薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.10.16 薬剤師のスキルアップ

小児特定加算とは?算定要件や対象者となる「医療的ケア児」について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

小児特定加算は、これまで薬剤師が実施してきた小児などへの薬学的な関与を評価することに加え、今後、医療的ケア児へのサポート体制が充実することに期待を込めて、2022年度の調剤報酬改定で新設されました。本記事では、小児特定加算の概要と算定要件・点数、同時算定できないものについて解説するとともに、対象者である医療的ケア児についても説明します。

1.小児特定加算とは?

小児特定加算とは、調剤薬局で、医療的ケア児である患者さんの状態に合わせた必要な薬学的管理や指導を行った場合を評価するものです。
 
2022年度の調剤報酬改定で新設された加算であり、服薬管理指導料や在宅患者訪問薬剤管理指導料などを算定した場合、要件を満たすことで加算できます。
 
参照:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省

 

1-1.小児特定加算の算定状況

小児特定加算は、2022年度の調剤報酬改定で新設されました。「社会医療診療行為別統計(2022年6月審査分)」によると、小児特定加算と乳幼児服薬指導加算・乳幼児加算の算定状況は以下のとおりでした。

 

■小児特定加算と乳幼児服薬指導加算・乳幼児加算の算定状況
  小児特定加算 乳幼児服薬指導加算・乳幼児加算
在宅患者訪問薬剤管理指導料 2,694回 883回
服薬管理指導料 1,096回 2,886,992回
かかりつけ薬剤師指導料 186回 73,590回
合計 3,976回 2,961,465回

参照:中央社会保険医療協議会 総会(第550回)資料 調剤について(その1)|厚生労働省

 

小児特定加算は、訪問薬剤管理指導における算定が約7割を占めているのに対して、乳幼児への服薬指導は外来での算定が大半となっています。
 
在宅の医療的ケア児の人数は年々増加傾向にあることから、今後、小児特定加算を算定する薬局は増えることが予想されます。

 

1-2.小児特定加算に係る調剤の平均所要時間

中央社会保険医療協議会総会(第492回)の資料「調剤(その2)」によると、通常の調剤の平均所要時間が約12.41分であるのに対し、医療的ケア児の調剤の平均所要時間は約137.4分とされています。
 
所要時間は、以下の業務を行うのに要した時間です。

 

■医療的ケア児または通常の調剤の平均所要時間
  平均所要時間 業務内容 出典
医療的ケア児の調剤時間 約137.4分 処方入力や処方薬の取り揃えの時間も含めて、計量・分包・調製を行い薬袋に入れるまでにかかる時間の平均 医療的ケア児に対する薬学的ケアの実態調査
(令和3年度:日本薬剤師会)
通常の調剤に要する時間 約12.41分 処方箋1枚あたりの受付・薬袋準備、薬歴確認・処方箋監査、計数調剤、監査、薬剤交付・服薬指導にかかる時間の平均 タイムスタディ調査
(令和2年度薬剤師の需給動向把握事業)

 

出典や条件が異なるため、平均所要時間を一概に比較することはできませんが、医療的ケア児の調剤時間に薬剤交付や服薬指導などの時間が含まれていないことから、上記の数字以上に時間がかかることも考えられます。
 
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第492回)資料 調剤(その2)|厚生労働省

2.小児特定加算の点数

小児特定加算の点数は、どの薬学管理料に加算するかによって異なります。

 

■小児特定加算の点数
薬学管理料 点数
服薬管理指導料 350点
かかりつけ薬剤師指導料
在宅患者訪問薬剤管理指導料 450点
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料
在宅患者緊急時等共同指導料
在宅患者オンライン薬剤管理指導料 350点
(処方箋受付1回ごと)
在宅患者緊急オンライン薬剤管理指導料

参照:調剤報酬点数表|厚生労働省

 

なお、小児特定加算を算定した場合は、乳幼児服薬指導加算または乳幼児加算を算定できません。

 
🔽 乳幼児服薬指導加算について解説した記事はこちら

3.小児特定加算の算定要件

続いて、小児特定加算の算定要件について見ていきましょう。

 

3-1.服薬管理指導料・かかりつけ薬剤師指導料における算定要件

服薬管理指導料とかかりつけ薬剤師指導料における小児特定加算の算定要件は、以下のとおりです。

 

■服薬管理指導料とかかりつけ薬剤師指導料における小児特定加算の算定要件
対象者 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第56条の6第2項に規定する障害児である18歳未満の患者さん
薬学的管理・指導 ● 患者さんの服薬状況や服薬管理を行う時の希望などを患者さんや家族などから聞き取り、患者さんの薬学的管理に必要な情報を収集する
● 収集した情報を踏まえ、薬学的知見に基づき調剤方法を検討し調剤を行うとともに、服用上の注意点や適切な服用方法などについて服薬指導を行う
服薬期間中 ● 患者さんの家族などから電話などにより処方薬剤についての問い合わせがあった場合は、適切な対応・指導などを行う

参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 
🔽 服薬管理指導料について解説した記事はこちら

 
🔽 かかりつけ薬剤師指導料について解説した記事はこちら

 

3-2.在宅患者訪問薬剤管理指導料などにおける算定要件

在宅患者訪問薬剤管理指導料などにおける小児特定加算の算定要件は、以下のとおりです。

 

■在宅患者訪問薬剤管理指導料などにおける小児特定加算の算定要件
対象患者 ● 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第56条の6第2項に規定する障害児である18歳未満の患者さん
薬学的管理・指導 ● 服薬状況などを確認した上で、患者さんの家を訪問し、患者さんや家族などに対して、患者さんの状態に合わせた必要な薬学的管理や指導を行う

 

上記の算定要件は、以下の指導料のいずれとも共通しています。

 

● 在宅患者訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者オンライン薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急オンライン薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急時等共同指導料

 

ただし、在宅患者オンライン薬剤管理指導料と在宅患者緊急オンライン薬剤管理指導料については、処方箋受付1回につき350点を加算することとされています。
 
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 
🔽 在宅患者訪問薬剤管理指導料について解説した記事はこちら

4.小児特定加算の対象者となる「医療的ケア児」とは?

医療的ケア児とは、NICUなどに長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろうなどを使用して、たんの吸引や経管栄養といった医療的ケアが日常的に必要な児童のことを指します。
 
ケアさえ行っていれば日常生活を問題なく送れる医療的ケア児から寝たきりの重症心身障害児まで、程度はさまざまです。
 
児童福祉法第56条の6第2項では、医療的ケア児が医療や保健、福祉などのサポートを適切に受けられるように、地方公共団体が関連する機関との連携体制を整え、必要な措置を講ずるよう努めなければならないと定められています。
 
日常的な医療的ケアを必要としている医療的ケア児は、全国に約2万人いると推計されており、小児医療における専門的な薬学管理に対応するため、医療機関や薬局の医療従事者同士の連携が推進されています。
 
参照:医療的ケア児等とその家族に対する支援施策|厚生労働省
参照:医療的ケア児とは?|東京都医療的ケア児支援ポータルサイト|東京都福祉局

 

4-1.医療的ケアとは?

医療的ケアとは、自宅で家族などが日常的に行う「医療的生活援助行為」のことです。障害福祉サービスの報酬に関わる医療的ケアの項目では、次の14の医療行為が医療的ケアとされています。

 

■医療的ケアの種類
● 人工呼吸器
● 気管切開の管理
● 吸引
● 経管栄養
● 鼻咽頭エアウェイの管理
● ネブライザーの管理
● 酸素療法
● 中心静脈カテーテルの管理
● 皮下注射
● 血糖測定
● 継続的な透析
● 導尿
● 排便管理
● けいれん時の座薬挿入、吸引、酸素投与、迷走神経刺激装置の作動等の処置

 

上記の医療的ケアについては、医師や看護師などが行う「医療行為」とは区別されています。
 
参照:医療的ケア児とは?|東京都医療的ケア児支援ポータルサイト|東京都福祉局

 

4-2.医療的ケア児の調剤で配慮するべき薬学的管理

日本薬剤師会が行った「医療的ケア児に対する薬学的ケアの実態調査」によると、調剤をする上で配慮するべき薬学的管理について、以下のようなものが挙げられています。

 

■医療的ケア児の調剤で配慮するべき薬学的管理
【調剤に関する配慮】
● 規格単位(1錠・半錠・1カプセル)に満たない薬用量の調節(粉砕・脱カプセル)
● 散剤の配合変化や使用状況に配慮して混合せずに別包とする判断
● 誤薬や服用忘れを防ぐための散剤の服用時点ごとの計量混合(一包化のイメージ)
● ハイリスク薬の粉砕・脱カプセルによる曝露やコンタミへの対策
 
【服薬に関する配慮】
● 複数の薬包を服用時点ごとにまとめる工夫(ホチキス・輪ゴム・ケース使用等)
● 経鼻チューブの閉塞を避ける配慮(脱カプセルや錠剤のコーティングの除去等)
● 人工呼吸器の使用や気管切開を受けている患児の吸入指導
 
【注射剤・輸液に関する配慮】
● 高カロリー輸液への微量元素やビタミン等の注射薬の混注における配合変化や手順の配慮
● 1アンプル、1バイアル、1袋の規格で対応できない注射薬の薬用量の調節
● 中心静脈栄養輸液セット・針、PCAポンプ等まで含めた処方設計支援
● 患児の成長に合わせた輸液の重量調節(1日量を小分けにする等)
● 末梢輸液への微量元素やビタミン等の注射薬の混注における配合変化や手順の配慮
 
【その他】
● 成人期移行(発達段階を考慮した患児と家族の自立支援や成人診療科への転科)の準備
● ポンプで注入する医療用麻薬の薬液濃度の計算と処方提案

参照:中央社会保険医療協議会 総会(第492回)資料 調剤(その2)|厚生労働省

 

医療的ケア児の調剤についてのアンケートでは、配慮すべきこととして、以下についての回答数が多くなっています。

 

● 粉砕や脱カプセルなどによる薬用量の調整
● 散剤の配合変化などによる別包包装
● ハイリスク薬の粉砕・脱カプセルによる曝露やコンタミへの対策

 

アンケートの調査結果によると、コンタミ防止に特に注意が必要な散剤の分包時に、以下の設備を使用している薬局は少ない傾向にあることが分かりました。

 

● 専用の散剤分包機
● パイルパッカー

 

また、曝露対策が必要な医薬品を調剤するにあたり、以下の設備を使用している薬局も少ない傾向にありました。

 

● ハザード室
● 安全キャビネット

 

薬局の多くは、薬剤の曝露やコンタミへの対策について、必要性を認識しているものの、十分な設備を備える薬局はまだ少ないといえます。
 
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第492回)資料 調剤(その2)|厚生労働省

5.小児特定加算を算定する時の注意点

小児特定加算を算定する場合、同時算定ができない加算があります。また、小児特定加算は算定前に対象者であることを必ず確認しなければなりません。
 
ここでは、小児特定加算を算定する時の注意点について見ていきましょう。

 

5-1.乳幼児服薬指導加算または乳幼児加算は同時算定できない

服薬管理指導加算とかかりつけ薬剤師指導料で小児特定加算を算定した場合は、乳幼児服薬指導加算を算定できません。
 
また、在宅患者訪問薬剤管理指導料など在宅関連の指導料で小児特定加算を算定した場合も、乳幼児加算は算定不可です。
 
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 

5-2.小児特定加算の対象者であることを必ず確認する

小児特定加算の対象者であることは、国や地方自治体が発行する手帳を確認したり、処方医へ問い合わせをしたりすることなどによって確認しなければなりません。
 
確認できない場合は、小児特定加算は算定できないことになっています。
 
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)令和4年3月31日|厚生労働省

6.医療的ケア児をサポートしよう

在宅の医療的ケア児は年々増加傾向にあるため、薬局薬剤師によるサポートが求められる機会も増えることでしょう。医療的ケア児は、患者さんによって障害の程度がさまざまです。薬局薬剤師は、医療的ケア児についての知識を身に付けることに加え、さまざまなケースに対応できるよう備えることが求められます。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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