薬学生のためのお役立ちコンテンツ 公開日:2021.11.15 薬学生のためのお役立ちコンテンツ

薬剤師になるには~必要な資格と国家試験の難易度、目指すべき大学~

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬の専門家として活躍する薬剤師は、地域の人たちの健康管理や公衆衛生の向上・増進に貢献する大切な役割を担っています。薬剤師になるには、薬学部のある大学に入学し、薬学共用試験、実務実習などを経て、薬剤師国家試験に合格する必要があります。今回は、薬剤師になるためのステップと薬剤師の資格が生かせる職業、社会人から薬剤師になる方法などについてお伝えします。

1.薬剤師になるには

薬剤師は、病気の治療や予防だけでなく、健康の維持にも社会的な貢献が求められています。その役割として、「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上および増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」(薬剤師法第1条)と薬剤師法によって規定されています。まずは、薬剤師になる方法について見ていきましょう。

 

1-1.薬剤師になるために必要な資格

薬剤師になるには、薬学部を卒業し、薬剤師国家試験に合格したうえで、薬剤師名簿に登録することで、活動する資格を得られます。薬剤師国家試験は、薬学部を卒業見込みまたは卒業した人だけが受験資格を得られるため、薬剤師免許を取得するための第1ステップは、6年制の薬学部に入学することといえます。

そのうえで、薬学部の卒業見込みまたは卒業後、薬剤師国家試験に合格する必要があります。薬剤師国家試験の合格率は大学によって異なります。気になる方は厚生労働省や各大学のホームページなどで確認してみましょう。

 
🔽 第109回薬剤師国家試験の情報をまとめた記事はこちら

 

1-2.国家試験の難易度

薬剤師国家試験は厚生労働省が行うもので、毎年2月に開催され、3月末に合格者の発表があります。厚生労働省の発表によると、2021年2月に実施された第106回薬剤師国家試験の合格率は68.66%(男性63.93%、女性71.60%)。合格者数は9,634名で、35.67%が男性、64.33%が女性でした。
 
年度によって多少の変動はあるものの、近年の合格率は約7割で推移しており、毎年1万人前後が薬剤師国家試験に合格しています
 
合格率だけを見ると取得しやすい資格のように思えますが、薬剤師になるには薬学部に入学するという最初の壁に加え、卒業の難しさがあり、薬剤師国家試験を突破することも簡単ではありません。

 
🔽 第108回薬剤師国家試験の結果について詳しく解説した記事はこちら

 
🔽 薬剤師国家試験の合格基準について詳しく解説した記事はこちら

 

1-3.国家試験に至るまでの厳しさもある

どれほどの壁を乗り越えて薬剤師になれるのか、2021年2月に行われた第106回薬剤師国家試験で、都内TOPの合格率88.85%を出した星薬科大学を例に見ていきましょう。
 
星薬科大学の6年制薬学科の合格率は試験方式によって異なりますが、2.8~4.2倍と公表されています。2015年度に入学した286名のうち、2020年度に卒業できたのは255名。つまり、89.16%の学生が留年せずに卒業しているという結果です。ストレートで卒業した薬学生255名(89.16%)のうち、薬剤師国家試験に合格したのは242名(入学者の84.62%)です(星薬科大学のデータより)。これは、星薬科大学に入学できたとしても、15%は留年または薬剤師国家試験の浪人生となっているということをあらわしています。

なお、順調に進級しストレートで国家試験に臨めるかどうかは、大学によって難易度が異なります。大学のホームページなどで、具体的な国家試験合格率などを確認しておくとよいでしょう。

 
🔽 薬剤師国家試験の合格率について詳しく解説した記事はこちら

2.薬剤師になるために目指すべき大学の選び方

薬薬剤師になるには、6年制の薬学部を卒業し国家試験に臨む必要があります。ただし、薬学部には4年制のコースもあり混同しがちです。その違いを理解し、目指すべき大学を考えてみましょう。

 

2-1.6年制と4年制の違い

6年制の薬学部は薬剤師になるためのコースであるのに対し、4年制は主に研究者を養成するコースとなっています。そのため、4年制を卒業しても薬剤師国家試験を受けることができません。コースを選択するタイミングは、受験時に4年制または6年制を選択する場合と、3年次にいずれかのコースを選択する場合があり、大学によって異なります。
 
選択するコースにかかわらず途中までは同じ講義を受け、研究室への配属を決めるタイミングで、6年制は実務実習や薬剤師国家試験対策を中心とした授業に、4年制は研究を中心とした授業となっていくことが多いでしょう。

 

2-2.薬学共用試験(CBT、OSCE)の合格率

6年制の場合、5年次に実際の病院および薬局で実務実習を行います。実務実習は、薬学生が実際に調剤し、直接患者さんに接する参加型実習です。実務実習を行うためには、実習に参加できるだけの知識、技能、態度を備えているかを評価する薬学共用試験に合格する必要があります。まずはこの薬学共用試験に合格することが、薬剤師になるための第一関門といえるでしょう。

薬学共用試験は、知識を評価する客観試験CBT(Computer-Based Testing)と、実技を通して主に技能・態度を評価する客観的臨床能力試験OSCE(Objective Structured Clinical Examination)の2種類で構成されています。
 
CBTでは、4年次までに学んだ基礎知識が一定の基準に達しているかが、コンピューターで客観的に評価されます。特別な準備学習を必要としないレベルの問題が出題される傾向があります。
 
客観的臨床能力試験OSCEは、模擬患者さんとシミュレーションを行い、実技能力が実務実習を行える基準に達しているかをモニター員が審査するテストです。患者さんや来局者への応対、情報の提供、薬剤の調製、薬のチェック、無菌操作など事前に決められた内容を適切に行えるかが評価されます。
 
薬学共用試験の合格率をホームページに掲載している大学もあるため、大学選びの参考にするとよいでしょう。

 

2-3.大学にかかる費用

薬剤師になるには、国立大学で約350万円、私立大学で約1,240万円の学費が必要だといわれています。

国立大学の場合、北海道大学を例に見ると、入学金が282,000円、年間授業料が535,800円となっており、6年制の薬学部を卒業するためには約350万円が必要です。一方、私立大学は、星薬科大学を例に見ると、入学金が40万円程度、年間授業料は約190万円程度で6年制の薬学部を卒業するまでには約1200万円が必要です。
 
なお大学ごとに委託徴収金や教育充実費などがかかることもあり、教科書なども必要になってきます。大学によって入学金や授業料などが異なりますので、詳しくは各大学のホームページを確認しましょう。

さらに、通学にかかる交通費やひとり暮らしの生活費など、学費以外の費用も考慮しなければなりません。大学によっては、成績優秀な学生のなかで、経済的理由で支払いが困難な学生を対象に費用を支援する授業料免除制度や奨学金制度が用意されています。また、日本学生支援機構など、国立、私立問わず利用できる奨学金制度もあるので、費用に不安を感じるのであれば、奨学金制度の利用を検討してみましょう。

 
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3.社会人から薬剤師になるには

一度、社会人として働いた後に薬剤師を目指したい人もいるでしょう。社会人であっても、薬剤師になるためには薬学部に入学するところからスタートです。薬学生と同様、薬剤師国家試験に合格すると薬剤師として働くことができます。ただし、社会人が薬剤師になることは簡単ではありません。社会人から薬剤師の資格取得を目指す際の注意点を見ていきましょう

 

3-1.資格取得時の年齢によって就職できる職種が限定される

薬学部の入学や薬剤師国家試験の受験には年齢制限がありません。資格取得自体は年齢を問わずチャレンジできますが、希望する職種がある場合には注意が必要です。例えば、公務員薬剤師は採用要件に年齢上限が設定されています。入学時の年齢や通学年数を考えると、目指す職種によっては、早めの決断が必要でしょう。
 
薬学部に入学するには、通常の大学入試を受ける方法のほか、社会人試験や編入試験を受ける方法もあります。4年制大学や理系短期大学を卒業した人を対象としている大学であれば、2年次もしくは3年次の途中から入学できるため通学期間が短縮されるでしょう。年齢制限のある職種への就職を考えているのであれば、社会人試験を検討するのがよいかもしれません。

 

3-2.アルバイトをする時間は限られている

薬学部の授業はほとんどが必修科目で、基本的に朝から授業があり、午前中は座学、午後は実習が行われます。定期試験前は1日10時間以上勉強する人も少なくありません。学費のためにアルバイトや派遣社員として働きながら薬学部を卒業するのは非常に難しく、仕事が忙しくて留年するようなことがあれば本末転倒です。入学前に学費の工面をしておくと安心ですが、難しい場合は奨学金制度の利用などを検討しましょう。

 

3-3.家庭をもつ人は学業中心の生活となる覚悟を

時給の高さに魅力を感じて専業主婦が薬剤師を目指すケースがあるかもしれません。留年を避けなければならないのでしっかりと勉強時間を確保する必要があります。通学や勉強の時間を確保しながら、家庭と両立させることはとても大変です。家庭をもつ人が薬剤師の資格を目指すのであれば、家庭中心の生活から学業中心の生活へとシフトする覚悟が必要です。

 
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4.薬剤師の資格が必須の仕事

薬剤師の資格が生かせる仕事は幅広く、さまざまな業種で活躍が可能です。ここでは、薬剤師の資格を生かせる仕事について代表的なものを紹介します。

 

4-1.病院

病院薬剤師の主な業務は、調剤や服薬指導です。さらに、薬の専門家としてチーム医療に参画します。入院患者さんを対象とする調剤や服薬指導が中心ですが、疾患や治療によっては外来患者さんに対応することもあります。
 
チーム医療に参画する薬剤師は、医師や看護師に加え、栄養士や理学療法士、医事課などさまざまな医療スタッフと連携しながら患者さんの治療にあたります。ほかにも、病院でしか取り扱えない注射薬や輸液の調剤、薬物治療モニタリングに加え、院内感染症対策チームや栄養サポートチームへの参画などは、病院薬剤師ならではの業務といえるでしょう。

 
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4-2.調剤薬局

調剤薬局では、調剤業務、服薬指導、薬歴管理が主な業務です。医療機関での診察内容や検査結果などを患者さんから聞き取る必要があるため、高度なコミュニケーション能力が求められます。

さらに、在宅医療に参画する調剤薬局は、クリニックの医師や看護師、ケアマネージャー、ヘルパーなどと連携して在宅医療のサポートを行います。また、調剤薬局に来る患者さんのなかには、薬物治療モニタリングや副作用対策といった細やかなサポートを必要とする人もいます。がんなどの疾患の場合は、病院薬剤師と連携して患者さんの治療サポートを行うこともあり、調剤薬局の薬剤師は調剤以外の業務を担う機会が増えつつあります。
 
病院薬剤師との大きな違いは、保険薬剤師として登録する点でしょう。保険薬剤師は、処方せんに記載されている薬剤を調剤するだけでなく、処方せんの期限を確認したり、疾患や薬剤に対して保険適応に間違いがないかチェックしたりしなければなりません。保険調剤ができるかを確認するためにも、保険について学ぶ必要があります。

 
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4-3.ドラッグストア

ドラッグストアの薬剤師は、市販の風邪薬や痛み止めなどを求めて来店したお客さんにカウンセリングを行ったり、漢方薬や健康食品などを提案したり、化粧品や介護用品などを販売したりすることが主な業務です。そのほか、健康診断結果や薬の飲み合わせ、介護の悩みなど、さまざまな相談に応えることもあります。ときには、処方薬の相談を受けることもあるため、ドラッグストアに勤める薬剤師は、市販薬や日用品の知識に加え、医療用医薬品の知識も求められます。

 
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5.薬剤師の資格が就職に有利にはたらく仕事

薬剤師の資格が必要な職業もあれば、必須でない職業もあります。必須ではないものの、取得していると就職に有利になる職業を紹介しましょう。

 

5-1.企業

薬剤師の資格を生かして就職できる企業はさまざまです。薬の研究や開発を行う製薬企業や治験業務を委託するCROやSMO、薬の卸売販売会社、化粧品メーカー、食品メーカー、医薬品医療機器総合機構(PMDA)など多岐にわたります。

必ずしも薬剤師資格が求められないため、薬学部以外の理系学部出身者の人も就職を目指す傾向にあり、調剤薬局や病院、ドラッグストアに比べて就職倍率が高くなりやすいです。しかし、業種によっては、薬剤師免許はアピール材料となり、就職が有利になることもあります。

 
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5-2.公務員

公務員には地方公務員と国家公務員があり、国公立病院や自衛官、刑務所などの公務員薬剤師として働く場合は薬剤師資格取得が必須条件です。
 
しかし、薬剤師資格がなくても公務員として働ける職種があります。例えば、薬事監視員環境衛生指導員といった地方公務員や、食品衛生監視員麻薬取締官といった国家公務員などが該当します。これらの職業は、薬剤師にかぎらず、医師や看護師など、薬学や医療の知識がある人が就職できる職業(要件は職種により異なる)ですので、薬剤師資格は必須ではありません。もちろん薬学の知識や技能を使う職業ですので、薬剤師免許を取得していると就職の際に有利にはたらくでしょう。


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5-3.大学の職員

薬学部を卒業後、大学院に進学し、そのまま大学で研究を続けるという選択もあります。この場合は教授を目指すキャリアプランが想定されます。薬学部では、数学や物理学、法学など、薬剤師以外が教授を務めたり、医師が教授を務める研究室があったりします。
 
関連分野は幅広く、必ずしも資格取得が求められるわけではありませんが、薬学部の教授を目指すなら薬剤師の資格を取得しておくほうが有利です。

6.薬剤師として働くには

薬剤師は薬の知識を生かして患者さんの健康や衛生管理、教育などに貢献できる仕事です。例に挙げた以外にも薬剤師の資格を生かせる職業はたくさんあり、薬学部で学んだ知識はさまざまな業種で役立ちます。
 
薬剤師になるには、薬剤師国家試験だけでなく、薬学部への入学と卒業をクリアしなければなりません。取得難易度の高い資格ではありますが、その分、得られる社会的信頼は厚く、需要も高い傾向にあります。薬剤師を目指す際には、社会人として働くイメージをしっかりともつことが大切です。薬剤師資格を取得するまでのモチベーション維持を行いながら、希望する働き方を考えてみましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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