- 1.敷地内薬局とは?
- 1-1.2016年から敷地内薬局が解禁された
- 1-2.敷地内薬局の現状と今後
- 2.敷地内薬局のメリット
- 2-1.患者さんのメリット
- 2-2.病院や薬局のメリット
- 2-3.社会的なメリット
- 3.敷地内薬局のデメリット
- 3-1.かかりつけ機能を持ちにくい
- 3-2.調剤基本料が低い
- 4.敷地内薬局が算定する「特別調剤基本料」とは?
- 4-1.特別調剤基本料Aの点数と算定要件
- 4-2.特別調剤基本料Bの点数と算定要件
- 5.特別調剤基本料における「不動産取引」とは?
- 5-1.賃貸借取引関係となるケース
- 5-2.賃貸借取引関係と判断されてしまうケース
- 6.患者さんの健康・安全・利便性を考えることが大切
1.敷地内薬局とは?
敷地内薬局とは、医療機関の敷地内にある調剤薬局のことで、病院敷地内薬局、構内薬局などとも呼ばれます。
医療業界の敷地内薬局に対する評価は厳しいものとなっており、2024年度の診療報酬改定では、特別調剤基本料がA・Bに区分され、さらに減点されています。
2016年以前は、敷地内薬局の開設が禁止されていました。まずは、敷地内薬局が解禁された背景、敷地内薬局の現状と今後について解説します。
1-1.2016年から敷地内薬局が解禁された
2016年9月以前は、敷地内薬局の開設が禁止されていました。「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(薬担規則)」の中で、保険薬局と保険医療機関は“一体的な構造”であってはならないとされていたからです。
そのため、敷地内に設けられた薬局は、医療機関と直接行き来できる形態にならないよう、医療機関との間にフェンスや壁を設置するといった対策が取られていました。
しかし、フェンスや壁を設置することで、患者さんの利便性が損なわれます。体調の悪い人や身体が不自由な人にとっては移動に負担がかかってしまうでしょう。そのため、2016年10月から一体的な構造の解釈が変更となり、敷地内薬局が解禁されました。
参照:「保険医療機関及び保険医療養担当規則の一部改正等に伴う実施上の留意事項について」の一部改正について|厚生労働省
1-2.敷地内薬局の現状と今後
敷地内薬局の構造設備規制が見直されたことによって、医療機関の敷地内に薬局が開設されるケースが多くなっています。その理由のひとつとして、敷地内薬局の損益率が2022年度調剤報酬改定後も増加しており、損益額が高い傾向にあることが挙げられます。
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第568回)資料 調剤について(その3)|厚生労働省
医薬分業における薬局の役割を果たすためには、薬局の独立性を担保することが重要です。しかし、敷地内薬局は構造的・機能的にも独立性に欠けやすいといわれています。
上記の厚生労働省の資料によると、医療機関が敷地内薬局を公募する際に、以下のような条件・要件を求めるケースが見られるようです。
● 敷地内薬局を開設した実績
● 病院業務が軽減できる取り組み
また、敷地内薬局の多くが、300店舗以上の店舗を持つ大型チェーン薬局であることや、医療モールと異なり医療機関と薬局が一体的な構造と認識されやすい環境である点も問題視されています。こういった状況から、医療の最後の砦として役割を果たせるのかという点が懸念されているのです。
さらに、上記の厚生労働省の資料によれば、敷地内薬局は退院患者さんが退院後も利用する薬局として選ばれていない傾向にあるとしており、かかりつけ機能を充実させるのが難しいことも課題です。かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師としての役割である「患者さんの服用薬を一元的かつ継続的に管理する」が機能しにくい点は大きな課題といえるでしょう。
敷地内薬局に関する診療報酬については、2024年度改定による動向を踏まえて対応することが検討されています。2026年度の改定でも、敷地内薬局に関する算定項目が見直される可能性があるでしょう。
🔽 2024年度の調剤報酬改定について解説した記事はこちら
2.敷地内薬局のメリット
敷地内薬局への評価は厳しいものとなっていますが、患者さんや病院、薬局にとって、さまざまなメリットがあります。患者さんや医療機関、社会的なメリットについて見ていきましょう。
2-1.患者さんのメリット
敷地内に薬局があれば、患者さんの移動時間の短縮につながります。車いすを使っている人や小さな子どもを連れている人などにとって、移動の負担が軽減できるのは大きなメリットでしょう。
また、患者さんにとっては、利用する薬局の選択肢が広がることも利点です。例えば、以下のようなケースが考えられます。
● ケガや体調不良などですぐにでも帰宅したい場合、FAXやアプリなどの処方箋送信サービスを活用して自宅近くの薬局を利用
薬局の所在地に関係なく、頼りにしている薬剤師がいる薬局を選ぶこともできるでしょう。目的や状況に合わせて薬局を選びやすくなる点は、患者さんにとってのメリットといえます。
2-2.病院や薬局のメリット
医療機関と薬局との距離が近いと、コミュニケーションをこまめに取ったり、治療方針や患者さんの情報を共有したりしやすくなります。
また、薬局薬剤師が医療機関に所属する医師や薬剤師などと交流することもあるでしょう。病院と合同で勉強会を行うといった機会があれば、さまざまな知識や経験を習得しやすいのも利点です。高度で専門的な質の高い医療の提供につながるでしょう。
さらに、医療機関と薬局が連携しやすいため、より丁寧な服薬サポートが可能になります。
2-3.社会的なメリット
敷地内薬局の開設は、医療費抑制にも貢献します。敷地内薬局が算定する特別調剤基本料は、他の調剤基本料に比較してとても低い点数です。そのため、患者さんの金銭的な負担を軽減することに加え、国の医療費を抑えられます。
また、医療機関側が敷地内薬局に治療方針を共有すれば、院内の薬剤科と敷地内薬局との連携が効率化できるメリットがあります。地域薬局とのハブとしての役割も期待できるため、地域全体の連携強化が望めるでしょう。
3.敷地内薬局のデメリット
さまざまな点でメリットがある敷地内薬局ですが、敷地内薬局への評価が厳しい背景には、政府が掲げる「患者のための薬局ビジョン」が関係しています。敷地内薬局のデメリットについて見ていきましょう。
参照:「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました|厚生労働省
3-1.かかりつけ機能を持ちにくい
敷地内薬局は、同じ敷地内にある医療機関を受診した人が来局する傾向にあります。そのため、他の病院で処方箋をもらった患者さんが、自宅から離れた敷地内薬局を利用するケースは少ないでしょう。
患者さんの利便性を考えると、敷地内薬局がかかりつけ薬局となるのは難しいかもしれません。
🔽 かかりつけ薬剤師について解説した記事はこちら
3-2.調剤基本料が低い
政府は、かかりつけ機能を充実させ、地域医療に貢献することを薬局に求めていることもあり、敷地内薬局が算定する特別調剤基本料は、通常の調剤基本料と比べて低く設定されています。
また、2024年度の診療報酬改定では、算定できる加算項目や薬学管理料が限定されることになり、経営の面で厳しい改定となっています。
🔽 調剤基本料について解説した記事はこちら
4.敷地内薬局が算定する「特別調剤基本料」とは?
特別調剤基本料とは、一定要件を満たした敷地内薬局などが算定する調剤基本料です。2024年の改定でA、Bの区分が新設され、2022年度の改定では7点だった算定点数が減点されました。
区分 | 2024年度改定 | 2022年度改定 |
---|---|---|
特別調剤基本料A | 5点 | 7点 |
特別調剤基本料B | 3点 |
ここでは、特別調剤基本料A、Bの点数と算定要件について解説します。
4-1.特別調剤基本料Aの点数と算定要件
特別調剤基本料Aの算定点数は5点となっています。施設基準は以下のとおりです。
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 保医発0305第6号 令和6年3月5日|厚生労働省
処方箋集中率の基準が、従来の70%から50%に見直されました。また、改定前は「調剤基本料の施設基準に係る届出を行っていないもの」についても特別調剤基本料を算定できることになっていましたが、2024年度改定からは特別調剤基本料Aを算定する場合、「調剤基本料の施設基準に係る届出書添付書類」の届出が必要です。
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 保医発0304第3号 令和4年3月4日|厚生労働省
届出書には以下の点を記載します。
● 保険医療機関と不動産取引等その他の特別な関係の有無 ● 特別な関係を有する保険医療機関名 ● 保険医療機関と不動産取引等その他の特別な関係に該当するものをチェック (イ)保険医療機関と不動産の賃貸借取引 (ロ)保険医療機関が譲り渡した不動産の利用 (ハ)保険薬局が所有する設備の貸与 (ニ)保険医療機関による開局時期の指定 ● 特別な関係を有する保険医療機関からの処方箋受付回数 ● 特別な関係を有する保険医療機関に係る処方箋集中率 |
特別調剤基本料Aを算定する場合、以下の加算項目については、それぞれの点数の100分の10に相当する点数となっています。
● 地域支援体制加算(100分の10) ● 後発医薬品調剤体制加算(100分の10) ● 在宅薬学総合体制加算(100分の10) |
さらに、以下の薬学管理料について、特別な関係を有する保険医療機関に対して情報提供を行っても算定できません。
● 服薬情報等提供料 ● 特定薬剤管理指導加算2 ● 吸入薬指導加算 ● 服用薬剤調整支援料2 ● 外来服薬支援料1の注2 ● 調剤後薬剤管理指導料 |
また、連携強化加算については、特別な関係を有する保険医療機関が、外来感染対策向上加算または感染対策向上加算の届出を行っている場合、算定できません。
4-2.特別調剤基本料Bの点数と算定要件
特別調剤基本料Bの算定点数は3点となっています。施設基準は以下のとおりです。
特別調剤基本料Bを算定する薬局は、以下のような調剤基本料の加算項目が算定できません。
● 地域支援体制加算 ● 後発医薬品調剤体制加算 ● 連携強化加算 ● 在宅薬学総合体制加算 ● 医療DX推進体制整備加算 |
さらに、以下の薬学管理料についても算定できません。
● 調剤管理料 ● 服薬管理指導料 ● かかりつけ薬剤師指導料 ● かかりつけ薬剤師包括管理料 ● 外来服薬支援料 ● 服用薬剤調整支援料 ● 在宅患者訪問薬剤管理指導料 ● 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料 ● 在宅患者緊急時等共同指導料 ● 退院時共同指導料 ● 服薬情報等提供料 ● 調剤後薬剤管理指導料 ● 在宅移行初期管理料 |
また、薬剤料については、特別調剤基本料A、Bともに、同一処方月日において7種類以上の内服薬(特に規定するものを除く)の調剤を行った場合には、所定点数の100分の90に相当する点数により算定することとされています。
このとき、残薬調整などで内服薬の一部がカットされた場合、削除された内服薬はカウントできません。ただし、賦形や矯味、矯臭などの必要性がある薬剤を保険調剤する場合、賦形剤や矯味矯臭剤を内服薬としてカウントできます。
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)令和6年3月28日|厚生労働省
なお、特別調剤基本料における「不動産」については、さまざまな取り決めがあります。次項で詳しく見ていきましょう。
5.特別調剤基本料における「不動産取引」とは?
特別調剤基本料Aの施設基準である「保険医療機関と不動産取引等その他の特別な関係を有している保険薬局」とは、次の要件に当てはまる薬局です。ただし、当該保険薬局の所在する建物内に診療所が所在している場合は該当しません。
2. 当該保険医療機関が譲り渡した不動産(保険薬局以外の者に譲り渡した場合を含む)を利用して開局している保険薬局である場合
3. 当該保険医療機関に対し、当該保険薬局が所有する会議室その他の設備を貸与している保険薬局である場合
4. 当該保険医療機関から開局時期の指定を受けて開局した保険薬局である場合
ここでの不動産とは、土地または建物を指し、医療機関や薬局が事業を行うために提供されるものに限定されています。土地や建物を借りて事業を行う場合、賃貸借取引が必要です。医療機関と薬局間で賃貸借取引が行われると、互いが独立関係でいられない可能性が高まり、患者さんの薬物治療に影響を及ぼすかもしれません。
そのため、薬局を開設する際は、土地と建物の賃貸契約書を届出書に添付することになっています。医療機関と薬局が賃貸借取引関係にある場合、通常の調剤基本料ではなく、特別調剤基本料Aを算定することになります。
5-1.賃貸借取引関係となるケース
賃貸借取引関係となるケースには、医療機関と薬局が直接不動産の賃貸借取引を契約している場合の他に、以下のようなケースが含まれます。
2. 薬局が所有または賃借している不動産を第三者が賃借して、医療機関との間で賃貸借取引を契約している場合
3. 医療機関と薬局の開設者の近親者が契約の名義人となっている場合や、医療機関と薬局が法人である場合の法人の役員が契約の名義人となっている場合
5-2.賃貸借取引関係と判断されてしまうケース
開設した年月日や医療機関によって、医療機関と賃貸借取引関係にある薬局と判断される場合があります。
2. 2016年9月30日以前に開局し、2016年10月1日時点では特定の病院と不動産の賃貸借取引関係になかったが、2016年10月1日以降に病院と不動産の賃貸借取引関係にある薬局となった場合。
3. 診療所と不動産の賃貸借取引関係にある薬局であって、2018年4月1日以降に新しく開局し、指定を受けたもの。ただし、遡及指定が認められる場合であって、2018年3月31日以前から、診療所と不動産の賃貸借取引関係にある場合を除く。
4. 2018年3月31日以前に開局し、2018年4月1日時点では特定の医療機関と不動産の賃貸借取引関係になかったが、2018年4月1日以降に診療所と不動産の賃貸借取引関係にある薬局となった場合。
5. 3と4については、2018年3月31日以前に不動産の賃貸取引または譲り渡しの契約もしくは建物の建築の契約を行うなど、当該開局に係る手続きが相当程度進捗している場合には、3のただし書きに該当するものとみなす。
他にも、敷地内薬局と判断されるケースはさまざまなものがあります。詳しくは、厚生労働省の資料「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」を確認してください。
6.患者さんの健康・安全・利便性を考えることが大切
2024年の診療報酬改定により、敷地内薬局への評価はより厳しいものとなりました。2023年11月に行われた中央社会保険医療協議会総会(第568回)では、今後求める薬局像に逆行するものと表現されており、今後の改定でも厳しい評価が続くことが予想されます。敷地内薬局の評価の行方を今後も注目していきたいものです。
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第568回)議事次第|厚生労働省
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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