薬剤師のスキルアップ 更新日:2024.09.06公開日:2024.08.15 薬剤師のスキルアップ

在宅薬学総合体制加算とは?1・2の算定要件や施設基準について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

高齢化の進展に伴い、在宅医療の重要性が増しています。薬剤師の役割も大きく変化しつつあり、在宅患者さんに対する薬学的管理および指導の充実が求められています。2024年度の調剤報酬改定では、質の高い在宅医療の推進が大きなテーマのひとつになり、新たに「在宅薬学総合体制加算」が設けられました。本記事では、在宅薬学総合体制加算の概要や算定要件・点数についてお伝えするとともに、施設基準や疑義解釈について解説します。

1.在宅薬学総合体制加算とは?

在宅薬学総合体制加算とは、在宅薬剤管理の実績や在宅業務の対応体制、麻薬の備蓄、無菌製剤処理の体制など、在宅訪問を行うために必要な体制や設備、実績などを評価した加算です。従来の「在宅患者調剤加算」は廃止され、2024年度の調剤報酬改定で新設されました。

 

1-1.2024年度調剤報酬改定で新設された背景

2024年度の調剤報酬改定では、以下の3つが主なポイントとして挙げられています。

 

● 地域の医薬品供給拠点としての役割を発揮するための体制評価の見直し
● 質の高い在宅業務の推進
● かかりつけ機能を発揮して患者に最適な薬学的管理を行うための薬局・薬剤師業務の評価の見直し

 

超高齢社会を迎え、在宅医療の重要性は今後ますます高まっていくでしょう。これからの医療制度と在宅医療を支えるために、薬局薬剤師に求められる役割は大きいものとなっています。
 
2024年度の調剤報酬改定でも、在宅医療の推進が大きなトピックとなっており、以下のような観点で在宅薬学総合体制加算をはじめとした在宅関連の調剤報酬が見直されました。

 

● 在宅業務に係る体制評価
● ターミナル期の患者への対応に係る評価充実
● 在宅患者への薬学的管理及び指導の評価の拡充
● 高齢者施設の薬学的管理の充実

 

参照:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省

 
🔽 2024年度調剤報酬改定のポイントについて解説した記事はこちら

 

1-2.在宅患者調剤加算との違い

2024年度の調剤報酬改定では、在宅患者調剤加算が廃止され、在宅薬学総合体制加算が新設されました。両者の主な違いについて見ていきましょう。

 

■在宅薬学総合体制加算と在宅患者調剤加算の主な違い
2024年度改定前 2024年度改定後
名称 在宅患者調剤加算
(薬剤調製料)
在宅薬学総合体制加算
(調剤基本料)
点数 15点 ● 在宅薬学総合体制加算1:15点
● 在宅薬学総合体制加算2:50点
実績回数 10回 24回
実績回数の対象 ● 在宅患者訪問薬剤管理指導料
● 居宅療養管理指導費
● 介護予防居宅療養管理指導費
● 在宅患者訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急時等共同指導料

● 居宅療養管理指導費
● 介護予防居宅療養管理指導費

 

加算の算定に必要な直近1年間の実績回数は10回から24回に増加しましたが、実績回数の対象も拡大されています。在宅患者訪問薬剤管理指導料についても、2024年度の改定で算定回数に関する要件が一部見直されたことから、薬局によっては加算を算定しやすくなるでしょう。
 
また、在宅薬学総合体制加算2は、1の施設基準を満たすことが要件のひとつとなっており、より高度な施設基準が定められています。
 
そのほか、地域への周知活動や在宅業務に関する研修などについても、施設基準により具体的な要件が明記されました。
 
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和4年3月4日)|厚生労働省
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和6年3月5日)|厚生労働省

 
🔽 在宅患者訪問薬剤管理指導料について解説した記事はこちら

 
🔽 居宅療養管理指導について解説した記事はこちら

2.在宅薬学総合体制加算の算定要件・点数

続いて、在宅薬学総合体制加算の算定要件と点数について見ていきましょう。

 

2-1.在宅薬学総合体制加算の算定要件

在宅薬学総合体制加算は、以下を算定している患者さんの処方箋を受け付けた場合に算定可能です。

 

■在宅薬学総合体制加算の対象となる患者さんが算定している指導料・指導費
保険制度 指導料・指導費
医療保険 ● 在宅患者訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料
● 在宅患者緊急時等共同指導料
介護保険 ● 居宅療養管理指導費
● 介護予防居宅療養管理指導費

 

また、在宅薬学総合体制加算の届出を行っている在宅協力薬局が、上記の要件を満たす処方箋を受け付ける場合もあるでしょう。在宅基幹薬局に代わって在宅協力薬局が訪問薬剤管理指導または居宅療養管理指導を行った場合、在宅協力薬局に限り在宅薬学総合体制加算を算定できます。
 
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 

2-2.在宅薬学総合体制加算の点数

在宅薬学総合体制加算には、1と2の2種類があり、それぞれ以下のような点数が定められています

 

■在宅薬学総合体制加算1・2の点数
区分 点数
在宅薬学総合体制加算1 15点
在宅薬学総合体制加算2 50点

参照:調剤報酬点数表|厚生労働省
 
ただし、特別調剤基本料Aを算定している薬局は、所定点数の100分の10にし、小数点以下第1位を四捨五入した点数を算定します。また、特別調剤基本料Bを算定する薬局は、在宅薬学総合体制加算1・2ともに算定できません。

 
🔽 特別調剤基本料について解説した記事はこちら

3.在宅薬学総合体制加算の施設基準

在宅薬学総合体制加算を算定するためには、いくつかの施設基準を満たす必要があります。在宅薬学総合体制加算1・2の施設基準について詳しく見ていきましょう。

 

3-1.在宅薬学総合体制加算1の施設基準

在宅薬学総合体制加算1の施設基準は以下のとおりです。

 

■在宅薬学総合体制加算1の施設基準
● 在宅患者訪問薬剤管理指導を行う旨の届出
● 在宅薬剤管理の実績 24回以上/年
● 開局時間外における在宅業務対応(在宅協力薬局との連携含む)
● 在宅業務実施体制に係る地域への周知
● 在宅業務に関する研修(認知症・緩和医療・ターミナルケア)及び学会等への参加
● 医療材料及び衛生材料の供給体制
● 麻薬小売業者の免許の取得

参照:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省

 

3-2.在宅薬学総合体制加算2の施設基準

在宅薬学総合体制加算2の施設基準は以下のとおりです。

 

■在宅薬学総合体制加算2の施設基準
● 加算1の施設基準を全て満たしていること
● 開局時間の調剤応需体制(2名以上の保険薬剤師が勤務)
● かかりつけ薬剤師指導料等の算定回数の合計 24回以上/年
● 高度管理医療機器販売業の許可
● アまたはイの要件への適合
  ア:がん末期などターミナルケア患者に対する体制
  ①医療用麻薬の備蓄・取扱(注射剤1品目以上を含む6品目以上)
  ②無菌室、クリーンベンチまたは安全キャビネットの整備
  イ:小児在宅患者に対する体制
  (在宅訪問薬剤管理指導等に係る小児特定加算及び乳幼児加算の算定回数の合計 6回以上/年)

参照:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省
 
在宅薬学総合体制加算2の施設基準は、在宅薬学総合体制加算1の施設基準に加えて、上記の要件が課されています。
 
2名以上の保険薬剤師を置くことで、1人が在宅業務で外出したとしても残りの1人が調剤薬局内で対応できる体制を整えるなど、在宅薬学総合体制加算2を算定する薬局には、より高度な設備・機能が求められています。
 
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和6年3月5日)|厚生労働省

 

3-3.在宅業務実施体制に係る地域への周知について

在宅薬学総合体制加算の施設基準のひとつである「地域への周知活動」では、開局時間外における在宅患者さんの急変などに対応できる体制について、以下の施設などに周知することとされています。

 

■在宅薬学総合体制加算における周知活動の対象
● 地域の行政機関
● 保険医療機関
● 訪問看護ステーション
● 福祉関係者
● 地域住民 など

 

自局や同一グループ、地域の行政機関、薬剤師会などを通じて十分に周知することとされており、地域薬剤師会の会員のみなど一部の関係者を対象とした周知活動は、加算要件を満たしません。
 
参照:疑義解釈資料の送付について(その3)(2024年4月26日)|厚生労働省
 
具体的な周知の内容は、以下の6つが挙げられます。

 

■在宅薬学総合体制加算における周知内容
● 開局時間外の在宅業務への対応の可否(対応可能な時間帯を含む。)
● 医療用麻薬(注射薬の取扱いを含む。) の取扱いに係る情報
● 高度管理医療機器の取扱いの可否
● 無菌製剤処理の対応の可否(自局での対応の可否を含む。)
● 小児在宅患者(医療的ケア児等)の対応の可否
● 医療材料・衛生材料の取扱いの可否

参照:疑義解釈資料の送付について(その2)(2024年4月12日)|厚生労働省
 
在宅医療においては、多職種との連携が不可欠です。薬局の体制や対応可能な業務内容を関係機関に周知することで、円滑な連携体制を構築できるでしょう。

 

3-4.無菌製剤処理を行う設備の共同利用について

厚生労働省が発出した疑義解釈資料によると、ほかの薬局にある無菌製剤処理を行うための設備を共同利用する場合、在宅薬学総合体制加算2の「要件を満たさない」と明記されています。在宅薬学総合体制加算2は「特に高度な在宅医療の提供体制」を評価しているため、無菌室、クリーンベンチ、または安全キャビネットを自局に備えなければなりません。

 
また、無菌製剤処理を行う設備を単に設置するだけではなく、以下について定期的な保守点検を行うことなども求められています。

 

● 設備の清掃
● プレフィルターの洗浄などの日常の管理や清浄度
● HEPAフィルターの性能

 

在宅薬学総合体制加算2を算定するためには、無菌製剤処理をいつでも実施できる状態を維持していることが必要です。
 
参照:疑義解釈資料の送付について(その4)(2024年5月10日)|厚生労働省

4.在宅薬学総合体制加算について理解を深めよう

在宅薬学総合体制加算は、薬局による在宅患者さんへの包括的な薬学管理を評価し、推進するための新たな加算です。今後も高齢化の進展に伴い、在宅医療のニーズはますます高まることが予想されます。薬局が在宅薬学総合体制加算の算定要件や施設基準を満たし、在宅医療に積極的に参画していくことは、地域医療の充実と患者さんのQOL向上に大きく貢献します。薬局には、在宅患者さんに寄り添い、その生活を支える重要な役割が期待されているといえるでしょう。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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