薬剤総合評価調整加算は、2024年度の医科診療報酬改定で見直しが行われました。医療機関に勤める薬剤師が改定ポイントを把握しておくことは、安心安全な薬物治療につながります。本記事では、薬剤総合評価調整加算の算定要件と点数、2024年度医科診療報酬改定での変更点について分かりやすく解説するとともに、薬剤総合評価調整加算の加算である薬剤調整加算の算定要件と点数についてもお伝えします。
1.薬剤総合評価調整加算とは?
薬剤総合評価調整加算とは、入院基本料等加算のひとつで、入院時にポリファーマシーを解消するための取り組みを行うことを評価するものです。2016年度の医科診療報酬改定で新設され、2020年度改定では薬剤調整加算が新設、2024年度改定では算定要件が見直されました。
薬剤総合評価調整加算は新設されてからたびたび見直しが行われているため、医療機関の薬剤師は変更点や算定要件などをしっかりと理解しておく必要があるでしょう。
参照:2016年度診療報酬改定の概要|厚生労働省
1-1.薬剤調整加算とは?
薬剤調整加算とは、ポリファーマシー解消の取り組みにより実際に減薬した場合に算定できる加算です。2020年度の医科診療報酬改定で、薬剤総合評価調整加算の加算として新設されました。薬効が重複している薬剤を減らすといった取り組みによって、退院時の処方薬(内服薬)が入院前より少なくなることを評価しています。
2020年度以前の薬剤総合評価調整加算の算定要件では、ポリファーマシーを解消するための取り組みと減薬の両方を実施しなければなりませんでした。2020年度の改定後は、ポリファーマシー解消に向けた取り組みによって薬剤総合評価調整加算を算定し、2種類以上の内服薬の減薬に至った場合には、さらに薬剤調整加算を算定する段階的な報酬体系となっています。
参照:2020年度診療報酬改定の概要|厚生労働省
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2.薬剤総合評価調整加算の2024年度改定における変更点
2024年度の医科診療報酬改定で、薬剤総合評価調整加算の算定要件であった「ポリファーマシー対策に関するカンファレンスの実施」が必須要件から外れました。カンファレンスを実施して薬剤調整を行うケースのほか、日常業務の中で多職種と連携して薬物治療の評価や情報共有を行った上で薬剤調整を実施した場合も算定できます。
さらに、ポリファーマシー対策についてのガイドラインを参考に、医療機関内でポリファーマシー対策の手順書を作成し、周知・活用することが算定要件に加えられました。
参照:2024年度診療報酬改定の概要(医科全体版)|厚生労働省

3.薬剤総合評価調整加算の点数と算定要件
薬剤総合評価調整加算を算定するためには、対象となる患者さんの服用薬について、多職種と連携しながら総合的な評価を行った上で処方内容を変更し、患者さんへ必要な指導を行わなければなりません。薬剤総合評価調整加算の点数と主な算定要件は、以下のとおりです。
点数 | 100点 |
---|---|
算定タイミング | 退院時に1回限り |
対象患者 | 複数の内服薬が処方されている患者さんで以下の可能性がある人 ● 薬物有害事象の存在 ● 服薬過誤 ● 服薬アドヒアランスの低下 など |
内服薬の種類数 | 入院前に内服を開始して4週間以上経過した内服薬が6種類以上処方されていたもの ● 錠剤、カプセル剤、散剤、 顆粒剤、液剤については、1銘柄ごとに1種類として計算 ● 屯服薬は内服薬の種類数から除外 ● 服用開始4週間以内の薬剤は、調整前の内服薬の種類数から除外 【精神病棟入院患者さんの場合】 入院時または退院1年前のうち、いずれか遅い時点で抗精神病薬を4種類以上内服していたもの ● 抗精神病薬の種類については、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)の別紙36」を参考にすること |
入院時の確認事項 | ● 持参薬の確認 ● 以下の関連ガイドラインなどを踏まえ、特に慎重な投与を要する薬剤などを確認 1. 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」 2. 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」 3. 日本老年医学会の関連ガイドライン(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン) 4. 厚生労働省「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」 5. 日本病院薬剤師会「ポリファーマシー対策の進め方」 など |
薬剤の総合的な評価 | 医師、薬剤師、看護師などの多職種と連携して以下を評価 ● 患者の病状 ● 副作用 ● 療養上の問題点の有無 |
処方変更 | ● 適切な用量への変更 ● 副作用の被疑薬の中止 ● より有効性・安全性の高い代替薬への変更 など |
診療録等への記載 | ● 評価した内容 ● 変更の要点 |
多職種との連携 | ● 処方の内容を変更する際の留意事項を多職種で共有 ● 処方変更による病状の悪化や新たな副作用の有無について、多職種で確認し、必要に応じて再評価を実施 ● ポリファーマシー対策に係るカンファレンスのほか、病棟などにおける日常的な薬物療法の総合的評価・情報共有ができる機会を活用して連携 ● 以下のガイドラインなどを参考に、ポリファーマシー対策に関する手順書を作成し、医療機関内に周知・活用 1. 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」 2. 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」 3. 日本老年医学会の関連ガイドライン(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン) 4. 厚生労働省「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」 5. 日本病院薬剤師会「ポリファーマシー対策の進め方」 など |
医師と薬剤師の連携 | ● 医師は処方内容の総合調整にあたって、薬効が類似した処方や相互作用のある処方などについて、医療機関の薬剤師に必要に応じて照会を実施 ● 医療機関の薬剤師は、薬効が類似した処方や相互作用のある処方などについて、必要に応じて医師に情報提供を実施 |
患者さんへの服薬指導 | ● 処方変更に伴う注意点を説明 ● 日本老年医学会・日本老年薬学会「高齢者が気を付けたい多すぎる薬と副作用」などを参考に、ポリファーマシーに関する一般的な注意の啓発 |
なお、ここでのポリファーマシーとは、服用する薬剤数が多いことではなく、多剤投与に関連して薬物有害事象のリスクが増加したり、服薬過誤や服薬アドヒアランスが低下したりするといった問題につながる状態を指しています。
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)2020年3月31日|厚生労働省
4.薬剤調整加算の点数と算定要件
薬剤調整加算は、薬剤総合評価調整加算を算定した患者さんに対して、算定要件を満たすことで加算できます。薬剤調整加算の点数と主な算定要件は、以下のとおりです。
点数 | 150点 |
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算定タイミング | 薬剤総合評価調整加算の算定時 |
対象患者 | 薬剤総合評価調整加算を算定した患者さん |
減薬 | ● 退院処方の内服薬が2種類以上減少し、その状態が4週間以上継続すると見込まれる場合 ● 退院までの間に、抗精神病薬の種類数が2種類以上減少した場合 |
診療報酬明細書の摘要欄への記載内容 | 内服薬が減少する前後の内服薬の種類数 |
続いて、薬剤調整加算を算定する上で、起こる可能性のあるケースについて見ていきましょう。

4-1.他医療機関の処方薬と合わせて2種類以上減薬した場合
他医療機関の処方薬と合わせて2種類以上減薬した場合は、薬剤総合評価調整管理料と合わせて、1カ所の医療機関に限り算定できることとされています。
この場合、診療報酬明細書の摘要欄には、以下について記載しなければなりません。
● 各医療機関における調整前後の薬剤の種類数
なお、薬剤総合評価調整管理料とは、入院患者さん以外の患者さんを対象にした管理料です。薬剤調整加算と同様に6種類以上の内服薬が処方されている患者さんについて、2種類以上減薬した場合に、月1回に限り250点を算定できます。
4-2.1年以内に薬剤調整加算または薬剤総合評価調整管理料を算定した場合
1年以内に薬剤調整加算または薬剤総合評価調整管理料を算定した患者さんについて、入院によってさらに減薬となった場合には、薬剤調整加算または薬剤総合評価調整管理料を算定した時点での内服薬の種類数を基準として、さらに2種類以上減薬することで薬剤調整加算が算定できます。
4-3.クロルプロマジン換算で減薬を評価する場合
抗精神病薬の処方変更については、内服薬の錠数ではなく、以下のクロルプロマジン換算(CP換算)による要件を満たすことで、薬剤調整加算を算定することができます。
対象薬剤 | クロルプロマジン換算(CP換算)で2,000mg以上内服していたもの |
---|---|
減量要件 | クロルプロマジン換算(CP換算)で1,000mg以上減少した場合 |
計算方法 | 「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)の別紙36の2」に示す係数を使用 |
診療報酬明細書の摘要欄への記載内容 | 「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)の別紙36の2」を参考に成分量に換算した値を記載 |
日本精神薬学会や地域精神保健福祉機構(COMHBO)などのホームページを活用すると、用量を入力することで自動的にクロルプロマジン換算(CP換算)して総量を計算できます。
ただし、これらのホームページには、厚生労働省の「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)の別紙36の2」に記載されている薬剤以外のものも含まれていることに留意しましょう。

5.安心安全な薬物治療と患者さんの負担軽減に貢献しよう
患者さんの中には、服用薬が多いことで、薬の管理だけでなく服用すること自体に負担を感じている人もいるでしょう。「朝の薬を飲むだけでお腹いっぱいになる」と嘆く患者さんに出会った薬剤師も少なくないのではないでしょうか。薬剤総合評価調整加算を算定することは、安全安心な薬物治療を行うだけでなく、患者さんの負担軽減にも寄与します。また、ポリファーマシー解消に対して、医師や薬剤師などの医療従事者が積極的に活動している証明にもなるでしょう。病院薬剤師は、薬剤総合評価調整加算を算定できるよう主体的に行動してみてはいかがでしょうか。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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