薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.01.21 薬剤師のスキルアップ

薬剤師の年収は低すぎる?他職種との比較データや年収アップの方法を紹介

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師の中には、年収が低すぎると感じている人もいるかもしれません。「仕事内容に見合った給料がもらえない」「かかった学費を取り戻すのに時間がかかる」など、理由はさまざまです。本記事では、薬剤師の平均年収や、他の医療系職種の比較して年収が低いのか、高いのかを紹介するとともに、薬剤師の年収が低いといわれる理由や、年収アップを実現する方法についてお伝えします。

1.薬剤師の年収は低い?

厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の平均年収は577.9万円です(「きまって支給する現金給与額」の12カ月分と「年間賞与その他特別給与額」を合算して算出)。
 
国税庁「令和5年度分民間給与実態統計調査」によれば、給与所得者全体の平均年収は460万円であることから、単純に金額に着目すれば、薬剤師の年収は比較的高いといえるでしょう。

 
🔽 薬剤師の平均年収について解説した記事はこちら

 

1-1.他の医療系職種と比べて薬剤師の年収は低い?

厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」のデータを基に算出した医療関係職種の平均年収は、以下のとおりです。

 

職種 平均年収
医師 1,436.47万円
歯科医師 924.3万円
獣医師 685.71万円
薬剤師 577.87万円
保健師 451.05万円
助産師 566.95万円
看護師 508.17万円
准看護師 407.11万円
診療放射線技師 536.97万円
臨床検査技師 508.49万円
理学療法士
作業療法士
言語聴覚士
視能訓練士
432.52万円
歯科衛生士 404.32万円
歯科技工士 464.86万円
栄養士 390.17万円
その他の保健医療従事者 459.26万円

※「令和5年賃金構造基本統計調査(表番号1)」を基に「きまって支給する現金給与額」×12カ月+「年間賞与その他特別給与額」で平均年収を算出

 

薬剤師の平均年収は、医師や歯科医師、獣医師と比較すると低いものの、その他の医療関係職種よりは高い金額になっています。

 

1-2.病院薬剤師の年収は低い?

厚生労働省「薬剤師の偏在への対応策」によると、薬局薬剤師または病院薬剤師として65歳まで働くことを想定した場合、生涯年収には大きな差がないとされています。

 

職種 常勤 非常勤
病院薬剤師 23,280万円 9,550万円
薬局薬剤師 22,768万円 9,500万円

 

しかし、年代別の平均年収については、病院薬剤師と薬局薬剤師に差があります。

 

職種 常勤 非常勤
病院薬剤師 薬局薬剤師 病院薬剤師 薬局薬剤師
20代 380万円 430万円 300万円 250万円
30代 500万円 530万円 250万円 250万円
40代 600万円 600万円 200万円 240万円
50代 700万円 600万円 200万円 220万円
60代 600万円 577.5万円 250万円 180万円

 

常勤薬剤師の年収は、20~30代では薬局薬剤師の方が高く、50~60代は病院薬剤師の方が高い結果となっています。
 
一方、非常勤薬剤師は、20・60代では病院薬剤師が高く、40~50代は薬局薬剤師が高くなっています。
 
病院薬剤師の年収は薬局薬剤師と比較して低い印象がありますが、実際には年齢や勤務形態によって異なることが分かります。
 
参照:薬剤師の偏在への対応策|厚生労働省

 
🔽 病院薬剤師について解説した記事はこちら

2.薬剤師の年収が低すぎるといわれる理由

薬剤師の年収は、給与所得者や他の医療関係職種と比較すると、決して低くはありません。しかし、薬剤師の年収が低すぎるといわれることがあります。ここでは、その理由について見ていきましょう。

 

2-1.医師や歯科医師より平均年収が低いため

先に述べたように、薬剤師の平均年収(577.87万円)は、医師(1,436.47万円)や歯科医師(924.3万円)、獣医師(685.71万円)と比較すると低くなっています
 
薬剤師になるには、薬学部に入学して、医学部や歯学部、獣医学部と同様、最低でも6年間大学に通わなければなりません。
 
国家試験にも合格しなければならないことを考慮すると、これらの職種と比較して年収が低すぎると考えられることもあるでしょう。

 

2-2.薬学部の学費が高いため

薬学部に通うためには、一定の学費がかかります。私立大学薬学部の場合、1年間に必要な学費は、初年度がおおむね200万円前後、2年目以降も100万円~200万円程度です。
 
ストレートで卒業できたとしても1,000万円以上の学費がかかるケースは多いため、一般的な大学よりも卒業までに必要な費用が高い傾向にあるといえます。
 
さらに、大学の近隣で1人暮らしをするなどの生活費や諸経費を加えると、2,000万円近くになる場合もあるため、卒業までにかかるコストに対して年収が低いと感じる場合もあるでしょう。

 
🔽 薬学部の学費について解説した記事はこちら

 

2-3.昇給・昇進しづらいため

薬剤師の初任給は、一般企業に就職した人と比較すると高い傾向にあります。しかし、一般企業のように昇給・昇進制度が充実していない場合があるため、長期的に見ると、年収がなかなか上がらないと感じやすいかもしれません。
 
薬局や医療機関では、経営状況が安定していれば、勤続年数を積み重ねることでコンスタントに昇給していくのが一般的です。しかし、職場によっては、年齢を重ねるごとに昇給率が下がることもあるため、安定した年収アップが見込めないケースがあります。
 
昇進についても、室長、主任、係長、課長代理、課長、次長、部長などの役職がある一般企業と比べると、薬局では管理薬剤師、薬局長、エリアマネージャーなど、医療機関では薬剤科長などと、昇進できる役職が限られるでしょう。

 

2-4.職場によって給料の水準に差があるため

薬剤師の年収は、業種や職種ごとに相場が異なります。厚生労働省「第24回医療経済実態調査」によると、薬局や医療施設の薬剤師の平均年収は、薬局で働く薬剤師が486.4万円、薬局で働く管理薬剤師が734.9万円、一般病院で働く薬剤師が568.9万円、一般診療所で働く薬剤師が729万円となっています。
 
業種や職種によってこれだけの差があるため、職場によっては年収が低すぎると感じることもあるでしょう。
 
参照:第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告|厚生労働省

 

2-5.地域によって給料の相場が異なるため

「令和5年賃金構造基本統計調査」のデータを基に都道府県別の薬剤師の平均年収を計算すると、平均年収が最も高いのは広島県の705.95万円、最も低いのは徳島県の463.71万円でした。その差は240万円ほどあります。
 
関東地方においても、最も平均年収が高いのが群馬県の606.3万円、最も低いのが埼玉県の516.85万円と、約90万円の差があります。地域によって給料の相場が異なるのも、年収が低いと感じる人がいる要因といえるでしょう。

 

2-6.仕事内容に見合った給料を得られていないと感じるため

薬剤師の業務は、命に関わる責任の重い仕事です。薬剤師のミスは、患者さんの健康に直接影響することもあります。場合によっては、法的な責任を負うこともあるでしょう。そのため、精神的なプレッシャーを感じながら業務に当たる薬剤師も少なくありません。
 
そのような重圧に耐えながら行う仕事内容は、決して単純作業ではなく、患者さんや家族、医療関係者などへの配慮も不可欠です。このような理由から、担当している業務に見合った給料が得られていないと感じる薬剤師もいるでしょう。

 
🔽 薬剤師の仕事内容について解説した記事はこちら

3.薬剤師が年収アップを実現する方法

他の職種と比較すれば、薬剤師の平均年収は低すぎる金額とはいえないものの、今以上に年収を上げたいと考える人もいるでしょう。ここでは、薬剤師が年収アップを実現する方法についてお伝えします。

 

3-1.管理職に昇進する

まずは、管理職への昇進を目指すのがよいでしょう。「第24回医療経済実態調査」によれば、薬局で働く管理薬剤師の平均年収は734.9万円とされており、一般薬剤師と比較すると高い年収といえます。
 
ただし、管理薬剤師は、薬剤師業務に加えて管理職としての業務を行わなければなりません。仕事量は増えますが、その分やりがいや年収アップ、スキルアップが期待できます。
 
その他にも、薬剤師の管理職には、薬局長、エリアマネージャーなどが挙げられるため、マネジメントスキルを高めて、管理職を目指してみるのはいかがでしょうか。

 
🔽 管理薬剤師について解説した記事はこちら

 

3-2.資格を取得する

認定薬剤師や専門薬剤師などの資格取得に対して、手当を設けている企業もあります。資格手当などの制度がある場合には、資格を取得することで年収アップが期待できます
 
また、薬局薬剤師がかかりつけ薬剤師になるためには、認定薬剤師の資格が必要です。かかりつけ薬剤師として患者さんの担当を増やすことは、人事評価でのボーナスアップなどにつながるかもしれません。積極的に資格取得を目指すことで、年収アップを実現できる可能性が高まるでしょう。

 
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら

 

3-3.パート・アルバイトの場合は正社員を目指す

パートやアルバイトの場合、基本的に働いた時間分のみの給料となり、ボーナスなどはもらえないケースが多いでしょう。定期的に時給が上がる職場もありますが、時給が上がりづらい職場も少なくありません。
 
また、前述のとおり、非常勤薬剤師の生涯年収や年代別年収は、常勤薬剤師と比較して低い傾向にあります。そのため、正社員を目指すのも年収アップに効果的です。
 
参照:薬剤師の偏在への対応策|厚生労働省

 

3-4.給料が高い職場に転職する

薬剤師が働く職場は、薬局や病院の他に、製薬企業、臨床開発に関わるCRO・SMO、医薬品の卸業者、行政機関などさまざまなところがあります。
 
先に述べたように、薬剤師の年収の相場は業種や職種によっても異なるため、給料の高い求人を探し、年収アップを目的に転職するのも一案です。

 

3-5.平均年収が高いエリアで働く

前述のとおり、薬剤師の平均年収は働くエリアによっても異なります。そのため、平均年収の高い地域の求人をチェックしてみてはいかがでしょうか。現職よりも高い年収の求人が見つかりやすいかもしれません。
 
ただし、エリアによっては転居や運転免許が必要だったり、労働環境があまりよくなかったりする場合があります。年収が高い理由を確認した上で求人に応募するようにしましょう。

 

3-6.副業で収入を得る

薬剤師をしながら、副業で収入を得るのも年収アップの方法です。薬剤師としての知識が生かせる副業としては、ライターやブロガー、海外論文の翻訳、YouTuberなどが挙げられます。
 
本業に支障が出ないように注意しつつ副業を行うのも、トータルの収入を増やす方法のひとつです。

 
🔽 薬剤師の副業について解説した記事はこちら

 

3-7.独立開業する

独立開業をして事業が上手くいけば、大幅な年収アップが見込めます。自身が理想とする薬局を作ることができるため、やりがいを得やすいでしょう。
 
薬局経営では医療だけでなく経営の知識も必要になるため、さまざまなスキルが得られるのがメリットです。
 
ただし、当然ながら経営が上手くいかない場合もあるため、独立開業をする場合は入念に検討する必要があるでしょう。

 
🔽 薬剤師の独立開業について解説した記事はこちら

4.薬剤師の年収が低いと感じたら転職も一案

薬剤師の年収は、地域や業種によって異なります。仕事内容に対して給料が見合っていないと感じたら、転職をするのも一案でしょう。年収は高くないものの、職場環境に満足しているのであれば、昇進や資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。今以上に年収を上げたいと思ったら、自ら行動することが年収アップのカギとなります。

 
🔽 薬剤師の年収や給料に関する記事はこちら






執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。