薬剤師のスキルアップ 更新日:2023.11.28公開日:2023.03.14 薬剤師のスキルアップ

ポリファーマシーとは?原因と問題点、薬剤師ができることについて解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

ポリファーマシーという言葉を聞く機会が増えてきました。一般の方に向けたリーフレットも作成されており、広く認知され始めています。薬剤師は薬の専門家として、ポリファーマシーについて正しく理解しておく必要があります。今回は、ポリファーマシーについて詳しく解説します。

1.ポリファーマシーとは

ポリファーマシーとは「ポリ(Poly=多い)」と「ファーマシー(Pharmacy=調剤)」を組み合わせた造語で、多剤服用と訳されるケースが多く見られます。しかし、ポリファーマシーとは、単に服用薬の数が多い状況を指すのではなく、「多剤服用をすることで薬物有害事象や飲み忘れ、飲み間違いなどが起こることによるさまざまな問題」を指しています。また、残薬や重複投与、必要のない薬が処方されているケースなどもポリファーマシーに含まれます。

2.ポリファーマシーは何剤から?

「薬を何種類以上服用したときにポリファーマシーとするか」については、厳格な定義はありません。患者さんの病態や生活環境などによって必要な薬は変わるため、服用しなければならない薬の数に個人差があるからです。
 
しかし、薬物有害事象の頻度は、薬の数にほぼ比例していることが分かっており、特に、6種類以上服用している患者さんが薬物有害事象を起こしやすいとされています。服用薬剤調整支援料1、2の算定要件が内服薬6種類以上となっている(調剤報酬点数表[令和4年4月1日施行]より)ことからも、6種類以上が一つの目安となるでしょう。
 
一方、治療する上で6種類以上の薬が必要なケースもあれば、6種類以下で薬物の有害事象が起こるケースもあります。ポリファーマシーを考える際に大切なことは、服用している薬の数を基準に判断するのではなく、安全性や有効性の観点から服用薬をチェックすることです。

3.ポリファーマシーが発生する原因

高齢者に多いとされているポリファーマシー。ポリファーマシーが起こる原因は、生活習慣病などの疾患と老年症候群が深く関係しています。

 

3-1.複数の慢性疾患の治療

生活習慣病などの慢性疾患は、年齢を重ねるごとに増えていく傾向にあります。そのため、高齢者は複数の医療機関や診療科を受診しているケースが多く、自然と服用薬の種類が増えていくことがポリファーマシーの原因のひとつでしょう。

 

3-2.老年症候群による影響

老年症候群と呼ばれる高齢者特有の症状が増えやすいことも、ポリファーマシーに関係しています。老年症候群とは、老化によって見られる症状や兆候の総称のことです。老年症候群には、耳が聞こえにくくなったり、夕方になると目が見えにくくなったり、トイレの回数が増えたりといった生理的老化による症状と薬によるものがあります。
 
生活習慣病などの慢性疾患に加え、老年症候群に対する薬が処方されるため、ポリファーマシーになりやすい傾向にあります。

 

3-3.処方カスケード

処方カスケードも、ポリファーマシーを招く原因とされています。処方カスケードとは、薬を服用することによって薬物有害事象が発生し、薬物有害事象の症状を改善するために薬を追加するといったケースです。多剤服用している患者さんは、薬物有害事象が発生しやすいでしょう。薬による症状であることに気が付かず、薬で症状を抑えてしまうことで、ポリファーマシーが起こります。

4.ポリファーマシーの問題点

ポリファーマシーの問題点は、薬物有害事象によって患者さんの健康や安全が損なわれることだけではありません。医療費の増大や服薬管理の複雑化、残薬などが問題となっています。

 

4-1.医療費の増大

服用する薬の数が増えることで、医療費が増えてしまうことが問題とされています。医療費が上がることは、患者さんが負担する医療費が増えるだけではありません。日本が抱える医療費問題にも関わってきます。

厚生労働省の発表では、2019年度の国民医療費は44兆3,895億円とされています。前年度と比べて9,946億円(2.3%)増加しており年々増加傾向です。ポリファーマシーは、国民医療費の増大にもつながっています。

 

4-2.服薬管理の複雑化

ポリファーマシーの問題点は、服薬管理が複雑化することによる薬物相互作用や処方・調剤ミス、飲み忘れ・飲み間違いが発生しやすくなる点にあります。医師は他院で処方されている薬を含めた服用薬を確認し、処方箋を交付しなければなりません。薬剤師は薬物相互作用のチェックだけでなくコンプライアンスを維持・向上させるために患者さんの状況を把握し、薬の管理方法を検討する必要があるでしょう。
 
患者さんや家族には、飲み忘れや飲み間違いを防ぐために、1回分を小分けにしたり、お薬カレンダーを使用したりといった管理が求められます。薬の数が多くなるほど、医師・薬剤師・患者さんやその家族などの負担が大きくなる点は、安全・安心な薬物治療を行う上で考慮すべき問題点だといえます。

 

4-3.大量の残薬が発生しやすい

多剤併用の場合、服薬管理が複雑化するため、飲み間違いや残薬などが起こりやすくなります。患者さんの中には、服用薬を正しく管理できず飲み忘れてしまい、大量に残薬が残っているケースがあります。

また、体に合わないと感じて自己判断で服用中止しているケースも、残薬が発生しやすい傾向にあります。医師に服用していないことを伝えていない場合、服用薬は継続した上で、症状を改善する薬が追加されるケースもあるでしょう。服用していない薬が処方されるため、服薬管理が複雑化することに加え、医療費の増大にもつながります。

5.ポリファーマシーを防ぐために薬剤師ができること

さまざまな診療科から処方される薬を総合的にチェックできるのが薬剤師の職能です。ポリファーマシー対策は、薬剤師に任された重要な役割といえるでしょう。ここでは、ポリファーマシーを防ぐために薬剤師ができることについて見ていきましょう。

 

5-1.お薬手帳の活用を提案する

ポリファーマシー対策では、患者さんの服用薬を一元的かつ継続的に管理することが欠かせません。そのためにも、まずは患者さんにお薬手帳の活用を促すことが重要です。加えて、正しい使用法を説明する必要もあるでしょう。患者さんの中には、医療機関ごとにお薬手帳を使い分けている人がいます。患者さんにお薬手帳を使う意味を分かりやすく説明することが大切です。

 

5-2.服薬アドヒアランスの向上に努める

残薬を抱えてしまうケースとして、飲み忘れや飲み間違いだけでなく、体に合わない・効果を感じないといった理由で飲んでいない場合があります。薬剤師は、服薬アドヒアランスを向上するためにも、薬が飲めない・飲みたくない理由を聞き取り、残薬がある理由を把握するよう求められます。

生活習慣や服用しづらさが原因で薬が飲めなかったケースでは、薬剤師から医師へ報告し、用法や剤形の変更といった提案をする必要があるでしょう。効果が出るまで時間のかかる薬の場合は、服用を継続するよう促すことで、服薬アドヒアランスの向上が期待できます。
 
また、聞き取りの中で服用薬の副作用が疑われるケースもあるでしょう。原因となる薬の減量や変更を提案することで、処方カスケードやポリファーマシーを防ぐ可能性が高まります。服薬アドヒアランスの向上は、ポリファーマシーを防ぐことにつながるでしょう。

 
🔽 アドヒアランスについて詳しく解説した記事はこちら

6.ポリファーマシーに対する医療現場ごとの取り組み例

ポリファーマシー対策は、医療現場ごとにアプローチの仕方が異なります。ここでは、医療機関、在宅医療、薬局におけるポリファーマシーに対する取り組みについて見ていきましょう。

 

6-1.医療機関で行うポリファーマシー対策

ポリファーマシー対策チームを設置している病院では、薬剤師が中心となって対象となる患者さんのカンファレンスが行われています。カンファレンスを行う前に、薬剤師は持参薬を確認し、患者さんや家族から自宅での服薬状況を聞き取ります。
 
薬物有害事象やアドヒアランス、処方カスケードなどポリファーマシーに関わる状況を把握した後、看護師や理学療法士、栄養士など多職種によるカンファレンスを開きます。各職種から収集した情報をまとめて、処方医へカンファレンスの内容を伝え、退院に向けて服用薬の適正化が進められています。

 

6-2.在宅医療で行うポリファーマシー対策

在宅医療では、医師や看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどさまざまな職種が患者さんのサポートを行っています。薬剤師は、訪問薬剤管理指導を行うときに、薬物有害事象やアドヒアランスなどポリファーマシーに関する情報収集を行うことが可能です。初回の面談時からポリファーマシーを意識した状況把握を行うことで、効率的にポリファーマシー対策ができます。

在宅医療における薬剤師の役割は、多剤服用や重複投与、服薬アドヒアランスなどの把握に加え、味覚障害や嚥下(えんげ)障害など、薬学的な視点からさまざまな身体症状を確認することです。集めた情報は、医師やケアマネジャーなどへ報告して情報共有するとともに、必要に応じて処方中止・変更といった提案が行われています。

 

6-3.薬局で行うポリファーマシー対策

薬局薬剤師は患者さんの服薬指導時に、処方薬以外の服用薬を確認します。このとき、多剤服用や重複投与、薬物有害事象の兆候といったポリファーマシーを意識した確認を行い、必要に応じて服薬情報提供書(トレーシングレポート)を用いて処方医に情報提供を行うことが大切です。
 
なお、かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師を持つ患者さんについては、服用薬の一元的・継続的な管理に加え、市販薬の服用状況や服薬アドヒアランス、併用薬との相互作用などの確認を積極的に行います。そのため、かかりつけ機能を充実させることは、ポリファーマシー対策となるでしょう。

7.ポリファーマシー対策を強化するために

たくさんの薬を服用している患者さんは、服用薬の管理が複雑化しやすく、薬の飲み忘れや飲み間違いが起こりやすいものです。また、服用する薬が多いほど、薬物有害事象が起こる可能性は高くなるため、ポリファーマシー対策を行う必要があるでしょう。薬剤師は積極的に患者さんの服薬管理に関わり、多職種と連携を取りながらポリファーマシーを防ぐことが求められています。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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