薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.12.24 薬剤師のスキルアップ

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算とは?算定要件や施設基準を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算は、居宅で医療用麻薬持続注射療法を行う患者さんに対して、薬局薬剤師が安全安心に治療を受けられるようサポートすることを評価したものです。本記事では、在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の算定要件や施設基準を解説するとともに、届出方法や算定時の注意点、医療用麻薬の廃棄手順などについてお伝えします。

1.在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算とは?

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算とは、医療用麻薬持続注射療法を在宅で行っている患者さんに、療養の状況に応じた必要な薬学的管理・指導を行った場合に算定できる加算です。
 
医療用麻薬持続注射療法を実施している患者さんには特別な在宅薬学管理が必要となることなどから、2022年度の調剤報酬改定で新設されました。
 
参照:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第500回) 資料 調剤(その3)|厚生労働省
 
在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算は、以下を算定する患者さんに対して要件を満たすことで算定できます。

 

● 在宅患者訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急時共同指導料

 

なお、2024年度介護報酬改定により、介護保険の居宅療養管理指導費を算定する患者さんに対しては、「医療用麻薬持続注射療法加算」が算定できるようになりました。
 
参照:調剤報酬点数表|日本薬剤師会

 
🔽 在宅患者訪問薬剤管理指導料について解説した記事はこちら


🔽 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料について解説した記事はこちら

🔽 在宅患者緊急時共同指導料について解説した記事はこちら

2.在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の点数・算定要件

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算は、算定要件を満たすことで1回につき250点を加算できます。算定要件は以下のとおりです。

 

■在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の算定要件
対象患者 在宅で医療用麻薬持続注射療法を行う、在宅患者訪問薬剤管理指導料等を算定する患者さん
(麻薬管理指導加算を算定している患者さんには算定不可)
患家の訪問 必要
確認事項 ● 麻薬の投与・残液・保管状況
● 鎮痛等の効果
● 体調変化の有無
指導事項 残液の適切な取り扱い方法も含めた、保管取り扱い上の注意事項など
情報提供 ● 処方医への情報提供は必須
● 医療関係職種への情報提供は必要に応じて実施
薬剤服用歴等への記載 (ア)訪問に際して実施した麻薬に係る薬学的管理指導の内容
 ● 麻薬の保管管理状況
 ● 投与状況
 ● 残液の状況
 ● 併用薬剤
 ● 疼痛緩和等の状況
 ● 麻薬の継続または増量投与による体調変化の有無 など
(イ)訪問に際して行った患者さんまたはその家族等への指導の要点
 ● 麻薬に係る服薬指導
 ● 残液の適切な取り扱い方法も含めた保管管理の指導 など
(ウ)処方医に対して提供した訪問結果に関する情報の要点
 ● 麻薬の投与状況
 ● 疼痛緩和・体調変化(副作用が疑われる症状など)等の状況
 ● 服薬指導の要点 など
(エ)患者さんまたはその家族等から返納された麻薬の廃棄に関する事項
 ● 都道府県知事に届け出た麻薬廃棄届の写しを薬剤服用歴等に添付することで差し支えない

 

また、麻薬の投与に使用されている高度管理医療機器については、保健衛生上の危害の発生防止に必要な措置を講ずることとされています。
 
参照:調剤報酬点数表|厚生労働省
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

3.在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の施設基準

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の施設基準は、以下のとおりです。

 

● 麻薬及び向精神薬取締法第3条の規定による麻薬小売業者の免許を取得し、必要な指導を行うことができること
● 医薬品医療機器等法第39条第1項の規定による高度管理医療機器の販売業の許可を受けていること

 

上記2つの基準を満たす必要があります。

 

参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて

 

3-1.在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の施設基準の届出

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算を算定するためには、施設基準に係る届出を行う必要があります。
 
届出書と施設基準を満たすことを記載した届出書添付書類を地方厚生(支)局へ提出します。

4.在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の算定における注意点

続いて、在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算を算定する際の注意点について見ていきましょう。

 

4-1.処方箋の受付がない場合も算定可能

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算は、在宅患者訪問薬剤管理指導料と同様に、処方箋の受付がない場合でも算定可能です。
 
参照:疑義解釈資料の送付について(その1) 2022年3月31日|厚生労働省

 

4-2.麻薬管理指導加算との併算定は不可

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算は、麻薬管理指導加算を算定している患者さんについては算定できないとされています。そのため、これらを併算定することはできません。
 
しかし、麻薬管理指導加算を算定する日以外の日に在宅患者訪問薬剤管理指導料等を算定し、要件を満たせば在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算を算定することは可能です。
 
参照:疑義解釈資料の送付について(その3) 2022年4月11日|厚生労働省

 

4-3.患者さん以外の家族などが誤って使用しないための指導

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の算定にあたっては、患者さんやその家族などへ保管や取り扱い方法について指導することとされています。
 
例えば、適切に取り扱いや保管がされておらず、幼児やペットのいたずらなどで2次曝露を引き起こす可能性もあるでしょう。患者さん以外の誤飲等を避けるためにも、保管や取り扱いについて丁寧に指導することが求められます。

5.医療用麻薬の廃棄の手順と方法

患者さんや家族から回収したり、使用期限が過ぎたりすることで、医療用麻薬を廃棄することもあるでしょう。ここでは、医療用麻薬持続注射療法における医療用麻薬の廃棄の方法と手順について見ていきましょう。

 

5-1.麻薬注射剤が残った携帯用ディスポーザブルポンプを廃棄する場合

麻薬注射剤が内部に残った携帯用ディスポーザブルポンプを回収または返納された場合、麻薬注射剤の残液は、施用残として取り扱って構わないとされています。
 
参照:在宅医療のために処方されるバルーン式ディスポーザブルタイプの連続注入器に入った麻薬注射薬の取扱いについて(平成10年12月22日発医薬麻第1854号、厚生省医薬安全局麻薬課長通知)|厚生労働省
 
ただし、廃棄記録用の帳簿には、患者氏名、受入年月日、廃棄年月日、品名、数量を記録します。なお、数量は成分量ではなく溶液量でよいとされています。
 
参照:在宅医療Q&A 令和5年版 Q117|じほう(監修:日本薬剤師会)

 

5-2.調剤ミスや古くなった麻薬を廃棄する場合

使用期限が過ぎた古い麻薬や調剤ミスにより廃棄する必要がある麻薬は、あらかじめ「麻薬廃棄届」を都道府県知事に提出し、原則として、保健所職員の立ち合いの下で廃棄する必要があります。
 
管轄する保健所に問い合わせるなどして、手続きや廃棄手順について確認しましょう。
 
参照:医療用麻薬廃棄方法推奨例一覧|東京都保健医療局

 

5-3.医療用麻薬の廃棄方法

医療用麻薬にはさまざまな剤形があるため、剤形ごとに適した廃棄方法を知っておくことは大切です。注射剤については、下水に放流するのが一般的でしょう。内服剤や貼付剤などの破棄方法には、以下のような方法があります。

 

● 水とともに下水に放流する
● 粉砕して、水とともに下水に放流する
● 水やお湯に入れてカプセルが溶解したら、顆粒を乳鉢ですりつぶして下水に放流する
● 焼却する
● 酸またはアルカリで分解する

 

東京都保健医療局では、医療用麻薬の廃棄方法についてまとめた一覧が公表されています。廃棄方法が不明な薬剤については、該当する製薬会社に問い合わせるなどして、適切に廃棄しましょう。
 
参照:医療用麻薬廃棄方法推奨例一覧|東京都保健医療局

6.在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算に関する現状

中央社会保険医療協議会総会(第568回)の資料「在宅(その5)」によると、在宅訪問を行っている薬局のうち、約20%の薬局が在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算の届出を行っており、緊急時の訪問に伴う算定が多い傾向にあることが分かりました。
 
また、同資料では、介護保険における麻薬持続注射療法の薬学的管理の現状や、医師との連携で麻薬持続注射療法が開始となった事例について紹介されています。ここでは、介護報酬の医療用麻薬持続注射療法加算が新設された背景と、麻薬持続注射療法が開始となった事例についてお伝えします。

 

6-1.2024年度介護報酬改定で医療用麻薬持続注射療法加算が新設された背景

2024年度介護報酬改定で医療用麻薬持続注射療法加算が新設された背景には、介護保険を利用する患者さんに対して、在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算に相当する業務が行われていることが挙げられます。
 
在宅(その5)」では、2022年5月~10月に在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算に相当する薬学的管理指導を1回以上行った薬局(n=39)の割合が以下のように算出されています。

 

医療保険・介護保険の
いずれにも対応
30.8%
(n=12)
介護保険のみ 69.2%
(n=27)
医療保険のみ 0%
(n=0)

 

2024年度改定以前は、介護保険を利用する患者さんに対して行う医療用麻薬持続注射療法の薬学的管理については、診療報酬と同様の評価はされていませんでした。
 
しかし、2024年度改定で介護報酬における医療用麻薬持続注射療法加算が新設され、薬剤師の業務が適切に評価されるようになっています。
 
参照:指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について|厚生労働省

 
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6-2.医師等との連携で麻薬持続注射療法へ移行した事例

在宅(その5)」では、薬剤師が医師等と連携して医療用麻薬の持続注射療法へ移行した以下のような事例が紹介されています。

 

事例1 フェンタニル貼付剤からモルヒネ持続皮下注への切り替える際に、医師から処方設計の相談を受けて、具体的な皮下注射の投与方法を医師へ提案したことで、円滑に麻薬持続注射療法へ移行できた。
事例2 徐放性の医療用麻薬を噛んで服用してしまう患者さんについて医師へ相談し、麻薬持続注射療法へ変更となった。

 

在宅医療の現場では、薬剤師が医師などの他職種と連携して、患者さんに合わせた麻薬の処方量や剤形についての処方提案が行われています。

7.医療用麻薬持続注射療法を行う患者さんをサポートしよう

在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算は、医療用麻薬持続注射療法が行われている患者さんへのサポートを評価した加算です。麻薬の取り扱いや保管管理などの管理・指導をしっかり行い、在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算を算定しましょう。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。