“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2022.04.14 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第79回 良い香りで気を巡らせる、紫蘇の実「蘇子(ソシ)」の効能

紫蘇(シソ)は、日本人に馴染み深い香り野菜です。実はこの紫蘇、葉も茎も実も少しずつ異なる効能を持ち、それぞれが漢方薬として使われます! 共通の効能は「気を巡らせて、気の滞りを解消すること」です。今回は、食卓では紫蘇の葉よりちょっとレアキャラで、それゆえ個人的に特別に感じている「紫蘇の実」=「蘇子(ソシ)」の中医学的な効能についてお話しします。

1.食用・薬用としての紫蘇(葉・茎・花穂・実)

私たちがふだん食用・薬用としている紫蘇は、葉・花穂(かすい)、茎枝(中薬名:蘇梗、老蘇梗)などがあります。葉と花穂をざっとご紹介します。

紫蘇の葉(中薬名:蘇葉、紫蘇葉、紫蘇)

第1回でお話ししたように、紫蘇の葉は「香蘇散(こうそさん)」という漢方処方の主薬です。紫蘇葉と香附子が主薬なので、主薬の名前から一文字ずつとって名付けられています。
学生時代は、テスト前の緊張感からくる胃腸不調があるときによく助けられていました。香蘇散には感謝しております。
 
日本で単に「紫蘇」と言うと、一般的には葉を指します。ミドリの葉とムラサキの葉がありますが、ミドリの葉を「大葉」と呼んだり、「青じそ」「赤じそ」と区別することもありますね。紫蘇に「紫」の文字が入っていることから分かるように、薬用として使われるのはムラサキの方です。使う部位・収穫時期などは、食用・薬用ともに、同じです。

食用時の紫蘇の実(穂紫蘇)

「実」と言いつつ、食用では「実」を包んでいる花穂ごといただいています。花が終わり茎が硬くなってきて、穂の中に緑色のゴマのような実が見えたころがベストな収穫時期です。プチプチした食感が楽しく、生でお刺身に添えたり、天ぷらにしたりしますね。

薬用時の紫蘇の実(中薬名:蘇子、紫蘇子)

食用に適した時期を過ぎると、穂の中の実が熟して茶色っぽくなります。漢方薬に使用するのはこちらで、穂の中から取り出したゴマのような実だけを乾燥させて用います

2.紫蘇の実(蘇子)はどんな生薬?

中医学で紫蘇の実は「蘇子・紫蘇子」と書いて「ソシ・シソシ」と読む中薬(※)です。中薬学の教科書で蘇子は「止咳平喘薬(しがいへいぜんやく)」という種類に分類され、喘咳(呼吸困難・咳嗽)を軽減・制止します

※日本では中薬のことを生薬(しょうやく・きぐすり)と呼んだりしますが同じ意味です。

紫蘇は葉も茎も実も、「温性」で「胸~おなかあたりに作用」し、「気を巡らせて、気の滞りを解消し、気を調える(調気作用)」が共通の効能です。なかでも蘇子(実)は、特に「肺のグループ(肺と大腸)」に作用します。これを「肺・大腸に帰経する」と表現します。また、蘇子の四気五味(四性五味)は「温性、辛味」なので、次のような作用があることが分かります。

・温性=温める
・辛味=散(発散・散らす)、行(巡らす・通す)

 
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3.蘇子はどんな時に用いられるのか

中薬の中には、「昇・降・浮・沈(しょう・こう・ふ・ちん)」といって、薬物が作用する方向性(ベクトル)をもつものがあります。質が軽い花や葉などの薬物は「昇浮」に働き、質が重い根茎・果実・種子・鉱物・貝殻などの薬物は「沈降」に働くことが多いです。

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蘇子(実)のベクトルはとにかく「下向き」で、降ろす作用が強いです。したがって、食用に少量楽しむ程度なら大きく問題にはなりませんが、薬としてある一定のしっかりした量を使う際には、弱い人(お年寄り・子どもなどを含む)にはあまり向きません。

蘇子の大きな特徴として、次の3つが挙げられます。

(1)「気を通すこと、その気を通す方向性が「下降性」であること。
(2)痰を除き、咳を鎮めること。
(3)気を降ろして通すと共に、腸を潤すことで便秘を改善すること。

 

中医学では蘇子はどのように用いられるのか、具体的な例を見ていきましょう。

(1)蘇子の「気を通す作用」「気を降ろす作用」

蘇子は「気を降ろす作用」が強いため、たとえば咳のように肺の気が上逆(じょうぎゃく・本来とは逆向きに気が上がってしまっている)状態に用います。

気を下向きに降ろす作用を「下気(かき)作用」とか「降気(こうき)作用」などと言ったり、上逆した気を降ろす作用を「降逆(こうぎゃく)作用」と言ったりします。教科書によっていろいろな言い方が使われますが、蘇子にとってどれも同じような意味です。

(2)蘇子の「痰を除く作用」「咳を鎮める作用」

痰がたくさん出てゼロゼロしたり、痰が気道をふさいで咳が出たり、胸や呼吸が苦しくなったりするような状態に用います。痰をなくすとともに、気を降ろして咳を鎮める作用があり、代表処方は、「蘇子降気湯(そしこうきとう)」や「三子養親湯(さんしようしんとう)」です。

(3)蘇子の「潤腸通便作用」

腸壁が乾燥してウンチの水分が奪われ、滑りづらくて出にくい、カチンコチン・コロコロ便に対して、腸を潤して便を通します。その際に、もちろん蘇子の気を降ろす作用も便通をよくするのにプラスに働きます。

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4.蘇子の効能は? 中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている蘇子の効能を見ていきましょう。
 
効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

蘇子(ソシ)

【分類】
止咳平喘薬

【別名】
蘇子・紫蘇子・杜蘇子・黒蘇子・炙蘇子

【基原】
シソ科LabiataeのチリメンジソPerilla frutescens BRITTON.var.crispa DECNE.やその品種の分果

【出典】
名医別録

【性味】
辛、温

【帰経】
肺・大腸

【効能】
止咳平喘(しがいへいぜん)、潤腸通便(じゅんちょうつうべん)

【応用】
1.
痰壅気逆(たんようきぎゃく)・咳嗽気喘(がいそうきぜん)に用いる。蘇子は降気消痰(こうきしょうたん)・止咳平喘(しがいへいぜん)の効能がある。よく、白芥子(はくがいし)・莱菔子(らいふくし)と一緒に用いる。方剤例)三子養親湯(さんしようしんとう)
もし、痰が多くて気道をふさぎ、咳嗽・呼吸困難・胸膈が脹って苦しいなどの症状があらわれたら、厚朴(こうぼく)・陳皮(ちんぴ)・半夏(はんげ)などを配合する。方剤例)蘇子降気湯(そしこうきとう)

2.
腸燥便秘(ちょうそうべんぴ)に用いる。蘇子は、潤腸通便(じゅんちょうつうべん)の効能をもつ。よく、麻子仁(ましにん)・栝楼仁(かろにん)・杏仁(きょうにん)などと用いる。

【参考】
(1)炙用すると潤腸に働き、炒すると薬性が緩和になる。
(2)蘇葉・蘇梗・蘇子はいずれも調気に働く。蘇葉は和中止嘔・解表に、蘇梗は寛暢中気・利膈に、蘇子は降肺気・化痰濁・潤腸燥にすぐれている。

【用量・用法】
5-10g

【使用上の注意】
(1)搗き砕いて使用する。
(2)耗気滑腸するので、気虚の久咳・脾虚の泥状便には用いない。
 
※【分類】【別名】【基原】【参考】【使用上の注意】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より引用/【出典】【性味】【帰経】【効能】【応用】【用量】は『中医学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの

一般的に、気を流す・通す・巡らせる作用(理気作用)のある薬は、気を発散・動かすことで滞りを解消するので気を傷つけます。【使用上の注意】にあるように、「気虚体質で咳が長引いている人」や「脾気虚で泥状便~下痢の人」には用いないようにしましょう。

 

5.紫蘇の実の食べ方・簡単レシピ

食用でいただく場合の紫蘇の実はよーく水で洗って、根元の方から指でしごいて、実を茎からはずします。このときビニール手袋をつけておくと、紫蘇の成分で肌が荒れたり、色素沈着したりするのを防げます。

少量の紫蘇の実を入手したときに簡単なのは、旬のお野菜などを入れた味噌汁やスープに、紫蘇の実をパラパラと入れること。とってもいい香りがして、胸がひろがって気が通るのを感じ、気持ちがとってもスッキリします。
 
はずした紫蘇の実は、よく洗って水をふき取った後に、ジップロックなどのチャック付きのビニール袋に平たく入れて冷凍すると2ヶ月くらい保存できます。紫蘇の実は苦み・エグミがありますので、できれば、一晩水にひたしてアクを抜いてから保存・調理して食べる方がおいしいです。
 
わたしは、味噌・しょう油など家庭にある調味料で、佃煮やお漬物のようなご飯やお豆腐のお供を作ります。

【紫蘇の実味噌】
紫蘇の実・味噌・しょう油・みりん・酒・砂糖・水をフライパンで煮詰めて、清潔な保存容器に入れて冷蔵保存します。調味料の配分はいつも適当なのですが、いろんなレシピが公開されているので、お好みを探してみてください。ご飯のお供としてはもちろん、お豆腐(湯豆腐や、水を切ったお豆腐を油を引いたフライパンで焼いた焼き豆腐)や、焼いた生麩の上にトッピングするなど、なにかと便利です。

【紫蘇の実の醤油漬け】
アクを抜いた紫蘇の実を、キッチンペーパーなどでしっかり水気をとり、清潔な容器に入れます。そこに紫蘇の実がヒタヒタになるくらいのしょう油を入れて冷蔵保存します。紫蘇の実味噌と同じく、お料理のトッピングにも、調理過程の調味料としても使えます。

 

私の家でも今年は家庭菜園にトライして紫蘇を育てており、今からとても楽しみにしています。
時期が早すぎると実のプチプチ感がないですし、時期を過ぎると実の色が緑を過ぎて茶色く硬くなってしまいますので、収穫のタイミング(だいたい9〜10月中旬)がとても大切です。
ぜひお試しあれ!


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参考文献:
・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・南京中医学院(編)、石田秀実(監訳)『現代語訳 黄帝内経素問 上巻』2014年 東洋学術出版社
・・南京中医学院(編)、石田秀実(監訳)、白杉悦雄(監訳)『現代語訳 黄帝内経霊枢 下巻』2012年 東洋学術出版社
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・田久和義隆(翻訳)、羅元愷(主編)、曽敬光(副主編)、夏桂成・徐志華・毛美蓉(編委)、張玉珍(協編)『中医薬大学全国共通教材 全訳中医婦人科学』 たにぐち書店 2014年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・王財源(著)『わかりやすい臨床中医臓腑学 第3版』医歯薬出版株式会社 2016年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・鄧明魯、夏洪生、段奇玉(主編)『中華食療精品』吉林科学技術出版社 1995年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年
・梁 晨千鶴 (著)『東方栄養新書―体質別の食生活実践マニュアル』メディカルコーン2008年

 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、 医学気功整体師 、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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