高度かつ専門的な急性期医療の提供体制を評価する「急性期充実体制加算」は、高度な治療体制や実績を有する医療機関が算定できる加算です。2024年度の診療報酬改定では、施設基準が一部変更され、施設の実績に応じて「1」と「2」に区分されました。本記事では、急性期充実体制加算の概要から、総合入院体制加算との違い、算定要件、点数、施設基準、関連する加算まで詳しく解説します。
- 1.急性期充実体制加算とは?
- 1-1.急性期充実体制加算と総合入院体制加算の違い
- 1-2.急性期充実体制加算1・2の違い
- 2.急性期充実体制加算の点数
- 3.急性期充実体制加算の算定要件
- 4.急性期充実体制加算の施設基準
- 4-1.急性期充実体制加算1・2で共通する施設基準
- 4-2.急性期充実体制加算1の施設基準
- 4-3.急性期充実体制加算2の施設基準
- 4-4.急性期充実体制加算の届出
- 5.急性期充実体制加算に関連する加算
- 5-1.小児・周産期・精神科充実体制加算
- 5-2.精神科充実体制加算
- 6.急性期充実体制加算を算定するときの注意点
- 6-1.入院中の急変や休日以外の手術も「緊急手術」の件数に含められる
- 6-2.2024年度改定後も継続算定するには新たな届出が必要
- 7.実績に応じた加算の違いを理解して適切に算定しよう
1.急性期充実体制加算とは?
急性期充実体制加算は、地域での急性期および高度急性期医療の集中的・効率的な提供体制を確保するために、2022年度の診療報酬改定で新設された加算です。医療機関が、高度かつ専門的な急性期医療を提供できる体制を整えている場合、入院基本料などに所定の点数を加算できます。
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:令和4年度診療報酬改定の概要|厚生労働省
また、2024年度の診療報酬改定では、医療機関の実績に応じて加算区分が細分化されました。悪性腫瘍手術などの基準を多く満たす施設と、小児科や産科での実績がある施設とで評価が区別されます。さらに、手術などの実績要件には新たに「心臓胸部大血管の手術」が追加されており、循環器外科領域の専門性も評価対象となりました。
参考:令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅱ(急性期・高度急性期入院医療)】|厚生労働省
1-1.急性期充実体制加算と総合入院体制加算の違い
急性期充実体制加算と総合入院体制加算は、いずれも急性期医療の提供体制を評価した加算ですが、評価対象や加算の主旨には違いがあります。
総合入院体制加算は、24時間体制で急性期医療を提供できる医療機関に対して加算されるもので、人員配置や設備などの体制整備に加え、医療従事者の負担軽減や処遇改善に向けた取り組みも評価の対象です。
例えば、医療従事者の勤務状況を把握・改善するための責任者や委員会の設置、医師事務作業補助者の配置、外来縮小の取り組み、院内保育の設置といった体制を整備していることが求められます。
一方、急性期充実体制加算は、手術件数や専門的な治療実績など、より高度で専門的な実績に着目して評価される点が特徴です。2024年度の改定でも実績要件が追加され、基準を多く満たしている施設に対する評価の強化が図られています。
このように、総合入院体制加算は人的・構造的な体制整備にも重点を置いているのに対し、急性期充実体制加算は実際の医療実績や高度医療提供体制を重視した評価という違いがあります。
1-2.急性期充実体制加算1・2の違い
急性期充実体制加算には「1」と「2」の区分があり、施設の実績に応じて評価が分かれています。
急性期充実体制加算1を算定するには、高度な急性期医療を担う施設として、より厳格な手術実績などの基準を満たす必要があります。具体的には、悪性腫瘍手術、心臓カテーテル法による手術、消化管内視鏡による手術など、複数の項目のうち5項目以上の実績が必要です。
一方、急性期充実体制加算2は、小児科や産科で一定の実績がある施設を対象としています。先述の項目のうち2項目以上に加えて、乳幼児(6歳未満)の手術や異常分娩など、小児科または産科に関する2項目のうちいずれかを満たすことが要件です。
2.急性期充実体制加算の点数
急性期充実体制加算は、「1」と「2」で算定できる点数が異なります。いずれも「患者さん1人につき、入院1日あたり」の算定となっており、入院期間に応じて段階的に点数が設定されています。
区分 | 入院期間 | 点数 |
---|---|---|
急性期充実体制加算1 | 7日以内 | 440点 |
8日以上11日以内 | 200点 | |
12日以上14日以内 | 120点 | |
急性期充実体制加算2 | 7日以内 | 360点 |
8日以上11日以内 | 150点 | |
12日以上14日以内 | 90点 |
3.急性期充実体制加算の算定要件
急性期充実体制加算は、厚生労働大臣が定めた施設基準に適合し、地方厚生局長などに届出を行った保険医療機関において、入院初日から最大14日間まで所定の点数を算定できます。
「入院初日」とは、患者さんが急性期充実体制加算の対象となる病棟に入院した日、または別病棟から転棟してきた日のことを指します。ただし、加算対象病棟に入院し、算定できない病棟へ転棟した後、再び加算対象病棟に戻った場合は、対象病棟に最初に入院した日が起算日です。
なお、急性期充実体制加算と総合入院体制加算は併算定ができません。
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)令和4年3月31日|厚生労働省

4.急性期充実体制加算の施設基準
急性期充実体制加算は、実績要件によって算定できる加算が異なります。ここからは、急性期充実体制加算の施設基準について、「1」と「2」で共通する項目と、異なる項目に分けて解説します。
4-1.急性期充実体制加算1・2で共通する施設基準
急性期充実体制加算を算定するには、例えば、以下のような施設基準を満たさなければなりません。
● 24時間体制での救急医療(例:年間2000件以上の救急搬送など)を提供していること。
● 高度急性期医療の提供に係る特定入院料のいずれかを届け出ていること。
● 感染対策向上加算1の届出を行っていること。
● 画像診断および検査を24時間実施できる体制を確保していること。
● 薬剤師が、夜間当直を行うことにより、調剤を24時間実施できる体制を確保していること。
● 急性期一般入院料1に係る届出を行っている病棟については、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度IIを用いて評価を行っていること。
● 精神科リエゾンチーム加算または認知症ケア加算1または2の届出を行っていること。
● 入院患者の急変に備えた「院内迅速対応チーム」の設置と体制整備を行っていること。
● 外来縮小に伴い、選定療養の報告などを行うとともに、紹介割合・逆紹介割合において所定の実績を満たしていること。また、前年度1年間の初診の患者数と再診の患者数を地方厚生(支)局長に報告すること。
● 病院の医療従事者の負担の軽減および処遇の改善に資する体制として、休日加算1、時間外加算1および深夜加算1の施設基準の届出を行っていることが望ましい。なお、届出を行っていない場合は、別添7の様式14にその理由を記載すること。
● 療養病棟入院基本料または地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料を含む)の届出を行っていない保険医療機関であること。同一建物内に特別養護老人ホーム、介護老人保健施設または介護医療院を設置しておらず、特定の保険薬局との間で不動産取引等その他の特別な関係がないこと※。
● 一般病棟における平均在院日数が14日以内であり、一般病棟の退棟患者(退院患者を含む)に占める、同一の保険医療機関の一般病棟以外の病棟に転棟したものの割合が、1割未満であること。入退院支援加算1または2の届出を行っている保険医療機関であること。
● 敷地内における禁煙の取扱いについて、所定の基準を満たしていること。
● 総合入院体制加算に係る届出を行っていない保険医療機関であること。
※「特定の保険薬局との間で不動産取引等その他の特別な関係がない」とは、次の1から4のいずれにも該当しない場合を指します。
2. 保険医療機関が譲り渡した不動産(保険薬局以外の者に譲り渡した場合を含む)を当該保険薬局が利用して開局している場合
3. 保険医療機関に対し、当該保険薬局が所有する会議室その他の設備を貸与している場合
4. 当該保険薬局が保険医療機関から開局時期の指定を受けて開局している場合
なお、上記(1)から(4)までの詳細については、調剤点数表の特別調剤基本料に係る規定を参照することとされています。
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)令和4年3月31日|厚生労働省
🔽 特別調剤基本料について解説した記事はこちら
上記は主な要件の一部です。さらに詳しい施設基準については、厚生労働省が公開している「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」などをご覧ください。
4-2.急性期充実体制加算1の施設基準
急性期充実体制加算1を算定する場合、共通項目に加えて手術に関する以下の実績要件を満たす必要があります。
ア 全身麻酔による手術について、2000件/年以上(うち、緊急手術350件/年以上)
イ 悪性腫瘍手術について、400件/年以上
ウ 腹腔鏡下手術または胸腔鏡下手術について、400件/年以上
エ 心臓カテーテル法による手術について、200件/年以上
オ 消化管内視鏡による手術について、600件/年以上
カ 化学療法の実施について、1000件/年以上
キ 心臓胸部大血管の手術について、100件/年以上
2. (1)のカを満たしているものとして当該加算の届出を行っている場合、外来における化学療法の実施を推進する体制として、次のいずれにも該当すること。
ア 「B001-2-12」の「1」外来腫瘍化学療法診療料1の届出を行っていること。
イ 当該保険医療機関において化学療法を実施した患者全体に占める、外来で化学療法を実施した患者の割合が6割以上であること。
4-3.急性期充実体制加算2の施設基準
急性期充実体制加算2の算定にあたっては、小児科や産科領域に関する実績が求められます。具体的な施設基準は以下のとおりです。
ア 異常分娩の件数が50件/年以上であること。
イ 6歳未満の乳幼児の手術件数が40件/年以上であること。
2. 急性期充実体制加算1の(1)のカを満たしているものとして当該加算の届出を行っている場合については、同加算1の(2)を満たしていること。
なお、実績要件となる手術の定義についても、「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」で確認できます。
4-4.急性期充実体制加算の届出
急性期充実体制加算を算定するためには、様式14を用いてあらかじめ地方厚生局長などへの届出が必要です。
毎年8月に、前年度の手術件数などを評価するため同様式を用いて届け出るとともに、院内への掲示が義務付けられています。掲示内容は以下のとおりです。
● 外来化学療法の実施を推進する体制
● 24時間の救急医療提供
● 入院患者の病状の急変の兆候を捉えて対応する体制
● 外来縮小体制
● 退院に係る状況等
● 禁煙の取扱い
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)令和4年3月31日|厚生労働省
なお、2024年3月31日時点で急性期充実体制加算の届出を行っていた医療機関については、一部の施設基準を満たしているものとして扱われる経過措置が設けられています。詳細は「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」などからご確認ください。
5.急性期充実体制加算に関連する加算
急性期充実体制加算に関連する加算として「小児・周産期・精神科充実体制加算」と「精神科充実体制加算」が挙げられます。各加算の算定要件や施設基準、点数について解説します。
5-1.小児・周産期・精神科充実体制加算
小児・周産期・精神科充実体制加算は、急性期充実体制加算の対象病棟において、小児や妊産婦、精神疾患のある患者さんの受け入れ体制が整備されていることを評価する加算です。高度かつ専門的な医療および急性期医療を提供する十分な体制を備えた上で、これらの患者さんに対応できる体制を構築している医療機関が算定可能です。
算定にあたっては、厚生労働大臣が定める施設基準を満たす必要があります。急性期充実体制加算1を算定している場合は1日につき90点、加算2を算定している場合は1日につき60点を加算します。
小児・周産期・精神科充実体制加算の施設基準は、以下のとおりです。
● 6歳未満の乳幼児の手術件数が40件/年以上であること。
● 以下のいずれも満たすこと。
ア 医療法第7条第2項第1号に規定する精神病床を有していること。
イ 精神疾患を有する患者に対し、24時間対応できる体制を確保していること。
ウ 精神病棟入院基本料、精神科救急急性期医療入院料、精神科急性期治療病棟入院料、精神科救急・合併症入院料、児童・思春期精神科入院医療管理料、精神科地域包括ケア病棟入院料または地域移行機能強化病棟入院料のいずれかの届出を行っており、現に精神疾患患者の入院を受け入れていること。
5-2.精神科充実体制加算
精神科充実体制加算は、精神疾患のある患者さんの充実した受け入れ体制を整備している医療機関を評価する加算です。小児・周産期・精神科充実体制加算の要件を満たさない場合でも、精神疾患のある患者さんに対する受け入れ体制が確保されており、あらかじめ届出を行っていれば算定が可能です。急性期充実体制加算の所定点数に加えて、1日あたり30点を追加で算定します。
精神科充実体制加算の施設基準は、以下のとおりです。
● 精神疾患を有する患者に対し、24時間対応できる体制を確保していること。
● 精神病棟入院基本料、精神科救急急性期医療入院料、精神科急性期治療病棟入院料、精神科救急・合併症入院料、児童・思春期精神科入院医療管理料、精神科地域包括ケア病棟入院料または地域移行機能強化病棟入院料のいずれかの届出を行っており、現に精神疾患患者の入院を受け入れていること。
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省

6.急性期充実体制加算を算定するときの注意点
急性期充実体制加算を算定するには、「緊急手術」の範囲や2024年度の診療報酬改定後に必要な届出など、押さえておくべきポイントがあります。実績に含められる条件や、手続きの流れを理解しておくことで、加算をスムーズに適用できるでしょう。
ここからは、厚生労働省が公開している疑義解釈をもとに、急性期充実体制加算を算定するときの注意点を解説します。
6-1.入院中の急変や休日以外の手術も「緊急手術」の件数に含められる
急性期充実体制加算の施設基準では、手術実績のひとつとして「緊急手術」の件数が求められています。「緊急手術」とは、単に休日や夜間に行われた手術を指すものではなく、患者さんの病状が急激に悪化し、速やかに対応が必要と判断されるケースを指します。
例えば、入院中に病状が急変した場合も、外来からの救急搬送でなくても緊急手術として実績に含めることが可能です。また、手術が日中に行われた場合でも、病状の進行により医療機関が緊急と判断したものであれば実績対象になります。
さらに、予定していた手術を病状の進行により早めて実施したケースでも、緊急性が認められると判断されれば緊急手術の対象になります。ただし、緊急性の判断から手術開始までに24時間を超えると緊急手術に該当しないとされています。
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)令和4年3月31日|厚生労働省
6-2.2024年度改定後も継続算定するには新たな届出が必要
2024年度の診療報酬改定に伴い、急性期充実体制加算は「1」と「2」に細分化されました。それに伴い、改定前の時点で加算の届出を行っていた医療機関であっても、引き続き算定を行うためには、新たに急性期充実体制加算1または2のいずれかでの届出が必要です。
届出の期限は2024年6月3日までとされており、それまでに手続きを完了していない場合、改定後の継続算定は認められませんでした。ただし、2024年3月31日時点ですでに届出済みの医療機関に関しては、施設基準に関する経過措置の対象になると示されています。
参考:疑義解釈資料の送付について(その1)令和6年3月28日|厚生労働省

7.実績に応じた加算の違いを理解して適切に算定しよう
急性期充実体制加算は、高度で専門的な急性期医療を提供できる体制を整えている医療機関を対象にした入院基本料などの加算です。2024年度の診療報酬改定では、手術の実績による評価が見直され、「急性期充実体制加算1」は7項目中5項目以上の実績を、「急性期充実体制加算2」は小児・産科領域の実績を満たす必要があります。施設基準には24時間の救急対応体制や画像診断の整備などが含まれます。加えて、小児・周産期・精神科への対応状況を評価する関連加算も設けられています。算定要件や施設基準を正しく理解し、届出の準備や体制整備を進めましょう。
🔽 2024年度調剤報酬改定について解説した記事はこちら
🔽 病院薬剤師に関連する診療報酬について解説した記事はこちら

執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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