- 1.2024年度調剤報酬改定のポイントとは?
- 1-1.地域の医薬品供給拠点としての役割を発揮するための体制評価の見直し
- 1-2.質の高い在宅業務の推進
- 1-3.かかりつけ機能を発揮して患者に最適な薬学的管理を行うための薬局・薬剤師業務の評価の見直し
- 2.2024年度調剤報酬改定の変更項目と点数表
- 2-1.調剤基本料の引き上げ
- 2-2.特別調剤基本料の引き下げ
- 2-3.連携強化加算の引き上げ
- 2-4.地域支援体制加算の引き下げ
- 2-5.無菌製剤処理加算の見直し
- 2-6.重複投薬・相互作用等防止加算の引き下げ
- 2-7.特定薬剤管理指導加算1の引き下げ
- 2-8.嚥下困難者用製剤加算の廃止
- 2-9.吸入薬指導加算の見直し
- 3.2024年度調剤報酬改定の新設項目と点数表
- 3-1.医療DX推進体制整備加算
- 3-2.在宅薬学総合体制加算1・2
- 3-3.特定薬剤管理指導加算3
- 3-4.調剤後薬剤管理指導料1・2
- 3-5.服薬情報等提供料2(イ・ロ・ハ)
- 3-6.在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料 夜間訪問加算・休日訪問加算・深夜訪問加算
- 3-7.在宅移行初期管理料
- 3-8.在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料2
- 3-9.外来服薬支援料2 施設連携加算
- 4.改定内容を押さえ患者さんのニーズに合った医療を提供しよう
1.2024年度調剤報酬改定のポイントとは?
調剤報酬とは、薬局が医療保険制度のもとで適切に医療を提供した際に、その対価として国民健康保険や健康保険組合等の保険者から支払われる報酬のことです。具体的には、処方箋に基づく薬の調剤や患者さんへの薬の説明などが該当します。
2024年度の調剤報酬改定では、以下の3点に焦点を当てて見直しが行われました。
②質の高い在宅業務の推進
③かかりつけ機能を発揮して患者に最適な薬学的管理を行うための薬局・薬剤師業務の評価の見直し
それぞれ具体的に見ていきましょう。
1-1.地域の医薬品供給拠点としての役割を発揮するための体制評価の見直し
適切な薬局運営と職員の賃上げを推進するため、調剤基本料が引き上げられました。調剤基本料1~3の点数が増加し、特別調剤基本料にはAとBの2つの区分が新たに設定されています。
また、地域支援体制加算については点数が引き下げられ、今回の改定でも算定要件が変更されています。連携強化加算では、第二種協定指定医療機関の指定要件を踏まえた算定要件・点数の見直しが行われました。医療DXの推進としては、電子処方箋やマイナ保険証の利用率等を担保している場合の評価が新設されました。
1-2.質の高い在宅業務の推進
在宅医療推進に伴い、ターミナルケアや小児在宅医療に対応できている薬局は評価されます。具体的には、緊急訪問回数が増加している、医療用麻薬の注射剤を無菌調製しているといったケースが該当します。
また、在宅医療には地域連携プレーは欠かせません。患者さんの退院直後等に自宅へ訪問し、多職種と連携して在宅移行期に必要な服薬支援を行ったり、介護施設でのショートステイ利用者にも服薬指導ができたりする薬局は評価されるようになります。
1-3. かかりつけ機能を発揮して患者に最適な薬学的管理を行うための薬局・薬剤師業務の評価の見直し
かかりつけ薬剤師業務の評価については、今回の改定でかかりつけ薬剤師以外の薬剤師(かかりつけ薬剤師の条件は満たす)が複数人で対応を行う場合でも服薬管理指導料の特例を算定できるようになりました。患者さんにとって、自分を担当してくれるかかりつけ薬剤師が不在の時でも、同等レベルの薬剤師に対応してもらえるという利点があります。
🔽 かかりつけ薬剤師(薬局)について解説した記事はこちら
また、特定薬剤についてRMP資料を用いて患者さんに説明する場合や、糖尿病や慢性心不全の患者さんの経過を追うための服薬指導等も評価され、算定するにあたり一人ひとり丁寧に接する必要があります。
このように、2024年度の調剤報酬改定では、主に地域医療・在宅医療・かかりつけ薬局に焦点が当てられています。また、対物業務から対人業務へと薬剤師の仕事が変わりつつある中で、実際に患者さんと接したり関わったりすることが多い薬局ほど評価される流れになっています。
2.2024年度調剤報酬改定の変更項目と点数表
主な変更項目と点数を表でまとめました。それぞれの項目について具体的に解説します。
変更項目
|
変更前の点数・内容
|
変更後の点数・内容
|
---|---|---|
調剤基本料1 | 42点 | 45点 |
調剤基本料2 | 26点 | 29点 |
調剤基本料3 (イ・ロ・ハ) |
イ 21点 ロ 16点 ハ 32点 |
イ 24点 ロ 19点 ハ 35点 |
特別調剤基本料 | 7点 | 特別調剤基本料A 5点 特別調剤基本料B 3点 |
連携強化加算 | 2点 | 5点 |
地域支援体制加算1 | 39点 | 32点 |
地域支援体制加算2 | 47点 | 40点 |
地域支援体制加算3 | 17点 | 10点 |
地域支援体制加算4 | 39点 | 32点 |
無菌製剤処理加算 (抗悪性腫瘍剤) |
混合のみ | 混合・希釈も算定可 |
無菌製剤処理加算 (医療用麻薬) |
混合・希釈のみ | 混合・希釈・充填も算定可 |
重複投薬・相互作用等防止加算 (残薬調整に係るもの) |
30点 | 20点 |
特定薬剤管理指導加算1 | 10点 | イ 10点 ロ 5点 |
嚥下困難者用製剤加算 | 80点 | 廃止 |
吸入薬指導加算 | かかりつけ薬剤師指導料の加算として算定不可 | 30点(3月に1回まで) かかりつけ薬剤師指導料の加算として算定可 |
特に注目したいのは、調剤基本料1~3が3点増加し、地域支援体制加算1~4が7点減少している点です。この差額4点分をいかに他の加算で補えるかがポイントです。
2-1.調剤基本料の引き上げ
調剤基本料1~3は、それぞれ3点ずつ引き上げられました。特に注目すべきは、調剤基本料2の見直しです。
ひと月における処方箋の受付回数が4,000回を超え、処方箋受付回数が多い上位3つの保険医療機関の処方箋による調剤の割合が合計で7割を超える薬局が算定対象となります。
🔽 調剤基本料について解説した記事はこちら
2-2.特別調剤基本料の引き下げ
特別調剤基本料(変更前は7点)はAとBに分けられ、特別調剤基本料Aは5点に、特別調剤基本料Bは3点に引き下げられました。
特別調剤基本料Aは、医療機関と同じ敷地内にある薬局が対象となり、その医療機関からの処方箋による調剤の割合が50%を超える場合に適用されます。一方、特別調剤基本料Bは調剤基本料にかかる施設基準の届出をしていない場合に適用されます。
🔽 敷地内薬局・特別調剤基本料について解説した記事はこちら
2-3.連携強化加算の引き上げ
連携強化加算は3点増加しました。追加基準として第二種協定指定医療機関の指定などの項目が設けられ、地域支援体制加算の届出がなくても算定できるようになりました。
🔽 連携強化加算について解説した記事はこちら
2-4.地域支援体制加算の引き下げ
地域支援体制加算1~4は、それぞれ7点ずつ引き下げられました。今回の改定は、薬局が地域の医薬品供給拠点としての役割を担えているかどうかを評価するための施設基準・実績要件の変更と連動しています。
具体的には、施設基準に「薬局間連携による医薬品の融通」「夜間・休日の調剤、在宅対応体制(地域の輪番体制含む)の周知」「一般用医薬品及び要指導医薬品等(基本的な48薬効群)の販売」「緊急避妊薬の取扱いを含む女性の健康に係る対応」「たばこの販売禁止(併設する医薬品店舗販売業の店舗を含む)」等の要件が追加されました。また、実績要件については、新たに「小児特定加算の算定実績」が追加されています。
🔽 地域支援体制加算について解説した記事はこちら
2-5.無菌製剤処理加算の見直し
抗悪性腫瘍剤については、従来は混合のみが算定対象とされていましたが、今回の改定で希釈も算定可能であることが明記されました。その結果、抗がん剤の調製における薬剤師の技術と労力がより適切に評価されることになります。
また、医療用麻薬については従来の混合・希釈に加えて、充填も算定可能になり、医療用麻薬を原液のまま注入器等に無菌的に調製した場合も算定対象となります。
在宅医療や緩和ケアの現場で、医療用麻薬を用いた疼痛コントロールを必要とする患者さんに対して、薬剤師がより柔軟かつ適切に対応できるようにするための措置といえるでしょう。
🔽 無菌製剤処理加算について解説した記事はこちら
2-6.重複投薬・相互作用等防止加算の引き下げ
残薬調整に係る重複投薬・相互作用等防止加算は、30点から20点に引き下げられました。この加算は薬剤師が患者さんの残薬を調整し、重複投薬や相互作用のリスクを防止した場合に算定されるものです。残薬調整は薬剤師の基本的な業務のひとつであり、重要性は変わらないものの、対物業務評価から対人業務評価へのシフトに伴う変更と考えられます。
適切な残薬管理は患者の服薬アドヒアランスの向上や、薬の適正使用にもつながります。薬剤師は患者とのコミュニケーションを通じて、残薬の状況を的確に把握し、必要に応じて処方医への情報提供を行うなど、積極的な関与が期待されます。
🔽 重複投薬・相互作用等防止加算について解説した記事はこちら
2-7.特定薬剤管理指導加算1の引き下げ
特に安全管理が必要な医薬品が新たに処方された患者さんへ服薬指導を行った場合の加算点数は、従来の10点から変更はありません。
しかし、用法または用量の変更や副作用の発現状況の変化等に基づき薬剤師が必要と認めて服薬指導を行った場合の加算点数は、10点から5点へ引き下げられました。
🔽 特定薬剤管理指導加算1について解説した記事はこちら
2-8.嚥下困難者用製剤加算の廃止
薬剤調製料における薬剤調製行為の評価を整理するため、嚥下困難者用製剤加算は廃止となりました。
飲みやすくするための製剤上の調製を行った場合の評価は、自家製剤加算における算定に一本化されます。
🔽 自家製剤加算について解説した記事はこちら
2-9.吸入薬指導加算の見直し
吸入薬指導加算は、かかりつけ薬剤師指導料を算定している患者に対して吸入指導を実施した場合でも算定が可能になりました。
🔽 吸入薬指導加算について解説した記事はこちら
薬剤師は、患者さんの状況変化に応じて適切に服薬指導を行うことが求められます。ただし、加算算定のためだけでなく、患者の安全と健康を第一に考え、必要な指導を行うことが重要です。
調剤報酬改定に伴い、内容や点数の変更は非常に多岐にわたります。薬局の状況により算定できる点数は異なるため、各項目においてクリアしやすいものから取り組んでいくと良いでしょう。
3.2024年度調剤報酬改定の新設項目と点数表
主な新設内容と点数を表でまとめました。それぞれの項目について具体的に解説します。
新設項目
|
点数
|
---|---|
医療DX推進体制整備加算 | 4点(月に1回) |
在宅薬学総合体制加算1 | 15点 |
在宅薬学総合体制加算2 | 50点 |
特定薬剤管理指導加算3 | 5点 |
調剤後薬剤管理指導料1 | 60点(月に1回) |
調剤後薬剤管理指導料2 | 60点(月に1回) |
服薬情報等提供料2 (イ・ロ・ハ) |
20点(月に1回) |
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料 夜間訪問加算 |
400点 |
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料 休日訪問加算 |
600点 |
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料 深夜訪問加算 |
1,000点 |
在宅移行初期管理料 | 230点(1回に限り) |
在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料2 | イ 40点 ロ 20点 |
外来服薬支援料2 施設連携加算 |
50点(月に1回) |
今回の改定は、新設項目として在宅に関する内容が目立ちました。この点からも、地域連携して在宅医療に力を入れようとする国の指針がうかがえます。
3-1.医療DX推進体制整備加算
医療DXに対応する体制を確保している場合の評価として、医療DX推進体制整備加算が月1回4点算定できます(2024年10月以降は7点・6点・4点の3区分に変更)。
条件として、電子レセプトによる診療報酬請求、電子処方箋受付体制、マイナンバーカードの健康保険証利用の実績等が必要です。薬局だけでなく、病院との連携プレーが求められます。
🔽 医療DX推進体制整備加算について解説した記事はこちら
3-2.在宅薬学総合体制加算1・2
在宅薬学総合体制加算1(15点)と、在宅薬学総合体制加算2(50点)があります。在宅薬学総合体制加算1は在宅医療を行う上で基本的に必要な事項を網羅していれば算定できますが、在宅薬学総合体制加算2となるとハードルは高めです。
具体的には、クリーンベンチの設置や麻薬の備蓄(注射剤1品目以上を含む6品目以上)等、ターミナルケアや小児在宅医療に対応した訪問薬剤管理指導の体制を整備している必要があります。薬局が在宅にどれくらい力を入れるかが肝になります。
🔽 在宅薬学総合体制加算について解説した記事はこちら
3-3.特定薬剤管理指導加算3
特定薬剤管理指導加算1では、ハイリスク薬などの重点的な服薬指導が必要な場合の算定が見直されました。具体的には、特に安全管理が必要な医薬品が新たに処方された患者さんへ指導した場合に10点、特に安全管理が必要な医薬品の用法、用量の変更、患者さんの副作用の発現等に基づいて薬剤師が必要と認めて指導した場合に5点を算定します。
また、重点的な薬の説明が患者さんに必要となる場合においては、特定薬剤管理指導加算3が5点で算定できます。医薬品リスク管理計画(RMP)に基づき、医薬品メーカーが作成した資材を用いて指導すること等が条件になります。
🔽 特定薬剤管理指導加算3について解説した記事はこちら
3-4.調剤後薬剤管理指導料1・2
調剤後薬剤管理指導加算が廃止され、新たに調剤後薬剤管理指導料(60点)が設立されました。
糖尿病(調剤後薬剤管理指導料1)と慢性心不全(調剤後薬剤管理指導料2)を患っている患者さんが算定対象です。
🔽 調剤後薬剤管理指導料について解説した記事はこちら
3-5.服薬情報等提供料2(イ・ロ・ハ)
介護支援専門員(ケアマネージャー)やリフィル処方箋調剤に伴う医療機関への情報提供を評価する服薬情報等提供料2イ・ロ・ハ(20点)が新設されました。
医師に対してだけではなく、多職種への情報提供が評価されるようになりました。
🔽 服薬情報等提供料について解説した記事はこちら
3-6.在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料 夜間訪問加算・休日訪問加算・深夜訪問加算
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料について、末期の悪性腫瘍や注射による麻薬の投与が緊急に必要な患者さんの場合は、月4回から原則として月8回まで算定が可能になりました。
また、夜間訪問加算400点、休日訪問加算600点、深夜訪問加算1000点も新たに設けられています。
🔽 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料について解説した記事はこちら
3-7.在宅移行初期管理料
退院直後等、計画的に実施する訪問薬剤管理指導の前の段階で患者さんの家を訪問し、多職種と連携して必要な指導等を実施した場合の評価として、在宅移行初期管理料(230点)が算定できます。
🔽 在宅移行初期管理料について解説した記事はこちら
3-8.在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料2
患者さんへ処方箋を交付する前に処方医と処方内容を相談し、処方に係る提案が反映された処方箋を受け付けた場合の評価として、在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料2(残薬調整に係るものの場合は20点、それ以外の場合は40点)が新設されました。
3-9.外来服薬支援料2 施設連携加算
特別養護老人ホーム等と連携した保険薬局の薬剤師が外来服薬支援料2を算定し、なおかつ施設と連携して患者さんの入所時に薬剤の整理等を行った場合、施設連携加算として50点を算定できます。
🔽 外来服薬支援料2の施設連携加算について解説した記事はこちら
2024年度は診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬が同時に改定される「トリプル改定」となることもあり、今回の調剤報酬改定で新設されたものの中で特に注目すべきは在宅医療に関する項目です。
在宅医療に未着手の薬局は、ぜひこの機会に介入できる患者さんを検討し、病院や地域包括支援センターなどと相談するのが良いでしょう。
4.改定内容を押さえ患者さんのニーズに合った医療を提供しよう
2024年度調剤報酬改定では、地域医療における薬局・薬剤師の役割の拡大と、患者さんに対する質の高い医療の提供を目指した改定が行われました。調剤基本料の引き上げに加え、在宅医療、地域医療、医療DX等への貢献が求められ、薬局・薬剤師のより一層の活躍が期待されます。今回の改定を機に、薬剤師が患者さんに果たす役割はますます大きくなっていきます。改定内容を適切に把握し、患者さんのニーズに合わせたきめ細やかな医療を提供していきましょう。
🔽 2022年度調剤報酬改定について解説した記事はこちら
🔽 調剤報酬に関連する記事はこちら
大学卒業後、調剤薬局勤務を経て、治験コーディネーターや製薬メーカーでの薬相談窓口に対応。現在は精神科病院勤務の傍らで医療ライターとしても活動中。うつ病などの精神疾患を予防・再発予防するための発信をSNSで行っている。
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