- 1.医療DX推進体制整備加算とは?
- 1-1.新設された背景と課題
- 1-2.マイナ保険証が普及するメリット
- 2.医療DX推進体制整備加算の2024年10月改定のポイント
- 3.医療DX推進体制整備加算の点数
- 4.医療DX推進体制整備加算の算定要件
- 5.医療DX推進体制整備加算の施設基準
- 5-1.医療DX推進体制整備加算1・2・3に共通する施設基準
- 5-2.医療DX推進体制整備加算1・2・3のマイナ保険証利用率
- 5-3.施設基準に関する経過措置
- 6.医療DX推進体制整備加算を算定する際の注意点と必要な準備
- 6-1.セキュリティ対策に関する注意点
- 6-2.マイナ保険証の周知活動に関する注意点
- 6-3.医療DX推進体制整備加算を算定する際に必要な準備
- 7.医療DX推進体制整備加算の届出
- 7-1.医療DX推進体制整備加算の届出書と添付書類
- 7-2.届出書の提出先
- 8.医療DX推進体制整備加算を算定するために体制整備を進めよう
1.医療DX推進体制整備加算とは?
医療DX推進体制整備加算とは、医療機関が医療情報の利用や情報セキュリティ対策などDXに関する取り組みを行う体制を整備している場合に算定できる加算です。医療DXの推進を通じて、医療の質の向上や業務の効率化、患者サービスの向上を目指しています。
調剤報酬のほか、医科診療報酬や歯科診療報酬にも同加算があり、医療業界全体で医療DXが推進されているといえるでしょう。
1-1.新設された背景と課題
医療DX推進体制整備加算は、施設間での情報共有を円滑にしたり、良質な医療を効率的に提供したりするための体制を整えることを目的に、2024年度の診療報酬改定で新設されました。医療DXを推進するためには、医療機関の体制整備に加え、マイナ保険証の普及が不可欠です。
第592回中央社会保険医療協議会総会の参考資料「医療DXの推進に係る診療報酬上の評価について(ヒアリング結果の概要等)」によると、2024年5月時点で、マイナンバーカードの携行者はカード保有者のうち約50%、マイナ保険証の利用経験がある人はカード保有者のうち約33%でした。
2024年2月時点でのマイナ保険証の利用状況は約25%であったことから、数カ月で利用者数が増えているものの、まだ十分に普及しているとはいえないのが現状でしょう。医療施設ごとのマイナ保険証の利用率は以下のとおりです。
施設 | 2023年6月 | 2023年12月 | 2024年6月 |
---|---|---|---|
病院 | 14.81% | 10.61% | 19.19% |
医科診療所 | 6.77% | 4.79% | 8.24% |
歯科診療所 | 12.04% | 9.42% | 14.34% |
薬局 | 2.47% | 2.32% | 9.61% |
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第592回)参考資料 医療DXの推進に係る診療報酬上の評価について(ヒアリング結果概要等)|厚生労働省
各施設の利用率が向上した背景として、医療機関や薬局がマイナ保険証の利用促進のために掲示や声かけを積極的に行っていることが挙げられるでしょう。
丁寧な取り組みが利用率の向上につながっている一方で、取り組みが結果として現れるのに時間がかかる点や、マイナ保険証の持参につながらない事例がある点は課題として挙げられています。
🔽 2024年度の調剤報酬改定について解説した記事はこちら
1-2.マイナ保険証が普及するメリット
薬剤師にとってのメリットは、医療機関と情報共有することで、患者さんの服薬状況や健康状態を正確に把握し、適切な服薬指導を行える点でしょう。重複投薬や相互作用のチェックが容易になるなど、患者さんの安全性向上にも寄与します。
また、厚生労働省の資料「マイナ保険証の利用促進等について」では、医療機関における初診の急患対応で、マイナ保険証が役立った事例を紹介しています。薬局では緊急対応を求められるケースは少ないですが、マイナ保険証の普及に取り組むことは、患者さんの安全を守ることにつながるでしょう。
今後は医療機関と薬局間だけでなく、自治体や介護事業所との情報共有、マイナポータルの機能拡大などに向けてシステムの整備・改修が行われ、全国医療情報プラットフォームが構築される予定です。
公費負担医療や地方単独医療費助成、予防接種、介護、母子保健情報などの情報が連携されるため、マイナ保険証の機能が拡大されるでしょう。利便性の向上が期待されるという点で、患者さんにとってもメリットがあります。
参照:医療DXの推進に関する工程表〔全体像〕|内閣府
🔽 マイナ保険証のメリットについて解説した記事はこちら
2.医療DX推進体制整備加算の2024年10月改定のポイント
2024年10月改定で医療DX推進体制整備加算は3区分となり、それぞれ点数や算定要件、施設基準が新設されます。
改定後の医療DX推進体制整備加算の点数や主な変更点は、以下のとおりです。
区分 | 点数 | マイナ保険証利用率 | 追加された施設基準 | |
---|---|---|---|---|
2024年10月~12月 | 2025年1月~ | |||
医療DX推進体制整備加算1 | 7点 | 15%以上 | 30%以上 | マイナポータルの医療情報等に基づき、患者さんからの健康管理に係る相談に応じる体制を有していること |
医療DX推進体制整備加算2 | 6点 | 10%以上 | 20%以上 | |
医療DX推進体制整備加算3 | 4点 | 5%以上 | 10%以上 |
薬局の利用率においては、医療機関の対応によって差が生じたり、代理の方が来局することでマイナ保険証が利用できなかったりするといった事例があります。そのため、マイナ保険証利用率を3区分に分け、薬局の状況に合わせた算定ができるよう考慮されています。
参照:医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算の見直しについて|厚生労働省
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第592回)参考資料 医療DXの推進に係る診療報酬上の評価について(ヒアリング結果概要等)|厚生労働省
3.医療DX推進体制整備加算の点数
医療DX推進体制整備加算は、調剤基本料の加算として設定されており、月1回に限り、処方箋受付1回につき以下の点数が算定できます。
区分 | 点数 |
---|---|
医療DX推進体制整備加算1 | 7点 |
医療DX推進体制整備加算2 | 6点 |
医療DX推進体制整備加算3 | 4点 |
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省
患者さん1人につき同一月に2回以上調剤を行った場合でも、月1回のみの算定となります。
🔽 調剤基本料について解説した記事はこちら
4.医療DX推進体制整備加算の算定要件
医療DX推進体制整備加算の算定要件は、以下のとおりです。
● 電子処方箋や紙の処方箋を受け付けて調剤した場合に、電子処方箋管理サービスに調剤結果を登録する
参照:オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)|厚生労働省
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省
電子処方箋管理サービスへの登録は、最新の薬剤情報を活用できるようにするため、調剤後速やかに行う必要があります。
参照:疑義解釈資料の送付について(その2) 2024年4月12日|厚生労働省
また、特別調剤基本料Bを算定している薬局は、医療DX推進体制整備加算を算定できません。
🔽 特別調剤基本料について解説した記事はこちら
5.医療DX推進体制整備加算の施設基準
医療DX推進体制整備加算は、1・2・3に共通する施設基準と、それぞれに設けられた基準があります。ここでは、施設基準と経過措置についてお伝えします。
5-1.医療DX推進体制整備加算1・2・3に共通する施設基準
医療DX推進体制整備加算1・2・3に共通する主な施設基準は、以下のとおりです。
● 健康保険法第3条第13項に規定する電子資格確認を行う体制
● オンライン資格確認等システムで取得した薬剤情報や特定健診情報などを閲覧・活用し、調剤や服薬指導を行う体制
● 「電子処方箋管理サービスの運用について」に基づく電子処方箋を調剤する体制
● 電磁的記録による調剤録および薬剤服用歴の管理体制
● 電子カルテ情報共有サービスで取得できる診療情報などを活用する体制
● 「医療DX推進の体制に関する事項」と「質の高い調剤を実施するための十分な情報を取得・活用して調剤を行うこと」について、薬局の見やすい場所やウェブサイトなどに掲示
● サイバーセキュリティを確保するために必要な体制
● マイナポータルの医療情報等に基づいた患者さんからの健康管理に係る相談に応じる体制(※1・2のみ)
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
参照:健康保険法 第三条(定義)|e-Gov 法令検索
参照:電子処方箋管理サービスの運用について|厚生労働省
「医療DX推進の体制に関する事項」と「質の高い調剤を実施するための十分な情報を取得・活用して調剤を行うこと」に関する薬局内やウェブサイトなどへの掲示・掲載については、厚生労働省が作成したポスターを参考にすることで、医療DX推進体制整備加算の施設基準を満たせます。
なお、ホームページの運営を行っていない薬局については、ウェブサイトへの掲載は上記の限りではないとされています。
参照:疑義解釈資料の送付について(その1) 2024年3月28日|厚生労働省
参照:オンライン資格確認に関する周知素材について|厚生労働省
5-2.医療DX推進体制整備加算1・2・3のマイナ保険証利用率
医療DX推進体制整備加算1・2・3の施設基準では、以下のとおり、区分ごとにマイナ保険証利用率に関する基準が設けられています。
区分 | マイナ保険証利用率 | |
---|---|---|
2024年10月~12月 | 2025年1月~ | |
医療DX推進体制整備加算1 | 15%以上 | 30%以上 |
医療DX推進体制整備加算2 | 10%以上 | 20%以上 |
医療DX推進体制整備加算3 | 5%以上 | 10%以上 |
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
マイナ保険証利用率には、「レセプト件数ベースマイナ保険証利用率」と「オンライン資格確認件数ベースマイナ保険証利用率」の2種類があります。
「レセプト件数ベースマイナ保険証利用率」は、同月のマイナ保険証の利用者数を同月のレセプト件数で除した割合のことで、「オンライン資格確認件数ベース利用率」は、同月のマイナ保険証による資格確認件数を同月のオンライン資格確認等システムの利用件数で除した割合のことです。
どちらも社会保険診療報酬支払基金から毎月中旬ごろに電子メールで報告される予定となっています。
原則として、算定月の3カ月前(もしくは4カ月前・5カ月前)の「レセプト件数ベースマイナ保険証利用率」を用いることとされていますが、オンライン資格確認件数ベースの方が迅速に把握できるため、2025年1月までに限り、2カ月前(もしくは3カ月前・4カ月前)の「オンライン資格確認件数ベース利用率」をマイナ保険証利用率として用いることが可能です。
参照:医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1) 2024年9月3日|厚生労働省
5-3.医療DX推進体制整備加算の施設基準に関する経過措置
医療DX推進体制整備加算の施設基準の一部には、以下のような経過措置が設けられています。
施設基準 | 経過措置 |
---|---|
電子処方箋により調剤する体制 | 2025年3月31日まで該当するものとみなす |
電子カルテ情報共有サービスにより取得される診療情報などを活用する体制 | 2025年9月30日まで該当するものとみなす |
レセプト件数ベースマイナ保険証利用率の代わりとして、2カ月前、またはその前月・前々月のオンライン資格確認件数ベースマイナ保険証利用率を適用 | 2024年10月1日~2025年1月31日 |
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
レセプト件数ベースマイナ保険証利用率またはオンライン資格確認件数ベースマイナ保険証利用率の経過措置についての具体的な期間は、以下のとおりです。
レセプト件数ベース | オンライン資格確認件数ベース | |
---|---|---|
2024年10月適用分 | 2024年5~7月の最高値 | 2024年6~8月の最高値 |
2024年11月適用分 | 2024年6~8月の最高値 | 2024年7~9月の最高値 |
2024年12月適用分 | 2024年7~9月の最高値 | 2024年8~10月の最高値 |
2025年1月適用分 | 2024年8~10月の最高値 | 2024年9~11月の最高値 |
2025年2月適用分 | 2024年9~11月の最高値 | 経過措置終了 |
2025年3月適用分 | 2024年10~12月の最高値 | 経過措置終了 |
参照:医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算の見直しについて|厚生労働省
2025年1月適用分までは、レセプト件数ベースまたはオンライン資格確認件数ベースのいずれかの高い方を用いることができます。経過措置を有効に活用し、計画的にDXの取り組みを進めていくことが重要でしょう。
ただし、社会保険診療報酬支払基金から通知されたマイナ保険証利用率は、翌月の適用分として通知しているため、加算の算定に反映させるのは通知があった月の翌月1日からとなります。
参照:医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1) 2024年9月3日|厚生労働省
6.医療DX推進体制整備加算を算定する際の注意点と必要な準備
続いて、医療DX推進体制整備加算を算定する際の注意点と必要な準備について見ていきましょう。
6-1.セキュリティ対策に関する注意点
マイナ保険証は、インターネットを介して個人情報を取り扱うため、セキュリティ対策が欠かせません。不正アクセスや情報漏洩などのリスクに十分留意する必要があります。
医療DX推進体制整備加算の施設基準では、セキュリティ対策や個人情報保護に関する規定を定め、適切に実施していることが求められています。
システムへのアクセス管理や不正アクセス防止対策、個人情報の取り扱いに関する研修の実施など、総合的なセキュリティ対策が必要です。
6-2.マイナ保険証の周知活動に関する注意点
医療DX推進体制整備加算を算定するためには、ポスターの掲示だけでなく、マイナ保険証の提示を求める活動も必要です。「マイナ保険証をお出しください」という声かけなど、積極的に周知活動を行うこととされています。
参照:疑義解釈資料の送付について(その1) 2024年3月28日|厚生労働省
現行の健康保険証は、2024年12月2日で新規発行が終了することが決まっています。患者さんの中には、2024年12月2日以降は健康保険証が使用できないと思っている人もいるかもしれません。
しかし、健康保険証についても経過措置があり、最大1年間有効とされています。ただし、経過措置期間中に発行済保険証の有効期間が切れた場合や、転職や転居などで保険者が変わった場合は失効となります。
参照:マイナンバーカードの保険証利用について(被保険者証利用について)|厚生労働省
また、健康保険証の発行終了後、マイナンバーカードを持っていない場合などは、加入する医療保険者から資格確認書が発行される予定です。この資格確認書を、健康保険証の代わりとして使用することができます。資格確認書が発行されるのは、以下のようなケースです。
● マイナンバーカードの電子証明書の有効期限が切れている
● マイナンバーが未登録
● マイナ保険証での受診が困難な高齢者や障害者、乳幼児 など
参照:【参考資料1】「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」中間とりまとめ|厚生労働省
参照:12月以降に資格確認書(=現行の健康保険証)がもらえる人|全国保険医団体連合会
マイナ保険証を利用するのが難しい事情がある患者さんもいるため、患者さんそれぞれの事情を理解した上で周知活動を行う必要があります。
6-3.医療DX推進体制整備加算を算定する際に必要な準備
オンライン上で個人情報を取り扱うためには、医療情報システムの安全管理に関する責任者を配置し、セキュリティ対策や個人情報保護を適切に実施する体制を整備することも重要です。
責任者は、システムの運用管理や、従業員への教育・指導など、安全管理に関する業務を統括することになるため、事前の知識習得が求められるでしょう。
また、サイバーセキュリティに関するガイドラインやチェックリストは、厚生労働省が提示する資料が更新された場合には、速やかに対応することとされています。
参照:疑義解釈資料の送付について(その5) 2024年5月17日|厚生労働省
医療情報システムの安全管理に関するガイドラインは厚生労働省のウェブサイトに最新情報が掲載されるため、定期的に確認しましょう。
参照:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(2024年5月)|厚生労働省
7.医療DX推進体制整備加算の届出
医療DX推進体制整備加算を算定するためには、届出が必要です。届出は、「特掲診療料の施設基準に係る届出書」と「医療DX推進体制整備加算の施設基準に係る届出書添付書類」を用いて行います。
7-1.医療DX推進体制整備加算の届出書と添付書類
「特掲診療料の施設基準に係る届出書」は、該当する項目にチェックを入れます。「医療DX推進体制整備加算の施設基準に係る届出書添付書類」については、前述したとおり、以下の施設基準に経過措置があります。
● 電子カルテ情報共有サービスにより取得される診療情報等を活用する体制
なお、マイナ保険証の利用率や患者さんの健康管理に係る相談に応じる体制については、当該基準を満たしていればよく、地方厚生(支)局長への届出を行う必要はありません。
7-2.届出書の提出先
届出書の提出先は、薬局の所在地を管轄する地方厚生(支)局となり、地方厚生(支)局で届出が受理されて、はじめて加算の算定が可能となります。
ただし、届出内容に変更や間違いがあった場合には、速やかに変更の届出を行わなければなりません。届出後も、定期的に施設基準の適合状況を確認し、必要に応じて届出内容の変更や再届出を行うことが求められます。
8.医療DX推進体制整備加算を算定するために体制整備を進めよう
医療DX推進体制整備加算は、医療機関におけるDXの取り組みを評価したものです。医療の質の向上や業務の効率化、患者サービスの向上を図ることを目的としています。調剤薬局には、医療DXの取り組みを通じて、患者さんの利便性の向上や業務の効率化に貢献していくことが期待されています。
また、医療DXの推進には、セキュリティ対策や個人情報保護への配慮も欠かせません。オンライン資格確認等システムの活用や電子処方箋への対応など、医療DXの波に乗り遅れないよう、体制整備を進めていきましょう。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。