能
○ ステロイド使用と補充療法
○ 麻酔方法の確認と合併症の予防
○ 術前体液管理と経口補水療法、絶飲食時間の確認
○ 術後の疼痛管理計画と患者さんへの説明
○ 術後せん妄リスクの評価・予測・予防
○ 診療録への記載
● 術前評価・準備(スクリーニング、検査)のための情報収集
○ 使用医薬品
○ 入院日
○ 手術日
○ 術前休止医薬品の有無
○ 医師からの休止指示、休止日
○ 休止医薬品の再開時期
● 各術式のリスク確認・管理・指導
○ 出血リスク、血栓リスクの確認
○ 管理計画の作成
○ 患者さんの理解度を確認・指導
○ 手術毎の血栓リスクがクリニカルパスに反映されているかの確認
○ 血栓リスクの評価法の確認
○ 選択的エストロゲン受容体調整薬(Selective Estrogen Receptor Modulator: SERM)・女性ホルモン製剤使用の有無の確認
○ SERM・女性ホルモン製剤の休止の有無とその期間の確認
○ ワクチンの接種状況および接種スケジュールの確認と接種推奨時期を患者さんに指導
参照:周術期薬剤業務の進め方|日本病院薬剤師会
参照:根拠に基づいた周術期患者への薬学的管理ならびに手術室における薬剤師業務のチェックリスト(2022年度版)|日本病院薬剤師会学術委員会
5-2-2.術中管理
術中管理では、手術部門における医薬品等の適正管理や相談応需、情報共有などを行います。使用医薬品の管理や使用状況の把握、注射薬の調製などが主な業務です。具体的な業務の例をお伝えします。
○ 配合変化等の確認
○ 麻酔記録と使用医薬品の不一致がないことを確認
○ 医薬品情報を他職種へ情報提供
○ 麻薬、毒薬、向精神薬、習慣性医薬品、ハイリスク薬、院内製剤などの適正管理
● 術中の感染管理
○ 長時間の手術や腎機能低下症例の場合は、抗菌薬の追加投与の計画・延長
○ 短時間に出血がある場合に備えて、抗菌薬追加投与を考慮
● 緊急時の対応
○ 悪性高熱発生時の準備
○ 局所麻酔中毒時の準備
○ 心肺停止時のバックアップの準備
○ アナフィラキシーショック時の準備
● 注射薬の調製
○ 使用開始時間、ラベルの患者名、使用医薬品、投与量の確認
○ 術後鎮痛薬の調製
参照:周術期薬剤業務の進め方|日本病院薬剤師会
参照:根拠に基づいた周術期患者への薬学的管理ならびに手術室における薬剤師業務のチェックリスト(2022年度版)|日本病院薬剤師会学術委員会
5-2-3.術後管理
術後管理では、実施した術式や麻酔法、術中の有害事象等の情報収集や、麻酔からの覚醒レベル、バイタルサイン・臨床検査値、術後合併症などの確認を行います。具体的な業務例をお伝えします。
○ 術式や麻酔方法の変更、覚醒遅延の確認
○ シバリングを誘引する可能性のある医薬品とシバリングの予防・治療の準備
○ 術前休止薬の再開を確認
● 患者さんの状態確認
○ 静脈血栓塞栓症の管理
○ 血圧、不整脈、心筋虚血の把握
○ 急性腎障害の治療・管理
○ 術後感染症の有無の確認、抗生剤の適正使用の確認
○ 術後の疼痛、悪心・嘔吐、せん妄・認知機能障害、排尿・排便障害の管理
○ 栄養管理
○ 電解質の補正
○ ストレス潰瘍の予防
参照:周術期薬剤業務の進め方|日本病院薬剤師会
参照:根拠に基づいた周術期患者への薬学的管理ならびに手術室における薬剤師業務のチェックリスト(2022年度版)|日本病院薬剤師会学術委員会

6.患者さんが安心して術前から術後まで過ごせるようにサポートしよう
周術期薬剤管理加算は、手術室薬剤師の業務を評価する加算です。病院薬剤師は、病棟や調剤室にとどまらず、手術室での活躍も期待されています。手術を前にした患者さんは、多くの不安を抱えているでしょう。安心して術前から術後まで過ごせるよう、多職種と連携して患者さんをサポートすることが周術期薬剤管理加算の算定につながります。
🔽 2024年度調剤報酬改定について解説した記事はこちら
🔽 病院薬剤師に関連する診療報酬について解説した記事はこちら

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
あわせて読みたい記事