”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2023.12.15公開日:2021.12.24 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第75回 気持ちを安らげ、ノドの乾燥を潤す! 漢方にも使われる「ユリ根」の効能

ユリ属植物の球根である「ユリ根」は、茶わん蒸しやおせち料理の食材というイメージですが、漢方薬としても使われます。「百合」をユリと読むと花のことを指しますが、ビャクゴウと読む場合には中薬(生薬)の「ユリ根」のことです。今回は、秋冬の乾燥対策に使用できる「百合(びゃくごう=ユリ根)」についてお話しします。

目次

1.食材でも生薬でもあるユリ根

ユリ根の旬は秋~冬で、高温多湿を嫌う作物のため、日本では主に北海道で生産されています。生産に時間がかかるうえに栽培が難しいためか、庶民にとっては安くはないお野菜ですので、特別なイメージがあるかもしれません(私はあります……)。
 
日本では食材として生(ナマ)のタイプが売られていることが多いかと思います。ウロコが重なり合っている球根の形は「鱗状鱗茎(うろこじょうりんけい)」と呼ぶそうです。生のユリ根はうろこ状に固まっている部分を一枚一枚はがしてから調理します。

そして、日本ではまだまだ一般的ではないかもしれませんが、乾燥タイプのユリ根もあり、漢方専門薬局・中国系スーパー(中華食材店)・インターネット通販などで手に入ります。外国産であることが多いためか、生のものよりもずっと安価。乾物なので保存性が高く、食べたいときに食べられます。鱗状鱗茎が一枚一枚バラバラになっていて扱いやすく、一般的な乾物と同じように水で戻してから調理します。
 
中薬としてのユリ根も「乾燥タイプ」「生タイプ」「蜜炙(みつしゃ・ハチミツと共に炒る)したタイプ」など色々ですが、日本で生薬として扱われるのは、主に乾燥したユリ根(=ビャクゴウ)です。

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2.ノドの乾燥や空咳に&イライラや不眠に「百合(ビャクゴウ)」

中薬学の教科書では、百合(ビャクゴウ・ユリ根を指す)は潤いを補う作用を持つ「補陰薬(ほいんやく)」に分類され、少し熱を冷ます作用のある「微寒性」です。ちなみに、「補陰薬」のことを「滋陰薬(じいんやく)」と呼ぶこともありますが、同じような意味です。
 
さらに言えば、四気五味(四性五味)が「微寒性・甘味」であることから、潤いを生む作用のある生薬だということが分かります。寒性と甘味の組み合わせが潤いを生むことを「甘寒生津」と言います。薬膳でもよく登場しますから覚えておくと便利です。

<津液(潤い、液体、陰)を生み出す組み合わせは3つ>
酸甘化陰(さんかんかいん)…酸味と甘味を組み合わせる
甘寒生津(かんかんしょうしん・せいしん)…寒性と甘味を組み合わせる
鹹寒生津(かんかんしょうしん・せいしん)…塩気(鹹)と寒性を組み合わせる

百合は特に「肺のグループ」と「心のグループ」にアプローチします。これを「肺経と心経に帰経する」と表現します。


「潤いを補う作用」と「熱を冷ます作用」が肺グループに作用すると、鼻・のど・気管支・皮膚の乾燥、(慢性的な)空咳、痰が粘っこくて少ない、粘膜が乾燥するので血痰がでる、などの状態を治します。心グループに作用すると、心に熱がこもってイライラする・焦燥感・動悸・不眠・多夢など、メンタルに熱がこもって精神不安定な状態を治します(清心安神作用)。

 

3.百合(ユリ根)の効能

ここでは中薬学の書籍で紹介されている百合の効能を見ていきましょう。ここで言う「百合」はビャクゴウと読み、ユリ根のことです。
 
効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

百合(びゃくごう)

【分類】
補陰薬(滋陰薬)

【処方用名】
百合・野百合・生百合・炙百合・ビャクゴウ

【基原】
ユリ科Liliaceaeのユリ属植物Lilium brownie F.E.BROWN var. colchesteri WILS.、L.tenuifolium FISCH.その他多種の同族植物の鱗茎の鱗片

【出典】
神農本草経

【性味】
甘、微寒

【帰経】
心・肺

【効能】
1.潤肺止咳(じゅんぱいしがい)
肺陰虚の乾咳・少痰・痰に血が混じるなどの症候に、生地黄(しょうじおう)・玄参(げんじん)・麦門冬(ばくもんどう)・貝母(ばいも)などと用いる。
方剤例)百合固金湯(びゃくごうこきんとう)・百花膏

2.清心安神(せいしんあんじん、せいしんあんしん)
熱病後期の余熱未清で焦燥感・動悸・不眠・多夢など心神不寧を呈するときに、知母(ちも)・生地黄(しょうじおう)などと使用する。
方剤例)百合知母湯(びゃくごうちもとう)・百合地黄湯(びゃくごうじおうとう)

【参考】
生用すると清心安神に、蜜炙すると潤肺止咳に、それぞれ強く働く

【用量】
9-15g。煎服

【使用上の注意】
寒潤であるから、風寒咳嗽・中寒便溏には禁忌

※【分類】【処方用名】【基原】【性味】【帰経】【効能と応用】【参考】【用量】【使用上の注意】は『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版株式会社)より抜粋、【出典】は『中医学』(上海科学技術出版社)より抜粋したもの

【使用上の注意】に、「寒潤であるから、風寒咳嗽・中寒便溏には禁忌」とあるように、冷やす作用と潤す作用があることから、「風寒邪(冷えの邪気)による咳=風寒咳嗽」や「お腹が冷えて便がゆるい状態(中寒便溏)」を悪化させますので気を付けましょう。

4.【薬膳レシピ】乾燥百合はスープがおすすめ!

乾燥ユリ根は1~2回くらい水を交換しながら、たっぷりの水で戻すと、生のユリ根と同じ見た目になります。戻したらザルにあげて流水でしっかり洗い、黒い部分を取り除きましょう。
 
加熱したユリ根はホクホクとして、少しねっとりした食感です。上品でクセの無い味といいますか、あまり味がないため、和洋中と様々なお料理に使えます。
 
一番おすすめで簡単、かつ栄養・効能を逃さないのはユリ根のスープです。私は秋・冬になると、肺腎陰虚(肺と腎の潤い不足)による咳や心のトラブルの傾向がある家族のために、潤いを補うスープをよく作ります。我が家での作り方をご紹介しますね。
 
乾燥ユリ根・乾燥白きくらげ・乾燥蓮の実をそれぞれ水で戻してしっかり洗い、お鍋にたっぷりの水と白きくらげ・蓮の実を入れてコトコト煮ます。水が足りなくなったら途中で足しながら長時間煮ると、白きくらげがトゥルントゥルンになりますので、そこへ戻したユリ根と洗った赤レンズ豆(皮無しレンズ豆)を入れてさらに煮ます。
 
すべてに火が通ったら、無添加の中華だしの素を加え軽く塩コショウして味を調え、加熱しながら溶き卵を細く流し入れます(白きくらげですでにスープがトロトロしているので片栗粉なしでもふわふわの卵になります)。最後にクコの実・白すりゴマをいれて、香り高いゴマ油をたらして完成です。

出汁をとりたい時や効能を重視する時はキノコ類を入れることもあります。黒っぽいキノコを入れるとスープの色が濁るので、私は白いキノコを入れています。色が気にならなければ体質に合わせてどのキノコでもOKです。彩りで冷凍枝豆を入れることもあります。いつも6リットルの大鍋に入れて目分量で作っていますが、お料理に慣れた方なら適当に作れると思います(ちなみに我が家では大鍋ごと冷蔵庫で保管します)。
 
乾物を戻す時間や煮る時間を要しますが、まな板を一度も使わない楽ちんなスープです。滋養があって、ほとんどの具材がスープと溶け合ってとろとろの食感になるため、高齢者や胃腸が弱い人でも食べやすくおいしいです。朝食や遅い夕食にもよいでしょう。ぜひお試しください。

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参考文献:
・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・南京中医学院(編)、石田秀実(監訳)『現代語訳 黄帝内経素問 上巻』2014年 東洋学術出版社
・・南京中医学院(編)、石田秀実(監訳)、白杉悦雄(監訳)『現代語訳 黄帝内経霊枢 下巻』2012年 東洋学術出版社
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・田久和義隆(翻訳)、羅元愷(主編)、曽敬光(副主編)、夏桂成・徐志華・毛美蓉(編委)、張玉珍(協編)『中医薬大学全国共通教材 全訳中医婦人科学』 たにぐち書店 2014年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・王財源(著)『わかりやすい臨床中医臓腑学 第3版』医歯薬出版株式会社 2016年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・鄧明魯、夏洪生、段奇玉(主編)『中華食療精品』吉林科学技術出版社 1995年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年
・梁 晨千鶴 (著)『東方栄養新書―体質別の食生活実践マニュアル』メディカルコーン2008年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/