1.分割調剤とは?
2016年度の診療報酬改定において、医師の指示のもと、患者さんの服薬管理が困難であるといった理由から分割調剤が実施できるようになりました。一方で、長期保存が難しい薬剤やジェネリック医薬品を初めて使用する患者さんに対しては、薬剤師の判断で分割調剤を行うことが可能です。
分割調剤の算定は、調剤基本料や薬学調整料などを分割回数で割ったり、2回目以降の算定点数が通常の調剤基本料を算定できなかったりと、ケースによって算定方法が異なります。
また、服薬情報等提供料や新設された外来服薬支援料2は、分割回数で割らずに算定できます。まずは、分割調剤を行う3つのケースとそれぞれの算定方法について見ていきましょう。
2.分割調剤を行う3つのケースとそれぞれの算定方法
分割調剤を行うケースには、以下の3つが挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
②ジェネリック医薬品の試用目的
③医師の指示
2-1.長期保存が困難な薬剤を処方された場合の分割調剤
14日分を超える長期投薬において、長期保存が困難な医薬品が処方された場合、分割調剤が可能です。同一薬局で同一処方箋を分割調剤した場合、調剤基本料は初回のみ算定し、2回目以降は1分割調剤について5点を算定します。
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また、薬剤調整料と調剤管理料、外来服薬支援料2は、1回目の調剤から通算した日数に対応する点数から前回までに請求した点数を引いた点数を算定します。
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加えて、異なる薬局で分割調剤を行った場合は、各薬局でそれぞれ調剤基本料を算定できます。長期保存が困難なケースでは、調剤を行う前に医療機関に対して照会するとともに、分割理由を含めた必要事項を調剤録や薬歴に記録しておく必要があります。
2-2.ジェネリック医薬品の試用目的としての分割調剤
ジェネリック医薬品試用を目的とした分割調剤は、ジェネリック医薬品の服用に不安のある患者さんなどに対して行います。長期保存が困難な薬剤を分割調剤する場合と同様に、同一薬局で同一処方箋を分割調剤した場合、調剤基本料は初回のみ、2回目は5点が算定できます。
ただし、3回目以降は算定できません。薬剤調整料と調剤管理料、外来服薬支援料2は、1回目の調剤から通算した日数に対応する点数から前回までに請求した点数を引いた点数を算定します。
2回目の分割調剤では「患者さんの意向に沿った調剤を行うこと」とされており、先発医薬品・後発医薬品(ジェネリック医薬品)のどちらを調剤してもよいことになっています。このケースでも、分割調剤を行う際は医療機関へ連絡し、必要事項を調剤録や薬歴へ記録しなければなりません。
2回目以降に患者さんが先発医薬品を希望した場合は、その旨を医療機関に連絡するとともに、調剤録や薬歴へ記録する必要があります。なお、1回目と2回目の調剤薬局が異なる場合は、それぞれ調剤基本料を算定できます。
2-3.医師の指示による分割調剤
長期保存の困難な薬剤やジェネリック医薬品の試用を除く、医師からの分割指示については、以下について患者さんの同意を得た上で分割調剤を行います。
・次回以降の来局予定を確認し、来局されない場合は調剤薬局から確認の連絡を行うこと。
・次回以降、別の調剤薬局で調剤を希望する場合、来局予定の調剤薬局へ当薬局から必要な情報を提供すること。
・2回目以降も患者さんの服薬状況や体調変化などについて聞き取りを行い、処方医へ情報提供すること。
(厚生労働省保険局医療課「平成30年度診療報酬改定の概要 調剤」[分割調剤の手続きの明確化]を参照
医師の指示で行った分割調剤の算定は、調剤基本料、薬剤調整料、薬学管理料とそれぞれの加算を合算し、分割回数で割った点数を算定します。ただし、服薬情報等提供料については分割回数で割らずに算定できます。
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なお、「医師の分割指示」に加え、「長期保存の困難な薬剤」と「ジェネリック医薬品の試用」の片方または両方の分割調剤を同一薬局・同一日に行う場合は「医師の分割指示」の点数を算定します。また、2回目以降の分割調剤において「長期保存の困難な薬剤」と「ジェネリック医薬品の試用」を同一薬局・同一日に行う場合は、いずれか一方の点数を算定します(厚生労働省資料「別添3 調剤報酬点数表に関する事項」より)。
3.分割調剤とリフィル処方の違い
分割調剤とリフィル処方の違いは、調剤を行う日数があらかじめ決められているかどうかという点です。ここでは、リフィル処方箋の概要と調剤について見ていきましょう。
3-1.リフィル処方箋の概要と調剤
リフィル処方箋は、状態が安定している患者さんについて、医師の指示のもと処方されます。薬剤師と医師が連携しながら、一定期間内において処方箋を反復利用できる仕組みで、医師が処方箋の「リフィル可」欄にチェックを入れた場合、リフィル処方が可能となります。リフィル処方箋の総使用回数の上限は3回までとなっており、投薬期間や総投薬期間は医師の判断にゆだねられます。
調剤薬局では、1回目の調剤は、通常の処方箋と同様に行い、2回目以降は1回目の調剤日を起点として、投薬日数から次回調剤日を算出します。次回調剤日の前後7日間が調剤可能期間となり、この期間外で受け付けた場合はリフィル処方箋による調剤を行うことができないため注意が必要です(厚生労働省保険局医療課事務連絡「疑義照会資料の送付について(その1)」[令和4年3月31日]より)。
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3-2.分割調剤での調剤日数
「調剤報酬点数表に関する事項」において、分割調剤の調剤日数は以下のように定められています。
参照:厚生労働省「別添3 調剤報酬点数表に関する事項」
上記の内容は、例えば10日分の処方箋の場合、通常、処方箋の期限は4日間であることから、「10+4=14日分」を超えて交付できないことが分かります。
では、実例を挙げてみましょう。
例えば、4月3日に交付された10日分の処方箋で、分割調剤を行わない場合は、4月6日に受け付けすると、次の日から服用を開始したとして4月16日まで服用することになります。
<表1>
次に、4月4日に5日分の分割調剤を行ったとしましょう。4月9日までの服用分を調剤し、残りは5日分です。
<表2>
次回、4月10日に来局されると、残り5日分をお渡しできます。
<表3>
計算式は(10+4)-7=7となり、5より大きいので5日分はお渡しできます(※「-7」は<表3>の水色部分の日数です)。
しかし、次回、4月13日に来局した場合は4日分しか調剤できません。
<表4>
計算式は(10+4)-10=4となり、5より小さくなるためお渡しできるのは4日分です(※「-10」は<表4>の水色部分の日数です)。
分割調剤は、来局日に合わせて調剤日数を計算するのに対し、リフィル処方箋は次回調剤予定日以外の調剤が不可となっています。リフィル処方箋と比較して分割調剤はやや複雑な仕組みといえます。ポイントを押さえながら、適切に対応できるよう理解を深めましょう。
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4.分割調剤のメリット
複雑な仕組みを持つ分割調剤ですが、そのメリットはどんな点にあるのでしょうか。
4-1.医療費の削減
分割調剤によって、医療費の削減効果が期待できます。服薬指導の頻度が増えるため、薬の飲み忘れや服用中止による残薬を小まめに確認できるでしょう。患者さんとのやりとりの中で、「実は、飲みにくい薬があって飲んでいない」「症状が改善したから中止になった」といった情報を得やすくなり、コミュニケーションアップにもつながります。患者さんと信頼関係を構築することで、服薬状況の詳細を確認でき、医療費削減に貢献できます。
4-2.ポリファーマシーを予防できる
分割調剤は、ポリファーマシーの予防にも役立ちます。ポリファーマシーとは、多種類の薬剤が過剰に処方されることによって、患者さんに何らかの悪い影響を与える可能性がある状態をいいます。複数の薬剤を服用することによって、副作用が起こりやすくなったり、服用ミスが増えたりすることが考えられます。
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また、薬の管理も複雑になるため、服薬アドヒアランスの低下にもつながるでしょう。分割調剤は、定期的に患者さんの服薬状況を確認しサポートを行うため、ポリファーマシーの予防が期待されます。
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4-3.患者さんの健康状態を把握しやすい
より丁寧な服薬サポートが可能になることも、分割調剤のメリットです。患者さんによっては、ライフスタイルや季節などの影響で薬が合わなくなることもあります。例えば、寒い時期や仕事の繁忙期は、血圧が高くなりやすいといった変化をより小まめに聞き取ることで、患者さんの健康状態を把握しやすくなり、状況に応じた服薬指導が可能になります。
5.分割調剤のデメリット
一方で、分割調剤のデメリットもあります。前述した通り、分割調剤はやや複雑な仕組みになっています。薬剤師は来局日に合わせて調剤日数を調整したり、医師への情報提供を行ったりしなければなりません。通常の調剤やリフィル処方箋であれば、調剤業務・服薬指導は1回ですが、分割調剤は分割回数分をこなす必要もあります。
また、患者さんが来局しない場合は、連絡して来局を促したり、他薬局への来局を希望した場合は、変更先へ情報提供したりするといったフォローも欠かせません。分割調剤はそれほど調剤報酬が高くないため、業務量に対して点数が低いのはデメリットといえるでしょう。
6.分割調剤を行う上でのポイント
「長期保存が困難な薬剤」や「ジェネリック医薬品の試用」での分割調剤は目的が明確ですが、医師の指示による分割調剤の場合、目的が明確に把握できるとは限りません。薬剤師はなぜ医師が分割調剤を指示したのかを考えながら、服薬指導を行う必要があるでしょう。
薬剤管理が複雑だったりコンプライアンスが悪かったりと、分割調剤を行う理由はさまざまです。上手に患者さんから聞き取りを行い、場合によっては医師への確認が必要になるかもしれません。医師の意図を把握して服薬指導を行うよう意識することが大切です。
7.分割調剤を行う意義を理解しよう
分割調剤は、ポリファーマシーの予防や医療費の削減、丁寧な服薬管理につながります。やや複雑ではありますが、薬剤師の職能が発揮できる領域といえるでしょう。業務量に対して調剤点数が低い点はデメリットですが、患者さんの状況に合わせて分割調剤を提案することで、最適な服薬サポートが行えます。アドヒアランス向上のための手段として利用するとよいでしょう。
■平成28年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要|厚生労働省保険局医療課
■平成30年度診療報酬改定の概要 調剤|厚生労働省保険局医療課
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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