医療安全対策加算とは、医科診療報酬の入院基本料等加算のひとつで、組織的な医療安全対策を実施している医療機関を評価するものです。本記事では、医療安全対策加算の概要や1と2の違い、点数や算定要件、施設基準について解説するとともに、医療安全対策地域連携加算1と2についてもお伝えします。

1.医療安全対策加算とは?
医療安全対策加算とは、患者さんの安全を確保することを目的として、医療機関が組織的に医療安全対策を行っていることを評価したものです。1と2に区分されており、それぞれに加算が設けられています。
算定するためには、医療安全管理者の配置や医療事故を防止するためのカンファレンス、職員に周知するための研修などを実施することが必要です。
1-1.医療安全対策加算1と2の違い
医療安全対策加算1と2の主な違いは、以下のとおりです。
| 医療安全対策加算1 | 医療安全対策加算2 | |
|---|---|---|
| 点数 | 85点 | 30点 |
| 人員配置 | 専従の医療有資格者 | 専任の医療有資格者 |
| 加算 | 医療安全対策地域連携加算1(50点) | 医療安全対策地域連携加算2(20点) |
参考:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
医療安全対策加算1と2の大きな違いは「医療安全管理者」に関する要件です。医療安全対策加算1は、「専従」の医療有資格者を置き、医療安全対策加算2は「専任」の医療有資格者を置くことが施設基準となっています。
また、医療安全対策加算に設けられている加算についても異なります。要件を満たすことで、医療安全対策加算1は医療安全対策地域連携加算1、医療安全対策加算2は医療安全対策地域連携加算2が算定可能です。
2.医療安全対策加算の点数
医療安全対策加算1と2の点数は、以下のとおりです。
| 区分 | 点数 | 加算 | 加算点数 |
|---|---|---|---|
| 医療安全対策加算1 | 85点 | 医療安全対策地域連携加算1 | 50点 |
| 医療安全対策加算2 | 30点 | 医療安全対策地域連携加算2 | 20点 |
医療安全対策加算1を算定する医療機関は、施設基準を満たすことで医療安全対策地域連携加算1が算定できるため、合算すると135点を算定できます。
一方、医療安全対策加算2を算定する医療機関が、医療安全対策地域連携加算2の施設基準を満たすと、合わせて50点を算定可能です。
より力を入れて自施設や地域の医療安全対策に取り組んでいる医療機関が評価される仕組みになっています。
3.医療安全対策加算の算定要件
医療安全対策加算1・2の算定要件は、以下のとおりです。
| 対象患者 | 入院患者さん |
|---|---|
| 算定タイミング | 入院期間中に1回限り、入院初日に算定 |
| 医療安全対策 | 医療安全管理部門に所属する医療安全管理者が、組織的に以下のような医療安全対策を行っていること ● 医療安全管理委員会との連携 ● 医療機関の医療安全に係る状況を把握 ● 分析結果に基づいて医療安全確保のための業務改善等を継続的に実施 |
| 医療安全対策の実施と記録 | ● 医療安全確保のための職員研修を計画的に実施 ● 医療安全管理者が必要に応じて各部門の医療安全管理担当者を支援 ● 結果の記録 |
4.医療安全対策加算の施設基準
医療安全対策加算の施設基準は、以下のとおりです。
| 医療安全対策加算1 | 医療安全対策加算2 | ||
|---|---|---|---|
| 医療安全管理体制に関する基準 | (ア) | 医療機関内に、医療安全対策に係る適切な研修を修了した以下の医療有資格者が医療安全管理者として配置されていること | |
| 専従の看護師、薬剤師その他の医療有資格者 | 専任の看護師、薬剤師その他の医療有資格者 | ||
| 適切な研修とは、以下の全ての事項に該当するもので、既に受講している研修が以下の事項を満たさない場合には不足する事項を補足する研修を追加受講することで差し支えない (イ)国または医療関係団体などが主催するもの (ロ)医療安全管理者としての業務を実施する上で必要な内容を含む通算40時間以上のもの (ハ)講義および具体例に基づく演習などで、以下について研修するもの ● 医療安全の基本的知識 ● 安全管理体制の構築 ● 医療安全についての職員研修の企画・運営 ● 医療安全に資する情報収集と分析、対策立案、フィードバック、評価 ● 医療事故発生時の対応 ● 安全文化の醸成 など |
|||
| (イ) | 医療安全管理部門の設置 | ||
| (ウ) | 医療安全管理部門の業務指針および医療安全管理者の具体的な業務内容の整備 | ||
| (エ) | 医療安全管理部門について以下の全ての部門に専任の職員を配置 ● 診療部門 ● 薬剤部門 ● 看護部門 ● 事務部門 など |
||
| (オ) | 医療安全管理者が、医療安全管理対策委員会と連携し、より実効性のある医療安全対策を実施できる体制の整備 | ||
| (カ) | 医療機関の見やすい場所に医療安全管理者等による相談・支援が受けられる旨を掲示するなど、患者さんへの必要な情報提供を実施 | ||
| 医療安全管理者の行う業務に関する事項 | (ア) | 安全管理部門の業務に関する企画立案および評価 | |
| (イ) | 定期的に院内を巡回して、各部門における医療安全対策の実施状況を把握・分析し、医療安全確保のために必要な業務改善などの具体的な対策を推進 | ||
| (ウ) | 各部門における医療事故防止担当者への支援 | ||
| (エ) | 医療安全対策の体制確保のための各部門との調整 | ||
| (オ) | 医療安全対策に係る体制を確保するための職員研修の企画・実施 | ||
| (カ) | 相談窓口などの担当者と密接な連携を図り、医療安全対策に係る患者さんや家族の相談に適切に応じる体制を支援 | ||
| 医療安全管理部門が行う業務に関する基準 | (ア) | ● 各部門における医療安全対策の実施状況の評価と、その結果に基づく業務改善計画書の作成 ● 作成した計画に基づいた、医療安全対策の実施状況および評価結果の記録 |
|
| (イ) | 医療安全管理者の活動実績の記録 ● 医療安全管理対策委員会との連携状況 ● 院内研修の実績 ● 患者さんなどの相談件数および相談内容、相談後の取り扱い など |
||
| (ウ) | 医療安全対策に関するカンファレンスの実施(対面によらない方法で開催しても差し支えない) ● 週1回程度の開催 ● 医療安全管理対策委員会の構成員および必要に応じて各部門の医療安全管理の担当者などが参加 |
||
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
前述のとおり、医療安全対策加算1と2の主な違いは、人員の配置要件にあります。医療安全対策加算1で「専従」の医療有資格者を医療安全管理部門に配置することが求められているのは、担当職員が他業務を兼ねることなく、医療安全対策業務に集中できる体制を確保するためといえるでしょう。
一方、医療安全対策加算2では、「専任」者の配置が要件のため、比較的柔軟な人員配置で算定できます。より医療安全対策に資する人員体制を整えられる医療機関は、医療安全対策加算1の要件を満たすことが可能です。
5.医療安全対策地域連携加算とは?
医療安全対策地域連携加算とは、医療安全対策加算に設けられた加算です。医療安全対策加算の届出を行っている複数の医療機関が連携して、医療安全対策に関する評価を定期的に行っている場合に算定できます。
それぞれの医療機関が、単独で医療安全対策を行うだけでなく、地域全体で安全・安心な医療を提供できるよう安全対策に関する情報や施策を共有・強化することが目的とされています。
医療安全対策地域連携加算にも区分が2つあり、それぞれ点数や施設基準が異なります。ここでは、医療安全対策地域連携加算1と2の概要についてお伝えします。
5-1.医療安全対策地域連携加算1
医療安全対策地域連携加算1は、要件を満たすことで50点を算定できます。算定するためには、医療安全対策加算1の届出が必要です。医療安全管理部門には、医療安全対策の経験が3年以上または適切な研修を修了した専任医師を配置しなければなりません。
医療安全対策地域連携加算の算定につながる地域連携は、互いに連携先の医療機関へ年1回以上赴き、医療安全対策の活動状況や実施状況を評価・報告することです。
また、感染対策向上加算1を算定している医療機関は、医療安全対策地域連携加算1と併せて評価を実施できます。評価方法は、連携機関と協議の上、独立行政法人国立病院機構作成の「医療安全相互チェックシート」などを参考に策定します。
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
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5-2.医療安全対策地域連携加算2
医療安全対策地域連携加算2を算定するには、医療安全対策加算2の届出を行っていることが必要です。算定には、医療安全対策加算1の届出をしている医療機関から、少なくとも年1回程度、医療安全対策地域連携加算2に関連する活動状況や実施状況について評価を受ける必要があります。要件を満たすことで20点を算定することが可能です。
医療安全対策地域連携加算1と同様、感染対策向上加算1を算定している医療機関は併せて評価を実施して差し支えないとされています。評価方法についても、同じく独立行政法人国立病院機構作成の「医療安全相互チェックシート」などを参考に、連携する医療機関と協議して策定しましょう。
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
6.医療安全対策加算と医療安全対策地域連携加算について理解を深めよう
医療安全対策加算1と2の要件に大きな違いはなく、人員配置の状況によって評価が異なっています。医療安全対策地域連携加算1と2については、区分によって人員配置や連携内容の要件に違いがあります。
医療安全対策は、医療の質の向上と患者さんの信頼確保に直結するものといえるでしょう。医療安全対策加算や医療安全対策地域連携加算について、理解を深めておきましょう。
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薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。
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