”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2024.02.21公開日:2022.05.19 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第80回 「黒豆」の効能&かんたんレシピ!ありがたい効能が盛りだくさんな生薬

最近の健康ブームで「黒豆がなんとなく身体にいいらしい…」と小耳にはさんだことがある方も多いのでは?本シリーズでは、山芋黒ゴマクルミ枸杞(クコ)白きくらげなど「アンチエイジングにもってこい!」な薬食を紹介してきました。今回は、アンチエイジングはもちろん、さまざまな効能をもつ黒豆についてお話しします。

目次

1.食用でもあり、薬用でもある「黒豆」

中医学において黒豆は、食品としても薬としても使われる「はざま的存在」な薬食です。私たちがふだん食用としている黒豆(くろまめ)と、中薬で用いる黒豆(こくず・くろまめ)は同じものです。「黒大豆」と呼ばれることもあります。

黒豆はお正月のおせち料理の定番でもあって、日本人にも馴染み深い食材です。月と日に「陽(奇数)」の数字が重なる1月1日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日(いずれも旧暦)を「五節句」といい、邪を祓い、魔よけをすべき日とされてきました。おせちに用いられる理由は諸説ありますが、中医学的な黒豆の効能を知れば、1月1日に黒豆を食べるのも合点がいくかもしれません。

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2.黒豆はどんな生薬?

中薬学の教科書において、黒豆は、「補陰薬(ほいんやく)」に分類されています。「補陰薬」は、「滋陰薬(じいんやく)」「養陰薬(よういんやく)」とも呼ばれ、「陰虚(いんきょ)や津虚(しんきょ)(※)」を改善する薬物です。

(※津虚とは潤い不足のこと。人体の液体部分が不足していること)

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四性(四気)の欄には、「平性」と書かれています。「平性」とは、温めもせず冷やしもしない、つまり、寒熱の偏りがない性質という意味です。強く温め過ぎる、とか、ものすごく冷やす、などの個性(クセ)ない分、とても使いやすい薬食と言えます。
 
ただし、書物によっていろいろな書かれ方をしているようで、「生で食べると平性」「加熱して煮て食べると涼性に偏る、炒めて食べると温性に偏る」「生は温性、加熱すると寒性」…などとも書かれています。
 
黒豆の四気五味(四性五味)は「平性、甘味」なので、次のような作用があることが分かります。

・平性=温めもせず冷やしもしない。寒熱の偏りがない。平和な性質(安定していて穏やかである、おとなしい性質)。
・甘み=補う作用 → 黒豆の場合は、「血」と「陰」を補う。

 

黒豆は、「肝のグループ」「腎のグループ」「脾のグループ(脾と胃)」に作用します。これを中医学では「肝・腎に帰経する」「脾・胃に帰経する」などと表現します。これも書物によって、「肝・腎」「脾・胃」など内容は異なりますが、効能自体はだいたい同じです。

 

3.黒豆はどんな時に用いられるのか

黒豆は肝・腎に帰経して、さまざまな効能を発揮します。黒豆の作用は、おおまかに次の5つが挙げられます。

(1)滋陰・補血・補腎(じいん・ほけつ・ほじん)作用
(2)活血・利水(かっけつ・りすい)作用
(3)解毒(げどく)作用
(4)祛風止痙(きょうふうしけい)作用
(5)外用薬として

 

具体的な例を見ていきましょう。

(1)黒豆の「滋陰作用」「補血作用」「補腎作用」

黒豆は、五臓六腑のなかでも、肝のエリアと腎のエリアに入って、肝腎グループの働きを助けます。そして、「陰(=潤い)」を滋養し、「血(≒血液)」を補います。これを、中医学用語では、「滋陰(じいん)」作用、「補血(ほけつ)」作用といったりします。
 
肝腎を補い、不足した陰血を補う黒豆には、アンチエイジング作用があります。

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黒豆は、腰痛・耳鳴り・糖尿・むくみ・白髪・若白髪などのうち腎虚が由来するケースや、腎虚や陰血不足による不妊症・月経過少・月経不調・妊娠時の腰痛などに応用されます。たいていは他の中薬や食材と共に用い、例えば白髪に対しては、黒胡麻・地黄(じおう)・製何首烏(かしゅう)・旱蓮草(かんれんそう)などと一緒に用いられます。
 
(※上述の疾患や症状すべてに黒豆が良い、という意味ではありませんので、ご注意ください。あくまでも、「腎虚や陰血不足が原因であるタイプ」に黒豆が応用されるというだけです。)

(2)黒豆の「利水作用」「活血作用」

黒豆は、水分代謝を調整し体内の水のバランスを整える「利水(りすい)」作用と、血液の流れを良くする「活血(かっけつ)」作用をもちます。それゆえ、むくみ、糖尿病、粥状動脈硬化症などに、他の中薬や食材と共に用いられます。

(3)黒豆の「解毒作用」

黒豆は、もろもろの薬物中毒や一切の熱毒に対して、「解毒薬」として用いられます。例えば、サスペンスドラマなどに登場する「トリカブト」の根っこである「烏頭(うず)」や「附子(ぶし)」などの解毒にも、黒豆は用いられます。
 
赤小豆の回でも紹介しましたが、豆類は、解毒作用を持つものが多いです。

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(4)黒豆の「祛風止痙(きょふう・しけい)作用」

出産後のけいれんや牙関緊急(がかんきんきゅう:※口の筋肉の強直による開口障害。咬痙(こうけい)とも)などに対して、黒くなるまで炒った黒豆を単味(1種類だけ用いること)で服用します。

(5)黒豆を外用薬として

黒豆の粉末を香油と混ぜて外用すると、湿疹などに有効です。

そのほか、黒豆の皮(黒豆衣)・黒豆の葉(黒大豆葉)・黒豆を蒸して発酵加工したもの(豆鼓)などが中薬として使われます。それぞれ効能が異なりますので、興味のある方はぜひ調べてみてください。

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4. 黒豆の効能は? 中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている「黒豆(こくず・くろまめ)」の効能を見ていきましょう。
 
効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

黒豆(こくず)

【分類】
滋陰薬

【処方用名】
黒豆・黒大豆・烏豆

【基原】
マメ科LeguminosaeのダイズGlycineやその品種の分果

【性味】
甘、平

【帰経】
肝・腎

【効能と応用】
1.
滋陰補血(じいんほけつ)・利水(りすい)
陰血不足(いんけつぶそく)の頭のふらつき・月経不順などに、当帰(とうき)・白芍・(びゃくしゃく)川芎(せんきゅう)・丹参(たんじん)などと用いる・
血虚(けっきょ)の水腫(すいしゅ)に、赤小豆(せきしょうず)などと使用する。

2.祛風止痙(きょうふうしけい)
産後の痙攣・牙関緊急などに、単味を炒黒して服用する。

3.解毒
薬物中毒・熱毒などに、単味であるいは生甘草などと用いる。

4.その他
粉末を香油で調製し外用すると、湿疹などに有効である。

【臨床使用の要点】
黒豆は甘味で、煮食すると偏涼に、炒食すると温になり、補陰養血・利水・祛風止痙・解毒に働くので、婦女の陰虚血虧(いっきょけっき・いんきょけつき)による頭暈神疲(ずうんしんぴ)・月経不調・水腫および産後風痙口噤に適し、諸薬毒・一切熱毒にも有効である。

【用量】
30-60g。外用には適量。

 
※【分類】【処方用名】【基原】【性味】【帰経】【効能と応用】【臨床使用の要点】【用量】はどちらも『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より引用

このように、黒豆は、肝腎の働きを助け、陰血(潤い・血液)を補い、利水・活血し、解毒作用までも持ちます。「補(=補う)」と「瀉(=捨て去る・取り除く)」のうちどちらかではなく、「補」と「瀉」の両方を持ち合わせているため、そこまで厳しく体質を選ばず、使いやすい薬食といえるでしょう。

5.黒豆の食べ方・簡単レシピ

黒豆は日本のスーパー・乾物屋・豆専門店などで簡単に手に入ります。ちなみに、私は「炒り黒豆」「乾物の黒豆」「黒豆きなこ」「黒豆しぼり(乾燥させた甘納豆)」などをよく購入します。
 
「炒り黒豆」は、節分豆のようにそのままポリポリ食べられます。温かいお茶と一緒によく噛んで食べると、胃の中で膨れるので小腹を満たすのにぴったりです。けっこう満腹感がありますし、良質な栄養を摂取できます。少し塩を振ると、お酒のおつまみにもなります。
 
「黒豆しぼり」は、インターネット販売のほか、都内では成城石井などの高級スーパーでよく見かけます。一般的な甘納豆ほど豆のまわりに砂糖が沢山ついてなく、甘すぎないので、すこしだけ甘味を食べたいときにおすすめ。こちらもそのままポクポク食べられます。「炒り黒豆」と「黒豆しぼり」は、調理不要で楽ちん! 毎日続けるのに最適です。

そのほかそのまま食べられる加工食品としては、黒豆でできた納豆やテンペや煮豆、お菓子なら黒豆おかき、黒豆寒天ゼリー、黒豆大福、黒豆きんつばなどがあります。
 
薬膳や食養生というのは毎日その食材を食べてはじめてその効果が発揮されます。おしゃれで華やかな薬膳料理は楽しく心が喜びますが、本物の養生とはもっともっと地道なもの。日々の積み重ねがものを言います。飽きないよう色々な方法を試しながらコツコツで続けたいものです。
 
いっそ、サプリメントをとるような感覚で、味や食べ方にこだわらず、ただひたすらその素材を摂取するのも一案でしょう。
 
ここからは黒豆を気軽に摂りやすい簡単レシピを紹介します。

レシピ① 黒豆プーアール茶

(水洗いして水気をふき取った、※省略可)乾物の黒豆をフライパンで乾煎りします(油はひきません)。焦げないように揺らしながら弱火で炒り、お豆にニッと笑ったようなヒビが入ったら、フライパンから取り出します。火を止めて、予熱で焦げないうちにお皿やバットに移します。
 
マグカップに黒豆をカレースプーン一杯分くらい(量は好み)入れて、熱々のプーアール茶を入れていただきます。しばらく置くと黒豆の成分がお茶に出て、さらに黒っぽい色のお茶になります。最後に底に残った黒豆はふやけていて食べられます。これにハチミツをかけて食べてもおいしいです。好みでプーアール茶を、ほうじ茶に置き換えてもOKです。

乾煎りの黒豆は作り置きしておくと便利です。粗熱が取れてから空き瓶などに入れて、冷暗所に保存します。変質しないうちに使い切りましょう。

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レシピ② 黒豆の黒酢はちみつ漬け

煮沸消毒した瓶に、黒酢とハチミツを好みの配分で入れておきます。黒豆(乾物)を乾煎りしたら(「黒豆プーアール茶」と同じ要領です)熱々のまま、黒酢とハチミツの入った瓶に入れます。粗熱がとれたら冷蔵庫で保存して、翌日くらいから毎日少しずついただきます。

レシピ③ クルミ・黒豆きなこ・黒胡麻の補腎クッキー

<黒すりゴマ・黒豆きなこ・砕いたクルミ・小麦粉・ココナッツシュガー・エキストラバージンココナッツオイル・豆乳>を材料にクッキーにします。材料全部を丈夫なビニール袋に入れて揉み、袋に入れたまま棒状に伸ばし、ハサミでビニール袋を開き、そのビニール袋の上で包丁で輪切りにします。天板にクッキングシートを引いて、クッキーを並べてオーブンで焼きます。
 
キッチンをあまり汚さない、かなりズボラなクッキーです。タッパーなどに入れて冷蔵庫・冷凍庫で保存し、毎日少しずつ食べます。口の水分が奪われる系のクッキーなので、ホット豆乳と一緒に食べるとおいしいです!
 
ココナッツシュガーは黒糖・粗精糖・ハチミツ・メープルシロップなどに置き換えたり、ミックスしたりすることもあります。砕いた松の実をクッキー生地に混ぜるのもおすすめです。

そのほか、黒豆ペースト(甘いタイプ・しょっぱいタイプがあります)、黒豆の炊き込みご飯(ひじき・椎茸・黒胡麻など)、黒豆ホットケーキ(ホットケーキの生地に、黒豆しぼりをたっぷり入れて焼けばできあがり。粗熱を冷ましてラップに包んで冷凍保存できます。朝食やおやつにぴったりです)などもおいしいですよ。
 
ぜひ、お試しください!

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参考文献:
・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・田久和義隆(翻訳)、羅元愷(主編)、曽敬光(副主編)、夏桂成・徐志華・毛美蓉(編委)、張玉珍(協編)『中医薬大学全国共通教材 全訳中医婦人科学』 たにぐち書店 2014年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・王財源(著)『わかりやすい臨床中医臓腑学 第3版』医歯薬出版株式会社 2016年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・鄧明魯、夏洪生、段奇玉(主編)『中華食療精品』吉林科学技術出版社 1995年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年
・梁 晨千鶴 (著)『東方栄養新書―体質別の食生活実践マニュアル』メディカルコーン2008年

 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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