薬剤師のスキルアップ 更新日:2024.04.02公開日:2024.01.23 薬剤師のスキルアップ

薬剤師と臨床検査技師の違いやダブルライセンスを取得するメリットを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師の資格と同時に、臨床検査技師の資格を取得することには、どんなメリットがあるのでしょうか。臨床検査技師の資格は、医師の指示の下、心電図や血液検査などの生理学的検査を行うためのものであり、一般的な薬剤師の業務とは大きく異なります。今回は、薬剤師と臨床検査技師のダブルライセンスを取得するメリットや、両者の違い、それぞれの将来性などについて考えてみましょう。

1.薬剤師と臨床検査技師のダブルライセンスは大学で取得できる?

薬学部の中には大学卒業と同時に、薬剤師国家試験に加え、臨床検査技師国家試験の受験資格を取得できる大学があります
 
例えば、北里大学薬学部(※2021年度以前入学生対象)や明治薬科大学などでは、臨床検査技師国家試験の受験資格を取得するための必須科目を薬学部のカリキュラム内で受講することが可能です。
 
参照:北里大学 薬学部 履修の手引き 2-3. 臨床検査技師課程(2021年度以前入学生対象)|北里大学
参照:資格取得|明治薬科大学
 
卒業と同時に臨床検査技師国家試験の受験資格を得たい場合は、必修科目を把握しておく必要があるでしょう。自身に受験資格があるかどうかは、大学に確認するのが確実です。

 
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2.薬剤師と臨床検査技師のダブルライセンスを取得するメリット

薬剤師と臨床検査技師のダブルライセンスを取得するメリットは、知識の幅が広がる点にあります。検査方法などを把握することでより深く検査結果を理解できるでしょう。
 
加えて、検査による患者さんの身体的な負担を考えながら接することができます。例えば、患者さんの疲労具合を見て、座った状態での服薬指導を提案したり、指導時間を調節したりすることが可能でしょう。
 
「時間のかかる検査でしたね」と声掛けするなど、患者さんに寄り添った服薬指導ができる点もメリットといえます。

 
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業務の幅を広げるという点では、在宅医療の中に可能性があるかもしれません。在宅医療に参画すると、医師と一緒に患者さんの自宅へ訪問する機会もあるでしょう。
 
看護師や臨床検査技師が同行していない場合は、血液検査や心電図などを臨床検査技師の資格を持つ薬剤師が実施できます。薬剤師が仕事の幅を広げる可能性のひとつとして考えられるのではないでしょうか。

 
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3.臨床検査技師の資格取得方法

ここでは、臨床検査技師国家試験の試験科目や受験資格について詳しくお伝えします。

 

3-1.臨床検査技師国家試験の試験科目

臨床検査技師国家試験の試験科目は以下です。

 

● 医用工学概論(情報科学概論及び検査機器総論を含む)
● 公衆衛生学(関係法規を含む)
● 臨床検査医学総論(臨床医学総論及び医学概論を含む)
● 臨床検査総論(検査管理総論及び医動物学を含む)
● 病理組織細胞学
● 臨床生理学
● 臨床化学(放射性同位元素検査技術学を含む)
● 臨床血液学
● 臨床微生物学
● 臨床免疫学

 

臨床検査技師の試験科目は、薬学部で学ぶ分野と重複しているものが多いことが分かります。

 

3-2.臨床検査技師国家試験の受験資格

基本的には、大学、文部科学大臣が指定した学校または都道府県知事が指定した臨床検査技師養成所で、「医用工学概論」「臨床検査総論」「臨床生理学」「臨床化学」「放射性同位元素検査技術学」「医療安全管理学」といった所定の科目を修めた人などが受験資格を持ちます。
 
また、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師などの資格を持つ人の中で、指定科目を修了している人は受験可能です。ただし、指定科目は卒業年月日などによって変わりますので、受験資格の有無は出身大学などに確認しましょう。細かい条件については、以下のリンク先をご確認ください。
 
参照:臨床検査技師国家試験の施行|厚生労働省

 

3-3.臨床検査技師国家試験の受験資格の確認方法

卒業と同時に薬剤師と臨床検査技師の受験資格を得たい場合、まずは大学のホームページで卒業後に取得できる資格について確認しましょう。
 
薬学部を目指す受験生は、大学のホームページで臨床検査技師の受験資格について確認し、記載されていない場合は大学に問い合わせることで分かります。
 
薬学部在学中の学生は、大学の教務部などで受験資格に加えて、受講が必要な科目についても確認するとよいでしょう。
 
臨床検査技師国家試験の受験資格は、卒業年月日によって必修科目が変わるので、社会人の場合は大学へ卒業年月日を伝えることで受験資格の有無を確認できるかもしれません。

 

3-4.臨床検査技師国家試験の受験手続きに必要な書類など

受験手続に必要なものは、受験願書と出願前6カ月以内に撮影した写真、返信用封筒です。加えて、卒業証書の写し、卒業証明書もしくは卒業見込証明書または薬剤師免許書の写しを提出します。
 
なお、卒業証書の写しを提出する場合は、臨床検査技師国家試験運営本部事務所または臨床検査技師国家試験運営臨時事務所に卒業証書の原本を提示し、原本照合を受けなければなりません。

 

3-5.臨床検査技師国家試験の受験手数料

臨床検査技師国家試験の受験手数料は1万1,300円です。受験手数料と同等の収入印紙を受験願書に貼って納付します。
 
受験に関する書類を受理した後は、受験手数料は返還されません。受験票は郵送で交付されますので、受験票が届かない場合は臨床検査技師国家試験運営本部事務所に問い合わせる必要があります。

 

3-6.臨床検査技師国家試験の合格率

厚生労働省が公表している2023年2月15日に実施された臨床検査技師国家試験の合格率は、全体が77.6%、新卒者は89.5%でした。
 
参照:第69回臨床検査技師国家試験の合格発表について|厚生労働省
 
医療系国家資格の受験対策を行っている日本医歯薬研修協会の調査によると、薬学部出身者の合格率は、全体で38.3%、新卒者が50.0%、既卒者が26.7%。厚生労働省が公表している合格率と比較すると、薬学部出身者の合格率は低い傾向にあります。
 
参照:第69回臨床検査技師国家試験 学校別合格状況|日本医歯薬研修協会

 
🔽 薬剤師国家試験の合格率を解説した記事はこちら

4.薬剤師と臨床検査技師の年収の違い

厚生労働省が公表している「賃金構造基本統計調査(2022年度)」によると、薬剤師の平均年収は583.3万円、臨床検査技師の平均年収は508.9万円でした。
 
また、男女別の平均年収は、薬剤師男性が637.0万円、薬剤師女性が540.1万円だったのに対し、臨床検査技師男性は560.9万円、臨書検査技師女性は481.6万円でした。

 

薬剤師の平均給料
年収 月収 賞与など
合計 583.3万円 41.4万円 85.8万円
男性 637.0万円 45.0万円 96.1万円
女性 540.1万円 38.5万円 77.6万円

 

臨書検査技師の平均給料
年収 月収 賞与など
合計 508.9万円 34.7万円 92.1万円
男性 560.9万円 38.7万円 96.5万円
女性 481.6万円 32.6万円 89.8万円

※年収:きまって支給する現金給与額×12カ月+年間賞与その他特別給与額(企業規模10人以上、小数点第二位以下切り捨て)
※月収:きまって支給する現金給与額(企業規模10人以上、小数点第二位以下切り捨て)
※賞与など:年間賞与その他特別給与額(企業規模10人以上、小数点第二位以下切り捨て)

 
参照:令和4年度賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省

 

上記を比較してみると、同じ国家資格でも年収に約74万円の差があることが分かります。ただし、薬剤師の働く職場は病院以外にも調剤薬局やドラッグストア、企業など複数あり、それぞれの職種の平均年収は異なります。
 
マイナビ薬剤師の調査データによると、病院薬剤師の平均年収は428.7~596.3万円、調剤薬局が401.4~542.2万円、ドラッグストアが446.5~594.3万円、製薬企業が431.1~664.4万円となっており、薬剤師の年収は職種によって差が大きいようです。

 
🔽 マイナビ薬剤師の年収データを紹介した記事はこちら

 

一方、臨床検査技師が働く職場は病院以外に検査委託会社や治験コーディネーター、研究職、医療機器メーカーなどがあり、検査値や医療機器の知識が生かせる職業に就く傾向があります。
 
薬剤師、臨床検査技師共に、職場や職種、役職によって年収は変わるため一概にどちらの年収が高いとは言い切れませんが、全体の平均年収は薬剤師の方が臨床検査技師より高い傾向にあることが分かりました。

 
🔽 薬剤師の年収について解説した記事はこちら

5.薬剤師と臨床検査技師の将来性

薬剤師は認定薬剤師や専門薬剤師を取得することで、より専門性を高めることが求められています。加えて、高齢化社会では在宅医療の需要が高まると考えられ、その結果、薬局薬剤師による在宅医療への参画がさらに進むことが予想されます。
 
今後は薬局や病院、ドラッグストアなどで働く薬剤師がそれぞれの専門性を生かしながら、高齢化社会における在宅医療の充実に向けて協力していくことでしょう。

一方、臨床検査技師も薬剤師と同様に資格認定制度があり、一級・二級臨床検査士や緊急臨床検査士、細胞検査士などの資格を取得することで専門性を高められます。
 
参照:臨床検査技師に関わる認定技師制度|日本臨床衛生検査技師会
 
臨床検査技師が各種検査の精度を高めることは、医師の診断の精度を高めることにつながるでしょう。加えて、豊富な知識と高度な技術は、後進の指導・育成にも役立つはずです。
 
また、厚生労働省は健康診断による健康管理を推進しています。健康診断ではさまざまな検査を行うため、臨床検査技師の需要は高まる可能性があるでしょう。
 
参照:健康診断による健康管理を進めよう|厚生労働省東京労働局
 
それぞれに将来性があり、今後の需要拡大が見込めます。ただし、いずれも専門性を高めていくことが重要であり、両方の資格を持つ人はどのような分野でスキルを発揮するかを事前に検討し、自分の働き方、将来像を考えておく必要があると言えるでしょう。

 
🔽 薬剤師の将来性について解説した記事はこちら

6.薬剤師と臨床検査技師のダブルライセンスは必要?

薬剤師と臨床検査技師のダブルライセンスを取得することは可能ですが、両方の国家試験を同時に受験するとなるとかなり大変です。
 
同時合格を目指したつもりが、共倒れになってしまっては意味がありません。ダブルライセンスを目指すのであれば、どちらか一つずつ受験することをおすすめします。
 
ダブルライセンスを得たとしても、両方の業務を同時にこなせる仕事はほとんどなく、実際にあったとしても実践するのは容易ではありません。
 
例えば、病院薬剤師が臨床検査技師の業務の一部を行うと仮定してみましょう。臨床検査技師の資格を生かして採血を担当することになった場合、練習や経験を積んでいることが前提です。
 
病院薬剤師としての役割もある以上、調剤だけでなく病棟業務や薬剤に関する知識の習得など、さまざまな専門知識を同時に深める必要があります。すべてをこなせるスキルを持つまでには多くの時間が必要であり、命に関わる現場で中途半端なことをしてしまうとトラブルを招きかねません。
 
前述した在宅医療における採血の実施についても、その頻度を考えると臨床検査技師の資格を持った薬剤師が実施するより、医師のサポート役に回る方が業務を円滑に進められるかもしれません。
 
どんな職種も同じですが、資格を取得したからといって即戦力になるわけではなく、ある程度の経験が求められます。同じ職場で2つのスキルを生かすのではなく、どちらかを副業とする場合にも、同様の努力が必要でしょう。
 
ダブルライセンスの取得を現場で生かすことを目的に考えると大変ですが、知識習得のために取り組むのであれば、薬剤師の仕事に役立ちます。どのような働き方をしたいのかを考えながら、資格取得を検討することが大切です。

7.薬剤師と臨床検査技師のダブルライセンス取得者は少ない

実際のところ、薬剤師の業務は奥が深く、学びに終わりはありません。薬剤師の専門性を高めながら、臨床検査技師の資格取得を目指す薬剤師は少ないでしょう。多くの場合、薬剤師の専門性を高めることを優先しているのではないでしょうか。
 
とはいえ、薬剤師の仕事を通して、臨床検査技師の仕事に興味を持ったり、臨床検査についてより専門的な知識を習得したくなったりすることがあるかもしれません。ダブルライセンスを目指すのであれば、どう生かすのかを考えた上で、資格取得に挑戦するのがよいでしょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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